どうするアイフル 人間の知恵とは

組織の罪

榊原烋一 【サカスト】
2006年4月24日(月)寄稿
4月26日アップ

4月になるとTVのニュースでいろいろな職場での新入社員研修の様子が写し出される。先日もJR東日本の職場研修が放映された。大まじめになった若者たちが横に並んで手に持った赤い小旗を夢中で左右に振りながら、とまれーっと大声で叫ぶ訓練だ。

訓練担当の先輩が、そんな声で列車が停まると思うのか、もっと大きい声で、もっと旗を勢いよく振れ、と叱咤激励している。若者たちはそれに応えてますます大声で叫ぶ。

これは鉄道の安全確保のための最も初歩の訓練なんだそうだ。ほかの鉄道会社は知らないけれども、JR東日本の研修センターには過去の大事故の様子が保存されていて、新入社員はまっ先に安全を優先することが教えられるらしい。もちろんこの人々の中から将来の幹部社員も出て来るのだろうが、そう言えば東急電鉄でも昔はどんな大学を出ても最初切符切りをやらせたという話を思い出した。

新入社員研修は本当に大切だ。このテレビでは三河島事故のパネルの前で、あの時赤旗を振れば(共産党のではなく本当の信号用の手旗のことだ)少なくともあのような大惨事は防げたはずと言う。それは昭和37年5月3日の夜だ。(まもなくそれから44年目を迎える)当時の国鉄常磐線三河島駅構内での出来事だ。(そう言えばJR西日本の福知山線で死者107名を出した大事故も1年前の4月25日だった。これも5月病の一種か?)

まず下り線を走っていた貨物列車、もちろん蒸気機関車D51が引っ張っていた時代だが、最初にこの機関車の運転士が信号を見誤って脱線した。そこに今度は下りの電車が衝突、しかしまだ大した事故ではなく、ドアの開いた電車から駅も近かったので乗客は線路の上を歩き出した。そこに今度は上り電車が突っ込み、歩いていた乗客をなぎ倒して脱線した下り電車に衝突、上り電車の3輛は線路から外れて数メートル下の道路に落ちてしまったのだ。

この事故は上下合わせて死者160名、重軽傷者384名という国鉄史上最大の事故だった。事故の調査の結果、最初の機関車の運転士はもちろん、上下電車の乗務員がすべて訓練不足と気のゆるみが大きな原因であるとされた。その頃は国鉄労働組合、動力車労働組合の力が強く、そのせいで理事者側もその対策に追われていたこともあったのだろうが、労使双方に落ち度があると結論付けられた。

大きな事故というものの影には必ず小さな事故の積み重ねがある。三河島事故も小さな事故があったのを労使双方で相手の責任だと罵りあっての結果だったと言えなくもない。いずれにしてもその犠牲になった方々が今生きていらっしゃったらどんな生活を送っていただろうと思い返されたニュースだった。

そこで、現在のJRがこのような事故の教訓を新入社員に叩き込み、赤旗振りの訓練をしていることは大いに賛成だ。最近たるみの目立つJALもお巣鷹山に激突したジャンボ機の残骸を廃棄しようとして猛反対を受け、仕方なくだか渋々だか事故防止の教訓として保存することにしたと言うが、こんなことは当然のことだ。

さて、問題は新入社員のその後にある。どんな会社でも、官庁でも、教師でも、採用された当初はみな緊張しているから、この期間の教育は本当に大切だし役にも立つ。しかし問題なのはその後配属される職場の雰囲気こそもっと大切なのではないか。

初心忘るべからず。言葉で言うのは簡単だけれども、またその気持ちを何年も続けられる人間は少ない。したがって弛んだ組織の中にどっぷり漬かってしまえば大部分の人間はその雰囲気に影響されてしまう。

事故に限らず、大きなニュースになるような事件にはやはりその影にある組織の影響、言い換えるならばその組織の長に責任があることは間違いがない。また組織が複雑となり、個々の人間には自分の所属する部署以外で行われることは全く分からず、結局組織全体としてみればばらばらに仕事をしている状況が見られる。

今になって中央官庁の官僚に問題が続出しているのも、明治以来の組織のあり方が現在の日本の社会には適合できなくなっているからではないか。明治維新直後の日本政府には中央集権的なエリートを養成する必要があったはずだ。同様に敗戦後の日本でも占領軍は日本の確固とした官僚組織を利用したからこそあれだけスムーズに占領政策も成功したのだろう。しかしその組織の力が現在では逆方向に働いているように見えてならない。

これだけ情報が溢れている中で、いまだに知らしむべからず、寄らしむべし、の姿勢をかたくなに守り続けているのはむしろ滑稽とも言える。エリートなればこそ20代で地方の幹部クラスからはじめるのではなく、鉄道会社を見習って、信号旗を振らせるごとく出先のカウンターに座って国民の苦情を聞くような研修組織に切り替えて、組織の体質そのものから変えるべきだ。世間知らずの役人が権限を使いたがるあまり、危険に気づきながらその情報を内部でとどめ、結果として国民に大きな損害を与えてしまうような不作為行為もやはり組織が作り上げた罪と言えるのだから。

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