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岸田 徹 【岸コラ】 |
政府は社会保険庁を廃止して解体後、役人でない人たちが運営する公法人に年金業務を行なわせようとしている。そのための法案を現在国会で審議している。その審議の中で、実際に保険料を納めているのにその記録が飛んでしまったためにその分の年金が受取れないケースがあるとの指摘が野党から上がった。
その後、そうしたケースが起こる可能性を含む記録が5千万件あることも判明し、いわば宙に浮いた納付データがあることが大問題になっている。原因は二つ。ひとつは、国民年金、厚生年金、共済年金とそれぞれ別々の年金番号で運用されていたのを1997年に年金番号を一本化した際に起こった。当時、導入が検討されていた納税者番号を意識し、年金番号を一本化した基礎年金番号制が導入された。これにより、転職などで国民年金と厚生年金の両方をかけていた場合でも、二つの年金番号が統一され、一人ひとつの年金番号で自分の年金が管理できるようになった。しかし、これが手作業のため氏名の読み方などが違ったりで一本化できないデータが宙に浮いたままになっている。
もうひとつは、保険料を払いながらも受給前に死亡した場合はデータを消滅させる方法がないのでそのまま宙に浮いてしまったというもの。
現在、年金を受けている人は3,287万人。受給対象者と想像される年齢で宙に浮いたデータは1,867万件あるということで、約6割の人はもう少し年金がもらえる可能性があるというわけだ。
大変なずさん管理にもかかわらず、社会保険庁はその実態解明や救済に向けての処置に消極的だとマスコミ各社は批判する。
しかし、自分のところが解体されるのを目の前で議論されているのに、最後のご奉公とばかりに最善策を考えることなど、いくら役人が公僕でも考えられないことだ。
それに、この問題は、年金を管理している役人と保険料を納付している国民、それに問題を報道しているマスコミとの間に大きな現状認識のズレがある。それを確認しないまま、大変な事として問題視されている。管理は徹底している方がいいに決まっているが、この問題は、大騒ぎする方が問題だ。
保険料を納め将来の年金受給に備えようとする人、あるいはすでに納め終わり年金を受給している人にとっては、自分が将来のために納付した保険料の額が分らないというのは信じられない、許せないという気持がある。もし、これが銀行で40年間積立てたお金がいくらだか分らないなどと言われたら大問題。そんな銀行は一夜にして潰れると非難するテレビのコメンテーターもいた。
一方、社会保険庁側の論理は、年金受給に際しては、受給の申請をしてもらっていて、その際一人ひとりに年金額がいくらになるのかの裁定をし、疑問があればきちんとその場で対応しているので、宙に浮いた5千万件のデータはその時点で該当者が見つかるはずだと主張する。
しかし、マスコミはそんな対応では、宙に浮いたデータの存在を受給申請者の方から申し出ない限り発見できないし、担当官の応対が悪ければ調べてももらえないケースが起きるはずだと、社会保険庁側がもっと積極的に予想される当該者にアプローチすべきだと役所の対応の無責任さを指摘している。
ここで、年金に対する意識が役所と国民との間で大きく違うのが分る。国民は年金は将来に備えて積立てているという意識だ。ところが役所はそんな意識は毛頭ない。なぜなら、年金の積立なんかはしていないからだ。年金積立金というのがないわけではないのだが、恐らく多くの方が想像を外れる額の積立なのだ。
現在、支給されている年金は年間約46兆円ある。そこで、この積立金を取り崩す形で、年間46兆円ずつ支払われていたら、いったい何年支払い続けられる額の積立金があるのだろうか。仮に65歳で年金受給を始め、85歳で亡くなると想定すると30年間の年金期間がある。この30年間をまかなえる保険料が積立てられているかと言えば、答えはノーだ。では、何年なら耐えられるか。答えは右上のグラフのとおり、積立額が約150兆円なので、3年だ。
つまり、日本の年金は、将来に備えて積立てたお金がベースになって年金が支給されているわけではなく、現在保険料として支払ったお金が、そのまま受給者に渡っているだけなのだ。
右から左に流れるお金の交通整理をしてるのが出先機関の社会保険庁で、いくら集めていくら渡すかを考えているのが本庁の厚生労働省。そこで考えられた法案を採決しているのが国会で、その国会議員を選んでいるのが我々だ。つまり、年金のお金を右から左にいくらやるかを決めているのは我々の代表者。
そんなからくりになっているなんていう意識をもって保険料を納めている国民はどのぐらいいるのだろうか。恐らくそう多くはないはずだ。自分が積立てたお金はちゃんと返してもらいたいという権利意識の方がほとんどだと思う。だから、社会保険庁の管理を銀行並みに求めるのだ。しかし、社会保険庁の方は預ってもいないので、銀行並みの管理意識はまったくない。むしろ、納付した保険料の額に運用益を加えた額の年金額を受取るなんていうことは偶然の一致でもない限りありえないと思っているはずだ。
それに加えて、年金資金は旧大蔵省と旧厚生省が縄張り争いをした歴史があり、その間に世の中は急速にコンピュータ化し、どこも管理しやすいコンピュータ化を目指したのに、社会保険庁は労働組合活動が盛んでコンピュータ化がスムーズに運ばなかった。そこに、納税者番号制の政治的な目論見から基礎年金番号が導入されても、それを完全に名寄せできるとは誰も思っていなかったはずだ。もともと政府も厚生省も基礎年金番号が銀行並みにきちんと名寄せできなくてもたいしたことはないと思っていたのではないか。
さて、そんな状況をマスコミは知っているのか知らないのか。報道内容からして、国民の大事な年金資金を預っているのだから責任ある管理をすべきだという論調だ。しかし、記者は年金資金の金の流れは常識的に把握している。つまり、内心は社会保険庁のやり方にそう抵抗はないはずなのだ。もちろん、支払い続けた保険料に順じて年金が支払われるべきではあるが、超長期にわたる保険料の納付を一方的な管理に委ねてしまった側の責任もある。そこを、マスコミが一方的に役所の無責任さばかりを批判するのは、安倍政権が進めようとしている社会保険庁の解体に一枚乗っていると疑ってしまう。
今、社会保険庁を解体してしまったら、それでなくてもコンピュータ化が遅れている状況だ。歴史的事実の記録とその責任の記録、その事情を証言する責任ある人たちがすべて消えてしまう。新組織ができれば、悪いことは旧社会保険庁のせいにされ、不利と不便はすべて国民が背負う体制になってしまう。そんな無責任な組織の誕生を許すわけにはいかない。それにしても、なぜそんな組織を作ろうとするのか。記録の保存先である社会保険庁に責任をもってやらせた方がはるかに国民の利益につながるのに。ここはクサイ。
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参考資料:
Microsoftエンカルタ総合大百科2007:「年金」
(時時刻刻)不安解消、本人任せ 「恩恵」険しい道のり 宙に浮いた年金 [2007年5月26日朝日新聞東京朝刊]
[スキャナー]年金支給漏れ 救済は「本人任せ」 社保庁の実態解明後ろ向き [2007年5月23日読売新聞東京朝刊]
国民年金、初の実態調査 193万人加入漏れ 学生ら20代が45%/平成4年 [1994年8月8日読売新聞東京朝刊]
「無年金者」増加を防げ 未加入・滞納など原因 高齢化社会に陰り(解説) [1994年8月6日読売新聞東京朝刊]
基礎年金番号の早期導入など検討会が提言 [1993年10月29日読売新聞東京夕刊]
年金番号を一本化へ 7年度メドに厚生省方針 納税者番号導入の前提 [1992年9月26日読売新聞東京朝刊]
参考サイト:
平成17年度 厚生年金保険及び国民年金における 年金積立金運用報告書
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