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岸田 徹 【岸コラ】 |
一昨日投票が行なわれた13都道府県の知事選挙。東京都の石原慎太郎知事が3選を果たした。神奈川県の松沢成文知事と三重県の野呂昭彦知事も2選を果たした。官僚出身でない知事は、この3人だけだ。
他の10人は、高橋北海道知事−通産省、達増岩手県知事−外務省、西川福井県知事−自治省、荒井奈良県知事−運輸省、平井鳥取県知事−自治省、溝口島根県知事−大蔵省、飯泉徳島県知事−自治省、麻生福岡県知事−通産省、古川佐賀県知事−自治省、広瀬大分県知事−通産省とすべて官僚出身だ。
どうして有権者は官僚出身の知事を選ぶのかの理由に、地方だけでは生活できない現状がある。北海道の高橋知事は、中央とのパイプをフル活用して北海道新幹線の着工にこぎつけた、これが評価されたと言われている。
地方分権とは名ばかりで、地方は中央の力で経済の活性化を図ろうと必死だ。その中央とのパイプが霞ヶ関(官僚)とのパイプなのだ。そのために、官僚出身の有力候補を県民も選ぶ。
その構図を自民党が上手く利用している。官僚出身の10知事のうち自民党が推薦していない知事は、岩手県の達増知事と福岡県の麻生知事に大分県の広瀬知事と3人いるが、後の7人は自民党と公明党が推薦している。つまり、与党が何らかの体制で主導的な応援を行なっている。
岩手の達増知事は民主党の「小沢王国」で民主党の推薦を受けて初当選したので例外だが、福岡の麻生知事も大分の広瀬知事も始めての立候補時には自民と公明の推薦を受けて知事になった。麻生知事は4選の貫禄で今回は推薦を必要としなかったのだろうし、広瀬知事は対戦候補が共産党推薦の一人しかいなかったので、あえて推薦を受けなかったのだろう。官僚出身の知事候補に与党が乗っかる形は完全に出来上がっている。
官僚と与党との馴れ合いは戦後政治のパターンなので、知事選挙に官僚出身者が出ても不思議ではないし、自治省出身の知事は仕事の性格から出やすい環境にある。
例えば、45歳の平井鳥取県知事は、自治省に入省後財政局調整室課長補佐や税務局企画課理事官などを行ない、鳥取県に総務部長として着任してきた。在籍中に鳥取県西部地震があり、そのときに見せた手腕が評価されて、副知事になった。4年ほど副知事をした後再び総務省自治行政局選挙部政党助成室長として中央に戻った。平井さんは東京都の出身だがこうして鳥取が第二の故郷のようになっている。このような旧自治省(現総務相)の地方と中央の行き来はごく普通に行なわれていて、中央と地方のパイプ役のひとつになっている。旧自治省出身の知事が多いのはこのためだ。
同時にこれが総務省(旧自治省)の力の源泉にもなっている。こういうパイプを「組織的」に持っているのは自治省だけだからだ。これが代々引き継がれることは、選挙により有権者が選んだとは言え、問題がある。
鳥取の平井知事は前任の片山知事の後継だ。片山前知事も自治省出身で後輩の平井氏を引っ張った形だ。その地ならしを自民党の県連組織が行なっていたりする。
こうして、代々官僚出身者が知事を引き継ぐのが当り前のようになってきた。今回2選を果たした福井の西川知事も自治省出身でやはり副知事から知事になった。その前の栗田知事も自治省出身でその地盤を引き継いだ形だ。
奈良の荒井知事は旧運輸省で整備新幹線の担当課長だったがミニ新幹線方式の提案者だった。海上保安庁の長官を最後に官僚を引退したが、自民党の古賀誠氏の要請で参院選に出馬し当選。今回4選の柿本知事の後を受ける形で知事になった。柿本氏はやはり自治省出身だ。島根で初当選した溝口知事は財務省出身だが、前知事の澄田氏は国鉄の常務理事から和歌山県警本部長になった官僚だった。
民主党の小沢王国である岩手でも外務省出身の達増知事の前任は建設省出身で3選を果たした増田知事だ。増田氏は「改革派知事」の中心メンバーで、分権議論をリードしてきた論客だ。達増氏に知事をバトンタッチする増田氏に、2選を果たした通産省出身の高橋北海道知事がさっそく北海道の特別職として迎え入れる意向を表明した。
こうして官僚ネットワークが日本のいたるところで作られている。今回は選挙がなかった都道府県も含めれば、47知事中31人が官僚出身者だ。
問題点は3つある。ひとつは、官僚という責任を取らない地位の意識だ。知事は選挙で市民の意識の中から選ばれているが、官僚そのものは市民が選んでいるわけではない。そのネットワークの中で責任が曖昧になる。まして、知事選挙で次が危ないとなると出馬せずに次の官僚出身者にバトンタッチするなどとなれば、まるで都合が悪くなったときの人事異動のようで、責任を取らずに時がすべてを解決する体制が出来上がってしまう。
もうひとつは、市民生活が階級社会になってしまう点だ。知事は立派な仕事であることは間違いないが、それが市民感覚から離れてしまってはおしまいだ。東大法学部を出て、総務省や経産省、財務省、国交省の官僚になって地位を昇り、その後で知事になるような路線が作られてしまったら、市民生活に立脚した知事職ではなくなる恐れがある。これは、同時に若者から政治意識を奪うものだ。知事は市民の代表で、決して官僚機構の天下り先ではない。
3つ目の問題は、官僚ネットワークで地方行政が動くと、常に中央のコントロールが地方に及ぶことになり、戦争などの国家動員が簡単に行なわれてしまうという点だ。だれも戦争を好む人はいないが、それでも戦争が起こってしまうのは、そういう企てを阻止する仕組みがなくなるからだ。地方が戦争を誘導することは不可能で、戦争は中央集権が強い場合に起こる。これを阻止するのは地方の役目で、これが中央の官僚ネットワークの傘の下にはまってしまったら戦争を止めさせることができない。日本は、その怪しげな道に進んでいるのだから、地方が無責任な官僚ネットワークに組み込まれてしまったら、大変危険だ。
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参考資料:
47知事中31人が中央官僚経験者 [2007年4月9日日経新聞16版朝刊]
道知事選 増田・岩手知事に顧問要請 高橋知事方針=北海道 [2007年4月9日読売新聞東京朝刊]
[ドキュメント・統一地方選]「改革派」退任知事をどう評価 [2007年4月4日読売新聞東京朝刊]
知事選 候補はこんな人=奈良 [2007年3月25日読売新聞大阪朝刊]
ルポ福岡知事選 北九州の市場、現職どぶ板遊説 多選批判に危機感 [2007年3月25日読売新聞東京朝刊]
[2007年知事選・戦いの前奏](上)溝口色どう示す(連載)=島根 [2007年3月18日読売新聞大阪朝刊]
統一地方選挙(2−2) [2007年01月06日産経新聞東京朝刊]
【2005総選挙】候補者の傾向と特徴 新人 公募・官僚 似通う自・民 [2005年08月31日産経新聞東京朝刊]
「去るのは寂しい」 平井副知事が退任会見=鳥取 [2005年3月26日読売新聞大阪朝刊]
副知事に平井伸治・県総務部長が内定=鳥取 [2001年6月26日読売新聞大阪朝刊]
知事選 西川一誠氏出馬表明 「元気な福井つくる」 推薦は白紙強調=福井 [2002年12月25日読売新聞大阪朝刊]
東京・青島、大阪・横山氏 「無党派知事」そろって誕生 相乗り候補に大差 [1995年4月10日読売新聞東京朝刊]
統一地方選火ぶた 知事選、各地の表情 [1995年3月23日読売新聞東京夕刊]
統一地方選 秋田、岩手で「高齢でも若い」とPR 青森ショックが飛び火 [1995年3月20日読売新聞東京朝刊]
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