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岸田 徹 【岸コラ】 |
この記事は前作「新銀行東京の魔女狩り」のつづきです。
新銀行東京の開業以来指揮を執ってきた代表執行役(一般の銀行の頭取に相当)の仁司泰正氏は、業績不振の責任を取って昨年(2007年)6月に辞任した。トヨタ自動車出身の仁司氏が銀行業務には素人だったとの批判もあったため、後任の代表はりそな銀行出身者を迎え入れた。ところが、体調不良を理由に11月で退任してしまった。その後任が現在の津島隆一氏だ。津島氏は、東京都の港湾局長だったが辞めて代表執行役になった。津島氏は、仁司氏を名指しで批判することをはばからず、刑事責任の追及も辞さない構えだ。
3月10日に行われた、都に追加出資の400億円を求める釈明会見では、津島氏が東京都や知事の責任に言及しなかったため、記者からその点を追及されたが、まったく相手にしなかった。昨日まで都の局長だった人が東京都の監督責任を展開するわけもないので当り前なのだが、見事なまでに記者を相手にしなかった。
ここで、多くの読者は津島氏の前職について疑問を持たれたに違いない。初代の仁司氏が銀行業務に素人だから、次はりそな銀行出身者を充てた。しかし、そのあとをどうして港湾局長がやるのか。東京湾を管理する局長が、どうして銀行の頭取を名乗れるのか。この不思議な人事、実は、適任なのだ。恐らくこの難題は津島氏以外には解決できないと言ってもいいほどだ。その理由は二つある。
ひとつは、東京都港湾局の仕事の内容だ。港湾局は東京湾の安全と整備を担当しているのだが、東京湾の埋め立て事業ということで臨海副都心事業も担当している。臨海副都心の開発事業は、石原さんの前の前の知事だった鈴木俊一氏が音頭を取って進めた事業だった。今では有明やお台場がレインボーブリッジやゆりかもめを介して観光スポットとして注目を浴びているが、バブル崩壊直後はこんな大事業を東京都が中心になってやっているとは都民にとっては寝耳に水で、税金をそんなところに投入しないでほしいとの都民の切実な声から、臨海副都心計画を白紙に戻すと公約した青島幸男氏が鈴木知事を破って当選した。
結局、青島知事は完全に白紙撤回することができず、中途半端に臨海副都心計画は実行に移された。結果も中途半端で、第3セクターで行われたこの事業は、第3セクターの事業としては全国最悪の3,800億円の負債を抱え民事再生法の適用を2年前に申請し破たんした。都は出資した金額のうち約380億円を失った。広げられた風呂敷を畳むように後始末を行ったのが津島氏で、新銀行東京も同様の運命といえる。
もう一つは、臨海副都心事業の後始末の手腕ばかりでなく、津島氏は新銀行東京の設立に関与した中心人物の一人だった点だ。新銀行の基本計画は石原知事再選後にできたが、その5か月前に津島氏は港湾局の総務部長から銀行設立準備担当理事に異動になっている。つまり、設立構想には津島氏が関与していたとみていい。銀行は開業したいと言ってもすぐにできるものではない。認可されるには何重ものハードルを越える必要がある。このころ(2003年秋)都が考えていた銀行設立方法は、新規の申請ではなく、すでに日本からの撤退を考えていたフランスのパリバ信託銀行を買収して社名変更をしようというものだ。この交渉にはそれなりの人が当たらなくてはならず、東京都の幹部だった津島氏がその交渉に当たることは交渉の当事者としては文句がなかったはずだ。
当時すでに仁司氏が初代の頭取になることは内定していたようで、銀行の顔は仁司氏、屋台骨は津島氏と役割が決められていたと想像できる。津島氏はいよいよ開業となる8か月前に設立準備担当から銀行設立本部長になり開業までの指揮を執った。津島氏は、銀行が開業して3か月後に本部長から港湾局に局長として戻った(2005年7月)。東京都からはもう一人参事が新銀行に派遣されていたが、津島氏が引き揚げるとその参事も引き揚げた。ひょっとしたら、ここですでに仁司氏と都側の意見が合わなくなっていたのかもしれない。
島津氏はその後臨海副都心事業の整理を行うのだが、銀行設立の経緯をつぶさに知っているということと、事業の整理という手腕の両方を備えることになった。これが、島津氏が適任だという理由だ。
ところが、ストーリーはこれで終わらない。島津氏が執拗に仁司氏を責め、都側を擁護したのは何のためなのかが、津島氏の人事で分かるからだ。
島津氏が銀行の設立本部長をやったり港湾局長をやったりする人事は、石原都知事が新銀行や臨海副都心に関心があることから、人事の決定は石原知事が行ったのではないかと考えがちだが、恐らくそのようなことはなかったはずだ。石原さんが気にしたのはもう少し上の方の幹部で、新銀行に関して言えば、主税局長時代に銀行税の導入を進めた大塚俊郎氏に信任を厚くし、出納長から副知事に昇任した際は新銀行の担当にした。昨年春には副知事後のポストとして新銀行東京の取締役会議長を用意した。
では、島津氏を港湾局や新銀行の人事に関与させて問題解決をはからせたのは誰だったのか。これは、脈々と流れる都の官僚機構だったのではないかと思う。そう思う理由は、臨海副都心事業の失敗は大損失だったのにもかかわらず、その責任を追及する声も原因を追及する声もまったく聞こえないからだ。もし、臨海副都心事業が都民のために行われていたなら、このような静かな終わり方ではなかったはずだ。臨海副都心事業も新銀行設立も都知事が音頭を取っているので見えにくいのだが、本当は都の地方官僚が国の官僚並みに天下り先を作りたかったから進めた事業なのではないか。
臨海副都心事業は何のために行うのかよく分からないまま鈴木都知事が進めた。いまだにその検証はなされていない。鈴木氏は、旧内務省の出身。内務省は地方を統括していた部署で、絶対的な中央集権体制の中で泣く子も黙る存在だった。そこから東京都の副知事になった人で、都の職員の中には青島知事誕生時に鈴木知事は雲の上の人だったが青島知事は身近に感じると感想を漏らす人もいた。
鈴木知事は、臨海副都心事業を進め同時に新宿の摩天楼に都庁を移した知事だ。箱もの行政と揶揄されたが、何のために箱を作ったかと言えば、箱を管理する会社を作れば都の幹部職員をそこに天下らせることができる。バブルの絶頂期に発案された臨海副都心事業は、バブル崩壊とともにゼネコンの格好のセールス対象となり知らないうちにどんどん進められた。金融を付けたのは直接投資ブームで大口融資先を失っていた大手銀行。天下り先を作ってくれる知事のもとで、都の幹部職員たちは燃えたに違いない。
臨海副都心も新銀行も本当に都民が必要としてたものではない。うがった見方をすれば、知事が天下り先というニンジンをぶら下げて、都の職員を奮い立たせた道具だったのではないか。絶対に都側に不利なことは言わない津島氏のがんとした姿勢に、そんなストーリーが浮かんで見える。
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このコラムに対する【サカスト】の寄稿「地方議会もしっかりして」
参考資料:
新銀行東京 ずさん常態化 反対封じ込め[2008年03月11日 東京朝刊 1面]
新銀行東京 融資焦げ付き600件 6か月以上延滞も1100件 [2008年3月7日読売新聞東京朝刊 一面]
新銀行東京、融資先の破たん70社に ずさんな無担保審査で [2008年3月5日読売新聞東京朝刊 一面]
[スキャナー]「石原銀行」SOS 都議会に400億円追加出資案 [2008年2月27日読売新聞東京朝刊 三面]
新銀行東京内部調査 石原知事、結果公表要求へ=東京 [2008年2月23日読売新聞東京朝刊 都民2]
「新銀行」再建に疑問の声 都議「黒字化、具体策説明を」=東京 [2008年2月21日読売新聞東京朝刊 都民2]
2007年都政を振り返る 五輪の夢、築地移転に壁=東京 [2007年12月30日読売新聞東京朝刊 都民]
東京テレポートセンター中間決算、24億円の黒字 破たん3セク合併=東京 [2007年12月4日読売新聞東京朝刊 都民2]
新銀行東京の中間決算 不良債権処理費膨らむ 「無担保」足かせに=東京 [2007年12月1日読売新聞東京朝刊 都民2]
破たん3セク3社の受け皿会社が発足=東京 [2007年2月1日読売新聞東京朝刊 都民2]
新銀行東京トップに都局長[2007年11月23日産経新聞東京朝刊 社会面]
新銀行東京の森田代表退任へ 体調不良で 後任に津島港湾局長=東京 [2007年11月23日読売新聞東京朝刊 都民2]
新銀行東京3月期決算 赤字547億円、見通しの甘さ認める=東京 [2007年6月2日読売新聞東京朝刊 都民2]
新銀行東京、取締役会議長に大塚前副知事起用へ[2007年05月11日産経新聞東京朝刊]
3副知事が全員交代へ 現職局長を起用 石原知事案=東京 [2007年5月9日読売新聞東京朝刊 都民2]
東京テレポートの再生計画案を承認/東京地裁 [2006年12月20日読売新聞東京夕刊 夕2社]
臨海3セク債務、25年間で返済 都港湾局長が見通し示す/都議会代表質問 [2006年12月8日読売新聞東京朝刊 都民2]
五輪招致へ、アドバイザー起用検討 海外の個人や企業 都議会代表質問=多摩 [2006年12月8日読売新聞東京朝刊 多摩]
破たん臨海3セク受け皿会社 都、来年1月に設立 [2006年11月28日読売新聞東京朝刊 都民2]
都議会、来月1日開会 [2006年11月25日読売新聞東京朝刊 都民2]
[展望室]議論低調 臨海3セク問題 [2006年6月18日読売新聞東京朝刊 都民2]
臨海副都心3セク破たん 石原知事「今後も開発推進」 議会で都の責任触れず [2006年6月14日読売新聞東京朝刊 都民2]
都議会定例会、6日に招集 [2006年5月31日読売新聞東京朝刊 都民2]
都臨海3セク3社破たん 「夢」のツケ、都民に 債権放棄で381億円戻らず [2006年5月19日読売新聞東京朝刊 三面]
臨海3セク3社破たん、負債3800億円 再生法申請 380億、都が放棄 [2006年5月13日読売新聞東京朝刊 都民2]
都の第3セクター2社、民間に吸収合併 民事再生手続き終了 [2006年3月30日読売新聞東京朝刊 都民2]
知事、今年を一言で表現すると…「無責任」[2005年12月23日産経新聞東京朝刊 東京ニュース面]
都局長級人事 56人が異動・退職 [2005年6月23日読売新聞東京朝刊 都民2]
石原知事が新特別職人事案 生え抜き幹部ずらり 今後は合議制の方針[2005年06月07日産経新聞東京朝刊 東京ニュース面]
都人事 福祉保健局長に幸田・福祉局長 [2004年7月7日読売新聞東京朝刊 都民2]
「新銀行東京」の準備会社が発足 [2004年4月2日読売新聞東京朝刊 三面]
石原知事「独自改革で国動かす」 都議会代表質問 イラク支援「当然」[2004年03月03日 東京朝刊 東京ニュース面]
都の新銀行基本計画 石原知事「都民に利益還元」 計画の充実・強化明言[2003年11月29日産経新聞東京朝刊 東京ニュース面]
東京海上・朝日生命合併撤回問題 金融庁の圧力否定[2003年07月09日産経新聞東京朝刊 経済面]
[ニュースの海へ]華やか臨海開発 三セク5社で5000億円 お台場債務の波 [2003年5月25日読売新聞東京朝刊 社会]
銀行設立へ新ポスト 都、局長級人事を発表 [2003年5月24日読売新聞東京朝刊 都民2]
臨海副都心関連の3会計統合は違法 都民連絡会が監査請求 [2002年3月12日読売新聞東京朝刊 都民2]
経営難の臨海第3セクター3社 賃貸ビルは売却せず 都が表明 [1997年10月24日読売新聞東京朝刊 都民2]
臨海第3セクター赤字521億円 3社の今期累積予想/都議会予算特別委 [1997年3月13日読売新聞東京朝刊 都民2]
参考サイト:
東京臨海副都心関連第三セクター3社の現状と破綻処理策の検討(抄)
株式会社東京テレポートセンター、東京臨海副都心建設株式会社及び竹芝地域開発株式会社に係る民事再生計画案の提出について
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