再び世界の渦に巻き込まれるトルコ(下) 何が話したかったのか「福田−小沢会談」

「人の命より大事な組織」が広げた薬害肝炎

岸田 徹 【岸コラ】
2007年10月23日(火)

2007年10月23日付日経新聞第一面で薬害肝炎の被害者名について報道する記事日中戦争時、ペストやコレラなどの細菌兵器を開発するために作られた日本軍の七三一部隊。昭和11年(1936年)に中国のハルビン郊外に創設され、中国人や朝鮮人、モンゴル人、ロシア人の捕虜や囚人が生体実験や生体解剖の犠牲になった。その数は5年間で3千人とみられている。終戦間際にソ連が参戦してくると、証拠隠滅のため施設は破壊され監獄内の囚人は殺害され、部隊関係者は逃亡した。戦後、部隊長はGHQに生体実験のデータを提供し、七三一部隊の責任は問われることはなかった。

5年前(2002年)の夏、七三一部隊によってまかれたペスト菌やコレラ菌に感染して死にかけたり親族を亡くした中国人180人が国に18億円の賠償と謝罪を求めた裁判の判決が東京地裁で言い渡された。判決では、細菌戦を行い多くの犠牲者が出たことは認定したが、個人が加害国に直接損害賠償する権利はないと請求を棄却した。

それから2ヶ月後の10月、東京地裁には、C型肝炎に感染したのは国などが安全確保を怠ったためだと感染者13人が国と製薬会社を相手に9億円余りの損害賠償を求めて訴訟を起こした。同様の訴訟は同日に大阪地裁でも起こされた。さらにその動きは、福岡、名古屋、仙台と広がった。1審判決では仙台以外の4地裁で国の責任が一部かまたは全部が認められた。しかし、その4地裁の判決に対し原告被告双方とも控訴し紛糾している。大阪高裁は今月和解を求めていた。

血液は赤いが、肺で酸素を取り込むと明るい赤になり、人間の組織に酸素を与えて肺に戻ってくるときには濁った赤になる。肺に戻ると組織から運んできた二酸化炭素を放り出し、代わりに酸素を受け取って再び体中の組織に酸素を運ぶ。このサイクルが生命を維持させていることは小学校の理科で習い血液の役目として認識される。事故や手術で出血が止まらなければ、この命のサイクルは行われない。命を助けようと献血する経験は誰にでもある。

血液が赤いのは、酸素を運ぶヘモグロビンによるものだ。ところが、血液には赤くない黄色い部分があって、それを血漿(けっしょう)と呼んでいる。血液はその血漿とその中に散在する細胞から成り立っている。人間の血液の1ミリ四方には約500万個の赤血球と5千万から1万個の白血球に2〜30万個の血小板が、さらに多くの塩類や有機物質が含まれている。

その血液の成分には人工ではできない大変な役目をもった成分がある。これらの成分を使って薬にしたのが血液製剤だ。例えば、貧血や癌治療、手術後の管理には赤血球、出血には血小板、血友病には第8及び第9因子、火傷や出血のショックには血漿、肝炎や川崎病にはグロブリン、低たんぱく障害にはアルブミンを用いた製剤だ。10年前の資料だが日本では血漿製剤を世界平均の4倍も使っている。

このため献血の血液は直接輸血に使われる量が精いっぱいで、血液製剤を作る原料にはなかなか回らない。そこで、血液製剤を作る製薬会社では原料の血液を輸入することになる。血液製剤を作る血液の約半分は海外からの売血で賄われているとされ、調達された血液は囚人や娼婦、麻薬中毒、貧困層から買われるものが多い。これらの血液の中にエイズウイルスやC型肝炎ウイルスが入り込んでいると、その血液でつくられた血液製剤の中にもウイルスが生き続けてしまう。エイズウイルスは加熱することで安全な血液製剤が作られるようになったが、非加熱製剤が回収されずに被害を広げた。肝炎ウイルスは加熱することによりB型肝炎ウイルスには有効だが、C型には十分でないことが後になって分かった。C型そのものの存在がつかめていなかったためだ。

血液製剤のトップメーカーは旧「ミドリ十字」だ。現在は度重なる合併で「田辺三菱製薬」になったが同社は薬害肝炎訴訟の被告企業だ。ミドリ十字はやはり血液製剤でエイズウイルスに感染させた被告企業の一つで、この損害賠償と不買い運動のために経営が悪化し吸収合併させられたとマスコミにたたかれたが、ミドリ十字の方はそうは思っていない。血液製剤では断トツの強みを持っていて、その研究の幅が他社にはなかったからだ。

敗戦から5年たった1950年にミドリ十字は設立された。創設者は七三一部隊にいた元陸軍中佐の内藤良一氏だ。設立時は「日本ブラッドバンク」という民間血液銀行だったが、七三一部隊出身者が多く社員になったと言われている。売血による非難もあり、医薬品部門に特化した企業になって社名もミドリ十字に変更した(1964年)。しかし、承認を受けていない検査薬を販売したり、ヒトの胎盤を買い集めて製剤の原料にするなど問題を起こしていた。そこで、元厚生省薬務局の局長が社長に就任するなど、旧厚生省から5人がミドリ十字に天下った。

創業者の内藤氏は機関車の異名があったほど強烈な推進力で会社を引っ張った。研究開発にも陣頭指揮で臨んだ。そんなワンマンが亡くなって(1982年)9日後にアメリカで血友病患者のエイズ発症が初めて報告された。その後のミドリ十字経営陣は銀行出身の会長に厚生省出身の社長で、ワンマン体制からの脱却に時間がかかっていた。その間に会社は非加熱製剤販売中止の決断を出せないまま、利益追求型の体制に押しやられてしまった。厚生省OBの社長は実質的に厚生省の指示なしには重要な決断ができなくなっていたとみられている。

C型肝炎を蔓延させた血液製剤の「フィブリノゲン」は日本では唯一ミドリ十字が製造販売していた。フィブリノゲンは血漿中に0.2〜0.4%含まれている物質で、血液を凝固させる働きがある。本来止血剤としては問題があったが、効果が高いため医療現場では止血のために日常的に使われていた。アメリカではB型肝炎感染の危険があるとして1977年に製造が認められなくなったが、日本ではB型肝炎の心配がない加熱製剤が1987年に承認された。先にも述べたが、これが後にC型肝炎には有効でなかったことが判明した。C型肝炎の存在そのものが正確にチェックできなかったためで、チェックできるようになったのは1992年で有効な製造方法は1994年まで確立されなかった。

今回問題となったフィブリノゲンの投与でC型肝炎に感染したとされる418人のリストは、薬害肝炎訴訟でその存在が掘り返されたものだ。裁判中、国側にフィブリノゲンを投与された証拠がないと因果関係を否定されていた患者が、2002年にミドリ十字の吸収先である田辺三菱製薬から厚労省に提出していた“フィブリノゲン投与後に肝炎を発症した事例一覧”に自分と同様の症状の人がいると会社側に迫ったのだ。執拗な追及に、会社はそれがその患者であることを認め、因果関係が成立した。これがきっかけで、製薬会社が患者の個人情報を把握している事実が明らかになり、2002年当時から分かっていたのに患者に伝えていないと新たな問題に発展した。

C型肝炎は症状が軽く当初はすぐに治ると思いがちで医者の診断を受けない患者が多い。ところが、慢性になることがたびたびで、恐ろしいのはその後肝硬変から肝臓癌に進む確率が高いことだ。発見が遅れればそれだけ肝臓癌になる確率が高くなる。治療にはやはり血液の白血球から主に作られるインターフェロンが有効でありことが分かってきているが安い薬ではない。

厚労省は418人分のうち実名が分かっているのは2人で116人がイニシャルだと発表していたが、会社側は197人の実名と170人のイニシャルを把握していたことを明らかにした。

舛添厚労相は田辺三菱製薬の社長を呼び早急に本人に告知するよう要請し会社も受け入れた。福田首相は、「文書管理がなっていない。人命にかかわるような大事な資料を適当に扱っているというのはいけない。(報告を受けた時は)またかという感じだった。もういい加減にしてほしい、という気持ちだ」と述べた(Yomiuri Online)。この問題は、2002年当時の責任体制に話が及んで当然だが、当時の総理大臣は小泉さん、厚生労働大臣は公明党の坂口力さん(医学博士)と、今の政界の力のバランスを考えるとどこまで追求できるのかは微妙な状況だ。

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参考資料:

Microsoftエンカルタ総合大百科2007:「血液」「成分血液」「肝炎」

肝炎訴訟原告「治療機会奪われた」 薬害肝炎告知なし [2007年10月23日朝日新聞 asahi.com]

厚労省118人、製造元367人 薬害肝炎リスト 原告9人含む可能性 [2007年10月23日 産経新聞 東京朝刊]

薬害肝炎報告 実名2人、イニシャル116人 9人は訴訟原告か/厚労省 [2007年10月22日読売新聞大阪夕刊]

薬害肝炎情報、100人超 20年前から手がかり放置/厚労省 [2007年10月22日読売新聞東京朝刊]

薬害肝炎症例一覧問題で調査班 訴訟や患者の支援策検討/厚労省 [2007年10月20日読売新聞東京朝刊]

薬害肝炎症例一覧表問題 一部患者名入り資料提出していた 製薬会社が厚労省に [2007年10月20日読売新聞東京夕刊]

薬害肝炎症例一覧表問題 患者の調査要請/民主党 [2007年10月19日読売新聞東京夕刊]

血液製剤投与の肝炎発症患者 2002年に把握認める/厚労省 [2007年10月17日読売新聞東京夕刊]

薬害肝炎訴訟弁護団 血液製剤投与事実、患者に告知を要請 [2007年10月17日読売新聞東京朝刊]

薬害肝炎患者情報持つ製薬会社調査へ 厚労相が表明 [2007年10月16日読売新聞東京夕刊]

薬害肝炎「早く和解を」 「大阪」控訴審、15日希望案期限 [2007年10月13日読売新聞東京夕刊]

ウイルス性肝炎患者救済 公費助成、月内に具体策/与党PT [2007年10月11日読売新聞東京朝刊]

民主、肝炎助成法案を参院に提出へ [2007年9月29日読売新聞東京朝刊]

中国人遺族らの請求棄却 731部隊控訴審判決 [ 2005年07月20日 東京朝刊 社会面 ]

C型肝炎 感染16人、国など提訴 「薬害、予見できた」 [ 2002年10月22日 東京朝刊 1面 ]

旧ミドリ十字血液製剤 C型肝炎感染 薬害エイズ同様後手後手の対応 [ 2002年05月07日 東京朝刊 社会面]

旧ミドリ十字の血液製剤、米で禁止後も10年販売 「薬害肝炎」明白に [2002年3月21日読売新聞東京朝刊]

旧ミドリ十字の「フィブリノゲン製剤」、315人が肝炎の疑い 40万人に使用 [2001年3月20日読売新聞東京朝刊]

ウェルファイドと三菱東京製薬 2001年10月めど合併 売上高2900億円 [2000年11月1日読売新聞大阪夕刊]

吉富製薬とミドリ十字が合併契約書に調印 吉富製薬新社長に鎌倉昭雄副社長昇格 [1997年8月29日読売新聞東京朝刊]

[ミドリ・吉富合併 負の継承](下)問われる“護送船団”行政(連載) [1997年2月26日読売新聞大阪朝刊]

[ミドリ・吉富合併 負の遺産](上)吉富側、営業・開発力買う(連載) [1997年2月25日読売新聞大阪朝刊]

薬害エイズ犯罪 ミドリ十字の集団経営体制「無責任に」 ワンマン会長死後 [1996年9月2日読売新聞大阪夕刊]

薬害エイズ ミドリ十字捜索へ 「加熱」「非加熱」の区別、担当者は認識薄く [ 1996年08月21日 東京朝刊 社会面 ]

参考サイト:

薬害肝炎 またずさん対応 厚労省に患者リスト 5年前把握も告知せず

薬害肝炎情報、首相が厚労省対応を厳しく批判

フィブリノゲン問題

血漿分画製剤とは

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