続・従軍慰安婦問題 札束は食べられない

死刑廃止の立ち場から

榊原烋一 【サカスト】
2007年7月6日(金)寄稿
7月7日アップ

【サカスト】「年金問題に隠された危険」で予言しておいたことがどうやら現実味を帯びて来た。それは参院選挙に向け安倍総理率いる内閣のお歴々がこの年金不安をなんとしても選挙前に片付けておかなければと、官僚でさえその実現を危ぶむような方策を次々に打ち出してくる中に、社会保障カードなるものも出て来た。

医療,介護、年金など社会保障に関するすべてのデータを一括して一枚のカードにしようと言い出して来たのだ。一見すると国民にとっても大変便利そうな案で、これが出来れば今騒がれている年金問題もクリアできるように見せかけてはいるが、こんなこと役人に言わせれば一か月や二か月で出来る問題でもないし、ましてこれについての議論も一度もしたことがない、いわば選挙目当ての人気取り提案に過ぎないもの。

しかもこれが本当に実施されてしまうと【サカスト】で警告したように、国民の個人情報のかなりの部分が政府によって握られてしまうことになる。その危険を防ぐためには、選挙目当てのその場限りの思い付きでは済まされない詳細で慎重な検討を経てからでなくてはならない。どうもあの総理は独善とはったりとでこの国を動かそうとしているように見えてならない。

さてそろそろ選挙の告示が近付いて来た。告示後にいつまでも悪口を書いていると選挙妨害などでひっぱられてしまうかもしれないので、話題を変えて。

少し前の話しだが、山口県光市で起きた母子殺人事件のやり直し裁判が広島高等裁判所で行われた。この事件は当時18歳の少年が白昼主婦を絞殺したうえ屍姦まで行い、さらにこれに驚いて泣叫ぶ乳児まで絞殺してしまったことでマスコミを騒がせた事件でもあった。

この事件は少年の起こした凶悪な犯罪というだけでなく、その事件の被害者の夫である本村洋さんが一審の山口地裁が少年に無期懲役の判決を下したあとで、少年には絶対死刑を科するべきという意見をマスコミで言明し、さらにその主張に対して被告少年の被害遺族への愚ろうするかのような挑発的な言辞などがあっていっそう話題性が高まった。

更にあらゆる法廷戦術を駆使する弁護人のありかたなど、わが国の刑事司法制度の様々な姿を見せた裁判としても世間の注目を浴びたものだ。第一審の山口地方裁判所の判決が無期懲役とされたあとで、殺された主婦の夫である本村さんはテレビに出演して次のように話していたのを記憶している。

「犯人が死刑にならずに出所してくれば、私が自分の手で殺してやる」被害者の遺族としての思いは、私が彼の立ち場であってもそのように言うかもしれない、と思えるほどの重さがあった。しかし彼は必ずしも感情的にそう叫んだのではなく、つぎのような論理の構成を行っていたことにも注目させられた。

死刑が必要なのは、殺人を犯した人間がその後罪と向き合い心から反省して、許されるならば残る人生を罪のあがないや社会貢献に捧げようと決心する、そのように改悛した人間をなおも国家が残酷に殺してしまう,こんな非情さ残酷さこそ犯行によって奪われた命と同じ価値を持つことを社会に知らしめる、すなわちこ死刑を存続させることによって初めて被害者の奪われた命の尊厳を知ることができる、と言うのだ。これはまさにハムラビ法典にある「目には目を」の応報思想を高度にしたものとしてその趣旨が分らないでもない。

一方で、差戻し裁判での弁護団の弁論のあり方にも問題を感じる。それは犯人をいかに死刑から免れるようにするかの法廷戦術に堕してしまって、人間の生命の尊厳のかけらもその中からは感じられないものであったからだ。殺人後死体を犯したことも、こうすれば生命が復活すると思ったとか、赤ちゃんを殺して押し入れに放り投げたこともドラエモンの魔法のポケットに入れて生き返らせようとしたなど、一種荒唐無稽な精神状態に被告があったかのように誘導している、こんな弁論を聞かされる被害者は、裁判が続く限り何重にも苦痛を味わわされるだけだ。

本事件では最終的に弁護団は21名で結成され、もちろん全員が死刑廃止論者だという。私も死刑廃止には賛同する者であり、その理由の第一は、死刑には必ず冤罪の危険が伴うことがあり、第二には、先ほどの本村さんの論理にもあったように、人間は時間をかければ罪を自覚する可能性がいくらかでも残っていることを信じるからだ。そして日本の刑法に終身刑の制度を設けることを以前から訴えている。弁護団も売名的に死刑廃止を売り込むのではなく、本心で刑法の改革を訴えては行けないのだろうか。

被害者の感情も理解できないわけでもないし、自分が実際当事者であればまたどう考えるかにも自信はないが、犯人を殺してしまえばそれで気持ちが晴れるのだろうか。本当は心から罪を後悔しながら刑務所で一生を終える、それが本当の贖罪に値すると考えているのだが。

難点はただ一つ、刑務所が満杯になること、だ。

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