甲子園は終わったが

榊原烋一 【サカスト】
2005年8月25日(木)寄稿

今年の高校野球も駒沢大苫小牧高校が優勝した。これまで深紅の大優勝旗は白河を越えることはないと言われ続けていたのが、白河は愚か、津軽海峡を越えて北海道まで、しかも二年続けての優勝だからたいしたものだ。

もともと、雪の多い東北や北海道は、球技には不利だということは明らかだ。3年前の1月、青森の教育委員会主催の研修会に招かれて行ったときも、会場となった中学校の校庭には雪が50センチくらい積もっていたが、その庭で野球部員がキャッチボールをしている。見ると自分が立っている範囲だけ丸く雪を掃いてその中に立ってキャッチボールをしている。当然ゴロの捕球練習は出来ない。

冬になれば雪国は積雪で覆われる、したがって屋外でのスポーツの練習には困難が多い。最近でこそ屋根付きの広い体育館の設備のある所も増えて来たが、それでも野球の練習には使い勝手が悪い。そんな中で全国の強豪を制して二連覇を遂げたのだから、これは賞賛に値する。

ところが、めでたく故郷に帰った彼等を待っていたのはなんとも気の毒なスキャンダル。野球部の部長が生徒に体罰を食わせ、あまつさえそれを隠ぺいしていたということがばれてしまった。現在、詳しいことは調査中で、事件のてん末が明らかになれば学校が報告書を作成して高校野球連盟に報告するのだという。

今年は優勝が決定した後だけに、この学校に連盟がどんな処分を下すのかはちょっと難しい問題だ。かりに不祥事を隠して出場したのだというならば、優勝をはく奪するばかりでなく、地区予選以後甲子園に至るまで、この学校と戦って破れた学校からはひょっとすれば勝ち上がれたかもしれなかったのにと文句を言われても仕方がなかろう。つまり簡単に優勝だけ準優勝の学校に回すという裁断を下す訳には行かない。まして今年は高知県でも不祥事があって名門明徳義塾が地区代表を下ろされただけになおさらだ。さしあたり来年の出場はご遠慮願うくらいの処置になるのか。

さてそこで、高校野球に残るこの風習もそろそろ変更したらどうだろうか。今年の明徳の場合は部員の飲酒や喫煙が原因だし、苫小牧のケースは教師の体罰だ。もちろん高校生が飲酒、喫煙したとか暴行を働いたり、教師が体罰を振るったりすることがいいと言うわけではないが、当該生徒や教師だけでなく一蓮托生で全員が罰を受けるというのは問題ではないか。

この辺りに高校野球の主催者、関係者の頭の古さを見てしまうのだ。つまりプロとアマとの間にはは画然とした境界があって、アマチュアスポーツとはあくまでも清く、正しく、美しくといった宝塚少女歌劇の世界みたいなものがあるべきだと今でも夢見ているのではなかろうか。もともとスポーツというものは厳然としたルールの下で行われるものだから、別に人格にかかわるものではない。まして部員の誰か、関係者のだれかが一人でも問題を起こせば連帯責任で全員出場停止というのはまさに帝国陸軍時代の内務班的仕打ちだ。一罰百戒なのだというのならば、バカなことをした本人だけ卒業まで出場停止とか、教師ならば学校の処分規定に照らして処分すればそれで十分ではなかろうか。スポーツがやりたくてその学校を選ぶほどの子どもならば、つまらないことをして卒業まで出場停止になると聞けば、隠れて悪さをすることもあるまい。

帝国陸軍の亡霊を思い起こさせるのがもう一つある。それは高校野球の入場行進のあの歩き方だ。ひざを曲げて上に持ち上げるあの歩き方は戦前の陸軍そのものだ、あの歩き方はまったく格好が悪いの一言につきる。現代では自衛隊でもあんな行進の仕方はしない。自然にひざを曲げないでまっすぐ前に足を出す、その方がよほど見た目にも美しい。

軍隊の行進スタイルにはある特色がある。いったいに全体主義国は足をまっすぐに空高く上げて歩く、見た目には勇ましそうだがやらされている兵隊には負担になる。かつてのナチスドイツ、今でもロシア、中国、北朝鮮の軍隊がこれだ。一糸乱れず独裁者に従いますと宣言しながら歩いているのだろうか。そこへ行くと自由諸国の軍隊はひざは曲げずに、かと言ってそんなに振り上げるでもなく自然に前に出す、日本の自衛隊もこの方式だしこのスタイルが一番自然で美しく、かつ歩くにも楽なのだ。高校野球の入場行進だけいまだにあの野暮ったい帝国陸軍式を変えようとしないのはなぜだろう。

こんなところにも日本スポーツ界の縦割り、精神主義、統制好きな旧弊が見て取れる。

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