おられる 国債についての妙な疑問

イージス艦情報漏洩事件

岸田 徹 【岸コラ】
2007年12月18日(火)

イージス艦先週、ひとりの海上自衛隊の幹部が逮捕され、関係したやはり自衛隊幹部2人が書類送検されることで、イージス艦情報漏洩事件の捜査が終わった。これを受け、海上自衛隊のトップである吉川幕僚長は引責辞任する意向を固め、年度末の来年3月に交代する。

自衛隊の階級はワープロの変換でもすぐには出てこない程なじみが薄い。諸外国の階級に合わせた呼び名だと分かりやすいので言ってみれば、責任を取って辞める幕僚長は大将だ。逮捕された幹部は3等海佐なので、海軍少佐。書類送検されるのはやはり3等海佐と1等海尉なので、海軍少佐に海軍大尉だ。

海軍少佐が逮捕され、同僚の少佐と大尉が送検され、海軍大将が責任を取って辞任するとなれば、ことの大きさが分かってくる。

この事件は、海上自衛隊のイージス艦に関する重要情報が、知ってはいけないはずの自衛隊員まで知れ渡っていたとされる言わば軍事機密漏洩事件だ。

イージス艦の「イージス」とは、ギリシャ神話の最高神ゼウスが、知恵・学芸・戦争の女神アテネに与えた万能の盾のこと。戦争の神様が使う絶対的な盾と命名するほどイージス艦の防空能力は優れている。敵を発見するためのレーダーは普通アンテナが回ることで機能するが、イージス艦のレーダーは常に360度を監視できる。さらに、154といわれる多くの目標を同時に感知し追跡する。そのうちから18の目標にミサイルを向けることができると言われている。これが500キロにわたってできる能力がある。

日本にはこのイージス艦が4艘ある。船そのものは日本で建造しているが、防衛能力の盾に相当するイージス・システムはアメリカのもの。そのシステムがどのようなもので、どのように機能するかはアメリカから勉強しないと日本の海上自衛隊も使いこなせない。

今回流出が確認された情報は9つのファイルで、イージス・システムの中枢にかかわるものばかりだ。敵味方を自動的に識別したり、戦術を一元管理してそれを大画面に表示するシステムはアメリカの最新技術で、恐らく中国でも開発が進められていたと思われるシステムだ。さらにレーダーの限界値に関するものがあり、これが敵国に知られれば、簡単にレーダーを潜り抜ける可能性がある。高価なイージス・システムももぬけの殻になってしまう。

日本の国防上も重要な情報であるが、日本の20倍以上のイージス艦を保有し世界の軍事力を独占的に行使しているアメリカにとってはまさに最重要国家機密だ。

そのイージス艦情報が流出した事実が明るみに出たのはひょんなことからだった。

きっかけは今年の1月19日、神奈川県警がひとりの中国人女性を入管難民法違反容疑で逮捕したことからだった。この中国人女性は海上自衛隊員の妻だった。その隊員は、護衛艦の乗組員で2等海曹(外国基準でいえば下士官、旧日本海軍では軍曹の下の伍長に相当)。しかし、この時点ではニュースにならなかった。

これが、3月29日になって急にニュースに。県警の家宅捜査で押収したフロッピーディスクに秘密扱いになっている護衛艦のレーダー情報などがあったと報道された。この時点の報道では、事情を聞いた海上自衛隊が2曹は「外部への情報提供はしていない」と供述していると発表。

ところが、その翌日事件は急展開する。この2曹が持っていたフロッピーディスクにはイージス艦に関する情報が含まれていることが分かり、さらにその2曹はかつてイージス艦「きりしま」に乗艦していることも分かった。しかし、2曹はエンジン担当で持っていた情報は職務上接触できるはずがないものだった。いったい、どうやってこの情報を手に入れたのかが問題となった。

それから4日後、事件は一時ミステリアスな展開を見せる。公安当局が2曹の中国人妻を問題視したのだ。というのも、当時33歳だったその妻はかつて2回も不正入国をしていた。窃盗容疑で逮捕された際不正入国が発覚し強制退去処分にあっている。ところが、再び日本に密入国し、横浜の中華街で働いているときに知人の紹介で2曹と知り合い、去年の10月に結婚。横須賀市内の2曹の自宅に転居した。結婚から3ヶ月後の12月にオーバーステイだと入管に直接出頭し、翌月の1月に入管難民法違反容疑で逮捕された。

裁判は4月に行われ、懲役1年の実刑判決が言い渡された。強制送還ではなく実刑が言い渡されたことで、海自の2曹との関係は中国の諜報活動の一環ではないかというハニートラップの疑いが濃くなっていった。

ただ、中国の新聞に載ったこの事件を読んだ方のブログによれば、中国人妻が自らオーバーステイだと入管に申告しに行ったのは妊娠したためで、日本人の妻になり母になれば日本国籍を取得できるものと思い入管に出向いたところ逮捕されたとなっている。

とはいえ、アメリカでは軍事機密を狙う中国人グループの大きな事件があり、ちょうど同じ時期に公判が始まっていた。そのため日本でのアメリカ軍事機密諜報活動はあって当然との見方があるのも事実。

日本では安倍首相が小泉外交で冷え切った対中関係改善を積極的に行っていた時で、軍事レベルでも交流が始まっていた。アメリカのいらだちは相当なものだったに違いない。

そんな折、原爆投下をしょうがないとして辞任した久間防衛相に代わって小池百合子氏が防衛大臣に就任。就任後1カ月でアメリカに向かい(2007年8月)、チェイニー副大統領をはじめ、ゲーツ国防長官、ライス国務長官などブッシュ政権の重鎮に次々と迎え入れられた。ライス長官とは姉妹のような絆を確認しゴルフの約束まで取り交わしたようだ。2月に訪米した久間防衛相はチェイニー副大統領には会えなかった。

小池防衛相が厚遇された理由の一つが、情報管理だった。小池さんは情報保全に極めて高い関心を当初から示していることを発表していた。参議院選の自民党敗北で安倍内閣が改造されたが、小池さんは防衛省内人事のごたごたもあり辞任の意向を表明し、防衛相の離任式ではイージス艦情報流失事件を「誠に遺憾で重大な問題だ。情報管理を徹底させて、日米同盟のさらなる強化に努めてほしい。これを私の最後のメッセージとしたい」と述べた。

この情報流失事件は、神奈川県警と海上自衛隊刑務隊が合同で捜査をし、延べ800人の自衛隊幹部から事情を聴取し全容を解明したとされている。それによれば、ファイルの流出源はプログラム業務隊(現海自艦艇開発隊)の3佐で、アメリカで開かれる「イージス艦幹部講習」の前に上司から参考資料としてイージス艦の情報が入ったCDを受け取ったという。そこに江田島の第1術科学校砲術科の主任教官だった3佐に何かいい教材はないかと聞かれ、そのCDを送ったようで、その教官は引出しにCDを保管していたが、同僚だった1尉の教官が無断でそれをコピー、学生に渡したり、護衛艦「しまかぜ」に異動後に下士官に渡して広がった。さらに、「しまかぜ」の3曹が術科学校にファイルを持ち込んで学生がそれをコピー、その一つが護衛艦「はつゆき」に異動する海士長にわたり、航海中に機関科の「しらね」2曹にコピーさせたというもの。その2曹の妻が中国人で不正入国した人だった。

この捜査で、どういう経路で幹部の少佐から兵隊の伍長に機密情報が流出したかは一応解明された。これで、情報を流した源を逮捕し、日本では事件を終わらせようとしているが、本当に終わるのだろうか。

この事件は、機密情報の流出事件だが、防衛省寄りの全く違う見方をすれば、どうしてニュースになってしまったのか、政府が情報操作を全くできなかった事件でもある。機密情報が流出したのは情報管理がしっかりしていなかったためだが、なぜこれが事件になりニュースになったのかは情報統制ができていなかったために起きたものと言える。

中国人の不正入国はよくある話で、ニュースにはならない。それなのに、4ヶ月後に情報流出とからめて事件となりニュースになった。こんなことが事実であったなら、日本の国防に疑問符がつくばかりでなく、日米関係は壊れ、アメリカの世界戦略に大きなダメージを与える。国防の観点から政府がやらなければならない仕事は、これを事件化させずに防衛省内の情報管理を確立することだったはずだ。

政府や警察が事件化を阻止しようとしたにも関わらず、どこかの新聞社が執拗に取材して隠し切れなかったというのなら分かるが、その形跡はない。いつものように、県警の発表を記者クラブで聞いた記者が記事にしただけのニュースだ。

海上自衛隊は当初から外部には情報は流出していないと主張し、コピーの目的は隊員のイージス艦に対する勉強のためだったと説明している。しかし、外部に流出していないという根拠は薄い。なぜなら、もともと情報管理をしていたわけではないので、当然コピーの管理もしていない。コピーしたCDが再び誰にコピーされたのかは誰も把握していないのだ。外部には漏れていないとは誰も断定することはできない。

中国人妻がハニートラップであるかどうかにかかわらず、中国がイージス艦情報について熱心に収集していたことからして、この情報は当然中国に流れているはずだ。少なくとも、アメリカの首脳が中国にも流れただろうと思っていることは間違いない。

中国に流れれば、北朝鮮にも流れる可能性は大だ。北朝鮮に流れれば、どこの国に流れても不思議ではない。

そう思っていろいろな現象を見てみると、問題となっている部分が理解できる。

今年の5月に去年に引き続き北朝鮮は日本海と黄海に向けてミサイルを発射した。安倍首相は「(得ている情報について)詳しくは言えないが、日本の安全保障にとって重大なことだという認識はしていない」(読売新聞)と述べている。もし、これを日本のイージス・システムが機能しないと知って北朝鮮が発射したとするならば、日米の首脳は震えたに違いない。最近の米朝接近はこれが原因ではないのか。

日本政府は、インド洋での補給について新法を制定しても続ける意向でいる。その理由の一つに、国際貢献を上げ、あたかもアメリカが望んでいるとのプロパガンダを展開しているが、本当にアメリカは日本の給油活動を切望しているのだろうか。アメリカ政府の一部にそう望んでいる人がいるかもしれないが、少なくともアメリカ市民の関心事ではない。日本でも支持する人はどんどん減っている。常識的に考えて、アメリカの軍事応援をすれば、日本がテロでやられる可能性は高くなる。

補給活動を望んでいるのは誰でもない、日本政府自身ではないのか。機密情報の流出という大惨事をカバーできるのは補給活動しか今はない。いかにも政府が努力をしてアメリカの軍事行動に協力したという主張ができる。子供のような情報管理体制をごまかすために、こちらから補給を続けさせてくださいとお願いしているのではないだろうか。そして、再びインド洋に日本のイージス艦を派遣し、日米でイージスの万能盾をかざさせてほしいと頼んでいるのではないか。表面的にはイージス艦の出動こそが、敵国に情報が流出していない証となる。

これで日本の空の防衛と海の防衛はお金をかけただけの力がないことが判明してしまった。


参考資料:

Microsoftエンカルタ総合大百科2008:「イージス艦」

[スキャナー]イージス情報流出 「日米」にらみ強制捜査、関係悪化を懸念 [2007年12月17日読売新聞東京朝刊]

海自情報流出「イージスの限界」漏洩 追尾や迎撃性能も/神奈川県警など調べ [2007年12月17日読売新聞東京朝刊]

海幕長、引責辞任へ 相次ぐ不祥事 情報漏洩で3佐逮捕 [ 2007年12月14日産経新聞東京朝刊 1面 ]

イージス艦情報漏洩 海自3佐逮捕 機密、爆発的に拡散 [ 2007年12月14日産経新聞東京朝刊 社会面 ]

海自イージス艦情報 流出源の3佐きょう逮捕 神奈川県警、全容解明 [2007年12月13日読売新聞東京朝刊]

イージス艦情報漏出で海自3佐、逮捕へ 秘密保護法違反の疑い[2007年12月13日朝日新聞東京朝刊社会]

イージス中枢の危機 情報流出、ミサイル防衛根幹揺るがす(解説) [2007年12月17日読売新聞東京朝刊]

イージス艦情報漏洩 海自3佐を逮捕 [ 2007年12月13日産経新聞大阪夕刊 1面 ]

イージス艦公開中止 機密保全も考慮/石破防衛相 [年月日読売新聞東京夕刊]

中国軍へのイージス艦公開を中止 「機密流出」米抗議で/海自 [2007年11月30日読売新聞東京朝刊]

イージス艦情報漏洩 3佐同士で資料手渡し 流出源、米国研修の同僚 [ 2007年08月29日産経新聞東京朝刊 社会面 ]

小池防衛相離任式 守屋次官「寂しい限りだ」 [2007年8月29日読売新聞東京朝刊]

海自幹部宅捜索 基地周辺 不安や戸惑い 隊員「これからどうなる」 [ 2007年08月28日産経新聞大阪夕刊 社会面 ]

あす内閣改造 “大物”小池氏、自ら幕 「悩みの種」首相には渡りに船? [ 2007年08月26日産経新聞東京朝刊 総合・内政面 ]

防衛次官に増田氏 迷走決着 [ 2007年08月18日産経新聞東京朝刊 1面 ]

米政権、小池防衛相と次々会談 対テロ貢献、期待の厚遇 [ 2007年08月10日産経新聞東京朝刊 国際面 ]

中台情勢 中国優位に 防衛白書 遠方展開能力を警戒 [ 2007年07月06日産経新聞大阪夕刊 1面 ]

海自秘密情報 多数が違反所持 1術校 漏洩後もずさん管理 [ 2007年06月22日産経新聞東京朝刊 1面 ]

北、ミサイル発射 日本海に落下、通常訓練か [ 2007年05月26日産経新聞東京朝刊 1面 ]

中国人妻に実刑判決 イージス艦情報 [ 2007年04月18日産経新聞東京朝刊 社会面 ]

2曹の中国人妻 入管法違反で実刑 イージス艦情報漏洩 [ 2007年04月17日産経新聞大阪夕刊 社会面 ]

イージス艦情報流出 2等海曹の妻、不法入国認める [ 2007年04月11日産経新聞東京朝刊 社会面 ]

イージス情報持ち出し 中国籍2曹の妻、ハニートラップ? 加藤昭氏指摘 [ 2007年04月07日産経新聞東京朝刊 総合・内政面 ]

中国人スパイ 米海軍情報20年間漏洩 国産イージス艦に流用か [ 2007年04月07日産経新聞東京朝刊 総合・内政面 ]

イージス艦情報 隊員の保全意識低く 防衛省対策なお不十分 [ 2007年04月06日産経新聞東京朝刊 総合・内政面 ]

流出イージス艦資料作成 3佐、きょうにも聴取 [ 2007年04月06日産経新聞東京朝刊 1面 ]

イージス情報漏れ、適切に措置 首相 [ 2007年04月05日産経新聞東京朝刊 総合・内政面 ]

海自2曹、情報持ち出し 米軍へ被害拡大も 中国人妻、数々の「奇行」 [ 2007年04月04日産経新聞東京朝刊 社会面 ]

イージスシステム情報も持ち出し 秘密保護法違反容疑で立件へ [ 2007年04月04日産経新聞東京朝刊 1面 ]

イージス艦情報も 海自2曹持ち出し、特別秘密含む?[2007年3月31日朝日新聞朝刊社会]

海自2曹 秘密データ持ち出し イージス艦情報も [ 2007年03月31日産経新聞大阪夕刊 社会面 ]

海自情報持ち出し 護衛艦乗組員を捜査 神奈川県警[2007年3月30日朝日新聞東京朝刊社会]

海自情報持ちだし 2等海曹 レーダー「秘」扱い [ 2007年03月30日産経新聞東京朝刊 社会面 ]

レーダーのデータなど護衛艦情報持ち出す 乗組員2曹を聴取/神奈川県警など [2007年3月30日読売新聞東京朝刊]

1隻の価格1300億円台に エイジス艦の概要 対空司令部を設置 [1987年8月6日読売新聞東京朝刊]

参考サイト:

2等海曹の中国人妻はどうなったのか

自衛隊の階級

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