夕張市の財政破綻に見える陰(下) 「亥年現象」の裏側

夕張市破綻は、日本経済破綻の序章か。

岸田 徹 【岸コラ】
2006年12月29日(金)

夕張市の破綻で、話題にされることが二つある。ひとつは市の行政サービスが低下するのに納税額は上がるため労働人口が流出し、納税できない老人だけが残り、市としての機能が働かなくなるので、この際、積極的に老人を誘致し「老人の町夕張」として再生した方がいいという議論だ。もうひとつは、夕張市の破綻は特別な事例ではなく破綻に向う地方自治体は今後どんどん表面化し、財政赤字の日本政府は地方を支えきれず破綻するという議論だ。

両方の話題とも一見もっともらしいが、非現実的だ。「老人の町夕張」は、同じ北海道の市で財政難だった伊達市が老人を誘致し老人の街として再生したことから発想されるものだ。伊達市は北海道の湘南といわれるほど比較的気候が温暖なことから老人の町としてアピールすることができた。伊達市に転入する人たちは日本全国からある。夕張市は温泉が出ることから老人に適しているという発想がある。しかし、夕張は自然が厳しい点と老化が進むと入浴を嫌う傾向が老人にはある点で夕張を老人の町として再生することは困難だ。さらに、高齢化社会の到来は20年も前から言われていることなので、競争激化の中で夕張市がどれだけ戦えるかは考える余地もない。観光の町として乱開発に走った同じ道を歩むのが目に見えている。

もうひとつの議論である地方自治体の破綻が日本政府の財政破綻を招くという議論だが、放っておけばそうなることは間違いない。しかし、これにはウルトラCの道が残っている。方法は銀行を再生したときに使った公的資金の注入だ。バブル崩壊後、銀行が直面した危機は、融資した先が購入した不動産や開発物件の価値が著しく下がったため担保評価が下がり、融資金を引上げなくてはならない状況に陥ると同時に新規の融資ができなくなったために融資した先の資金繰りができなくなったことだ。

単なる土地ころがしをやっていた融資先は助けようがないから、銀行が貸し手責任で時には整理回収機構を利用して負債をかぶった。しかし、本業を営みながら資金が回転しなくなった先は資金の出入りのスケジュールを厳格にすれば助けることができる。それには、莫大な運転資金が必要だ。公的資金を銀行に注入することで、銀行はその運転資金を手にし、銀行の融資先はその資金で資金繰りができるようになった。金利負担が資金繰りを悪化させている場合は、銀行はその分を免除したところもある。その間に銀行は統廃合を繰り返し新しい経済秩序に順応するように体制を変革させた。こうして利益が出たところで公的資金を日本政府に返済し始めた。

地方自治体の破綻は、自治体の行政そのものが不要の場合は助けようがないが、ほぼ例外なく身近な行政サービスを住民は必要としている。ゴミの収集から上下水道の整備、教育、消防、警察、交通、介護、福祉、登記、健康保険、図書館管理など、地方の行政サービスは住民票写しの配布ばかりでなく多義にわたり住民の生活に密着している。これらのサービスは税金で賄われている訳で、その対価としての納税に文句をつける人は少ない。問題は、住民の知らないところで望まない立派な市庁舎を建てたり、遊園地や博物館などを建設したり、サービスする職員の給与が標準以上に高額だったりすることに腹を立て、納税意欲が減退するばかりか、それが原因で財政が悪化することだ。順当なサービスを提供することに特化し、日本改革後の経済社会に順応する体制を整えれば、地方自治体の財政赤字は解消するはずだ。その解消方法に銀行に注入した公的資金を使うことは考えられる方策だ。

では、これで地方を再生すれば、日本政府は潰れないのかという疑問だ。これは、実に怪しい。地方は生き延びることができても、日本政府は潰れる可能性がある。その論拠はこうだ。

地方自治体は、日本政府による公的資金で変革が伴えば再生ができる。ところが、日本政府の赤字財政には公的資金を注入してくれる先がない。アメリカと同盟関係があるからアメリカ政府が日本政府に公的資金を注入してくれるかと言えば、そんなつもりは100%ない。では、世界銀行やIMF(国際通貨基金)が日本政府に公的資金のように融資をしてくれるか。そんな事態になったら、融資をした世界銀行やIMFが潰れてしまう。世界銀行もIMFも発展途上国を融資対象としているので、年間融資額はともに2〜3兆円程度。日本政府の負債額はすでに800兆円を超えている。地方自治体の負債額を加えれば、1千兆円を簡単に超している莫大な額で、万一世界がともに協力してくれても、日本を助ければ、共倒れを選ぶことに等しい。すでに、世界は日本の財政危機を救うことはできない。

日本の財政破綻は、地方経済の破綻によるものではなく、世界から見放されることにより起こるはずだ。

日本の食料自給率は約4割。残りの6割は外国から買っている。つまり、外国にお金を払い食料を購入している。エネルギーの自給率に至っては4%。ほぼ外国から購入している。こういったお金は、港や空港でドルを持った日本人が待っていて、食料や石油を運んできた業者に渡しているわけではない。外国為替の仕組みを利用し、多くの支払が信用取引によって行なわれている。間に入る金融機関の信用や購入者の信用も大切な要素だが、外国為替の取引にはもうひとつ極めて重要な信用の要素がある。それは、国の信用、カントリーリスクだ。その国の財政事情が外国為替取引を行なう場合に重要な要素になる。よくある問題は、戦争が勃発し、為替取引が自由にできなくなる事態が起きると商品代金が回収できない事態が生じる。こうなると商売に大きな影響が出るので、だれもその国に商品を輸出しなくなる。

もし、日本で信用不安が起きれば、資金決済のサイト(期間)を今までは6ヶ月あったものが3ヶ月に短縮されるだけで、日本の取引業者は資金ショートを起こし代金が払えなくなる。そうなれば、外国の取引業者が競ってそれまでの代金を回収しようとするので、日本経済は完全にパニックだ。同時にあっという間に日本には食料とエネルギーが来なくなり、日本人は生きるか死ぬかの貧困生活を強いられる。

日本が20世紀の奇跡と言われるほどに高度成長した最大の原因は、世界で最も安く最もいいものを自由に輸入することができたからだ。日本に石油がなかったのが最も貢献した要因だと言われている。もし、日本に石油が出て、4割以上の自給率があったら国内石油業者を保護する目的で安くて良質の石油は輸入ができなかった。自由に輸入できる体制維持のため、日本の外交は世界のどこの国とも仲良くする必要があった。世界で最も安くていい原料を購入し、それで生産した世界で最も安くていい製品を輸出するためにだ。この仕組みで、日本は莫大な輸出代金を手にすることができ、世界の信用を築き上げてきた。

今は、その信用を一夜にして押しつぶすほどの不安要素が日本にある。莫大な財政赤字からの脱却には日本の仕組みを根本から改革する必要がある。その改革に小泉内閣が走ったのだが、結果が思うように出なかった。足踏み状態の日本にいつ信用不安が襲ってくるのか。誰も予測ができないまま、まるでその時を待っているかのようだ。正しい改革の方向に向って実行さえすれば、信用不安は絶対に起こらない。足踏みは禁物だ。日本政府の財政危機は地方自治体の財政危機とは本質的に違う。

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参考資料:

教育ルネサンス食育リレー講座 日本型食生活を考える=特集 [2006年12月19日読売新聞西部朝刊]

IMFの2000年度融資額、前年度の3割に減少 [2000年9月17日読売新聞東京朝刊]

参考サイト:

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