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岸田 徹 【岸コラ】 |
もし年金を全額消費税で賄ったら、どのぐらいの消費税になるのか試算した結果を政府の社会保障国民会議が昨日(5月19日)公表した。新聞各紙の第一面に載ったが、なかなか分かりずらい。【岸コラ】風にまとめれば、現行の消費税5%を10%に引き上げれば、月6万6千円の基礎年金を全員に支払うことができるということだ。
年金未納の人にも支払うのでは不公平だというのなら、8.5%に。今まで納付した分を6万6千円の基礎年金にプラスしてほしいというのなら、13.5%(プラスの上限金額は3万3千円)。これに、今は年金給付に税金を投入しているので、その分も納付した分として支給する場合は、17%(プラスの上限金額は6万6千円)。
公表された報道数字には、どれも上記の数字に1%が上乗せされている。この1%分は、来年度から年金給付の税金負担が、今までの3分の1から2分の1になることがすでに決定していて、その分を消費税で賄ったら1%上乗せだというもの。まだ消費税にその財源を求めると決まった訳ではない。道路特定財源を一般財源にしたところから回そうなどと話題になったりしている。
この数字、年金財政が破たんしているとうすうす感じている人たちにとっては興味のある数字だ。つまり、消費税を倍にすれば月額6万6千円の年金を全員に給付できるという目安になる。
しかし、こういう試算数字を政府が出したとなると、褒められたものではない。政府の定義は難しいが、基本的には国民の総意により決められた法律に基づき国を運営するのが政府の役目。国会での議論をリードするような数字の発表は、本来マスコミが行う仕事だ。
まあ、政府もそこのところは分かっているようで、政府の機関でありながら数字を発表したのは「社会保障国民会議」というあたかも政府が関与していない国民的な機関と言いたげ。日本国民の各階層から選ばれた人たちが、よりよい年金制度を議論しているかのような雰囲気がある。いったいどんな会議かというと、こんなところだ。
ちょうど1年ほど前に発覚した年金記録問題の傷口がどんどん開く中、民主党が夏の参議院選挙で圧勝し、安倍首相が秋を前に退陣した。その後福田首相が就任するが、福田さんはテロ特措法の期限を前に民主党の小沢代表と密談し、大連立を話し合った(10月30日)。これが公になると、民主党は小沢代表に今後は自民党との勝手なトップ会談はしないように釘をさした。このため福田さんは年金問題で民主党との妥協が図れなくなり、国民の批判を和らげる必要に迫られた。
そこで現れたのが「社会保障国民会議」で、福田さんは年金問題と福祉問題を国民的な議論の場としてこの会議の創設を民主党に提案した。もちろん、民主党はこの提案に乗らなかった。当然福田さんも乗るとは思っていない。福田さんとしては真面目に提案したのに相手が乗ってこないというエクスキューズを得られれば十分だったはず。
年末にそんないきさつがあり、今年に入って早々に福田さんはこの会議を立ち上げた。会議の座長は東大大学院教授の経済学者吉川洋氏。そこに14人のメンバーが招集された。全国的に名が通った人たちが多く、豪華メンバーだ。トヨタの奥田碩氏、元財務大臣だった塩爺、東京家政大学の教授だった樋口恵子さん、本来民主党側にあるはずの労働組合連合会の高木会長の他、青年会議所会頭、医師会会長、慶応大学教授、福祉施設関連の理事に京都府知事、それに読売新聞の編集委員。
年金問題を議論するのに不足はない人たちだ。ところが、こういう会議が出席者の意図で運営されることは絶対と言っていいほどない。通常は、この手の会議が出す結論は事務局となる所轄省庁の代弁だ。今回は、厚労省の所轄問題だが、それ以前に政治問題化されていたので、福田さんの所轄とでも言おうか。目論見は、福田さん本人によって官邸主導で行われた。ところが、福田さんは政治的に不安定で、何のためにどういう結論を出そうとしているのかがあやふやだ。
官邸主導で行うには、官邸の取りまとめ役である官房長官と首相とのコンビが絶妙でなくてはならない。ところが、福田首相と町村官房長官は同じ派閥(清和政策研究会・町村派・旧森派)でありながら不仲が取りざたされているばかりか、派閥の実権を握る中川秀直元幹事長と町村さんはまったくそりが合わない。中川さんは、「社会保障国民会議」の担当として自分に最も近い伊藤達也元金融担当相を官邸に送り込んだ(2008年2月)。官邸主導の仕事は町村さんが責任者だ。その責任者を飛び越えて伊藤さんが入ってきた。中川さんに邪魔をされ、それを許している福田さんに町村さんは相当腹立たしい思いをしたようだ。
実際に数字をはじいたのは厚労省の担当者だったが(朝日新聞)、厚労省はもともと年金は相互扶助の精神で保険料で運営するのがスジと考えているので、税方式には否定的。それに、厚労省は年金ばかりを担当しているのではなく、医療保障や生活保護などの生活保障も担当している。消費税を値上げした暁には他にも回したいものが山ほどある。
政治利用されるためにつくったような会議で、会議のメンバーも納得のいく議論をし尽くしていない。こんなに重要な問題を首相が勝手に選んだ法的根拠もない訳のわからない集まりに議論させていいのだろうか。しかも、読売新聞の編集委員までメンバーに加わっている。マスコミは取材して問題の根源を正すのが使命。マスコミ自身が問題の渦の中に入っていたのでは適切な取材による批判的な記事は書けない。有意義な議論もできないまま、あたかも会議が結論を出したような発表が行われる。それをマスコミが取り上げれば、それが世論構成に大きな役割を果たしてしまう。それがよくても悪くても有権者は口を挟むことができない。つまり国民としての権利を行使することができない。
日本は、国家の意思を民主的に選ばれた議員によって議会で多数決原理に従って決めることになっている。これが国民の意思決定の仕組みだ。首相が各界の意見を聞いて決定する仕組みではないのだ。このような重要案件は各政党が具体的な改革法案を提示して、マスコミが批判を加え、有権者が選択すべきものだ。
こんなことで、消費税値上げの根拠数字がつくられたのではたまらない。さらに、年金制度を維持するために税方式に転換するなどというのを容易に行ってもらっては困る。いくら制度を変えても、変えたら急に財政が豊かになるわけではないからだ。いずれにしろ国民が世代を通じ扶助していくのが年金制度。税金だろうが保険料だろうが稼げる人が資金をねん出することには変わりがない。保険制度を税制度に変えれば、慣れない分だけ混乱が生じる。それに加え、相互扶助の精神で年金をせっせと掛けてきた人たちにはある種の喪失感を与えてしまうし、年金をかけている若者には国家に対する信頼も失わせてしまう。年金問題は制度の問題ではなく、運用の問題である点に議論の焦点を移してもらいたい。
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参考資料:
Microsoftエンカルタ総合大百科2008:「議会制民主主義」
(時時刻刻)試算、年金論議に一石 国民会議公表 [2008年5月20日 朝日新聞東京朝刊 2総合]
補佐官人事、官邸に火種 社会保障担当・伊藤氏、反町村の中川秀氏側近 [2008年02月14日 産経新聞東京朝刊 総合・内政面]
有識者会議、福田色の活路 「社会保障」「環境」「消費者行政」…連発 [2008年02月06日 産経新聞東京朝刊 総合・内政面]
社会保障国民会議・吉川座長に聞く 負担をどう組み合わせるか議論 [2008年01月31日 産経新聞東京朝刊 総合・内政面]
社会保障国民会議座長に吉川氏を内定 [2008年1月25日 東京朝刊 政治]
代表質問の詳報 21日の衆院本会議から 民主・鳩山由紀夫氏ら3氏 [2008年1月22日 東京朝刊 政治]
【主張】党首討論 国政への責任分かち合え [2008年01月10日 産経新聞東京朝刊 総合・内政面]
社会保障国民会議 連合、参加へ [2008年01月08日 産経新聞東京朝刊 総合・内政面]
年金財源は消費税アップで [2008年01月08日 産経新聞東京朝刊 総合・内政面]
首相主導で社会保障国民会議設置 支持回復へ糸口探る/政府 [2007年12月19日 東京朝刊 政治]
社会保障国民会議を設置 来年1月、経済・労働界代表らで構成/政府 [2007年12月18日 東京夕刊 夕二面]
国会再延長あす衆院議決 与党 社会保障協議も呼びかけ [2007年12月13日 産経新聞東京朝刊 総合・内政面]
参考サイト:
基礎年金の全額税方式、政府が意図的に方向付けするつもりない=官房長官
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