まだある靖国問題 河状係数

指導者の顔

榊原烋一 【サカスト】
2006年8月9日(水)寄稿

「人は見た目が9割」という本が売れている。昔から日本の諺にも「目は口ほどにものを言い」とある。まったくそのとおりで、表情の中からこの人の考えていることは本当かウソか、本音か建て前か、など見抜くことは、たくさんの子供たちの飾らない表情を見続けて来た元教師としてそれほど難しいことでもない。

昨晩のニュースで、岐阜県前知事の梶原氏が県庁で行われていた裏金問題を認めるインタビューを行った。TVカメラとは本当に非情なもの、かれの人格そのものまで写し出してしまった。この人もかつては全国都道府県知事会の会長として政府当局に歯に衣着せぬ意見をずばずばと切り込んでいた姿は印象深かったのだが。

私自身は彼がどんなキャリアを持っていたかには全く関心がない。しかし今回TVで大写しになった彼の顔は、県民の税金を県民のために誠心誠意使うことに誇りをもっている顔ではなかった。バレたらそれまでよ、という開き直りの醜い顔としか映らなかった。

同じ報道で故橋本総理の告別式の様子が報道された。一国の総理大臣であった橋本氏の葬儀であるからもちろん宮中からも皇太子が参列された。葬儀は特に宗教色はなかったのだろうが、TVに映された献花のおりの皇太子の手さばきを含む挙動の美しさ、これはまさに対照的に美しかった。肩書きだけが立派でも中身のない人間にはかもし出すことの出来ない気品があった。これこそ帝王学を幼少の頃から叩き込まれた人の生み出す美しさなのだろう。

皇室を除けば日本人はすべての職業に就く自由がある。当然、官僚になることも政治家になることも、あるいはフリーターになることだってまったく自由である。しかしそのような俗世界には残念ながら尊重すべき日本文化の香りなど少しも残っていない。日本の文化を愛し伝統を尊重せよと言う日本人ならば、現在は極めて少数になってしまった貴重な日本の美しい文化を保っている皇室の存在にこそ本心で敬意を払うことが必要なのではないのか。

TVの世界では顔が大切だ。バカの一つ覚えのように続くNHK大河ドラマのキャスティングも芸のうまさではなく、まず顔だ。売れっ子になった芸人をNHKに出演できるという餌で集める、芝居が出来るか、役柄に合っているかはまったく別問題だ。本当に芝居のできる役者は脇役に配してお茶を濁すものの、この顔こそ世間の人気を集めると思えばそれを主役にする。芸が出来ないときは顔だけの大写しでごまかす、たとえそれが完全なミスキャストであったとしても。その俳優を見たい視聴者が存在する限り、毎年こんなことに貴重な視聴料が使われて行く。だから私はあのドラマはいっさい見ないことにしている。

今年6月に亡くなられた元明治大学学長だった政治学者の岡野加穂留さん、この方と私は一面識もないが、大学の講義で話された言葉を読んだことがある。「日本は政治家が5%、政治屋が10%、残り85%が政治で金もうけをしようとする政治業者だ」

今回の岐阜県の裏金問題で、マスコミの追及に答えてその操作を実は知っていたと開き直って認めた前県知事、この顔の醜さはTVで全国に放映された。見た目が90%ということはこの人物の中身もそれだけだということ。しかし自分に都合のよいときだけ民主主義政治を標榜している日本の政治屋、それを悪用しておのれの安泰のみを考える官僚、そして最後にはそんな裏社会の存在を当然として、ただただこの人に投票しておけば私の仕事はうまく行く、としか考えない選挙民。まさに衆愚政治もここに極まった感がある。

岐阜県だけで約5億とも言われる裏金操作、前県知事の発言によれば我が県だけの問題でないと言うがそんなことは言われなくたって想像が付く。全国47都道府県が平均してこれだけの裏金操作をしていたとすればそれだけで250億の税金が勝手に流用されていたことになる。同様のことは国家規模でも特殊法人問題でしばしば話題となる。

東大出身の谷垣大臣は自民党総裁選に打って出ようというおりに、あえて耳障りのよくない消費税引き上げを言明した。たしかに今後の日本の社会保障制度を堅持して行くためにはある程度の国民の負担増はやむを得ないだろうことは想像できる。しかしその前に上に述べたような公務員による税金の無駄使いには一言も触れずにただ増税を叫ぶから、この大臣は役人の論理を代弁するだけの政治屋でしかないと見くびられてしまうのだ。

勉強もしてほしい、よい大学で頭脳も磨いてほしい。それは本物のノブレスオブリ−ジュ、戦場であれば率いる部下の先頭に立ってまっ先に討ち死にする、そういう日本人の指導者として育って欲しいからである。最近そんな顔を持った日本の指導者にはまったくお目にかかる機会がなくなってしまったことが残念だし心配でもある。

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