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岸田 徹 【岸コラ】 |
「不良債権の大半は好況時に形成される」とアメリカ連邦準備制度理事会(FRB)のグリーンスパン議長が警告した。7年前のことだった(2000年3月)。グリーンスパン氏は日本のバブル経済崩壊の轍(てつ)を踏まないようにこの時注意を呼びかけている。アメリカは史上最長の景気拡大を続けいている陰で、金融機関の破たんが増えているのを注視したものだ。
この時、なぜ金融機関の破たんが増えたのかの理由にサブプライム・ローンの焦げ付きを上げている。「サブプライム(Sub-prime)」と呼ばれる理由はこうだ。通常、融資は条件が整った先に優遇金利(Prime Rate)で貸し付けるもの。プライムは最高位のという意味だ。それを、融資の条件がそろわない先、例えば過去に返済が滞ったとか、返済すべき金額に対して収入が足りないとか、収入が一定でないとか――の場合に融資をすると、焦げ付く恐れが大きくなる。それでも融資する場合はその危険率を考えて金利を高く設定する。そこから、優遇(Prime)には及ばない下位の(Sub)融資だというので、サブプライム・ローンと呼ばれている。
グリーンスパン氏の警告にもかかわらず、この日以降何年もの間サブプライム・ローンの増殖は続いた。熾烈なローン競争が事態をどんどん悪化させたのだった。グリーンスパン氏は日本のバブルのようにはならないようにと注意を呼び掛けたが、実態はあの時の日本のバブルの様相だ。日本では、バブル崩壊時にこんな被害が露になった。
福岡の大手住宅会社だった「興栄ホーム」が会社更生法の適用を申請した。1992年秋のことだった。この倒産劇で被害者が続出し、約80人が被害者の会を結成した。被害者はアパートやマンションを建設した大家たちだった。興栄ホームは、25年間のローン完済までの間、もし店子が入らなかったら家賃を保証するという条件で大家にローンを借りさせてアパートやマンションを建設させた。ところが、会社更生法の適用申請で家賃保証をしなくなったため、満室にならない物件の大家たちはローンを返せなくなり、自宅を含む担保となったアパートを取られてしまう事態に陥ったのだ。
興栄ホームが建てたこのような物件は約750件に及び、融資総額は約300億円にのぼった。住宅業界では1、2年の家賃保証をする場合はあるが、ローン完済まで保証をするのは通常では考えられないと「興栄商法」に疑問を投げかけた。しかし、興栄ホームにそうさせたのは、業界の過当競争と、有り余るお金をどうしたらいいのか分からない金融機関の存在が背景にあった。300億円ものお金をつぎ込んだのは、生命保険会社が主だったようだ。
日本では、バブル期の最後が、このような詐欺とも思える商法がまかり通っていた。必要のないアパートをいかに建てさせるかは、名だたる銀行内部でも営業会議で主題となっていた。バブル後に日本の失われた10年を作ってしまった金融機関の不良債権。その主役だった住専は、上からは銀行、下からはローン会社の融資攻勢でどんどん条件が悪い先に融資をせざるをえなかった運命だ。
アメリカのサブプライム・ローンはこのような日本のバブル期に融資の残高を伸ばしたアパート・ローンと似たところがある。
サブプライム・ローンの販売者は、過酷なノルマに追い立てられていたとの報道がある(ブルームバーグ)。ローンに関するろくな説明もなく、ローンの申込書にサインをさせ、融資の条件に合ったような年収を勝手に改ざんして書類を作成することも半ば公然と行われていたようだ。
しかし、日本のアパート・ローンがバブル崩壊のひとつの原因となったとしても、世界の株安を誘ったことはない。なぜ、サブプライム・ローンが世界市場の株安の原因と騒がれたのか。
それは、20年前の金融システムと現在のものとではまったくと言っていいほど違うからだ。最大の違いは金融の自由化によって、金融商品が多様化したこと。それに、情報通信網の飛躍的な発達で、その金融商品が瞬時に世界中を飛び回ることだ。これを象徴するな出来事が5月に起こった。
アメリカ自動車業界最大手のゼネラル・モーターズ(GM)が、1〜3月期決算で純益が前年同期比で90%減ったと発表したのだ。GMはトヨタ車など日本勢の追い上げで売り上げを下げているのは事実だが、その下げ幅は16%にすぎなかった。それ以上の大幅減益の理由は、金融事業でサブプライム・ローンの焦げ付きが増加したからだった。
日本のアパート・ローンの不良債権は建設業者とつるんだ金融機関の問題で終わったが、アメリカのサブプライム・ローンはその枠では収まらない。サブプライム・ローンはブローカーにより売られ、そのローン債権は、大手の金融機関が競って買った。手を汚すのがブローカーで、ブローカーは大手の金融機関に債権を売った時点で手数料収入が入る。大手金融機関はその債権を担保に証券化を図り、さらに別の金融機関やファンド会社に売る。
通常の住宅ローンよりサブプライム・ローンは金利が高いため、それを担保にした証券は配当を多く設定できるという仕組みだ。大手金融機関の中には、世界的な金融機関であるアメリカのシティー・グループやイギリスの香港上海銀行(HSBC)、フランスのBNPパリバ銀行などの子会社が含まれていて、世界に流通するサブプライム・ローンを担保にした証券の流通額は20兆円とも40兆円とも言われている。ファンド会社も多く買っている模様で、有り余るお金の行き場がないことがよく分かる。この現象は明らかにバブル現象だ。
日本では、バブルの始末を日銀の公定歩合引き上げで収束させた。粗治療だと非難されたこともあったが、バブルの状況を放っておけば被害はさらに拡大したことは間違いない。これに反し、アメリカは公定歩合を下げることによって、世界同時株安を回避した。明らかに日本のバブル収束のための公定歩合引き上げを意識した行動だ。
サブプライム・ローンによる世界同時株安で、世界中は日本のバブル崩壊を思い出したに違いない。日本のバブル崩壊はカネ余りの世界をつぶすことで始まった。カネ余りは中央銀行が市場から資金を引き揚げ、金利を高くすることでなくなる。今回、日米欧の中央銀行は同時に市場に資金を大量に放出し、アメリカが公定歩合を下げることで、いわば「バブル存続」を宣言した形だ。市場は、安ど感から資金を株式市場に戻したが、サブプライム・ローンによる不良債権をどうするかの問題は何も解決していない。
日本の金融機関の不良債権処理には約100兆円もの資金が必要とされたが、サブプライム・ローンの焦げ付きに端を発するアメリカのバブル崩壊の不良債権処理は、恐らくそんな額では済まないはずだ。市場は自由になった分、すべてを把握することができなくなっている。その被害がどのぐらいに及ぶのか考え、対処しなくてはならないのだが、その情報が発表になれば市場の乱高下が予想されるし、対処の実行は自由になった分だけ難しい。自由主義市場のわがままが収まりつかないのだが、その犠牲者は常に資金を持たない一般庶民だ。もし、アメリカのサブプライム・ローンでバブルが崩壊し、日本の株式市場の暴落で日本経済に打撃を与えたら、大手金融機関の中には不良債権を出すところが再び出てくる。これにはもう日本の財政は対応できないはずだ。そうなると、大量の国債を抱える日本政府はデフォルト(債務を返せない状況)となり、世界の自由主義経済は崩壊してしまう。
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参考資料:
Microsoftエンカルタ総合大百科2007:「バブル経済」
24日のNY株、226ドル下落 住宅融資の焦げ付き影響 今年3番目の下げ幅 [2007年7月25日読売新聞東京夕刊]
GM1―3月期決算 純利益、前年比10分の1に 売上高も16%減 [2007年5月4日読売新聞東京朝刊]
世界同時株安、再燃も 東京市場急落受け [2007年3月14日読売新聞東京夕刊]
グリーンスパンFRB議長が31日退任 市場の魔術師、激動の18年余 [2006年1月30日読売新聞東京朝刊]
[アメリカウオッチ]バブル日本がたどった道? 「危険融資」に走る銀行 [2000年3月19日読売新聞東京朝刊]
福岡の興栄ホームが家賃保証の約束ホゴ アパート建設の家主、ローン返済不能に [1993年5月26日読売新聞西部朝刊]
[マネートピックス]信販各社、不動産事業へ本格進出 [1988年7月26日読売新聞東京朝刊]
アパート経営新型ローンを発売/第一勧業銀行 [1987年12月21日読売新聞東京朝刊]
参考サイト:
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