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榊原烋一 【サカスト】 |
シンドラー社製のエレベーターが死亡事故を起こしたとのことで一躍有名になった。それと住民に対する事故の説明会に会社側が出席しなかったというのでまたまたマスコミに叩かれた。
【サカスト】でも、社長とは頭を下げる職と知り、なんて川柳を掲載したことがあったが、ことほどさように日本のマスコミがつくり出してしまった奇妙な習慣の影響は大きい。いったいテレビの前でおえらいさんが頭を下げてなんの意味があるんだろう、日本人の情緒過剰には同じ日本人でも呆れるしかない。
もちろん今回も死者が出ているのだから、その葬儀に会社のどなたかが参列することは礼儀かもしれないが、これとてもあとあとの補償問題に関連するからうかうかと顔を出す訳にも行くまい。とにかく今度の事故はどこに原因があったのか、まだ不明なのだから。
東京でエレベーターが有名になったのは浅草に出来た通称12階、正式には凌雲閣というビルが出来てからだそうだ。そうだというのもこのビルは関東大震災で崩れてしまったのだからまだ生まれていなかった私は実物を見たわけではない。しかし浅草生まれの父親は、よくその話を聴かせてくれたし絵はがきも見せてくれた。その印象は斜になっていないピサの斜塔といった感じだ。
現代の日本人の感覚から見れば、まるで玩具の塔のような貧弱な建物だけれども、当時の人々の語り種だったそうだ。第一、名称が凌雲閣だからすごい。きっと雲の上まで届くという気持が実感だったのだろう、しかもエレベーターまであったのでそれに乗りたい人が行列を作ったとのことだ。
私自身が記憶にあるのは小学生の頃、日本橋の高島屋にすごく豪華なエレベーターが設置されたというので母親と一緒に買い物がてら連れて行ってもらったことだ。もちろんその頃にはどこのデパートでもビルでもエレベーターはあったから、それ自体は珍しくなかったのだが、高島屋のエレベーターは乗る側の扉のデザインも素敵だったし、内側の扉も金色の棒が立ち並んだような、それまでにない素敵なものだった。高島屋は今でもこれを残しているのだから懐かしい。
残っているのは外側だけで中のエレベーターの機具そのものはひょっとして新しいものに変えてあるのかもしれないが、もし昔のままだとすればかれこれ70年以上の歴史があるはずだ。
こんな話をなぜ持ち出したかと言えば、シンドラー社の今回の事故も、機具そのものに欠陥があったのか、それとも維持管理の担当者に責任があったのか不明だからだ。したがって犠牲になった方に慰謝料を払うのもだれがその責めを負うか、結論がでるまではうっかり頭なんか下げられないだろうということ。
子供のときに見た怖い夢の中にエレベーターのロープが切れてそのまま地下まで急降下した夢がある。ビルの底に叩き付けられた瞬間目が覚めた。この恐ろしさは今でも思い出すほどだ。その頃は本気で考えた、底にぶつかる瞬間飛び上がれば助かるかもしれないと。そんなことは物理的にもあるはずはないけれど子供ってそんなこと考える。
当時「子供の科学」なる月刊誌を読んでいた。その中にエレベーターの仕組みの解説が詳しく出ていた。原理は今でも変わっていないようだ。超高層ビルの高速エレベーターは違うらしいけれども、一般に使われているのはたいていが昔からある釣り合い型のようだ。簡単に言えば一本のロープの両端に人間の乗る箱とそれに釣り合う錘りをぶら下げ、上でモーターを回して上下させる。
だからロープが切れることも想定しておかねばならない。そのときのブレーキ、これの原理はケーブルカーのブレーキと殆ど同じだ。ケーブルカーだってロープが切れて放っておけば下まで落ちてしまう。だから引っ張っているロープの力が抜けるとひとりでにブレーキがレールを両側から締め付けて車両を止める。エレベーターの場合には箱の両サイドにレールがあり、同様にそのレールを挟み込むことによって墜落を防止する。今回の事故は逆に扉が閉まりきらないうちにエレベーターが上昇してしまったというが、これも普通は二重三重に防止策がとられているから常識的にはにはあり得ないことだ。
報道によると、エレベーターは本体だけの儲けは少ないが設置した後の保守点検で稼ぐのだと言われる。ちょうどパソコンのプリンターが、本体ではいくらも儲からないが消耗品のカラーインクが売れるからそれで商売が成り立つのと同様だ。ところが保守点検だけを安く請け負う業者が出現する、となるとエレベーター本体の業者は悲鳴を上げる。一方設置者は出来るだけ安い方がいいに決まっているし、本体設置と保守点検をセットにしての契約を強制すれば公取委に目を付けられる。
そんなわけで、どうやらこの件はメンテナンスの問題にもなりそうな気がする。いつも言うように安さで勝負もいいけれども一旦事故を起こせばそれまでの儲けなんて一遍に飛んでしまうことを覚悟すべきでしょう。ナチスドイツのときのシンドラーはユダヤ人の救いの神のように映画で描かれて、日本で一時ブームを起こした。実は彼は裏で囚人を安く使って儲けていたそうだ。今度のシンドラーはスイスの会社らしいが、日本では不買ブームで撤退なんてことになるのでしょうか。