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岸田 徹 【岸コラ】 |
読者のみなさんに【サカスト】が日本の現状を外国人に言われる前になんとか回復するようにしようと呼びかけている。この寄稿に【岸コラ】は少なからず刺激された。いったい、どうしたらいいのか。
【サカスト】の榊原先生の呼びかけは、英誌「エコノミスト」が「JAPAiN」と題しバブル崩壊からいまだに回復しない日本の苦悩を浮き彫りにした記事を紹介して行われたものだ。エコノミスト誌の記事では、世界第2位の経済大国がいまだに落ち込んだままでいる原因は官僚の失策と改革への取り組みを放棄した政治にあると述べている。
小泉首相が一匹狼で取り組んだ改革(2001年から2006年まで)が安倍首相以降元に戻ってしまった点と、日本国憲法が想定していなかった衆参ねじれ国会の出現が混迷に拍車をかけている点、さらには、自民党も民主党も党内に改革派がいる一方で古参の保守主義者や社会主義者が混在しているため混迷を複雑にしているという。その混迷を正すために総選挙による選挙民の判断が必要だとしている。
この記事が書かれた今年の2月中旬の1か月前に【岸コラ】では年始めから劇的に値を下げた東京市場の株価のことを取り上げ、外資が再び日本で大儲けをするために操作している一時的な資金の引き揚げではないかと書いた。ところが、このエコノミスト誌の記事で日本は構造的に投資市場としては不適格だとの烙印が押され、いまだに株式相場は低迷している。【岸コラ】の観測記事は大きく外れることになるのだが、実はエコノミスト誌もバブル崩壊後15年たって日本は回復しつつあるという記事を書いたことがあった。
「日はまた昇る(The sun also rises)」と題されたこの記事は、小泉郵政解散後衆議院で自民党が圧勝したすぐ後に書かれた(2005年10月)ものだが、政治的に安定したために経済成長が見込めると理由付けしたものではなかった。不良債権処理が進み、雇用の創出と賃金上昇が始まったことから、日本は再び中国を抑えアジアで繁栄する国になるとの予測を示したものだ。もし日本が、社会保険制度のコスト増を抑え、大学の刷新と独占禁止法強化で競争を促進させたら、間違いなく日本は急速に伸びる中国に対峙する立場になると予測した。その根拠として、日本には教育程度のよさ、先端技術、社内労使協調の強みがあると指摘している。
この記事は、かつて東京支局長をやっていた編集長によって書かれたものだ。オックスフォード大学で政治学、哲学、経済学の優等学位を取った秀才で、ジャーナリストになった最初の勤め先がエコノミストの東京支局。当時26歳だった。本音を隠し遠慮する日本人気質が英国人と似ているところに興味を持ったそうで、政治経済の分野ばかりでなく、日本の構造的な部分を研究した記者だった。ビル・エモット氏で、ご存知の方も多いと思う。実は、東京支局長時代の経験を生かし1990年に「日はまた沈む」という本を出版しベストセラーになった。日本の政治経済構造を丹念に調べた結果を本にしたものだが、当時の日本人にとっては心底意外なバブル崩壊を予言した書になった。
なので、エコノミスト誌が特集した「日はまた昇る」は、編集長自身が記した「日はまた沈む」の続編だったわけで、エモット氏は自身の分析で沈んだ日本を再び昇らせる記事を早くから書きたかったと述懐している(楽天ブックス著者インタビュー)。
エコノミスト誌の日本評は、上記の記事だけではなく、欧米誌としては珍しく絶え間なく書かれる。その意味では観測が当たったか外れたかの問題は意味がないのだが、少なくとも日本がバブル崩壊後立ち直ったかどうかの判断は意外に難しいと言うことができる。
これらを前提にエコノミスト誌はどのような場合に日本が回復したと判断しているのかが想像できる。つまり、構造改革が進み、官僚主導の国家体制から脱却し、民意が政治に反映され、政治家や官僚によって保護されている特定の業種や団体がなく、金融市場に官僚の干渉がなく誰でもが参加でき、増税政策が見送られ、政府の財政赤字脱却のめどが立ち、雇用が安定し、教育が実践的に行われている状態を言っている。これは、明らかに自由主義体制だ。
日本がエコノミスト誌から評価されないというのは、自由主義ではないという判断で保護主義が国家を覆っている場合を言う。保護主義は国家の利益を犯そうとする勢力に対抗しようとするもので、日本以外の資本家が日本を標的に利益を得ようとする場合にも適用される。しかし、自由主義は互恵主義が原則なので、やられる場合もあればやる場合もある。一方的に保護する体制は認めようとしない主義だ。その意味では自由主義は競争原理、保護主義は統制体制によって営まれる。
日本の自由主義は、小泉さんの「自民党をぶっ壊す」に象徴されるように競争を避ける調整型の古い運営体制を改革することだった。これが民意であればまったく日本を憂うことはないはずだ。ところが、2005年の郵政解散で小泉自民党が圧勝したのは自由主義を標榜する日本の民意だったのだろうか。あの郵政解散による自民党圧勝は、官僚批判だったり、はたまた刺客を送る劇場型の合戦を楽しんだ小泉応援票だったような気がする。
日本の民意は、本当に自由主義を望んでいるのだろうか。どうも、そこらへんの焦点がボケて、誰が改革を望んでいるのかが見えてこない。ひょっとしたら改革を望んでいるのは資本家だけなのではないか。インターネットの飛躍的な発展で、情報が世界中を自由に行き来するようになった。情報が自由に往来すれば、それにつれて人も物も金も自由に往来しようとする。それを規制するのは難しい。日本も仕方なく自由主義の方向に国家の運営体制をもって行かなくてはならなくなったのだが、日本人の多くは老後の安定や若い人がひとつの場所でやりがいのある就業体制を望んでいて、必ずしも自由往来を望んでいるわけではないような気がする。ところが、自由主義社会が進めば、日本人が考えている老後の安定や終身雇用的な就業体制は維持できない。
日本の民意は移り気だが同時に複雑だともいえる。エコノミスト誌のエモット前編集長が日本の強みとしてあげた「教育程度のよさ」、「先端技術」、「社内労使協調」は学校教育の場では大学受験前まで熾烈な競争社会であるのに対し、先端技術は産業界と大学研究室の共同研究や官僚主導の業界内での協力により生み出されたり、社内労使協調の関係は労使の申し合せの中での筋書き通りの競争社会であったりする。
こうした協調社会は、農耕民族が自然と闘いながら会得した文化で、狩猟民族の国際社会がいくら自由競争を望んでも彼らが思うようには具現化できないものだ。
情報が大量にどこへでも伝達される高度情報化社会をつくってしまった人間が自由を拒否することはできない。だからと言って今までの文化もすぐには否定することができない。この点を議論しないで、改革さえ断行すれば景気が良くなるという妄想が改革を遅らせている。改革の必要性を国民的に議論しないまま、ただ景気対策のために改革らしきものが政治的に始まってしまったのが混迷に向かった出発点だった。
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参考資料:
Microsoftエンカルタ総合大百科2008:「小泉純一郎」
日はまた昇る [The Economist 2005年10月8日号]
日本の苦境 [The Economist 2008年2月23日号]
[安倍政権に望む](9)英エコノミスト誌前編集長 ビル・エモット氏(連載) [2006年10月12日読売新聞東京朝刊 A経]
日本経済「日はまた昇る」 英誌「エコノミスト」のエモット氏、YIESで講演 [2006年2月14日読売新聞東京朝刊 二面]
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