|
榊原烋一 【サカスト】 |
年金問題がここまで社会の大問題になってしまったから、国民も自分の記録が正しく記載されているか特に注意をはらわざるを得ない。社保庁はなんとしても自分たちの犯した失敗を取り繕おうと、連日土,日返上で電話相談は受ける、面接相談は受けると大サービスの状況。被保険者の方々も日曜日を潰して相談に殺到するから何処も満員、電話はもちろんつながらない、おまけにネットもパンク状態でお手上げだ。
こんなことを繰り返しているから国民の政府に対する信頼はどんどん落ちて行く。おまけに政府側には言い訳のできない落ち度があったのは事実だから、早々にこの問題を解決してしまおうと総理じきじきのお声掛かりで、無理だと分っているのに1年以内に片付けるだの、他の法体系との整合性も無視して時効の発生も鶴の一声で解除してしまう。更にどうしても納付記録が証明できない場合には、判定委員会によって認定規準を新たに設けるなど、泥縄式に次々にと対応策を打ち出す。
さて、ここで気掛かりなことがいくつかある。こんな現況を産み出したのは根本的に社保庁を中心とする理事者側にも労組側にも双方に責任があることは当然だが、その対応のために、これだけ多数の人員を時間外勤務に充て、さらに部外のコンピュータシステムの応援も頼むとなって、その費用はどれだけかかるのか。柳沢厚生労働大臣は省に割り当てられた予算をやりくりするなどと答弁しているが、果たしてそんな額で間に合うか。いずれはまた国民の税金の無駄遣いが槍玉に挙げられる日も遠くなかろう。
それだけではない、明らかに役所が非を認めたとなれば、請求側の立ち場がぐっと強くなる。証明する書類はなくしてしまったが、履歴書があるとか友人の証言がある、などそこには無数の言い掛かりにも似た窓口でのトラブルが起こらないとは言えない。ここに付け込むのがプロ級の行政対象暴力を専門とする集団の存在だ。
この対応の難しさは実際に遭ったことのある公務員以外には察することができないだろう。場合によれば、先般現実となった長崎市長銃撃犯人のような結果さえ起きることだって予想できよう。窓口の役人はこれだけ自分たちの側に落ち度があったことが知らされてしまったのだから、従来のような横柄な対応はできっこない。そこに付け込んで半ば暴力的に履歴詐称が行われる可能性だってないとはいえない。
もう一つ心配されるのが新手の振り込め詐欺。年金暮しのお年寄りに,社保庁の者ですがあなたの年金は増額されることになりました、ついては預金通帳を持ってどこそこの銀行へ来て下さい、などという犯罪だって起きても不思議ではない。そんなこんなで、せっせと払った保険料や税金がまた悪意の第三者によってかすめ取られる心配はないと言い切れるのだろうか。
もっとも気になることは、こうやって大きな社会問題になったことを逆手に取って、ずっと前から政府が望んでいたいわゆる国民総背番号制度をドサクサまぎれに実施しようとする動きが見られることだ。
住民基本台帳を実施するときにもかなりの反対があり、自治体ぐるみで不参加を決定してしまった地域もあれば、趣旨に賛同する者だけに番号を付与した地域もある。その時騒がれた個人情報保護の世論が年金問題を機に反対の方向へ向かってしまった感がある。
もともと為政者にとってみれば、全国民に一種類の通し番号を付けて管理することは大きな願望ともいえるだろう。国民はその恐ろしさを感じていればこそ、住民基本台帳ネットの実施に当たってかなり大きな反対運動が展開された。ところが、こと、年金の給付にかかわる台帳の不備となれば、電話ばかりでなく直接役所へ出かけてまで自分の記録を確認しようとするわけだ。
これこそ為政者にとってはタナボタ現象で、安倍総理などは社会保障番号制度の実施を即座に提案しているありさまだ。年金、医療,介護など、これからの高齢化社会における国民のニーズと称すれば、この制度さえ実現すれば給付漏れは防げる,と、年金問題にかこつけて再び背番号の復活へ乗り出した、と見ることも穿ち過ぎと笑い飛ばす問題ではないような気がする。
たしかにすべての国民に一種の通し番号を付けてしまえばある側面では便利になることも考えられる。また、私はだれに対しても後ろ指さされることはしていないから、番号を付けられても平気さ、と気楽に構える人だって少なくはないだろう。しかし、情報は常に正しく使用されるとばかりは言えないのだ。
実は1997年1月から中央官庁では各省庁内部で使われているネットワークを更に省庁を越えて接続する霞ヶ関WANというネットが運用されている。今回総理が提案している社会保障番号制度もこれにつなげてしまうことは至極簡単なことだ。すでに住民基本台帳ネットや年金、医療、介護などの番号をすべて統一することが出来れば、政府はいながらにして全国民の住民登録、戸籍、税、健康保険、医療、福祉給付、介護保険、年金、各種免許、旅券、学歴、職歴から犯罪歴までの情報を知ることが出来るようになる。そればかりではない、クレジットカードの使用歴とつなげば、個人の趣味嗜好に至るまでつかまれてしまう。
住民基本台帳実施の際、あれほど騒がれた個人情報の政府管理に対する危惧が、今回の年金問題によって反対に国民に統一番号制実施に対する不安感を払拭させてしまうのではないか。個人の情報が政府によってその全てを把握されてしまうという危険性について、マスコミもそろそろ注意しなくてはならないはずなのだが。
この記事の読者数: