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岸田 徹 【岸コラ】 |
公安調査庁の元長官が、どうして朝鮮総連の本部を買うのか――日本の公安に疑念がわいた。拉致問題が解決しないのもこんなことが原因かと疑った。しかし、事件は全く違う方向に展開した。
事件の側面は、2つ。
(1) 売り手と買い手の問題
朝銀信用組合の破たん処理で公的資金が1兆1,440億円使われ、それを回収する整理回収機構が、朝銀信組から朝鮮総連に流れた627億円を返還請求した。その返還訴訟で東京地裁が訴えを全面的に認めたため、朝鮮総連の資産が競売にかけられる可能性が大きくなった。競売の前に、朝鮮総連は中央本部の土地と建物を、投資顧問会社に売却するため、登記を移転した。ところが、売買代金が払われず、取引は無効となった。この取引は、買い手が元公安調査庁長官の会社、売り手側の朝鮮総連の代理人が元日本弁護士連合会の会長だったことが問題視された。
(2) 買い手の利益
朝鮮総連は本部の土地と建物を35億円で売却することにし、売却後は毎月3億5千万円の家賃を支払い入居を続けるとしていた。5年後には朝鮮総連が買い戻すことにし、その間の家賃などを計算すると、元公安調査庁長官の会社は21億円の利益を上げるはずだった。移転登記の1カ月以上前に、取引の仲介をしたとされる元不動産会社社長に朝鮮総連が4億数千万円を支払った。支払の理由は、前家賃の3億5千万円と元社長への謝礼1億数千万円とのことだったが、1億円を元長官が受け取ったことが判明した。
この事件は、日本の公安問題を云々する事件ではない。存続の危機にさらされた朝鮮総連がうその登記で財産保全を試み、それに乗ったふりをした口利き役がまんまと金をだまし取った二重の詐欺事件の様相が強い。朝鮮総連はまんまと引っ掛かってしまった感じだが、恐らく裏はもっとドロドロとしているはずだ。
公安調査庁の長官をした緒方重威(しげたけ)氏が朝鮮総連の土地取引に関与するのは大問題だが、そこがこの話のミソで、朝鮮総連も安心だし、整理回収機構も煙に巻けると選ばれた配役だ。しかし、乗ってしまった緒方氏は、自身がこうも元公安調査庁の長官だったと騒がれるとは思っていなかっただろう。
公安調査庁の調査対象は二つある。調査第一部が国内問題を扱い、極左組織や右翼団体の調査をしている。サリン事件のときはオウム真理教もその対象だった。市民団体や労働運動も調査の対象とされている。調査第二部は国際問題を担当し、かつては社会主義、共産主義の国々を調査対象としていたが、冷戦構造が崩れた現在は、朝鮮総連を主な対象としている。朝鮮総連を調査する側が調査される側とねんごろになっているのでは、ろくな調査をしていないのではないかと疑いたくなるのが人情だ。
公安調査庁の調査は、破壊活動防止法(破防法)がその根拠になっている。緒方氏が公安調査庁の長官をしていた1993年から95年の2年間は、松本サリン事件(1994年6月)と地下鉄サリン事件(1995年3月)が起きた時で、公安調査庁はオウムに振り回されていた。
この時、緒方氏は「一連の事件は公安上、憂慮すべきものであり重大な関心を持っている」(読売新聞)と参議院予算委員会で破防法の適用について聞かれた際答弁している。しかし、結局緒方氏は何もしなかった。省庁再編も絡んで、公安調査庁不要論が堂々と議論され、やっとの思いでオウム真理教に対して破防法の処分請求がされたのは、緒方氏が長官を辞めた後だった。(結果的に請求は棄却され破防法の適用はなかった。1997年)
緒方氏は、公安調査庁長官の後出世し、検事ではたった8人しかなれない検事長となり仙台高検、広島高検に赴任した。検事長になって2年、緒方氏は定年で退官した。北朝鮮の拉致問題が表面化し、拉致被害者家族連絡会ができたのは緒方氏が定年退職した年である。
つまり、緒方氏の意識の中には、公安調査庁が拉致がらみで朝鮮総連を見ていた時期がないのだ。それに加え、日本の公安問題を国家権力をもって扱っているのは、公安調査庁ではなく、警察庁警備局内の公安課だ。朝鮮総連ににらみを利かせているのは公安調査庁とするのは誤解だ。
緒方氏が最後に務めた検事長というのは、検事総長、次長検事の次の位で、検事の出世としては最高峰だ。検事総長、次長検事、検事長というのは認証官と呼ばれ、天皇の認証が必要。検事総長の待遇は総理大臣クラスだと言われている。それからすれば検事長は副大臣か政務次官クラスの待遇だ。だから、緒方氏を紹介する旧役職は、検事長がふさわしく、瑞宝章を受けた時も「元広島高検検事長」の肩書だ(2005年)。これが、今回の事件では「元公安調査庁長官」と呼ばれるのは、報道の面白さを狙ったものだ。
瑞宝章の受勲など、まるで退官後は俗世間から離れた所にいる印象を受けるが、退官後の緒方氏は、弁護士の肩書を持ち、文部省の保健体育審議会委員になったのをはじめ、総理府の青少年問題審議会委員、中央教育審議会スポーツ振興投票特別委員長(サッカーくじ)などの委員を務めると同時に総会屋への利益供与事件を起こした神戸製鋼所の「企業行動倫理委員会」の委員になっている。これらは、やはり元検事長だったから行った名誉職的委員活動だ。
その一方で、実利が絡んだとも思える弁護士活動もしている。今回の件で話を持ちかけたとされる不動産会社「三正」の元社長満井忠男氏が、1998年に強制執行妨害事件で逮捕されたときに弁護士を引き受けている。
この時は、単なる弁護士活動だけではなく、満井氏の土地・建物を緒方氏の親族会社が購入していた。「元社長が元長官の名声を利用しているように見えた」と不動産業者が印象を語っている(読売新聞)。
強制執行妨害や関係先の不動産を購入するなど、今回の事件と「手口」がよく似ている。さらに、この手の犯罪には闇の社会が絡んでいる場合が多い。昔の話になるが、住宅金融専門会社(住専)の不良債権処理が一向に進まなかったのは暴力団がこれにつけ込み債権回収を有力な資金源にしたためだった。
緒方氏は今回の話を持ってきた満井氏とは以前から親しかったはずで、闇の社会が絡んだ案件を弁護士として取り扱っていたに可能性がある。
これから類推すると、この事件の経緯は、朝鮮総連側が財産保全を図ろうと闇社会にその処理を依頼し、依頼された闇社会は満井氏を通じ緒方氏を祭り上げて朝鮮総連に打開策を持ちかける。その報酬を朝鮮総連からいただくと、闇社会だけがその利益に浴しあとは知らん顔。残ったのは、騙された朝鮮総連と受け取ってはいけないお金を受け取った元検事長の緒方氏だけ。
暴力団のビジネスは人が困っているのを超法規的に助けることだ。しかし、一方的に助けるだけでは半人前で、困っている人の間に立ってダブルで儲け、その汁を永遠に搾るのが善人のビジネスとは違う恐ろしいところだ。
地検特捜部の幹部は「検事長OBの疑惑は、我々の手で解明する必要がある。『身内に甘い』との批判を浴びないよう徹底的に捜査を尽くす」と語気を強めた(読売新聞)というが、特捜部が頭にきているのは、元検事長が闇の社会とつながっているからではないか。
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参考資料:
Microsoftエンカルタ総合大百科2007:「検察庁」
総連本部登記問題 売買契約1か月前、緒方元長官に1億円 総連副議長を聴取 [2007年6月21日読売新聞東京夕刊]
総連登記問題 契約1か月前に4億円、売買仲介の元社長に 早くから取引関与か [2007年6月20日読売新聞東京朝刊]
[スキャナー]627億返還命令 総連拠点どうなる 検察「動機はカネ」見方も [2007年6月19日読売新聞東京朝刊]
[社説]朝鮮総連判決 乱脈が招いた全額返還命令 [2007年6月19日読売新聞東京朝刊]
山口の母子殺害 弁護士懲戒請求、遺族が理由説明 [2007年1月20日読売新聞東京朝刊]
旧住専巡る資産隠し事件 安田弁護士側が控訴棄却求める/東京高裁公判 [2006年2月2日読売新聞東京朝刊]
毒カレー事件上告審 真須美被告に新弁護団 オウム松本被告の元弁護人ら [2006年1月3日読売新聞東京朝刊]
秋の叙勲 中綬章以上と在外邦人、外国人叙勲の受章者一覧 [2005年11月3日読売新聞東京朝刊]
秋の園遊会招待者(都内分)=10月17日 [2003年10月17日読売新聞東京朝刊]
神鋼の株主代表訴訟 原告、企業姿勢を厳しく問う 社内に倫理委発足=兵庫 [2000年1月22日読売新聞大阪朝刊]
神戸製鋼所が「企業行動倫理委」発足へ 総会屋への利益供与事件を受け [2000年1月21日読売新聞大阪朝刊]
総理府人事=12月1日 [1998年12月1日読売新聞東京朝刊]
破たん銀行などの経営者に刑事責任追及を 中村法相が検察長官会同で指示 [1998年10月7日読売新聞東京夕刊]
文部省人事=7月15日 [1998年7月15日読売新聞東京朝刊]
旧住専の解散から2年 借り得許さぬ闘い続く 上位10社、計24人起訴=特集 [1998年6月24日読売新聞大阪朝刊]
住専債権回収妨害 不動産会社社長 起訴事実認める [1998年06月05日産経新聞東京朝刊社会面]
住専融資先の社長ら逮捕 債権回収妨害容疑 [1998年03月20日産経新聞東京朝刊社会面]
札幌高検検事長に村山弘義氏を任命/政府 [1997年5月7日読売新聞東京朝刊]
大阪高検検事長に荒川洋二氏が内定 [1996年5月9日読売新聞東京朝刊]
「オウムに破防法」決定 日弁連が「遺憾」談話 [1995年12月15日読売新聞東京朝刊]
オウムへの破防法適用に慎重さ求める/日弁連会長 [1995年9月30日読売新聞東京朝刊]
東京高検検事長に土肥孝治・大阪高検検事長を正式決定/政府 [1995年7月28日読売新聞東京夕刊]
公安調査庁長官に杉原弘泰福岡地検検事正を起用 [1995年7月1日読売新聞東京朝刊]
オウム真理教事件関連 破防法適用慎重姿勢に批判続出/自民党総務会 [1995年6月21日読売新聞東京朝刊]
次期検事総長に土肥氏が有力 東京高検検事長に内定 [1995年6月20日読売新聞東京朝刊]
「破防法」に悩む法務当局 オウムに初適用取りざた [1995年4月29日読売新聞東京朝刊]
朝鮮総連の人員、5万6000人 公安調査庁が在日韓国・朝鮮人の内訳初公表 [1994年3月31日読売新聞東京朝刊]
6高検検事長を内定 大阪高検は土肥孝治・次長検事/法務・検察首脳人事 [1993年6月1日読売新聞東京朝刊]
参考サイト:
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