ブルドックが噛みついたスティールの一言と尊王攘夷の弁護士 安倍さんの去就を決めるあの勢力

行政と司法が一体となって守ったブルドックの命

岸田 徹 【岸コラ】
2007年7月24日(火)

このコラムは、前作の「ブルドックが噛みついたスティールの一言と尊王攘夷の弁護士」の続きです。

スティール・パートナーズのブルドックソース買収劇は、ブルドックの株主総会決議でまずは乗り切った。スティールへの買収防衛策をブルドックの取締役会だけではなく、株主総会で決議したことに今回は重要な意味がある。取締役会だけの決議で防衛策を実行すれば、株主の利益についての議論が噴出してしまうが、株主総会で議決すれば、株主の利益のために防衛策を行うことになるからだ。

ブルドックの防衛策の基本は新株予約権の発行だった。かつてライブドアがニッポン放送の株を買い進んだ時に、ニッポン放送が防衛のために選んだのも同じ新株予約権の発行だった。この行為に不服だったホリエモンは東京地裁に差し止めを求める仮処分の申請をした。東京地裁は、ホリエモンの訴えを認め、ニッポン放送はこの防衛策を使うことができなくなった。

ライブドアとニッポン放送の関係は、スティールとブルドックの関係と同じだ。ライブドアの主張が認められたのなら、スティールの主張が認められていいはずだった。しかも、東京地裁の担当裁判官はライブドアのときと同じ、鹿子木康裁判長だ。

ライブドアのときには鹿子木裁判長が、大量の新株予約権発行が、商法で差し止めの対象とされる「著しく不公正な方法で、一般株主に損害を与える新株発行」に当たると判断した。(日刊スポーツ)

ブルドックの防衛策は、この判決理由を元に作られたと考えられるもので、一般株主に損害を与えずに行うには、防衛策が株主の利益に反することはないとの一般株主の判断が必要だった。それがブルドックがこだわった株主総会決議だった。鹿子木裁判長も今回の決定理由に株主の意志尊重をあげている。

東京地裁の決定に不服だったスティールは東京高裁に仮処分の申請を上げた。ところが、東京高裁は、さらに突っ込んだ決定で、スティールを自分の利益だけを追求する乱用的買収者と判断し、ブルドックの自己防衛手段を認める判断をした。この判断をした裁判官は藤村啓裁判長で、藤村裁判長はかつて東京地裁で民事を担当しているときに、タクシー運転手の乱暴運転で助手席から振り落とされ視力障害を負った主婦が治療費と慰謝料を求めた裁判で、慰謝料の請求を上積みした判決を出したことがある(1987年5月)。これは極めて異例で、藤村裁判長の他の判決を見ても、熱血漢を感じるものが多い。

東京地裁、高裁の判決が続けてブルドックに同情的だったのは、岩倉正和弁護士の緻密な戦略と池田章子社長の人柄も寄与したと思うが、もうひとつ全体を覆う陰の存在がある。経済産業省だ。

実は、スティールとブルドックの戦いは、スティールとサッポロホールディングスとの戦いの延長線上だった。これをさらに解釈すると、スティールとの対戦相手は日本の全上場企業との戦いである様相が強い。

スティールはサッポロHDに対し2005年8月時点で17.59%の株式取得を進め、サッポロHDの筆頭株主になっていた。ほぼこの時を同じくして、経産省は法務省と一緒に「敵対的買収に関する企業の防衛策指針」を発表した(2005年5月)。サッポロHDは以降、スティールに対する防衛に走り、両省の指針に沿って買収防衛策を導入した。その後、アサヒビールが経営統合を申し出るなど、スティールの買収攻勢に絡んでサッポロHDは大きく会社が揺れた。2月にはいよいよスティールが買収提案を持ちかけ、戦いはまだ収束していない。

スティールのリヒテンシュタイン代表は、上記の経産省と法務省が合同で出した「企業の防衛策指針」が相当気に食わないようで、ブルドックの池田社長と会談する前日に都内で開いた記者会見で、「主観的で最悪」と批判した。これに対し、経産省の官僚トップである北畑隆生事務次官は、すぐに「国内的にも合法で、国際スタンダードに沿ったもの。(指摘は)全くの事実誤認」と反論した(読売新聞)。北畑次官はバブル経済が始まったころ老後を海外で暮らそうという「シルバー・コロンビア計画」を時の通産省で発表して有名になった方だ。

北畑次官とリヒテンシュタイン代表の言いあいは、ブルドック問題で始まったわけではない。スティールがサッポロHDに買収提案をした際に、北畑次官が定例記者会見で「スティールの日本でのこれまでの行動から見ると、(株を買い集め、高値でその会社や関係者に引き取らせる)グリーンメーラー的な動きをした会社」との見方を示し、スティールが高値売り抜けを考えていないなら「買収後の経営ビジョンを明示すべき」だと述べた(読売新聞)ことに始まる。

ブルドックの件での東京地裁と高裁の判断は、明らかに経産省と法務省が合同で出した指針に基づくものだ。経産省の北畑次官は「国内的にも合法」と主張するが、法律では明らかでないから両省が指針を作ったわけで、「合法」の根拠は複数の判断の集合体であることは間違いない。こういう法律ではなく官庁から出る「指針」で物事が進んでいくことに対して、外国勢は大変なアレルギーがある。いわゆる行政指導と言われる類で、国会を通過した法律以外の基準で判断されるわけだから、村八分的なペナルティとして外国人には映る。

そもそも、上場企業が見知らぬ者に株を買われることに警戒感を示したら、その会社は何のために上場したのかが問題となる。危険にさらされるのがいやなら上場しないのが得策だ。企業が株式を上場する理由は、事業資金を直接市場から安く調達するためだ。これを、あんたはいいけれどあんたはダメとやられたのでは、投資する方はそっぽを向いてしまう。いい投資家か悪い投資家かの判断は誰がどういう基準でするかで大きく違う。

話は少しずれるが、日本は、たとえ防衛庁を防衛省に昇格させて国を守ろうと必死になっても、攻めてくる国は全くない。理由は、資源がないからだ。石油もないし鉱山資源もない、豊富な作物を生む広大で肥沃な土地もない、占領しても国土に利益はない。あるのは、大量の国債と、高度な産業製品を生み出す国民の能力と努力だけだ。国民を占有しようと思っても、英語を6年間やってもちんぷんかんぷんの国民性だ。占領国が自由に操ろうとその国の言葉をいくら教えても理解ができない。つまり日本の唯一の資源である国民すら占領者のものにはならないのだ。

そんな国を外国が占領しようと攻めてくるはずは絶対にない。だから、仮に日本が外国から攻撃されるとするならば、日本が他国を攻め、その防衛のために他国が日本を攻めてくる場合のみだ。

ところが、日本は防衛しなくてはならないことがある。武力に対する防衛ではなく、資金に対する防衛だ。すでに資金の移動に国境はなく、外国からのファンドだと言っても、そこには日本人の資金も入っている可能性が十分にあり、事は複雑だ。過剰防衛は企業の発展を妨げ、無防備な状態では企業がせっせと蓄えた財産をいとも簡単に奪われる。日本が外国に占領される唯一の想定は、資産価値のある企業が次々と外資によって奪われることだが、これを阻止していいのか、受け入れて共存するのかの国民的合意ができるのは、まだまだ先だ。その前に、官僚が一定の結論を出し、行政と司法が一体となって企業の防衛策を出したことは、必ずしも日本のためにはなっていない。

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参考資料:

TBS株の取引帳簿閲覧請求 楽天の仮処分申請却下/東京地裁 [2007年6月16日読売新聞東京朝刊]

サッポロ防衛策、実効性に注目/北畑経産次官 [2007年2月20日読売新聞大阪朝刊]

スティール買収提案 サッポロ、防衛策を検討 「乱用」目的か精査へ [2007年2月17日読売新聞東京朝刊]

旧東京相和銀「見せ金増資」 元会長に189億円支払い命令/東京地裁 [2006年5月26日読売新聞東京朝刊]

堤猶二氏の仮処分申し立てを却下/東京地裁 [2005年12月21日読売新聞東京朝刊]

サッポロHDが「事前警告型」買収防衛策 取得目的や事業計画提出要求 [2006年2月18日読売新聞東京朝刊]

コクド28日臨時株主総会 「招集禁止」申し立て却下/東京地裁 [2005年6月16日読売新聞東京朝刊]

ニレコの新株予約権差し止め 「既存株主に不利益」、高裁判断(解説) [2005年6月16日読売新聞東京朝刊]

敵対的買収防衛策指針を発表 ポイズンピル、国がお墨付き 導入促す効果も [2005年5月28日読売新聞東京朝刊]

敵対的買収防衛策指針 株主総会承認、原則に 新株予約権の発行条件を明記 [2005年5月27日読売新聞東京朝刊]

東京中央信組元理事長らに賠償命令/東京地裁 [2005年5月27日読売新聞東京朝刊]

「日本信販」巡る訴訟 株主の請求棄却/東京地裁 [2005年3月4日読売新聞大阪朝刊]

交通事故被害者4人、実は故意 保険・賠償、全額返せ/東京地裁民事部 [1988年10月29日読売新聞東京朝刊]

タクシー振り落とし事故に請求上回る慰謝料命ずる/東京地裁 [1987年5月30日読売新聞東京朝刊]

[決断インサイド]通産省サービス産業室長 北畑 隆生さん [1987年2月1日読売新聞東京朝刊]

シルバー・コロンビア計画 「移住」でなく「長期居住」(解説) [1987年1月31日読売新聞東京朝刊]

参考サイト:

ライブドア勝利、新株予約権発行差し止め

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