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岸田 徹 【岸コラ】 |
「小池さんは度胸があるね、愛嬌(あいきょう)もあるけど」と小泉前首相はかつて、郵政民営化に反対した小林興起氏の選挙区に刺客として送り込んだ小池百合子環境相(当時)をこう評価した(2005年8月)。小池百合子さんは、イラク復興支援にあたる航空自衛隊の先遣隊を宿営地のクウェートに閣僚として初めて訪ね(2004年1月)たり、いくつもの政党を転々とした上で閣僚の座を射止めたことでもともと度胸には定評があった。
わざわざ小泉さんが度胸があると言う必要はなく、小泉さんとしては次の「愛嬌」に意味を持たせたはずだ。この刺客劇は「小池ショック」として永田町を駆け巡った。亀井静香・元政調会長は「こんなあこぎな、品のないことをやっていいのか。仁義無き戦いか何か知らないが、えげつない」(読売新聞)と怒りをぶちまけた。戦々恐々となる自民党内をよそに、巷では刺客の仕掛け人は誰なのかが興味をそそった。小池さん本人が自分の選挙区を捨てて出ると言ったのか、それとも小泉さんが小林さんを倒せるのはあなたしかいないと懇願したのか、答えは出ないまま小池さんは小林さんを破った。
「あれは誰にも相談せず二人だけで決めたらしいぞ」との噂が、選挙後すぐに出回った。刺客を送り込み自民党を圧勝させた衆議院選挙は、小泉劇場のクライマックスだったが、この後小泉さんは終焉のストーリーをラブストーリーで飾ろうとしていたという説がある。噂は小泉サイドから流されたようだ。二人は結婚するのではないかとされ、週刊誌も動いたが、ついに大きな騒ぎにならず終わってしまった。
政界再編の中で、政党を転々とし時の実力者にしっかり寄り添い頭角を現した小池さんが最後に首相と結ばれる――このストーリーはスキャンダラスだと思うのだが、まったくスキャンダルにはならない。どうしてなのか。その理由をあげれば、
(1) 2人とも独身で、結婚しても当たり前。
(2) 年をとっていて、情事の連想が遠のく。
(3) 小泉さんの人気が国民的でつつけない。
(4) 2人を蹴落としても誰も得をしない。
(5) 仕組む人がいない。
スキャンダルの語源をたどれば、ギリシャ語のスプリング式の罠をいう。スキャンダルは誰かが罠を張らないとスキャンダルにはならない。小泉さんがいくら小池さんとの関係を取りざたしてくれと頼んだところで、それはスキャンダルにはならないのだ。
この観点からすると、今スキャンダルとして話題になっている民主党参議員の横峯良郎議員と姫井由美子議員のスキャンダルは仕組まれた感じがする。横峯議員は、賭けゴルフと酒席での強制わいせつ疑惑を元愛人の証言を交えて週刊新潮に追及されている。姫井議員は6年に及ぶ愛人関係をその男性が所有する450枚の思い出写真を元に週刊文春に「告発」されている。横峯議員の行動が報道されているようなものなら刑事事件に発展する可能性があり、スキャンダルでは終わらない。
横峯議員は比例選挙で21万票余りを獲得し参議員になったいわば民主党の顔の一部だ。姫井議員は参院自民党のドンと言われる片山虎之助氏の選挙区で立候補した1人区の選挙だった。「姫の虎退治」というキャッチフレーズで片山さんに5万票近く離して当選を決めた。民主党の小沢代表が最初の応援演説を行ったところで、まさに今回の民主党大勝利の象徴的な選挙区になっている。この2人は民主党が党を挙げて応援したことから、2人を攻めることは民主党を攻めることに直結する。
そのため、誰がスキャンダルを仕組んだのかは、当然自民党サイドだとの疑惑が持ち上がる。
さらに、姫井議員の選挙区は込み入った選挙区で、衆議院では小泉さんに郵政選挙で追われた平沼赳夫議員がいる。片山さんと平沼さんは平沼さんが自民党を離党する前まで互いの選挙に協力してきた仲で、平沼さんは「片山氏を応援するのは当然。絶大な支援をお願いする」(産経新聞)と後援会の幹部会合で述べている。しかし、幹部たちは自民党の仕打ちには怒りが収まっていないため、「大人の発言」としか見ていない。姫井議員が当選したのも平沼陣営が姫井サイドについたためと分析する関係者は多い。
スキャンダルを起こすには次の条件が必要だ。
(1) あらわになると、善意の被害者が出る。
(2) 恨みと妬みを持つ「告発者」がいる。
(3) 身分不相応の行動を本人がとる。
(4) スキャンダルの結果当事者以外に得をする人がいる。
スキャンダルの記事は「告発者」が気の毒なように書かれるが、ニュースソースをかばう意味で行われる場合が多く、実際にはあまり同情するようなところがないのが普通だ。今回の場合も、2人とも元愛人の告発が有力なバックボーンとなっていて、この告発者が「実はウソでした」となったら週刊誌の出版社は大変な損害賠償を覚悟しなくてはならなくなる。
証言をする愛人は重要な位置にいるが、同時に微妙な位置にもいる。いくら「元」とついたとしても本当に愛していたのなら、告発など容易にできるはずがないからだ。愛には嫉妬や恨みが付き物で、それを利用しようとする誰かがスキャンダルを仕組むのだ。その意味で「告発者」もいつ「被害者」になるか分からない。
スキャンダルには必ず善意(何も知らない)の被害者が必要だ。今回の2人の場合は配偶者だが、横峯議員の場合はプロゴルファーの横峯さくらさんのお父さんとして有名なので、さくらさんの活動の妨げにもなる。この「被害者」が自分は今回の件で全く困ってはいないと宣言されるとスキャンダルの威力はぐっと小さくなる。
どんな人でも叩けば埃の一つや二つは必ず出てくるもの。スキャンダルを仕組まれてしまったら、当人だけではとても解決はできない。スキャンダルの「被害者」の協力が不可欠だし、本当のターゲットである先(今回の場合は民主党)のしっかりした協力がないと解決できない。
これらの協力が得られない場合は、あっさりと職を辞すのが一番の解決方法だ。その時は、仕組まれたから仕方がないと見えない加害者をしっかり想定し、スキャンダルの内容については全面的に否定するのが賢明だ。本当はあったことでも、否定する。それが周りを助ける唯一の方法だからだ。そこでは嘘をつくわけだが、その咎めの代償が辞任というわけだ。潔く辞める鮮度が後々その人を救う。後になればたいした出来事ではなくなっているのが通例で、その時に潔く辞めたのが評価される。
身から出た錆とはいえ、スキャンダルの本当の目的は本人への攻撃ではない。国会が始まる前に民主党に打撃を与えたいと思っている人たちは多い。スキャンダルになるような行動をとっていることはもちろん非難されるべきことだが、そのために民主党を選んだ民意が生贄になってしまうのは不幸なことだ。政治は何より有権者の側に立つのが大原則。有権者は民主党の活躍に期待を寄せた。スキャンダルを起こした人たちがいいか悪いかの判断を政治の場で行うと、民主党に期待した民意が失われてしまう。
共産主義や社会主義体制ではスキャンダルは許されないことを考えれば、スキャンダルは民意の一種だと言える。ただ、どんな民意かと言えば、自由主義経済の中での敵対的買収のようなもので、多くの人にとっては有益な民意とは言えない。
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参考資料:
新潮記事めぐり横峯議員が提訴 [2007年08月29日 産経新聞東京朝刊 社会面]
横峯議員に「厳重注意」 週刊誌報道一部認める [2007年08月25日 産経新聞東京朝刊 総合・内政面]
ピカピカ1年生初登院 期待の政治に/逆風吹いてる/重みを背負う [2007年08月08日 産経新聞東京朝刊 社会面]
[参院選・振り返る](下)農山村部、衰退止まらず 民主に託す(連載)=岡山 [2007年8月5日読売新聞大阪朝刊]
参院選記者座談会 会期延長で姫井さん有利に 緊張感少なかった片山陣営=岡山 [2007年7月31日読売新聞大阪朝刊]
2007参院選 岡山選挙区 姫井さん旋風、大金星 まさか片山さん敗退=岡山 [2007年7月30日読売新聞大阪朝刊]
【2007参院選】第一声 党首、雨中の出陣 [2007年07月13日 産経新聞東京朝刊 総合・内政面]
【2007参院選】郵政総選挙から2年、色濃く残るつめ跡 [2007年07月12日産経新聞東京朝刊 社会面]
参院選 「信頼できる年金制度に」金沢で演説 安倍首相、理解求める=石川 [2007年7月9日読売新聞東京朝刊]
[攻防・「郵政解散」衆院選]ドキュメント=8月10日[2005年8月11日読売新聞東京朝刊]
第2次小泉改造内閣 17閣僚の横顔=訂正あり [2004年9月28日読売新聞東京朝刊]
英政界“性スキャンダル” 真相“霧のロンドン” 自著地で行くアーチャー氏 [1986年10月30日読売新聞東京朝刊]
英また性スキャンダル 保守党副幹事長が辞任 口封じ、売春婦へ現金 [1986年10月27日読売新聞東京朝刊]
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