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岸田 徹 【岸コラ】 |
福田総理誕生前、福田さんと争った麻生さん。二人は共同記者会見でお互いの評価を問われた。麻生さんは福田さんの仕事ぶりをこう評した。
「小泉首相のそばにあって、バランス感覚よく支えておられる」(読売新聞)
つい先月、在日米軍に対するいわゆる「思いやり予算」の削減問題で、沖縄の基地で働いている日本人従業員の給与水準について石破防衛相はこう述べた。
「沖縄で労働しておられる方々と比べて高い」(産経新聞)
麻生さんは福岡のご出身、石破さんは鳥取のご出身だ。お二人とも西の方だ。関西では、「おられる」という語法は敬語として定着していると言われている。しかし、「られる」を用いた敬語は単なる動詞に助動詞の「られる」をつけるものだ。「おる」という「いる」の謙譲語に「られる」の尊敬語をつけるのはちぐはぐでおかしい。
日本語の助動詞は動詞の後ろに来る点が英語と違う。英語の助動詞は動詞の前に来る。日本語も英語も助動詞は動詞の内容をさらに限定する役割がある。
例えば「話す」で言えば、使役の「話させる」、受け身の「話される」、過去の「話した」、推量の「話すらしい」。これを全部一緒に言うこともできる、「話させられたらしい」と。この他に助動詞は「話される」など受け身と同じ言い方になるが尊敬や丁寧な表現にも用いられる。実に多様だが、英語も同様に助動詞に尊敬や丁寧な用法がある。
例えば、I would like to go there. (そこに行きたいのですが)や、Should you have any qauestions, please feel free to contact us at anytime. (もし、ご質問があるようでしたらいつでもご連絡ください)の助動詞であるwould や shouldは will や shallの過去を意味するものではなく、丁寧な表現だ。
日本語は敬語が難しいと言われているが、英語も上品に敬意を表そうと思えばそれなりに気を使うところは同じだ。難しい表現だからこそ敬意を表すのにふさわしいとも言える。
さて、麻生さんと石破さんの話に戻るが、もし、麻生さんが福田さんの仕事ぶりに対して尊敬の念をもって表現するなら「バランス感覚よく支えていらっしゃった」となるはずだ。石破さんが、沖縄で働いている国民に対して敬語を使うのなら、「沖縄で労働していらっしゃる方々」となるはずだ。それを「バランス感覚よく支えておられる」とか「沖縄で労働しておられる方々」と言うのはどこか、心の隅でストレートに敬語を使えない事情があるのではないかとつい疑念を抱いてしまう。
そこで、「おる」という謙譲語を入れようとする。「おる」の使い方は、「本日社長はいらっしゃいますか」と聞かれた社長秘書が「はい、おります」と答えるなど、自分側の者を表現する卑下した言い方で、「られる」という相手や話題の人物を表現する相手を立てた言い方と一緒にすることは本来できないはず。つまり、二つの点でちぐはぐだ。ひとつは「おる」が自分側の言葉である点に対し「られる」は相手側や話題になっている対象の言葉。もう一つは、「おる」が自分を低めて相手を立てるのに対し「られる」は自分の位置より相手を高めて相手を立てる点だ。いわば上下左右が入り乱れて、結局尊敬の念が相殺されてしまっている。それでも形式的には敬語を使ったとなれば、これはごまかしだろう。
福田さんは麻生さんの相手候補なので、本心はけなしたいが、同じ自民党員だからそう感情をあらわに批判はできない。そこで卑下する謙譲語と相手を立てる尊敬語をごっちゃにして煙に巻く。
石破さんの場合は、本当は「沖縄で労働している一般の方々に比べて基地で働いている人たちは給料が一般的に高い」と普通に言いたかったのだろうが、基地が集中している沖縄の人たちに防衛大臣として引け目があるのか、それでも労働している県民に感謝の気持ちがあるのか、はたまた選挙民によろしくお願いしたいという気持ちからか、敬語を使いたい気持ちが出てきたのだが、それでは他県民との比較で一国務大臣としてのバランスが崩れてしまうために謙譲語を活用させてしまったかのように見える。
いずれの場合も、立場をあいまいにしている。これと同じ表現に「申される」があるが、本当に変な表現だ。
ところが、変だと言えば次の表現も変だという。
「タクシーがまいりました」、「秋も深まってまいりました」は、「まいる」が自分側のものが行ったり来たりする謙譲語なので、タクシーや秋という自分側でないものをへりくだって言うのは変だという理由だ。例えば、「まいる」は「すみません」と呼ばれたウエイターが「只今まいります」と言うように自分側のものを言う際に自分を低めて相手を立てる謙譲語だ。
麻生さんが福田さんのことを「バランス感覚よく支えておられる」と言うのには違和感を感じるものの「タクシーがまいりました」は別に疑問を持たない。「タクシーが来ました」で十分だとは思うが、「まいりました」と丁寧に言ってもいいのではないかと思ってしまう。
これと同様の理由で「おられる」は「おります」という丁寧な言い方の延長のように「おられる」で尊敬の言い方だと記述する辞書もある。また、「西日本方言的」と記述する辞書もあるようだ。
ここまで来ると、「おられる」に市民権を与えようとする動きが出てくるのが世の常だ。文部科学省の諮問機関である「文化審議会国語分科会」が2年ほど前に乱れた敬語の用法に現代に沿った指針を与えようとの動きがあり、今年の2月に文部科学大臣に答申があった。
それによると、今までの敬語は「尊敬語」、「謙譲語」、「丁寧語」の3種類に分けられていたが、これを5種類にした。「尊敬語」、「謙譲語I」、「謙譲語II」、「丁寧語」、「美化語」の5つだ。「謙譲語I」は「自分側から相手側、第三者に向かう行為などについて向かう先の人物を立てる」ものを分類し、丁寧に述べる「謙譲語II」と区別した。「タクシーがまいりました」はタクシーを卑下しているのではないので「謙譲語II]として市民権を得たが、どうも「おられる」はどこに入るのか明確な記述はない。今回も「おられる」はグレーなのか、どなたか知っている方がおられたら、指摘いただきたい。
さて、かつては「大きいです」や「危険です」などは用法が間違っていた。「です」の前には形容詞が来ないからだ。しかし、審議会が丁寧語として認知して学校でもそう教えるようになった。言葉は誰のものでもなく、使う人のものだ。使い方に対して文句を言うつもりはないが、「おられる」が政治家や官僚、権威者が多く使うのがどうも気に障るのだ。これは言葉と言うより使う気持ちの問題か。
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参考資料:
Microsoftエンカルタ総合大百科2007:「敬語」
基地従業員手当「削減が必要」 [2007年11月21日産経新聞東京朝刊 総合・内政面]
自民総裁選 お互いの相手評 「福田氏は辛抱強い」「麻生氏は発想ユニーク」 [2007年9月16日読売新聞東京朝刊]
自民総務会長に二階氏就任 「難局の今、適任」 県連、祝賀会予定なし=和歌山 [2007年8月28日読売新聞大阪朝刊]
【新国語断想】塩原経央 「敬語の指針」答申 混乱収束の妙策となるや [2007年02月12日 東京朝刊 その他]
敬語5分類化 「尊敬」「謙譲」「丁重」「丁寧」「美化」 文化審が答申 [2007年02月02日産経新聞大阪夕刊 1面]
[社説]敬語の指針 「5分類」も理解の助けになる [2006年11月27日読売新聞東京朝刊]
【明解要解】敬語の分類再編 「へりくだり」削除に異論も [2006年11月09日産経新聞東京朝刊]
謙譲語の定義から「へりくだる」消滅 敬語指針案了承 [2006年10月24日 東京朝刊 総合・内政面]
部下に「お疲れさま」今や常識 「ご苦労さま」少数派に/文化庁調査 [2006年7月27日読売新聞東京朝刊]
「送らさせていただく」? 「申される」? 正しい敬語実例集、文化審が作成へ [2005年2月2日読売新聞東京夕刊]
21世紀の敬語 半世紀ぶりに新指針作成へ 「平明・簡素」念頭に…(解説) [2005年2月18日読売新聞東京朝刊]
[日本語の現場]職場で(72)間違って?「おられる」(連載) [2004年8月4日読売新聞東京朝刊]
参考サイト:
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