ご近所の底力

榊原烋一 【サカスト】
2005年7月22日(金)寄稿

以前、この欄でNHK番組「ご近所の底力」について少しだけ触れたことがあった。それはNHKのような半ば官製のマスコミが余計なお世話をやくと、戦前の隣組のような官製相互監視システムが復活するのではないかとの思いがあったからである。

それと同時に、現在の日本のように余りにも相互無関心、連帯感のない時代には多少こんな番組の存在も必要なのか、との感がないでもない。ただ日本人の習性として、だれかが大声で叫びだすと全員そちらに向いて走り出す悪い習慣があるから、やはりこの種の番組には十分注目しておくべきであろう。

さて、昨晩の内容の一つはこういうものであった。ある過疎の町、そこを走る鉄道が長年の赤字に耐えかねて、路線廃止を決定することになった。それに驚いた沿線住民が様々な知恵を絞り、連帯して復活運動をした結果、他の鉄道会社がこの路線を引き受けるというものだった。行政ももちろんなにがしかの負担をすることになったようだ。これはこれでめでたしめでたしの結果になったが、過疎地域の交通問題は深刻で、どこででもこのようにうまい結果が訪れるとは言えないし、この番組がヒントとなっていい知恵が浮かぶというほど簡単な問題ではなさそうだ。

それはさておき、この種の番組によくある「やらせ」、これがいやみなのだ。この番組でもあった。復活運動の先頭に立って頑張ったおじさんが、スタジオ内で「復活の知らせはどこからもなかったが、偶然テレビのニュースで知って『やったー』と感動しました」などとしゃべっている、いやしゃべらされていたと言うのが正確かもしれない。なにしろそのちょっと前の画面では、どこかの公民館のような畳敷きの部屋に、住民の数人が集まってたった一台のテレビに向かって座っている、とそこで路線復活のニュースが流れる、皆でバンザイをする、特にスタジオに出て来たリーダーとおぼしきおじさんは、不自然なほどのはしゃぎ方をする。それならその後で「偶然知りました」の台詞はないでしょう。更にこの番組の司会のアナがまるで人見下したようなしゃべり方をする。

テレビがやらせの世界であることは今や国民の誰もが知っている、災害の現場など偶然に通りかかった人間が家庭用ビデオを持っていたなんて以外にそんなに特ダネなぞ落ちているはずがない。そこで、民放ではその裏をかいて、やらせであることを笑いの種に仕立てる、ボツになったNGシーンで番組を作るなど、あの手この手で視聴者をくすぐる。おちょくられたことが分っていても、おかしいことはおかしいから見る人間も増える。そんな環境で育った視聴者は、どれが本物で、どれがやらせかもとっくに承知している。

ところが残念なことにNHKは長年しみ込んだ体質、それはテレビは常に真実を伝えるという呪文、に束縛され切っている。だから明らかにやらせだと分る番組までも視聴者が真実だと思うはずとの思い込みで番組を作ってしまう。たとえば「鶴べえの家族に乾杯」とかいう番組がそうだ。地方の農村や漁村のように、まだまだ純朴な空気に満たされているある家族に、事前の予告なしに芸能人が訪れて驚かせ、その家族や地方の話を本音で語らせるというもの。

たしかに台本に書かれたお話ではないだけに、語られる内容の素朴さは楽しい。しかし、昼の日中というのにほとんど人通りのないような村で、今度はどこへ行こうかなんて歩いている芸能人の背中をカメラが追っているのだから、明らかにその後ろには何人かのスタッフ、カメラマンがついているはずだし、更にNHKと大書した中継車もあるかもしれない、ということは過疎の村に取っては一大イベントで、たちまちのうちに全村のだれもが知ってしまうだろうことは常識だ。しかしNHKさんはそんなことはおくびにも出さず視聴者は真実と思うはずと信じて放映しているこの体質。

同じ体質がよせばいいのに民放に負けじとつまらない娯楽番組を制作する、それだけならまだしも、その中に局アナが司会役で登場する。この連中がまた骨のズイまで正確な日本語、そして公平中立を叩き込まれていることは結構なのだが、それと同じくらい私は天下のNHKのアナウンサー、出演者の皆さんよりも私が偉いのだ、と意識してもしなくてもその臭さがしみ込んでいてそれがまる見えになってしまうから、これまたいやみにしか感じられない。

まじめ 一直線のスローガンはいいけれども体質を変えることはとても難しいことだ。イロケを出さずお笑い番組の司会などはその道のプロに任せ、それこそアナウンサーは自分の本業にこそまじめ 一直線になるべきだろう。いずれにせよ、視聴料を取るということは、お金を払っても見たい番組、更に言うならお金を払わなければ見られない番組と視聴者に思わせる番組を作ることにあるのであって、民間放送と視聴率争いをすることではないのだ。

エビジョンイルが去った後も視聴率の不払いに泣かされているNHKさん、早いとこ体質改善に努めないと、それこそ「ご近所の底力」の番組で、村じゅうが力を合わせて視聴料を払ったお話、なんて言うのを放送しなければならなくなりますぞ。

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