行政と司法が一体となって守ったブルドックの命 テロ特措法と韓国人アフガン拉致

安倍さんの去就を決めるあの勢力

岸田 徹 【岸コラ】
2007年8月10日(金)

参議院議員選挙の投票日だった7月29日夕方、自民党の森元首相と青木参議院議員会長、中川幹事長の3人がグランドプリンスホテル赤坂に集まった。3人は自民党は40議席に届かないとの見方ですでに一致していた。民主党が60議席を誇る中、自民党はわずか37議席しか取れず、参議院では与野党が逆転し、民主党が第一党となった。自民党が参議院で第一党を失うのは結党後初めてのことだ。

3人は、開票結果が出揃う前に、「首相が続投すれば、世論の厳しい批判を受ける。これ以上、(首相を)傷つけない方がいい」(読売新聞)という判断に傾いた。中川幹事長は会談の様子を安倍首相に伝えた。首相は顔を赤くして続投に意欲を示し、3人も最終的に首相の決断を受け入れた。選挙速報が流れる中、安倍首相はテレビ各局に出演し続投表明をした。(読売新聞)

安倍さんの続投理由は改革の続行だ。小泉さんから引き継いだ改革を行うことが自分に課せられた責任だとし、改革の火を絶やしてはならないというのが続投理由だ。

本人の意欲とは別に、安倍おろしの声は日増しに広がっている。安倍さんは、本当に続投に意欲を燃やしているのか、それとも辞めたいのに辞めることができないのか。いったいどっちだろう。その答えは、今まで安倍政権で失態を繰り広げた6人の去就に隠されている。誰が辞め、誰が辞めていないか――。

安倍政権発足から2ヶ月ちょっと、本間政府税制調査会長が渋谷にある幹部用の国家公務員宿舎に女性と一緒に住んでいると週刊ポスト(2006年12月11日発売)にすっぱ抜かれた。本人も12月13日の記者会見で、常勤の国家公務員ではないのに公務員宿舎に入居したのは不適切だったことを認め、釈明・陳謝後宿舎から退去することを明らかにし、21日に税制調査会長を辞任した。

騒ぎが収まらないうちに、今度は佐田行政改革相が自分の政治団体に、賃貸契約を結んでいない事務所と称するところに事務所費や光熱費など10年間で7,840万円の支出を計上していたことが明るみに出た。佐田大臣は翌日の12月27日に辞任を表明した。

年が明けても本間税調会長と佐田行革相の問題はくすぶり続けていた。1月末に松江市で開かれた自民党県議の後援会の集会で、柳沢伯夫厚労相が福祉や医療の展望について講演した。少子化問題に話題が及び、女性を産む「機械と言って申し訳ないけど」(朝日新聞)と述べ、これが「女性は子供を産む機械」発言となって問題化した。柳沢厚労相は出る場出る場でこの発言につて聞かれ、針の筵の上で弁明や陳謝をしながらも、「辞任」を口にすることはなかった。本間、佐田と相次いで大物が辞任する中で、すぐさま三人目が出たのでは、任命権者である安倍首相の命が持たないというのがもっぱらの辞任しない理由だった。

話は前後するが、年明け早々の1月10日、伊吹文部科学相、松岡農相、中川昭一自民党政調会長ら6人が家賃のかからない議員会館内の事務室を「主たる事務所」としているのに、高額の事務所費を計上していると問題にされた。伊吹文科相の「明風会」は5年で2億2,695万円、松岡利勝新世紀政経懇話会は1億4,275万円、中川氏の昭友会は2億8,586万円など。この問題は尾を引くのだが、ある問題を契機に松岡農相だけの問題となってしまった。それは、議員会館の光熱費や水道代は無償のはずなのに、高熱水費として5年間で約2,800万円を計上していて、その理由を求められたからだ。松岡農相は「なんとか還元水というのも付けているし」と苦しい答弁に終始し(3月7日)、明確な答えができないまま、大臣を続けた。そして、5月28日謎の自殺。

松岡農相の自殺は夏の参議院選挙に大きな影響があると言われながら1か月がたった。千葉県柏市の麗沢大学で久間章生防衛相が講演をした。原爆投下で終戦が早まった状況を指摘した後、「間違えると北海道までソ連に占領されていた。原爆も落とされて長崎は本当に無数の人が悲惨な目にあったが、『あれで戦争が終わったんだ』という頭の整理でしょうがないなと思っている」(読売新聞)と述べ(6月30日)、これが「原爆しょうがない発言」問題となった。これでは参議院選挙は乗り切れないと7月3日辞任した。

その後すぐ、松岡農相の後継に選ばれた赤城徳彦農相が、両親の住む実家を後援会事務所として「主たる事務所」と届けていたのが、事務所の実態がないと問題視された(7月7日)。参議院選挙は7月12日公示、29日投票とすでに閣議決定されていた。相次ぐ大臣の不祥事に劣勢の自民党は泣きっ面に蜂だったが、赤城農相は選挙を前にしても辞任の意向は示さず、選挙結果が出てから、自分の件が自民大敗の一因と認め辞任した(8月1日)。

辞任した人、しない人、その時々の理由はあるのだろうが、それらを別にすれば、辞任者と続投者との仕分けが明確にできる。それは、改革派か官僚派かの仕分けだ。辞任した人たちは改革派に関係し、辞任しない(あるいは辞任させてもらえない)大臣は官僚主導派に関係している。

不適切な公務員宿舎使用問題ですぐに辞任した本間税調会長は、かつて小泉政権で経済財政諮問会議の重要なメンバーだった。まさに小泉改革の重鎮だった人。やはりすぐに辞任した佐田行革相は言うまでもなく行政改革の直接の責任者だ。原爆しょうがない発言で辞任した久間防衛相は日米同盟の柱だった。改革派の日米同盟は、何のための同盟かと言えば、中国経済に対するけん制だ。経済大国日本が少子化で国力衰退がアキレス腱となっている現状では、一番の脅威が中国だ。急成長する中国経済をけん制するために、改革派はアメリカの力を借りて中国に対峙しようとしている。

一方、辞めさせてくれなかったのは厚生労働大臣と農林水産大臣。この両省は、大きな政府の代表格。つまり、反改革派の象徴ともいえる。年金、医療、福祉と多くの国民が重大な関心をもって見ている厚労省は、今後とも多くの税金で富の再配分をする役所だ。また、日本の農業は政府と自民党が一体となって行政を行ってきた。農林水産相は今も利権が残る象徴的な役所だ。

小泉さんや安倍さんが叫ぶ「改革」とは、役所の仕事を民間に開放する改革のことで、郵政民営化はその象徴だった。よって、改革派は小さな政府を目指し、その結果が地方分権になるのだけで、地方の活性化を狙ったものではない。これを主導するのはもちろん日本の大企業だ。その出島が経済財政諮問会議だ。

一方、そんな改革に反対する勢力が官僚組織。役所の仕事が民間に移行したのでは自分たちの仕事が奪われる。当然大きな政府の維持に努力している。高度経済成長を支えた官僚国家はそう簡単には崩れない。外交面では必ずしも日米同盟にこだわらず、どちらかと言えば国連中心主義だ。政策の決定は、官僚がおぜん立てをする「審議会」。

日本は今、この二つの大きな勢力のせめぎ合いになっている。どちらが主導かと言えば、郵政解散で大多数を取った小泉自民党を支える改革派だ。その司令塔は経済財政諮問会議。ここの誰かが、辞任か辞任でないかを決めているのではないかと疑っている。

つまり、柳沢厚労相も松岡・赤城両農相もさらし者になり、世間からさんざん非難されてその勢力をそごうとしたのではないかという疑いだ。一方、辞任した方は、早めに火を消し改革派への非難をかわす。

そこで、安倍首相だ。上記の辞任ルールからすると、改革派である安倍首相は改革派へ矛先を向けられないために早めに辞任するのが順当だ。しかし、それができない、あるいはしない理由が二つ考えられる。

ひとつは、民主党の大勝で、安倍さんの首を挿げ替えても次が持たない点。もうひとつは、改革派の安倍さんへの期待だった憲法改正では安倍さんが多大な貢献をしていても、それ以外では教育改革や技術革新支援、再チャレンジなど大きな政府寄りの政策にも傾注していた。そこに世間の批判を浴びせたいという目論見があるのではないか。だから、もう少しさらし者にと考えたのではないか。

経済財政諮問会議などの改革派が安倍さんをどう評価するか、この観点から安倍政権を見ることは今までと違った日本が見えてくるはずだ。

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参考資料:

Microsoftエンカルタ総合大百科2007:「経済財政諮問会議」

参院逆転(3) 問われる針路 成長戦略 日米同盟、実結ぶ論争を [2007年8月10日日本経済新聞朝刊]

参院逆転(2) 問われる針路 成長戦略 年金で「未来責任」果たせ [2007年8月9日日本経済新聞朝刊]

参院逆転(1) 問われる針路 成長戦略 大枠守れ [2007年8月8日日本経済新聞朝刊]

参院選で自民40割れなら… 「続投困難」3氏一致していた 安倍首相に伝える [2007年8月2日読売新聞東京夕刊]

赤城農相の政治団体、実態ない事務所届け出 茨城の実家「家賃、秘書常駐なし」 [2007年7月7日読売新聞東京夕刊]

久間防衛相「原爆で戦争終わった。しょうがない」 [2007年7月1日読売新聞東京朝刊]

「耕作放棄地ゼロ」計画、工程表を策定 経財諮問会議で民間議員提案へ [2007年5月9日読売新聞東京朝刊]

国交省所管の公共工事「すべて一般入札」 経財諮問会議で民間議員提案へ [2007年5月8日読売新聞東京朝刊]

銀行・証券兼業規制見直し 国際競争力強化狙う/経済財政諮問会議 [2007年4月18日読売新聞東京朝刊]

光熱費計上問題 松岡農相、説明を拒否 [2007年3月8日読売新聞東京朝刊]

有力議員ら不透明事務所費 家賃タダの議員会館内 収支報告書に年1000万… [2007年1月11日読売新聞東京朝刊]

本間政府税調会長、公務員宿舎退去へ 週刊誌報道で陳謝 [2006年12月14日読売新聞東京朝刊]

経済財政諮問会議の運営、誰が主導? カギ握る官邸 経財相の手腕は未知数 [2006年9月28日読売新聞東京朝刊]

参考サイト:

「女性は子ども産む機械」柳沢厚労相、少子化巡り発言

批判を受ける本間正明氏の官舎入居問題

経済財政諮問会議

自民:中谷氏、首相に辞任要求「一度、身を引いて」

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