中国餃子事件と福田訪中 新銀行東京の魔女狩り

「中国餃子事件」は日本の事件(?)

岸田 徹 【岸コラ】
2008年2月12日(火)

中国餃子事件は、未開封の袋の内側から殺虫剤が検出されたことで、「中国で混入」さらたとの見方が大方を占めるようになった。大阪府のスーパーから未開封のまま返品されたものを調べた結果、メタミドホスが検出されたのだが、そればかりではなく、福島県内で販売された餃子からは、別の殺虫剤であるジクロルボスという薬物も検出された。

ジクロルボスが入った餃子は昨年の6月3日製造で、メタミドホスが検出された餃子の製造日である10月1日と20日より4か月前のものだ。朝日新聞では、元警視庁捜査1課長の田宮栄一さんの話として「6月に毒物を入れたが日本で騒ぎにならないため、10月にさらに毒性の高い農薬で行為に及んだのではないか」と推測されると報道している(2008年2月7日付)。また読売新聞は、警察内部の話として「6月に混入したものの騒ぎにならないため、10月に再び混入させたのでは」という同様の仮説を記事にしている(2008年2月9日付)。

この仮説の根拠となっているのが「天洋食品はリストラなどで労使の対立が伝えられており、会社に損害を与える目的で単独または複数の従業員が故意に混入した」のではないか(同朝日新聞田宮さんの話)というもの。10月のメタミドホスは6月のジクロルボスよりも毒性が強いことから、より効き目のあるものを「混入」したと推測されている。

本当に毒物を混入できるのか

ここまで大胆に推測できる裏には、日本政府の調査団が冷凍餃子を製造した「天洋食品」を視察した後、中国国家品質監督検査検疫総局の副局長と面談し、その副局長が「中日友好の発展を望まない少数の過激分子が極端な手段に出たのかもしれない」(読売新聞)と犯行の可能性を示唆したことがある。これで、ストーリーは一応つながり、日本で新聞やテレビを見ている人たちには、恨みのある人が嫌がらせでやったのかと想像させている。

しかし、それは日本人が考える常識に基づいた推測で、中国の事情からすればそうではない事情がある。

まず、リストラに関し労使の対立があったという前提だが、地元住民の話として昨年の12月末に従業員十数人が理由も告げられずに突然解雇され、給料も未払いで従業員が会社に抗議、その後給料は支払われたが解雇は撤回されず今も不満を訴えているというものだ。これは明らかにおかしい。昨年の12月末ではもう日本に餃子が到着しているので、中国で混入することはできない。

これとは別に、終身雇用を義務化しようとした「労働契約法」が1月1日から中国で施行されたが、新法逃れのために昨年10月に解雇通知があったとするものもある。これも6月製造の餃子では間に合わない。

仮に時期の問題がクリアーされたとしても、新しい労働契約法ができるほど、中国での労働契約は期間があやふやで、働いている方としてみれば解雇通知が突然あったとしても、製品に毒物を入れて仕返ししてやろうとする意識はまず生まれない。こういう仕返しの感情は、労働契約をしたら終身雇用が前提だという日本独特の労使慣行からくる常識の上に成り立っているものだ。日本では、突然解雇されれば会社に恨みを持つのも当然かとは思うが、中国の製造工場で働いている人たちは、工場の都合で解雇はありうると考えているはずだ。

どうも、日本のマスコミが展開する「中国混入説」は根拠が幼稚だ。

不思議なことはさらにある。餃子の製造工場で毒物を混入する方法だ。どうやって毒物を袋の中に入れるかだ。こういうことができるという発想の裏には、品質管理が厳しい日本の製造工場ではありえないが、中国なら農薬も普通に売っているしやろうと思えば簡単にできるのではないかという思いがあるのではないか。

これと並行して、故意に入れなくても、中国の野菜に殺虫剤や農薬が大量に使われていたものが残ってしまったのではないかという漫然とした疑念が製造工場毒物混入説を後ろ盾している気がする。

これも、2つの点で常識的にありえないのだ。

 1.「中国の工場なら」という誤解

ひとつは、中国の工場なら管理がずさんで毒物を持ち込んだ人が餃子をパックする際に入れたのではないかという誤解だ。

確かに製造工場は中国にあるが、この工場は完全に日本方式で管理されている。中国の人からすればおそらく「中国の工場」ではなく「日本の工場」という認識のはずだ。

報道では、冷凍餃子を製造しているのは「天洋食品」という中国の会社で、それを日本の商社である双日が輸入し、JTの子会社であるジェイティフーズが日本で販売しているようになっているが、これはもう少し厳密に言わなくてはいけない。

日本では、いくら加工食品とはいえ、中国の会社が作った餃子をそのまま輸入することはほとんどできない。そんなものを日本の業者が輸入しようとしたら港の通関で1ヶ月ぐらい待たされた揚句、認められないと中国に戻されるか、戻す費用がなければその場で焼却されるかどちらかだと覚悟しなくてはならない。これは貿易実務を行ったことがある人なら常識だ。

何も中国に限ったことではない。BSEもあるし鳥インフルエンザもあるし、害虫被害もある、免疫的に食品が通関を素通りすることはありえない。政治的にも国内業者を守る観点から完全に自由な貿易体制にはなっていない。がんじがらめの通関手続きが実務上あり、日本を守っている。

なのに、何で今回は平気であたかも通関がないように輸入されたのか。答えは、実質的に「中国の餃子」ではなく、「日本の餃子」だからだ。

つまり、こういうことだ。日本の会社が、関係官庁の指導の下で自社の基準に基づいて製造した製品は、外国で作ったものも「日本製」と認めているのだ。いちいち関税だ免疫だとやっていたのでは、中国は日本の台所にはなりえない。

こうなるためには、大きな条件が2つある。ひとつは、日本の会社が商品の企画から製造、販売まで行うこと。つまり、中国の工場には日本の会社が実質的に関わることだ。今回は、ジェイティフーズか商社の双日、または両者が合同で天洋食品の管理者になっているというのが一つの条件だ。

もう一つは、中国の工場が日本の農林水産省の認定を受けることだ。これで、中国の工場で作られた餃子は日本の工場で作られたものと実質的に同じになる。違いは、工場では中国人が労働し、運ぶ途中に国境をまたぐことだ。

つまり、中国の工場ならひょっとして管理がずさんで、毒物混入が行われたのではないかという疑いは大きな誤解なのだ。正確にいえば、中国の工場で毒物が混入される危険性は、日本の工場で混入される確率にほぼ等しいということだ。

 2.「中国で作られた野菜」は中国の野菜だという誤解

日本の農水省が外国の食品製造工場を認定する基準は、非常に厳しい。申請書のフォーマットも日本の農水省のものだから、まず日本側の関与がない限り認定されないだろうと容易に想像できる。工場の設備や生産体制に対するチェックが厳しいのは当たり前だが、どこで作られたどんなものを材料とするのかも問題にされるようだ。農水省の係官が現地で調査することになっていて、中国では約80社がこのような認定をもらって生産している。天洋食品の工場もこの認可が下りた工場だ。

なので、どんな材料を使うのかも厳しく規定されているはずだ。ここで使われる肉と野菜は、中国で作られたものだろうが、中国人の口に入ることはない。これは、2つのことから断定できる。ひとつは、農水省と日本の会社の品質管理が厳しいので、生産水準が違う中国の農家からは直接買うことができない点だ。

もう一つは、中国人が食べる野菜と日本人が食べる野菜は種類が違うという理由だ。大根、胡瓜、白菜と中国人がその文字を見て理解できる日本の野菜は、同じ大根でも味が違う。キュウリは中国から奈良時代に渡ってきた野菜だが、日本ではサラダや酢の物、漬物、モロキュウなど生で食べることが多いが、中国では煮物や炒め物、スープに使う。同じキュウリでも用途が違うので作る方もそれに合った作り方をする。味は違ってくる。日本人がよく食べるレタスやセロリ、パセリ、アスパラガスなどは中国ではあまり見ない。ゴボウも日本では一般的な食材だが中国では薬用だ。

餃子は中国のものだと思われているので、材料も同じだろうと思いがちだがそうではない。中国の餃子は水餃子が主なので、焼き餃子が主な日本とでは中身のニラも味が違う。

これらの理由で、中国で作られた中国人用の野菜が日本人の口に入ることはまずない。

ストーリーが幼稚で怪しい展開

今回の事件の展開は、妙な一貫性がある。キーワードは「中国」「餃子」「野菜」で、これらが頭の中で妙に一致するのだ。

農薬被害が心配される中国で製造された餃子が日本で食べられ中毒患者が出たというストーリーは、ストレートに日本人の頭の中に入ってしまった。このストーリーは大変怪しいストーリーだ。

というのも、天洋食品は何も「餃子」ばかりを作っているのではない。味の素冷凍食品は、自社の国内工場で生産しているカルビチャーハンに天洋食品で製造したカルビ肉を使用していたとすぐに発表。富山県の販売業者は、今回の事件で自社の販売品に天洋食品製がないか調べたところ、餃子のほか、ジェイティフーズのものでは豚肉のゴボウ巻きや野菜巻き、味の素冷凍食品のカルビ炒飯、江崎グリコのかつとじ丼、マルハの牛丼や牛たま丼が天洋食品製だと分かり、店頭から撤去した。また、イオンではこの他に、カネテツデリカフーズの牛スジ串赤身、紀文食品の牛すじ、フードサービスジャパンの小龍包、ミニロールキャベツ、ジオラの炭火焼牛たん、泉食品の牛すじと大根煮、おでん、伊藤ハムの牛スジ串などが天洋食品製だとして店頭から撤去した。

天洋食品で製造しているものは餃子ばかりではなく、牛丼やおでん、ロールキャベツや大根煮など日本の食だと思わせる商品を製造している。それなのに、毒物はなぜ餃子ばかりから検出されるのか。

さらに、報道はどうして中国側が怪しいとすぐに結論を持っていくのか。日本の通関システムを考えれば、JTや双日は天洋食品と一心同体だ。それを農水省も認知している。これをわざわざ中国側と日本側に別けて犯人探しをするのだから、JTは天洋食品とは関係がないと宣言しているようなもの。もし、関係がないのなら、通関をフリーパスできないシステムになっているのだが。これを警察とマスコミが一緒になって「中国の食は危ない」とやったのでは、誰もがJTが中国側の管理下にある会社から餃子を輸入したと思い込んでしまう。これは事実とは違う。そういうストーリーを作り上げた裏には何か隠し事があるのではないか。

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関連【岸コラ】:

中国餃子事件と福田訪中 (2008年2月5日)

中国餃子バッシングの不思議 (2008年2月1日)

参考資料:

ギョーザ事件 訴え2700人、「中毒」10人 専門家ら「自己暗示の人も」 [2008年2月10日読売新聞東京朝刊 社会]

中国製ギョーザ中毒事件 殺虫剤混入、絞られる経路 6・10月、同一犯説も [2008年2月9日読売新聞東京朝刊 社会]

天洋製ギョーザ中毒 殺虫剤入りは土日・祝日製造 「単独行動、難しいが…」 [2008年2月9日読売新聞東京夕刊 夕社会]

ギョーザ中毒事件 「過激分子による犯行の可能性も」 中国当局者が示唆 [2008年2月7日読売新聞東京朝刊 社会]

薬物二つ、事件は一つ? 接点あるか捜査 中国製ギョーザの中毒事件 2008年2月7日朝日新聞朝刊1社会]

[スキャナー]製造時か出荷後か…「ギョーザに殺虫剤」の謎  [2008年2月2日読売新聞東京朝刊 三面]

[経済地球便]中国の人件費さらに上昇 労働契約法施行 日系企業戦略見直しへ [2008年1月20日読売新聞東京朝刊 A経]

危ない食卓・第8弾 加工肉に入り込む「中国産」 食材「原産地」全調査 2007年9月21日 週刊朝日]

参考サイト:

「中国産(天洋食品)冷凍餃子の食中毒発生」の件について

中国産冷凍ギョウザが原因と疑われる健康被害事例関連情報

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