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岸田 徹 【岸コラ】 |
日本人の平均寿命は、ここのところ毎年上がっていて、男子は79.19歳、女子は85.99歳。ざっと男は80歳、女は86歳まで生きる感じだ。男子はアイスランド(79.4歳)、香港(79.3歳)に次いで世界第3位の長寿、女子はなんと23年間世界一の座をキープ。日本は間違いなく世界に誇る長寿国だ。平均寿命は毎年発表されるが、この年齢を超えた方たちは、長寿を実感されるだろうし、若い人たちはこの年齢までは生きようと意気込む方がいらっしゃるかもしれない。
しかし、正確に言えば、その平均寿命の理解の仕方は間違っている。厚労省から発表される「平均寿命」は、0歳の人の「平均余命」だからだ。どういうことかというと、厚労省は、平均寿命を発表しているのではなく、各年齢の人が1年以内に死亡する確率やあと何年生きられるかという平均余命を発表していて、0歳のひとがあと何年生きるかという予測数字を「平均寿命」と呼んでいる。
国勢調査が行われた年には0歳から110歳以上までの一覧表に平均するとあと何年生きられるかの年数がずらっと羅列される。10歳の男子はあと69.52年、5歳の男子は74.48年と平均余命が記されるのだが、0歳で79.19歳となる。この数字は平成19年のものだが、平均寿命とは、平成19年に生まれた人があと何年生きるかと予測した平均余命のことを言っている。なので、平成19年にすでに65歳になっている人が、平均寿命が80歳だと発表されても、あと15年は生きていそうだというのは間違っていることになる。
たとえば、私は昭和27年生まれの男子だ。平成19年時では55歳だったが、平均寿命が79.19歳だからと言って、79.19歳マイナス55歳で、あと24.19年は生きるだろうと考えるのは間違い。平均寿命の観点からいえば、私が生まれた昭和27年の平均寿命が私の年齢の平均寿命ということになる。昭和27年の男子の平均寿命は59.57歳なので、あと4.57歳の命、平成19年からはもう2年が経過しているので、私はあと2.57年しか命がないことになる。しかし、これも正しい理解とは言えない。昭和27年からは医学の進歩も大きいが出産時の死亡率が格段に下がっているので、平均寿命は延びている。最も正しい私の余命の数字は、平成19年に発表された生命表の中の55歳の男子の平均余命だ。それによれば、26.73歳なので、0歳児の平均余命(平均寿命)から自分の年齢を差し引くより2年半余り長く生きることになる。
結果から考えれば、現在の平均寿命を基準にあと何年生きるかと漠然と考えることは、だいたい当たっているのだが、昭和27年当時の平均寿命が60歳ぐらいだということを考えると、なんとなくいい加減な数字だと感じる。今年も、平均寿命がそろそろ発表される。毎年7月から8月に厚労省が発表するからだ。厚労省は、5年に一度の国勢調査時のものを本調査とし、それ以外の年を簡易調査として予測の幅を広げている。なんでこの時期に発表するかは、5年に一度の国勢調査の結果に合わせているのだろうが、役所が発表する割には日にちが毎年定まっていない。勘ぐりだが、ニュースの少ない夏休み時期に出すことによりニュース性を増す狙いと、9月の敬老の日に話題として取り上げられるように狙っているのではないかと思う。
数字は統計学に基づき出されているのだろうが、どうもピンとこない点もある。極めて政治的な数字だ。国際比較では数字の根拠もはっきりしない。10年ほど前にイラクがそれより10年ほど前の数字を発表したことがあった。1997年に1990年の男子の平均寿命を発表したのだが、それによれば、イラク人男子は77.43歳が平均寿命だった。当時日本の男子は77.01歳と発表したので、イラク人の方が長寿になる。ところが、イラクのその前の発表数字が63.00歳だったので、開きが大きく、なぜそんなかい離した数字になるのか理由が分からないという理由で、イラクの数字を除外したことがあった。確かに、イラクの数字は信ぴょう性に欠けるが、どうして前の数字に比較して大きいから今の数字が間違いだと判断したのか。前の数字が間違っていたということだってありうる。この時は、女子ばかりか、男子も世界一の長寿で、男女とも日本は世界一だった。
平均寿命が上がることは結構なことだが、あまり意識すると肝心なものが見えなくなる。世界の長寿国だと言われることで、見えなくなっているものが二つある。
一つは社会への不満だ。人間の究極の欲求は不老長寿だと言われている。毎年発表される平均寿命が上昇することで、日本はまんざら悪くはないという思いが無意識のうちにわれわれの頭に刷り込まれてしまう。社会生活に不満があっても、長生きできる日本はそれなりに素晴らしのではないかという満足感が現体制を無意識のうちに支持させてしまう。明らかに官僚国家体制の日本の維持に貢献している。平均寿命が毎年のように上昇しなければ、どこの国の政府も几帳面に発表はしないだろう。国民の社会に対する不満は、世界一の長寿国だとの思いで無意識のうちに隠されてしまう側面がある。
もうひとつ見えなくなるものは、本当の寿命だ。年々平均寿命が上がると、どんどん長生きしている気がしてきて、80歳以上生きることは長生きの部類に入ると思い込んでしまう。長生きだと思えればそれも幸せなことだと思われるかもしれないが、これは大きな間違いだ。平均寿命の上昇で、おまけの人生が増える印象になっているからだ。現役を終えた人たちが余生を送る時間が長くなり、それをよしとする現体制の維持に貢献してしまう。
平均寿命を延ばすことに意識をとられると、人間は本当はいくつまで生きられるのかの関心が無くなってしまう。最近の研究では、人間の限界寿命は120歳から125歳だと言われている。平均寿命が発表される際には「死亡率」も発表される。そのグラフを見ていただくとよく分かるのだが、人間の死亡率は、産まれたときに高い。それを過ぎると10歳でぐっと低くなる。恐らく親の保護下での生活で危険から逃れられるのだろう。それから思春期では再び上昇して、20歳を過ぎると30歳まで再び低いのが安定的に続き、35歳ぐらいから平均寿命の80歳過ぎまでほぼ一直線に死亡率が上昇する。これを見ると、その死亡率の上昇が人間の寿命かと思ってしまう。
ところが、90歳を過ぎると死亡率上昇が鎮まるのだ。もし、人間が年とともに老化して死んでいくのなら、死亡率は人間の限界寿命とされる120歳ぐらいまで一直線に上昇していいはずなのだが、90歳を過ぎて上昇率が収まるのは別な理由があるはずだ。さらに、死亡率が一直線に上がり始める年齢が年々若年化している。これは、私の想像だが、平均寿命までの死亡率は、老化が原因ではなく、人間社会のしがらみが寿命を縮めているのではないかと思う。生産性を向上させるために、本来生まれてきたときに持っていた性格とはかけ離れた人間に作り上げられてしまったために生じるストレスや、平均寿命まで生きようとする姿勢が、平均寿命に向かって死の準備をしてしまったりするために起こる一種の生命現象があるのではないか。
本来は90歳を過ぎてからの死亡率上昇のカーブが正常に近いもので、このカーブが45歳ぐらいから始まるような死亡率の推移なら120歳まで生きる人が格段に増えるはずだ。そのための人生設計が必要なはずなのに、平均寿命で無理やり80過ぎの人生設計をさせられるために、いつまでたっても社会の枠組みが変わらない。しかも、人の一生の期間が定まらない。もし、120歳まで生きるのが正常だとの概念が生まれれば、人生は大きく変わる。社会の枠組みもそれによって大きく変わるから、恐らくより人間らしい生き方が模索されるに違いない。
平均寿命がだらだら延びていく発表があるから、いつまでたっても人生の終焉がはっきりしないで、いいように人生を操られてしまう。終わりが見えれば、人間は自身の人生の偉大さや大切さが分かり、人や社会に操られることが少なくなるはずだ。
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参考資料:
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100歳超3万6276人に 86%が女性、今後も増加 2008年09月12日 産経新聞 大阪夕刊
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平均寿命、2年連続最高更新 昨年 女性85・99歳 男性79・19歳 2008年08月01日 産経新聞 東京朝刊 総合・内政面
【データ1都4県】平均寿命 男性は首都圏がトップ5 2008年07月31日 産経新聞 東京朝刊 第2首都面
日本人、肥満少なく寿命も最長 2008年06月27日 産経新聞 東京朝刊 国際面
【きのうきょう】70代 2008年06月24日 産経新聞 東京朝刊 生活・文化面
長寿No.1 男性は横浜・青葉 女性は沖縄・北中城 2008年04月25日 産経新聞 東京朝刊 1面
【これから 作家・三田誠広】60歳は青春の始まり 2008年02月05日 産経新聞 大阪夕刊
【ニュースの数字】85.75 2008年01月05日 産経新聞 大阪夕刊 ゆとり
日本人の平均寿命また更新 男性79・00歳、女性85・81歳 2007年07月27日 産経新聞 東京朝刊 社会面
【断】男女平等度79位の日本 2006年11月29日 産経新聞 東京朝刊 生活・文化面
平均寿命6年ぶり縮む 長寿世界一 女性維持 インフルエンザ影響 2006年07月26日 産経新聞 東京朝刊 総合・内政面
平均寿命、最高更新 男性78.36歳、女性85.33歳 2004年07月17日 産経新聞 東京朝刊 1面
中曽根氏議員引退 主張し続けた56年 2003年10月28日 産経新聞 東京朝刊 総合・内政面
財務省 反対必至だが…年金支給「67歳案」 2003年08月22日 産経新聞 東京朝刊 1面
平均寿命 女性、85歳突破は初 3年連続、過去最高を更新 2003年07月12日 産経新聞 東京朝刊 総合・内政面
日本人の平均寿命 男78・07歳、女84・93歳 ともに世界一 2002年08月01日 産経新聞 東京朝刊 総合・内政面
人間ドック受診者調査 40−50代の働き盛り男性 生活習慣の乱れくっきり 2001年08月29日 産経新聞 東京朝刊 社会面
日本人の平均寿命「世界一」 男性77・64 女性84・62 2001年08月03日 産経新聞 東京朝刊 社会面
野中幹事長 「日本は米の属州か」 NTT問題「内政干渉」と不快感 2000年08月26日 産経新聞 東京朝刊 総合・内政面
平均寿命 インフルエンザで前年下回る 男性77.10歳 女性83.99歳 2000年08月19日 産経新聞 東京朝刊 1面
きょう「敬老の日」 65歳以上の人口 最多の2116万人 国民の6人に1人 1999年09月15日 産経新聞 東京朝刊 社会面
中高年自殺急増 男性寿命下がる 平均77・16歳 女性84歳 厚生省調査 1999年08月07日 産経新聞 東京朝刊 1面
平均寿命 男性77・19歳 女性83・82歳 9年、過去最高また更新 1998年08月29日 産経新聞 東京朝刊 1面
8年の平均寿命 また長寿世界一 女性、83・59歳 男性、77・01歳 1997年08月30日 産経新聞 東京朝刊 1面
日本人の平均寿命 女性、82・84歳 男性、76・36歳
1996年08月11日 産経新聞 東京朝刊 1面
1996.07.06 [超高齢時代](23)加速する少子化 出生率見通し誤る(連載) 読売新聞 東京朝刊 解説 16頁
日本人の平均寿命 世界最高更新 死因率、肺炎・気管支炎増える 1995年07月03日 産経新聞 東京朝刊 1面
平均寿命 世界最高を更新 女82・51歳 男76・25歳 平成5年 1994年07月15日 産経新聞 東京朝刊 1面
1986.12.09 [日本の10大ニュース]応募の手引 読売新聞 東京朝刊 朝特G 15頁
1986.09.16 “還暦”80歳に 高齢化問題日米国際会議で提唱 読売新聞 東京朝刊 2社
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