第2話は来年までお預け、と書いてすぐに、そうだ、医者が心臓が大分弱っているようだから今年の夏は気をつけなさいよ、と言っていたのを思い出した。いくら4月1日物語とは言っても、うそをついてはいけないからやむを得ず、続けて第2話にうつる。
亡くなった妻の従兄弟にみっちゃんという男がいる。私より10歳ばかり若いが、今でも年賀状のやり取りをしている。この男もアメリカで大学生活を送り、その後日本で就職、イギリス支社長などやって、何の功績があったか忘れたがイギリス女王からメダルをもらったことがある男。
このみっちゃんもいたずら大好き。私たち夫婦が留守の所へ尋ねて来て、留守だと知ると玄関に大きな紙を貼付けて帰った。いわく「売家、ご希望の方はご連絡ください」そして私の電話番号まで書いて帰った。悔しいので次に遊びに来たとき(彼は当時まだ高級車だったワーゲンのビートルに乗っていた)妻としゃべっている間に、車の後ろに「求む嫁、ワーゲン新車でドライブできます」と書いた紙を貼付けておいた。彼はそのまま神奈川県の自宅まで帰ってから、やっとこれに気付いて電話をかけて来た。
毎年こんなこと繰り返す内に、彼は横浜市日吉に住宅を新築。これがかなりご自慢で、妻が招かれて行った際も、設計事務所と何度も打ち合わせを繰り返したという自慢話をえんえんと聞かされたらしい。
これを使おう、悪魔がささやいた。3月下旬、彼の家に電話する。「お宅の前をよく通りかかって、すばらしい設計だと感心していました。失礼ですが設計事務所を教えて頂けませんか」彼のワイフは私の声がよく分からない、しかも建てたばかりの家を褒められて嬉しかったのか設計事務所の住所から電話までペラペラ教えてくれた。
3月31日の午後、あらためて私は彼の家に電話した。「こちらN.H.K文化教養部です。○○設計事務所からご紹介頂きました。実は4月から教育テレビで『1級建築士講座』という番組が放映されます。その中の『住宅編』でお宅の建物がとても細かい所まで配慮されているとのこと。明日そちらの付近に取材に行きますので、ついでに夕方にでもカメラと取材記者を伺わせたいのですが、ご都合いかがでしょうか」明らかに舞い上がっているような奥さんの返答「それは、もちろん結構なんですが、明日は主人も会社ですし、主人がおりますともっと詳しくご説明できるんでしょうけれど」「いいえ、そんなに長居は致しません。その前にもう一つ別の建物の取材がありますので、多分お宅には夕方4時にはお伺いできると思います。照明用の電源だけお貸し頂ければ30分ほどで終わると思います。お宅が最後なので、もし遅れるような事がございましたらこちらへご連絡下さい」と電話番号を教える。実はこれ、N.H.Kの電話番号。
さて4月1日当日、可哀想なみっちゃん、奥さんからこの話を聞いて、すっかり真に受けてなんと会社を欠勤。朝から大張り切り。お茶菓子の用意から、夜食も軽食がよいだろうとか、ワインも少しなら大丈夫だろうとか、一日中てんてこまいで準備を整えていたそうだ。約束の時間になっても、もちろん訪問者がくるはずない。5時過ぎても来ない。まだ本当だと信じている彼は、ついに教えられた電話に連絡した。出たのは当然N.H.K。相手もびっくり、第一そんな放送予定はない。最後に
「ひょっとしてそれってエイプリルフールのいたずらじゃないんでしょうか」言われてみっちゃんもやっと我に返った。
ところが日頃友人を引っ掛けて喜んでいる彼のこと。誰にやられたかも分からない。思い当たる知人にあちこち連絡しても、そりゃうまく引っ掛かったな、だけどそんな手の込んだいたずらは俺にはできないな、と笑われるだけ。10日ほどたって私に電話があった。「こちらN.H.Kです。なにかいたずら電話をされたそうで大変迷惑しております。このような方との受信契約は、規則によって破棄させて頂きます」聞いてすぐに私は「おや、N.H.Kはいつから日吉の方へお移りになったので」とたんに「やられた、今年は完敗だ。来年こそ覚えてろ」と彼の声。そして当日のいきさつを詳しく語ってくれたのであります。
最近私も年を取って、こんないたずらするエネルギーもなくなってしまった。いまではこれで天国へ行けるか、それが心配になって来た。
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