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岸田 徹 【岸コラ】 |
年金問題は今回の参議院選挙では最大の争点になっている。読売新聞の世論調査(6月26日から28日実施)では、投票にあたって重視する項目が、年金67.0%で1位。教育41.3%、政治とカネ40.2%と続く項目を大きく引き離している。
年金問題が争点になる選挙はたびたびある。郵政解散選挙(2005年9月)でも野党は年金問題を争点としたし、前回の参院選(2004年7月)でも最大の争点になった。前回の年金問題は制度そのもののが争点になり、国民・共済・厚生の一元化が議論された。この結果、民主党が躍進しているが、一元化はいまだに実現していない。
今回は、年金が最大の争点だと言っても、一元化議論は目立たない。制度をどう変えるかより年金制度の運営に対する不安が争点で、「年金の記録漏れ問題」に端を発した問題が争点になっている。これは、実に分かりにくい。
安倍自民党総裁は、社会保険庁の「親方日の丸」体質や悪い労働慣行を打破し、社会保険庁を解体して公務員制度を改革すると主張する。小沢民主党代表は、年金は国の責任で全額支払い「年金通帳」で記録を確認できるようにすると訴える。正確な調査はないが、先の読売新聞の調査では、安倍内閣の支持率が20歳代から40歳代では前回調査より支持が減っているのに、50歳代は増え、60歳代は8%と大幅に増えていることから類推すると、年金をもらう対象となる世代は、安倍さんがいち早く年金記録漏れに時効をなくすなどのアクションを取ったことには好感を持っているのではないか。
当然のことだが年金問題は、年代によって関心事が違う。年金受給層は年金額が気になるし、働き盛りの年代は保険料が気になる、若い世代は制度そのものが気になるものだ。どこの層の票を取るかで各党の政策が違ってくる。人口が多いのは年金受給層で、自民党はこの層をターゲットにした政策を展開しているし、労働組合が支持をしている民主党は年金保険料を支払っている人たちに分かりやすい政策を展開している。どちらの場合も、年金制度に対して最も不安を抱いている若年層に配慮した議論はされない。人口が少なく票が取れないからだ。年金問題の基本は少子高齢化なのに、皮肉なことだ。
そもそも年金とは誰のためにどうあるべきなのかを議論しないで年金問題を争えば、得する年代の数が多い方に政策が偏るのは当たり前だ。これでは年金問題はいつになっても正常に議論することができない。
年金制度が生まれたのはそう昔のことではない。世界の歴史の中でも130年ぐらいだと言われ、日本の年金もそのぐらい前に生まれた。恩給がそれで、軍人や官僚など国に貢献した公務員に対して退職後や何らかの事情で職に就けなくなった時に給付した。この制度が後の共済組合になる(1958年)。厚生年金の原型は太平洋戦争が始まろうとしていた時期(1941年)に生まれた。戦時生産体制を強固にするため労働力の確保が求められていたので、軍人さんと同じ恩給が付くという「労働条件」はいい宣伝になったのだと思う。
しかし、年金制度導入の目的はそればかりではなく、保険料の徴収で戦費を調達することに役立った。年金制度は最初から、「将来のあなたのため、現在の政府のため」という側面がある。これは、今も変わらない。
年金制度は、積み立てたお金を運用し支給する「積立方式」と、徴収したお金を年金受給者に支払う「賦課方式」の二つがある。自分で積み立てたお金を将来の収入がなくなった時に取り崩す積立方式は最も公平で誰も文句のつけようがないが、これは国でやる必要はなく、年金を受け取りたい個人が信託銀行や生命保険会社などにその運用を依頼すれば話は終わる。
国が年金制度をやる根拠は憲法にある。第3章の「国民の権利及び義務」の第25条で、「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。」という部分だ。日本国民なら最低限の生活をする権利があり、日本国はそれをさせる義務があるというわけだ。
年金制度は、健康保険や雇用保険、介護保険などの社会保障制度のひとつで、日本国民が最低限の生活を営むために必要な国家が努力して維持しなくてはならない制度だ。ポイントは「最低限の生活が営める」だ。日本は自由主義、資本主義の国で、法律に則っている限り、努力することによりお金を儲けることに制限を加えない。いくら儲けても犯罪ではない。しかし、そのために儲けられない人が出てくる。例えば、自動車、冷蔵庫などをつくる会社が出現すると、それまでの産業構造が崩れる。馬車会社は倒産するし、町の氷屋さんは仕事がなくなる。何も、馬車会社の人たちが怠けていたわけでも、町の氷屋さんが氷を作れなくなったわけでもない。こういう社会の変化は50年働いている間には必ず出現する。これは人間の努力の範疇を超えるものだ。
これで人生が決まってしまったのでは何のための人生なのか分からない。そこで、社会保障という考え方が生まれてくる。日本の実社会は、貢献度によって富が配分される仕組みだ。よく働いたものが多く所得を得る。その人が必要な額だけの所得を得ているわけではない。稼げる額と、生活に必要とは別だ。そこで、その富を生活するのに必要な額に再配分しようとするのが社会保障制度だ。
だから、年金は自分が積み立てた額を国が運用し、年をとったらその積立額を取り崩しながら国が年金として支給するものではないのだ。多く保険料を払おうが、少なかろうが、自分が年金をもらう番になったら生活に最低必要な額を受け取るというのが本来の年金の姿だ。
だから、年金は積み立てる必要がなく、そのまま支給すれば事は済む。それなのに今は150兆円もの積立金がある。かつては、このお金が全部第二の国家予算と言われる財政投融資に回っていた。それが、公団や政府系金融機関に流れ、天下りの温床にもなっていた。現在は自主運用が原則になっているが、3分の1から半分が財投債に回っていて、相変わらず財政投融資の資金になっている。
つまり、払った年金は必ず全額支給するという主張を与野党とも展開すればするほど、積立金の額を多くする環境が生まれるのだ。そのお金は、「資金の運用」という名目で官僚の天下り先に流れていく。実に手の込んだトリックだ。
年金積み立てなど求めても国民の得には全くならない。今積み立てたお金が20年後、30年後、40年後どうなるかなんて、誰にも分らない。そんな不確定なものを頼るより、年金は支給すべきお金を集めた方がはるかに簡単で健全だ。さらに、年金制度は年金だけを議論しても無駄で、年をとったら医療と介護は切っても切れない問題だ。いくら多く年金をもらってもそれ以上の医療費が出たのでは最低限の生活はできない。他の社会保障制度と兼ね合わせて年金制度を作り直すことが肝心だ。
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参考資料:
Microsoftエンカルタ総合大百科2007:「年金」「社会保障制度」「財投債」
主要7党首討論会の要旨 年金問題、争点明確に [2007年7月12日読売新聞東京朝刊]
内閣支持率微増34% 選挙区投票、民主に24%/読売新聞社継続世論調査 [2007年6月29日読売新聞東京朝刊]
年金不信76% 内閣支持率は38%/読売新聞全国世論調査 [2007年6月19日読売新聞東京朝刊]
基礎からわかる年金一元化 負担と給付どうなる=特集 [2005年10月26日読売新聞東京朝刊]
参院選争点 与野党の主張・反論=特集 [2004年7月11日読売新聞東京朝刊]
年金の信頼、大揺れ? 5年に1度の見直し年だが…(解説) [2003年5月25日読売新聞東京朝刊]
[続・わかる年金教室](34)今後の課題=5(連載)[2000年7月8日読売新聞東京朝刊]
[社説]50周年に考える年金の将来 [1992年11月6日読売新聞東京朝刊]
参考サイト:
平成17年度 厚生年金保険及び国民年金における年金積立金運用報告書
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