間一髪 危機3話 第一話

主筆が風邪を引いたとのお話なので、今回は暇ダネとしてこれまでの人生で3回あった危機についてお話ししよう。

まず第1話、時は今から40年ほど前。私は主筆の学んだ大森六中の教師だった。その頃の冬のこと、3年生担任で入試を控えて多忙な毎日が続いていた。ある日仕立て下ろしの真新しいオーバーを着用して出勤,同僚から素敵だなどほめられて得意になって遅い退勤の帰り渋谷で途中下車。

当時渋谷の井の頭線のガード下には数軒の焼き鳥屋が(正確にはもつ焼き屋だ)並んでいた。行き付けの一軒のカウンターでいつものように数本の串で焼酎を一人静かにたしなんでいた。隣にはこれまた一人でもつ焼きで焼酎を飲んでいた中年の男。いきなり声をかけて来た。「気に入ったね。そんな格好してもつ焼きに焼酎。なんていったってこれ食いながらなら焼酎に限る」無視するのも大人気ないと「食い物と飲み物は相性がありますからね」など受け答えをしていた。

男は「ますます気に入った。実は私今晩友達とスキーに行くんだけど、上野発の列車までまだ大分時間があるんで一人で時間つぶししてるんだ、だんなちょっとでいいからもう一軒つきあってくれませんか」有無を言わさず勘定まで払ってくれて腕を引かれて道玄坂方面へ、ちょっと右の小路のうす汚いビルの地下へ。なんとそこはキャバレー風の店、男は顔らしく「今晩はお客さんと一緒だからサービスしろ」なんて叫ぶと、待ってましたとばかりに女の子が4人ほど座り込んでウイスキーのボトルをあけはじめた。しまった、カモにされた。そう思ったがもう遅い。いくら取られるかで気もそぞろなのに男は上機嫌でウイスキーを空ける。「そんなに飲んでスキー大丈夫ですか」と牽制するがおかまいなし。「さ、旦那も飲んで飲んで」ついに30分ほど過ぎてこちらは酔いもさめてくる。

そこへ更にどかどか乗り込んで来たのが男二人「おー、お前も来ていたのか」これも仲間らしい。ますます形勢ひっ迫、そのときかすかに冷静さが残っている私の脳から指令が出た。「今だ!」。何食わぬ顔で最初の男に「お連れさんがいらっしゃったので私はこれで」言うが早いか「ごちそうさまー」と声をかけて階段を駆け上がり、それこそ飛ぶような早さで駅まで駆け込んだ。電車に乗り込んでも胸はドキドキ。その後しばらくは渋谷で飲むのをやめた。いまだに彼の身元は不明だ。

第2回は集団強盗に襲われたの巻を来週。こんな話では【岸田コラム】の品位を落としてしまうかな。

2003年10月11日寄稿

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