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岸田 徹 【岸コラ】 |
四谷の料亭「福田家」で慰労会が行われた。慰労されたのは、安倍内閣の官房長官で安倍首相辞任には健康問題があったと公にした与謝野馨氏。慰労したのは渡辺恒雄読売新聞グループ本社会長・主筆、それに中曽根康弘元首相だった。10月25日木曜日の夜だった。(産経新聞)
与謝野さんは自分でパソコンを作ったり、ゴルフや釣りなど趣味が多彩なことで有名だが、囲碁はアマチュア7段で政界で最も強いと言われている。日曜日の28日、やはり囲碁では定評のある民主党代表の小沢さんが与謝野さんの胸を借りた。結果は、小沢さんの奇襲勝ちだった。(同)
福田−小沢会談はその週の火曜日30日に第一回が行われた。何が話し合われたのかよく分からないまま、11月2日金曜日に第二回会談が行われ、その後の記者会見で福田首相は「新体制」について協議したことを明かし「大連立」をにおわせた。一方の小沢さんは、民主党の役員を集め会談の内容を説明し、その内容についてはかん口令を布いた。
翌日の土曜日、北海道の帯広では安倍内閣で与謝野さんとコンビを組んでいた麻生太郎前幹事長と、麻生さんと仲がよい中川正一元政調会長が同じパーティ会場にいた(同)。与謝野・麻生は現在反主流だ。主流派がきわどい発言をしている中で、麻生さんは「自民、民主両党とも消化不良のまま突っ込んだ感じだが、首相は局面を動かそうと努力した」(同)とさらりと評価。中川さんも一般的なコメントだった。
与謝野さんとパイプが太いはずの麻生さんは、福田−小沢会談について与謝野さんから何も聞いていなかったようだ。与謝野さんが何も知らなかったからだろう。囲碁の最中小沢さんから何も聞かなかったことは当たり前だとしても、その前の渡辺・中曽根慰労会で何も聞いていないのは特筆に価する。
10月30日の第一回福田−小沢会談では、すでに一部のテレビ局で「大連立構想」の実現かということが言われていた。その理由を探れば、参議院選挙で民主党が過半数を獲得したことを受け、8月16日の読売新聞社説で、何も決められない国会運営よりはこの際「大連立」を行うべきだとの主張を展開したことから始まる。これに渡辺氏と親しい中曽根さんがマスコミを前に呼応していた。この動きに政界では波紋が広がっていたという(朝日新聞)。
民主党のかん口令にもかかわらず「大連立」はあっという間に一人歩きし、小沢さんは騒がせた責任を取って民主党代表を辞任すると表明した(11月4日)。与謝野さんと囲碁をやった次の日曜日だった。
この時すでに、大連立構想は読売新聞の渡辺氏が持ちかけたと産経新聞(10月31日)、朝日新聞(11月3日)、毎日新聞(同)が報道していた。
民主党のごたごた状態とは対照的に自民党は、本当は連立の話を持ち出したのは小沢さんの方からだとの噂を流せる余裕と統制を見せていた。噂の流布は連立を組んでいる公明党への言い訳だったに違いない。主流派が流した噂は完璧なタイミングだった。主流派の主要メンバーは綿密ともいえる打ち合わせをしていた。反主流派の与謝野さんには、慰労会を開いた当の渡辺氏も福田−小沢会談について一切口にしなかった。完璧な計画性を持った隠密作戦だったと言える。
小沢さんは辞任表明後も代表続投にこだわりがあったとされ、一転して11月7日に、もう連立の話はしないからと半ば約束させられた形で辞任撤回となった。その直後の記者会見で記者から、今回の仲介役は読売新聞グループ本社の渡辺恒雄主筆かとの質問に、「具体的な名前を言うのは控える」(読売新聞)と答えたものの、否定はせず、仲介役は渡辺氏、その後福田首相の意向を直接小沢さんに伝えたのは森善朗元首相だというのは読売新聞以外の新聞にはほぼ事実として報じられている。
今回の2回の会談以外にも二人は非公式に会っていたという朝日新聞の報道がある。恐らく事実だろう。なぜなら、自民党と民主党が連立政権を組んだら、それこそ国民の政治離れは一挙にすすみ、実質的に選挙が成立しない可能性がある。党首会談を行うと事前に予告し国民に見える形で行ったのは、プロセス作りが目的だったと考えられるからだ。福田さんと小沢さんとの間では連立構想がほぼ合意されていたから、公表に踏み切る手段として公にトップ会談を行ったのだろう。小沢さんにとってみれば、民主党内での合意のプロセス作りだったのかもしれない。
自民党と民主党が連立政権を組めば、すべての法案が通過するかのように言われているが、もし両党の議員が真剣に法案を作成し、また審議する姿勢になれば、「ねじれ国会」が「ねじれ党内」に変わるだけで、法案が思うように決議できないはずだ。もともと自民党と民主党は考え方や政治手法が違うから別々な党になっている訳で、そうれが一緒になったからといって、意見が急に一致するはずがない。
ただ、両党議員がサラリーマン化し、執行部の意向にただただYesと言い続ける代償として地元選挙区に予算のバラまきで臨めば、大連立での法案通過は可能。小泉郵政解散後の衆議院同様、勝手な法案が量産される体制ができてしまう。今回の参議院選挙ではその体制に国民がNoと言ったから参議院で民主党が圧勝した。民主主義の基本は自由で公正な議論から出てくる少数意見の尊重とそれを踏まえたうえでの多数決であることを国民が忘れていない証拠だ。
二大政党制を期待する国民の意識は明らかで、これを無視した福田-小沢会談は非難してもしきれない。
さらに、これを仲介したのが日本一の発行部数を誇る新聞社の代表者だったというのは開いた口がふさがらない。国民に真実を伝える立場の人間が、その渦中に入っていたのでは真実がつかめない。日本の報道機関は記者クラブの体制など身内意識が強く、どっぷりその世界に浸からなければあたかも真実が見えないかのような伝統が一部にある。自分自身がニュースの主体になってしまっては、自身に都合の悪い報道はできない。報道できないネタを仕入れたところで新聞を作ることはできない。新聞記者の多くはこのような基本原則を知った上で報道活動を行っているのだろうが、トップにその姿勢がなければ生かすことはできない。
読売新聞の姿勢は批判されてもまだ余る。ところが、その批判が他の新聞社からあまり出ないのだ。読売新聞は自己批判することもなく、仲介役が渡辺氏だと言われていることすら報道していない。
自民党寄りの新聞は産経新聞だと相場は決まっていたが、読売新聞は最近産経新聞に負けていない。その対極にあるのが朝日新聞だと言われているのに、渡辺氏を直接非難する記事はひとつもない。読売の報道姿勢について論評することもない。なんで、そんなに遠慮するのか。まったく情けない。
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参考資料:
大連立構想不調、小泉元首相は「残念だった」〔2007年11月9日0時57分 読売新聞 Yomiuri Online〕
次期衆院選で政権交代、小沢代表が改めて強調 〔2007年11月9日0時29分 読売新聞 Yomiuri Online〕
(天声人語)政治を動かす「大記者」〔2007年11月9日朝日新聞東京朝刊〕
民主・鳩山幹事長、大連立構想「復活する可能性」 〔2007年11月8日19時3分 読売新聞 Yomiuri Online〕
小沢氏「連立考えず」 続投正式表明 新テロ法案、反対不変 〔2007年11月8日産経新聞朝刊〕
政策協議はや秋波 森氏動く「小沢氏がまとめると思ったんだが…」 〔2007年11月8日産経新聞朝刊〕
小沢氏大連立の舞台裏明かす 〔2007年11月8日産経新聞朝刊〕
民主、くすぶる不満 政局・党運営、ミス許されず 〔2007年11月8日産経新聞朝刊〕
民主・小沢氏 メディア批判一部を撤回 インタビュー確約嫌がる? 〔2007年11月8日産経新聞朝刊〕
民主代表続投 会見詳報 「私の無精や口下手で誤解招いた。反省」 〔2007年11月8日産経新聞朝刊〕
民主党両院議員懇談会 小沢代表冒頭発言要旨 〔2007年11月8日産経新聞朝刊〕
【政論】小沢戦略とは何だったのか? 〔2007年11月8日産経新聞朝刊〕
【櫻井よしこ 福田首相に申す】国会で小沢氏論破せよ 〔2007年11月8日産経新聞朝刊〕
公明・太田代表「中選挙区制復活を」 〔2007年11月8日産経新聞朝刊〕
民主、対案提出へ 鳩山氏「政府案と違い示す」 補給支援法案〔2007年11月8日朝日新聞東京朝刊〕
(時時刻刻)「変心」低頭、再出発 小沢氏、民主党代表続投 涙ぐみ謝罪〔2007年11月8日朝日新聞東京朝刊〕
小沢代表「衆院選へ全力」 民主議員懇で続投表明、党内混乱を謝罪 〔2007年11月8日読売新聞東京朝刊〕
[社説]小沢氏辞意撤回 民主党の未熟な体質が露呈した 〔2007年11月8日読売新聞東京朝刊〕
小沢代表「衆院選へ全力」 民主議員懇で続投表明、党内混乱を謝罪 〔2007年11月8日読売新聞東京朝刊〕
(窓・論説委員室から)「大連立」という幽霊〔2007年11月6日朝日新聞東京朝刊〕
自民・民主党首会談 「小沢副総理」一度は合意 閣僚配分、自10・民6・公1 〔2007年11月5日読売新聞東京朝刊〕
民主・小沢氏辞任表明 「自ら真実を語れ」 政治部長・赤座弘一 〔2007年11月5日読売新聞東京朝刊〕
(時時刻刻)自・民、対決色再び 福田首相の連立打診、民主拒絶 〔2007年11月3日朝日新聞東京朝刊〕
【検証 党首会談】(下)大連立構想 水面下の1カ月 「小沢代表の焦りだ」〔2007年11月04日 産経新聞 東京朝刊〕
【検証 党首会談】(上)「悪魔のシナリオだ」公明外しに動揺〔2007年11月03日 産経新聞 東京朝刊〕
党首会談 「大連立」じわり現実味 新テロ法案平行線なのに…両者満足げ〔2007年10月31日 産経新聞 東京朝刊〕
[社説]大連立 民主党も「政権責任」を分担せよ 〔2007年8月16日読売新聞東京朝刊〕
民主党の中堅・若手で勉強会 〔2005年2月2日読売新聞東京朝刊〕
小林読売新聞社名誉会長の密葬に各界の3000人参列、別れ惜しむ/東京・中央 〔2000年1月6日読売新聞東京朝刊〕
参考サイト:
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