選挙と税金 天皇の人権

東京オリンピック反対

榊原烋一 【サカスト】
2006年9月1日(金)寄稿

オリンピックの日本候補地が東京に決まった、ただしまだ日本国内だけの話。喜んだのは東京都知事、悲しんだのは福岡県知事。

私が予想する限りでは、日本に再びオリンピックが戻ってくることは当分はないだろう、というより、個人的には東京でそんなことをしてもらいたくない。

私は寅さんではないけれども生まれも育ちも東京、だから東京は私のふるさととしてこよなく愛する町なのだ。青年の頃、旅行をして帰って来たときに東海道線が東京に近付いてくる、そして窓の外に有楽町の日劇のあの丸いビルを見たときに、ああ、東京に帰って来たのだといつもほっとさせられたのだ。

その東京は、私が生まれる少し前、大地震で壊滅状態になった。両親から震災の話はいやというほど聞かされた。ちょうど昼御飯の直前、そのときちゃぶ台の上には豆腐がおかれていたけれども、いきなりそれが飛び上がったという。それはともかく、そのときに流言が街に溢れた。朝鮮人が井戸に毒薬を入れた、気をつけろ。

根も葉もないこのうわさにおびえた市民は自警団を組織した、あろうことか日本語に訛りがある朝鮮人を、なんと竹やりで刺し殺してしまった。有名な新劇の俳優だった千田是也、これはもちろん本名ではなく芸名、そのいわれは千駄ヶ谷のそばでコリアンと間違えられたからだと言う。私の父親は彼の実家である伊藤家の兄弟たちと親しかったからあながち嘘とも言えないだろう。

廃虚と化した東京、そこに後藤新平という偉大な医師であり政治家がいた。彼は以前日本の植民地であった台湾総督もやり、現在でも旧日本植民地の中で珍しくも親日的空気の濃い台湾との関係も作りあげた政治家の一人だ。関東大震災のとき、彼は東京市長だった。震災復興のために当時としては巨額の7億円という予算規模で東京の都市改造計画を作ったが、政府にも議会からも無視されてしまう。彼の計画の名残りは銀座中央通りの東にある昭和通りとして生き残っているが、戦前の東京の中では珍しいこの広い道路も、彼の悲願がかろうじて生き残った僅かな遺跡のひとつである。

さて次の壊滅状態が敗戦後の東京、都心からでも地平の彼方に夕焼けにそびえる富士山がくっきり見えた東京となってしまった。この時も都市計画どころの騒ぎではない。日本を占領した連合国総司令官マッカーサーはいみじくも言った、日本には道路はない、あるのは道路予定地だけだ、と。

全くその通りで戦後の日本はインフラ整備よりまず稼ぐことを優先した。もちろん食うことが大切である点には間違いないが、同じ敗戦国ドイツとの差がここにも見られた。ドイツはまず破壊された町の復興、とりわけ道路と住宅に金をかけた。そのとき日本は工業復興に夢中になった。この差は今どちらが良かったとはにわかには判定が難しいが、日本の道路事情の悪さは現在でも実感できるはずだ。

戦後復興もやっと落ち着いてきた昭和39年、東京はオリンピック招致に成功した、あの感激は今でも忘れられない。この時の誘致のスローガンは、オリンピックをアジアへ、だった。東海道新幹線も開通して、日本はまさに奇跡とも言える復興の道を歩んだ。新幹線の建設は実は世界銀行からの借金によったものだったことは余り知られていなかったが、その借金もとっくに全額返済ずみだ。

オリンピック自体は成功したし、そのおかげでインフラもある程度の整備はされた。しかしそれはまったくその場しのぎ的な事業で長期的な都市計画などとは全然呼べないお粗末なものでしかなかった。青山通りの拡張なども後藤新平の昭和通りと同様に大きな目で眺めればごく僅かな部分で、おまけに由緒あるお江戸日本橋のすぐ真上に不細工な首都高速道路を走らせてしまった。

思い出はいくらでもあるが、石原都知事には申し訳ないが再び東京にこのような愚を冒して欲しくないから、オリンピック招致には絶対反対の立ち場をとりたい。

マスコミですら交通渋滞の危険をどう回避できるのかを疑問視している。大きな都市計画もなく、ただ知事の思い付きとしか考えられないこんなゲームにわれわれの税金は使って欲しくない。東京の道路状況は世界の大都市の中でも最悪のランクにあるということは海外の大都市に行ったことがある人間なら誰でも実感しているはずだ。

石原知事は以前から首都圏にあるアメリカの空軍基地として最大の横田基地を、軍民共用にすべきとわめく。あそこに民間航空機が発着したとして、その乗客を周辺の貧弱な交通インフラでどう都心まで運ぼうと考えているのか。

更には地方分権、一極集中が問題となっている今の日本のあり方を彼はどう考えているのか。東京生まれの人間が東京の良さを感じるたったひととき、それは正月と盆の時期だけだ。この時だけは帰省した膨大な人間がこのまま戻らずに、地方でそれぞれに適当な産業社会を作ってくれたらいいのにと、風通しの良くなった東京の街に立って感じるのだ。

石原都知事はオリンピックを目玉政策として再度都知事に立候補する意思が見え見えだ、そしてその背後には彼を擁して金もうけをたくらんでいる妖怪のような影さえ見えかくれする。しかも、今のところ彼に対立する有力な候補も見当たらない。

私が心配する前にIOCは東京反対の決議をしてくれるだろう。なぜなら、都知事は中国、韓国をいまだに日清戦争時代の歴史認識でしか考えられない人間なのだから、まっさきにアジア諸国から反対意見が出てくると予想されるからだ。

しかし招致合戦をするとなればそれまでにも莫大な金額が必要だ、そしてその金は開催地が海外の他の都市に決定されればすべてが無駄になってしまう金でしかない。そんな金を東京に使うくらいなら地方の農業、漁業の改善策にでも使うべきだ。このままにしておけば日本の食糧自給は壊滅状態になってしまうことを都会の人間なればこそ第一に考えねばならないのに。

ろくな都市計画もないままに自分の名誉欲達成のためだけにオリンピックなどを招いて、さらに醜悪な街づくりをされるのは東京人の端くれとして到底賛成できるものではない。

この記事の読者数:



Copyright (C) Toru Kishida 2005 All Rights Reserved.