松岡農相が自殺で言いたかったこと。 「時効」をなくす「非常事態」

年金は積立か仕送りか。

岸田 徹 【岸コラ】
2007年6月1日(金)

本日未明、年金特例法案が衆議院で成立した。安倍首相は党首討論(5月30日)で法案には明記されていないが、宙に浮いた5千万件のデータを1年間ですべて確認調査すると息巻いた。

5千万件のデータを、日曜祭日を休んだとして1年間の300日で突合するには、毎日167,000件のデータを処理しなくてはならない。社会保険庁の職員17,000名がこのデータを処理するとなると、職員一人当たり一日10件のデータを処理することになる。

もともとこれらの突合作業は、国民年金と厚生年金と共済年金に分かれていた人口の4倍ほどの件数データをひとつにする作業で突合できなかったデータだ。名前の読み方を違えて入力したり、結婚で名前が変わったり、給付前に死亡したりのデータだという。機械で名寄せできなかったデータというのは、人間が判断しなくてはならないが、面識がある人ならともかく、データ上で生年月日と住所が同じでも名前の読み方が違う人を一人の人間としてデータをひとつにするには勇気がいる。そんな単純なものでも、直接本人に確認して証拠書類をとっておくのが役所仕事だ。突合作業には思いもよらないものも出てくるもので、生年月日が1年違うとか住所の町名が違うとか、突合すべき相手が複数あるとか経験と勘だけでは処理できないものが大半だ。

そんな作業を、毎日休まず全職員が10件欠かさず行なうなど、自分の仕事を抱えながらは到底できない。もし、職員ができないとなれば、専門のアルバイトか職員を採用することになる。一日10件丹念な調査で突合作業をやったとして、日給5千円のパートを1年間17,000人雇うと255億円かかる計算だ。現在年金を掛けている人は7千万人。仮に、255億円を年金を掛けている人に負担してもらうとなれば一人当たり350円払わなくてはならない。そして、突合後判明した新たな年金額もこの7千万人で負担しなくてはならないのだ。

いったい、その金額はいくらになるのか、なかなか明らかにならないが、5千万件のうち1,800万件ほどはすでに年金を受けている世代のものだと想定されている。仮にその1,800万件のうち1千万件が本人の申請で判明したとしたとしよう。その年金額が年間10万円なら1兆円になる。この1兆円を年金を掛けている7千万人で負担すると、一人当たり14,000円になる。我々の掛け金が年間14,000円増えるのだ。この点は、どこのメディアも書かないのが不思議だ。

ええっと思われる方もいるだろうが、これは事実だ。

平成17年度の年金支給額は約46兆円だと前々回の【岸コラ】で書いた。この数字は社会保険庁が今年2月に発表した数字だ(45兆7,648億円)。年金を受取っている人は全国で3,287万人。一方、年金を掛けている人は全国で7,045万人だ。年金積立の額は約150兆円なので、年間46兆円の支給を積立金の取り崩しで賄おうとすれば、3年で終わってしまう。つまり、今の日本の年金の仕組みは、掛け金を運用して支給時にそれを受取るのではなく、現在年金を掛けている額がそのまま受取る人のところに渡っている。

支給額を受給者で割ると一人当たりの平均受給額が出るが、その額は月額11万6千円。今度は支給額を掛けている人で割ると平均納付額が出るはずだが、その額は月額5万4千だ。色々数字を調べてみると、納付額の5万4千円は保険料の割合は6割ほどで、あとは税金の投入や積立金の取り崩しなどでつくろいながら捻出されている。税金は6兆円以上投入されているが、この額は日本の所得税収入の半分、消費税収入の6割に相当する。取り崩しの額も考えると、日本の年金は、実質的に消費税額がまるまる年金支給にあてがわれないとやっていけない状態だ。

これらの実態を考えると、宙に浮いた5千万件をきちんと処理するのはいったい何のためなのかがよく分らない。自分が積立てたお金がどこかへ行ってしまったのなら、それは大問題だが、もともと我々の掛け金は積立てられているわけではない。また、積立てられていない原因がグリーンピアなど無駄な建物に消えたわけでもない。グリーンピアの建設費は全部で3,800億円。その後の赤字を含めたり、その他にも厚生年金病院の施設拡充に1兆5,700億円を投じたりと、かつては湯水のごとく使われた感じもあるが、それでも全部あわせて4兆円ほどだと想像される。これが全部弁済されたとしても、1ヵ月分の年金支給額にしかならない。

年金の仕組みは、働いている者が自分の給料から直接実家の両親に生活費を仕送りする代わりに、相互扶助の精神を全国民的に広げ多くの国民ができるだけ均等に老後が送れるよう国が仲介しているシステムだ。決して年金積立を仲介しているわけではない。

その相互扶助の精神からすれば、いらないという人に年金を支給する必要はまったくない。せっかく子供が働いたお金だから、そんなに無理して送る必要はないと断る親は必ずいる。

「(政府・与党は)持ち主不明の年金記録5000万件もすべて調査し、実態を明らかにするという。膨大な作業だが、国民の年金不信を解消するには不可欠だ。社保庁が残した負の遺産とも言うべき難題を解決しなければならない。」――これは読売新聞の社説(5月29日付)だが、どこの論調も社会保険庁にすべての責任を押し付け、新たに年金額が増えることを望んでいる。そのためにどれだけの費用がかかり、その後どれだけの負担を誰がしなければならないのかを論じることはない。こんな無責任な発言を上から下まで行なって、いったいだれが得をすると言うのか。

的が外れた不毛な議論に国中が乗っ取られている感じだ。

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このコラムに関連する【岸コラ】

宙に浮く基礎年金番号5千万件の大騒ぎ

「時効」をなくす「非常事態」

参考資料:

年金特例法案が衆院通過 社保庁法案も 野党、抵抗強める [2007年6月1日日本経済新聞14版朝刊]

年金記録漏れ 「5千万件を1年で調査」党首討論で首相答弁 法案は衆院委可決 [2007年5月31日読売新聞東京朝刊]

「年金」ずさん運用浮き彫り 保養施設で損失も 民主、政府の責任追及 [2004年2月13日読売新聞東京朝刊]

[変わる年金](69)グリーンピア=2 戻らない投入資金(連載) [2003年8月19日読売新聞東京朝刊]

参考サイト:

厚生年金特別会計 −年金取り崩しの実態−

第3回社会保険庁の在り方に関する有識者会議議事要

日本の財政を考える

平成17年度一般会計歳入歳出決算

社会保障と財政について

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