何が話したかったのか「福田−小沢会談」 ナベツネの暴挙を批判できない日本の大新聞

「改革」と「二大政党制」なんのため?

岸田 徹 【岸コラ】
2007年11月6日(火)

日本のすすむべき道「国民の皆様の目線に立って、改革を続行してまいります」と福田首相は所信表明演説で述べた(10月1日)。一方、民主党は先の参院選の公約冊子の冒頭に、「政権交代可能な二大政党制を」と題し小沢代表の38年間の国会活動を紹介する特集を組んだ。「今回の選挙で決着をつける覚悟で小沢一郎は挑みます」と強調している。

小沢さんが二大政党制を公に主張し始めたのは自民党の竹下派会長代行をしているときからだ(1992年)。時の宮沢内閣が政治改革関連法案を先送りしたことで野党から内閣不信任を突きつけられた(1993年)。これに、自民党の羽田孜と小沢一郎が同調し、宮沢内閣の不信任案が成立し衆議院は解散した。羽田・小沢は新生党を立ち上げ、自民党は選挙で議席を減らし、単独では与党になれなくなった。

このとき郵政民営化を郵政大臣の立場で言い出していたのが小泉さんだった。彼は党を分裂させた小沢さんに批判的だったが、同時に政治改革に消極的な宮沢さんにも批判的で郵政大臣の椅子を放り出した。「改革の小泉」と「二大政党制の小沢」が顔を現した瞬間だ。

それから15年がたとうとしているが、改革も二大政党制も期待ばかりでいつまでたっても実現しない。そればかりか、「改革」や「二大政党制」は都合のいいときに枕詞と結びの文句に使われるだけで、その目的がまったく議論されない。

小泉さんが言い出した「改革」は「自民党をぶっ壊す」から始まった。小泉さんは優柔不断な森首相が退任したことで行われた総裁選挙で「自民党を変え、日本を変える」と訴え、党員による予備選挙で圧勝したのだった。その立役者は古い自民党との決別を訴えた田中真紀子だった。小泉さんは圧倒的な支持で就任し高い支持率で退任したため任期の5年5ヶ月は常に国民的な人気を持続した印象があるが、そうではない。

赤字国債に対するルーズさ、不良債権処理の強引さ、アメリカと一緒になってイラク戦争に加担する独走、まるで他人事のような年金改革、いつまでたっても解決しない拉致問題など、小泉政権に対する評価は必ずしも良好ではなかった。本丸だった郵政民営化法案では自民党内からも造反が出て成立しなかった。

混迷する自民党に対する国民の失望は、民主党が衆議院選挙(2003年)と参議院選挙(2004年)で躍進を続けたことで票数となって現れた。

状況が様変わりしたのは、郵政民営化法案が参議院で否決された直後に衆議院を解散し、改革断行を訴えると同時に刺客を送る演出で国民を劇場に巻き込むように投票させた衆議院選挙からだった(2005年9月)。この選挙で自民党は宮沢政権のときに失った過半数を15年ぶりに取り戻した。

自民党にとっては幻と化していた単独過半数をいとも簡単に取り戻した小泉さんは、まさに党の救世主。自民党の独走がここから始まり「小泉改革」が何であるかの検証がまったくされなくなった。「改革」さえ唱えていれば理解が得られる空気だ。

「小泉改革」は、正確に定義すれば小泉政権から具体化した「経済財政運営と構造改革に関する基本方針」の実行のことだ。「骨太の方針」と呼ばれているもので、毎年経済財政諮問会議が具体的な方針をあげている。たとえば小泉さんが就任した初めての年の方針は「骨太の方針2001」と呼ばれ、金融機関の不良債権の抜本処理を最重要課題としたが、題目として主張したのが「聖域なき構造改革」だった。「民営化・規制改革」「チャレンジャー支援」「保険機能強化」「知的資産倍増」「生活維新」「地方自立・活性化」「財政改革」の7つが提示された。翌年の「骨太2002」では構造改革特区の導入や産学連携の推進、プライマリー・バランスの黒字化などが示された。「骨太2003」は三位一体改革と呼ばれる国と地方の税制改革が入ってきた。

これらは、竹中さんの実行プランで小泉さんがやろうとしていた改革ではないと思われる方が多いと思う。小泉さんが念仏のように唱えていた改革はそうではなかったからだ。

「改革なくして成長なし」、「民間にできることは民間に」、「地方にできることは地方に」が小泉さんの口から何べんも出てきたスローガンだ。この裏には官僚批判がある。郵政民営化に代表されるように、国家公務員でなければ郵便配達ができないのかというような主張はストレートで支持を受けやすい。中央が地方を管理する中央集権は官僚政治の典型だ。官僚の特権や規制を廃し、民間に多くを委譲することにより日本は成長していくというのが3つのスローガンの意味だ。小泉さんは国民の官僚批判をうまく取り込んで票にした。

こうして「小泉改革」は官から民へ「小さな政府」を目指すものだったはず。行政が消費者のために企業を規制するのではなく、民間に自由に競争させ市場原理で消費者のために経済活動をさせようとするのが目的だ。そうすれば努力した人がそれだけ報われる社会が来るが、一方では努力するチャンスに恵まれなかったり努力しても失敗する人が現れ、勝ち組負け組が社会の格差を生むことになってしまう。

そこで、自由もいいがあまり自由競争で大企業ばかりが儲かる体制では格差が広がる一方だから、一般市民のために政府が儲かっている先から税金を取ってチャンスに恵まれなかった人たちに再配分してほしいと望んだとき、その受け皿が必要だ。受け皿になる市民のための施策を実行できる党があるのが二大政党制だ。いわば、前者が自由党だし、後者が民主党だ。日本は長い間その両方の役割を「自由民主党」が官僚と財界と相談しながら演じてきた。自由主義的な政策と民主主義的な政策のどちらを取るかを党内で判断してきたのだ。どちらを取るかの判断に国民の民意は直接働いていない。

二大政党制は、どちらを取るかを国民が直接選ぶところに意義がある。それをいくら国民との約束のためだといっても小沢さんの主張のように連立政権で政策を実行に移そうとしてしまうと国民の選択権が奪われる。

「政権が取れる二大政党制」は政権が取りたい民主党のためにあるのではなく、自由経済か民主政策か、言い換えれば「小さな政府」か「大きな政府」か、または税金を「取る」のか「取らない」のか、「成長」か「福祉」かを国民がその都度、多数決で選ぶ体制だ。

われわれは、規制より自由だということには賛成しながらも、たとえば金融機関が不良債権を抱えてしまえば政府が公的資金を使って官主導で再建することに簡単に同意してしまう。薬害が発生すれば役所の対応が悪いと批判するし、年金は国がしっかり運営してくれないと困ると思っている。

「官から民へ」の主張を発展させれば、不良債権は不良債権が少ない金融機関がすすんで金を出し、それを元手に経営難にある金融機関を再建していくのが筋だ。薬害についても製薬会社が共同で金を出したり情報を出したりして被害者を救済したり、製薬会社同士がけん制しあって安全な薬を製造するように情報公開するのが筋だ。年金も保険会社の業務のように民間が制度を確立すべきものだ。

このような社会制度はアメリカの十八番だが、アメリカがこのような体制を確立できたのは、中央集権的なヨーロッパの体制に反発するかのように建国されたからだ。官僚が国家体制を作り上げる前に活力ある民間企業が国の体制をつくっていった。最初から資本主義が有効に働いた国だといえる。

日本は、明治維新以降中央集権体制が確立し、官僚国家の道を歩んでいる。世界が国家の規制を超えて情報の行き来を制御できなくなった現在、日本だけが規制の厳しい官僚国家体制で生きていけるはずはない。ところが、国内事情は世界ではじめての超高齢化社会の到来を控えている。

高齢化社会の産業構造への転換はどこの国よりも早く行わなくてはならない。世界の先陣を切って行われるもので、他国にモデルはない。病院や老人ホームばかりではなく、道路も車もお店も情報伝達手段も家族形態もみな高齢化社会にあわせて作り直していかないと生活できない時代がやってくる。この急務の大変革を官から民への民間がうまくつくり上げていくことができるだろうか。

高齢化社会に向けた構造改革は、すべての社会階層に無縁ではなく、しかも避けることができない。本当は、今こそ政官財が民意を意識して一体となった政策をリードする日本のお家芸を発揮するときではないのか。

この議論の結果、それでも官から民への改革をすすめ二大政党制を実現するのだと国民の多くが望むのなら、これは本物で、みなで推進していく価値がある。そういう議論がまったくないのは実に危うい。

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参考資料:

Microsoftエンカルタ総合大百科2007:「骨太の方針」「官僚制」「小泉純一郎」

サンデー時評:再び、顧客のほうを向かない銀行〔2007年9月26日サンデー毎日 2007年10月7日号〕

1日の福田首相所信表明演説の全文 〔2007年10月2日読売新聞東京朝刊〕

「骨太の方針」閣議決定 “小泉構造改革”スタート [2001年06月27日産経新聞東京朝刊]

【論壇マンスリー】論説副委員長・岩崎慶市 構造改革とは何か [2001年06月24日産経新聞東京朝刊]

小泉首相 所信表明演説(全文)(3−2)痛みに耐え、自立型経済へ [2001年05月07日産経新聞大阪夕刊]

「自民分割」と米紙が報道 [1992年10月17日産経新聞東京朝刊]

小沢・元自民党幹事長が若手労組幹部に政界再編論を熱弁 〔1992年4月25日読売新聞東京朝刊〕

参考サイト:

ここまで進んだ小泉改革

小泉構造改革

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