ジュンサイ生産量日本一の山本町で 夕張市の財政破綻に見える陰(下)

夕張市の財政破綻に見える陰(上)

岸田 徹 【岸コラ】
2006年11月24日(金)

ある出会い

アメリカのカリフォルニア大学(州立)は世界でも最も規模の大きな大学のひとつだ。キャンパスがカリフォルニア州に9つもある。バークレー、デービス、アービン、ロサンゼルス、サンディエゴ、サンフランシスコなどだ。よく目にするUCLAとは University of California のUCにロサンゼルスの略であるLAを並べた略語で、カリフォルニア大学ロサンゼルス校と訳されている。中でも最も古いキャンパスがバークレーで大学の本部がある。カリフォルニア大学バークレー校とかUC-バークレーなどと呼ばれている。

日本からも優秀な留学生が昔から多く、国立大学や有名私立大学の教授や学長、大手企業のアメリカ現地法人社長などを輩出している。卒業後の交流も深く、中には結婚する方もいる。そのカップルの中に、埼玉の浦和土建工業(現・UDK)創業者(故人)の息子で早稲田大学の土木工学科を卒業して留学した関根恒雄氏と松下電器産業の創業者松下幸之助氏(故人)の孫敦子さんがいた。二人の留学は東京オリンピック(1964年)より前のことだった。

夕張の負債

北海道の夕張市は地方財政再建促進特別措置法に基づき、国の監視下で財政赤字を解消することになった。赤字の額は360億円。夕張市はだいたい年間45億円の規模で運営されているので、赤字の額はその8倍という事になる。

この赤字を年間18億円かけて解消しようとするもので、返済には約20年かかると市側は住民に説明した。もともと45億円規模の市が18億円を捻出するのは大変なこと。市の財政の4割が何もしないで返済に充てられる。

この18億円はどこから捻出するのか。市職員などの人件費の削減で8.5億円、ゴミ処理の有料化で0.4億円、下水道使用料の値上げで0.3億円。それに、すでに行なっている物件費の削減で4億円、補助費の削減で2.2億円。これをすべてあわせても15.4億円だ。

このため、市の職員は今後2年で半数が首を切られ、給与は30%カット、その後は職員が4分の1に減る。さらに、650人ほどが通う小学校7校、中学校3校を、それぞれ1校ずつに統合し、図書館、プール、市営球場は廃止、補修の必要な養護老人ホームも廃止、敬老パスも廃止し、共同浴場の削減に公衆便所も閉鎖。

住民サービスが極端に低下するにもかかわらず、市民税は500円アップ。入湯税の新設、施設使用料の5割アップ、下水道使用料のアップにゴミ処理有料化。

市民が一番心配している市立総合病院の存続は、すでに39億円の負債を抱え、総合病院といえども来年4月からは内科医が1人となる状況で、このままでの運営は困難だ。

どうして、こんな状況になるまで夕張は放っておかれたのだろう。実は、15年以上前に市の財政はすでにピンチで、自助努力にも限界があると読売新聞北海道支社の記者は指摘していた。その指摘を要約するとこうだ。

夕張は炭鉱の町で、最盛期の昭和30年代は24の炭鉱が操業し、人口も11万人台だった。その後エネルギー革命で石炭は石油に地位を奪われたが、国策で国内炭の生産体制が規制され、夕張に残っていた二つの炭鉱のうち北炭真谷地炭鉱が通産省により閉山された。残った三菱南大夕張炭砿はその後ガス爆発事故を起こし生き残れなくなった。これで、人口は2.4万人に減った。炭鉱がなくなった後には1万人近くにまで人口は減少すると当時の市の試算がある。これで、税収はぐっと減るのだが、市は夕張メロン産業の育成やリゾート開発で夕張を観光都市へ転身させようと必死だ。しかし、こうした積極策のために市債発行は年間の市の予算とほぼ同額の220億円にも達している。「相次ぐ閉山は国の政策がもたらしたもの。抜本的な国の財政支援策がなければ地域は疲弊するばかり」と中田鉄治市長は天を仰ぐ。

この記事は、1990年3月のものだ。この時点で、市債が当時の市の年間予算と同額だとの指摘があり、すでに財政危機を心配していた。

中田市長の観光都市への誘惑

夕張市が、炭鉱の町からの脱却に努力したことは間違いない。先頭に立ったのが中田市長だ。1978年無投票で当選して以来6期25年を夕張市長として務めた。小さいときには映画を見すぎて目を悪くしたというほどの映画好きで、竹下内閣のふるさと創生資金を使って「国際映画祭」を行なった。炭鉱がなくなって何もない町の夕張に誰も来るはずがないと関係者はみな反対した映画祭だった。

ところが、中田市長は映画監督や俳優が驚くほどの映画知識で、1万人近くの観客を動員する成果を収めた(1990年)。それから毎年、今年の2月には17回目の映画祭が行なわれ、夕張と映画は切っても切れない関係になった。

これと平行して進めた炭鉱跡地に建設したメロン城や遊園地などの「石炭の歴史村」(1983年)などのハコモノが財政をひっ迫したと言われている。その中でも中田市長の引退直前に決定したスキー場とホテルの買収が、財政悪化の決定打になったと思われる。

このスキー場とホテルは、大阪の松下興産が1988年に開発したものだ。スキー場はもともと市の第三セクターが営業していたマウントレースイスキー場を約20億円で松下興産が買収し、その後ホテルを併設した(1991年7階建て118室)。投資金額は合計で約130億円といわれている。今から思えばバブルの絶頂期で、松下興産はこの前後にオーストラリアのゴールドコーストにゴルフ場を含むロイヤルパインズリゾートをはじめ国内でも複数のホテルやリゾートを開業している。

松下興産は、バブル崩壊後事業の縮小を余儀なくされ、夕張市のスキー場とゴルフ場事業から撤退すると市に申し出た。これに対し中田市長は、引退声明直前に30億円以内で買い受ける方針を固めたと発表した(2002年3月28日)。

その発表から3ヵ月後、この事業を進めた松下興産の関根恒雄会長は引退し、それから1年後に中田市長は肝臓がんで死去した。77歳だった。松下興産とは松下電器産業創業者側の松下家の財産管理会社だった。関根会長とは、冒頭のUC−バークレーの卒業生で、松下家の敦子さんと結婚した人物だ。

つづく


参考資料:

Microsoftエンカルタ総合大百科2007:カリフォルニア大学

夕張市が返済原資の内訳公表 人件費削減で年8億5000万円=北海道 [2006. 11. 21読売新聞東京朝刊 ]

北海道・夕張、嘆きの山 図書館・プール・球場廃止 公衆浴場は閉鎖 [2006. 11. 20読売新聞東京夕刊]

夕張市立総合病院 再建母体、設立申請へ 理事長に村上医師就任か=北海道 [2006. 11. 20読売新聞東京朝刊]

夕張臨時市議会 退職手当カットなど条例改正可決=北海道 [2006. 11. 17読売新聞東京夕刊]

[検証・夕張再建](上)人件費削減、「やる気」の尺度(連載)=北海道 [2006. 11. 16読売新聞東京朝刊]

夕張市内小・中学、1校に統廃合 親不安「市外転居も」=北海道 [2006. 11. 16 読売新聞東京朝刊]

夕張再建枠組み 職員給与3割カット 小中校、各1校に統合=北海道 [2006. 11. 14 読売新聞東京夕刊 ]

夕張3セク外部経営診断 2ホテル一本化求める=北海道 [2006. 08. 25 読売新聞東京朝刊]

夕張土地開発公社を調査 債務81億円、道が実態把握へ=北海道 [2006. 08. 04 読売新聞東京朝刊]

「バリバリ、ゆうばり」20年 前市長拡大路線に歯止めなく…財政破綻=北海道 [2006. 06. 27 読売新聞東京朝刊]

夕張市再建申請 空知地方の旧産炭地 「問題同じ」焦り色濃く=北海道 [2006. 06. 21 読売新聞東京朝刊]

夕張市「ヤミ起債」か 観光施設購入を3セク・公社が肩代わり=北海道 [2006. 06. 21読売新聞東京朝刊]

負債500億円、夕張市長「もう限界」 財政再建、見通し立たず=北海道 [2006. 06. 14 読売新聞東京朝刊]

「マリーナシティ」来春解散 株主がリゾート開発から撤退=和歌山 [2005. 11. 11 読売新聞大阪朝刊]

妙高パインバレー、アパグループが買収 長期滞在型リゾートで運営=新潟 [2005. 09. 07読売新聞東京朝刊]

豊秀興産が特別清算手続き決定/東京商工リサーチ調べ [2005. 10. 06 読売新聞大阪朝刊]

松下興産が社名変更へ グループ名外す [ 2005年09月22日 産経新聞東京朝刊 経済面 ]

松下興産社長に砂原氏就任へ [ 2005年05月17日 産経新聞東京朝刊 経済面 ]

松下興産が事実上解体 好調3事業、別会社に移行 [ 2005年03月07日 産経新聞東京朝刊 総合・内政面 ]

三井住友FG 最終赤字に転落 「負の遺産」と決別 不安一掃、攻めに転換 [ 2005年03月01日 産経新聞東京朝刊 経済面 ]

松下興産9割減資へ 再建計画の概要まとまる [ 2005年02月27日 産経新聞東京朝刊 経済面 ]

松下興産、大和ハウスへの売却撤回 外資含め最終調整 [ 2005年02月22日 産経新聞東京朝刊 経済面 ]

ゆうばり国際映画祭、来月24日〜28日 「韓流」反映、出展史上最多=北海道 [2005. 01. 14 読売新聞東京朝刊

松下興産再建を支援 数千億円規模に 松下電器など [ 2005年01月09日 産経新聞東京朝刊 1面 ]

西武鉄道株、判明分 29社に依頼、20社購入 ワコールは買い戻し請求 [ 2004. 10. 22 読売新聞東京朝刊]

第15回ゆうばり国際ファンタスティック映画祭 最多2万6000人動員 [2004. 02. 27 読売新聞東京夕刊]

[追悼抄]9月 前北海道夕張市長・中田鉄治さん 映画祭で「マチ」明るく [2003. 10. 12 読売新聞東京朝刊]

03統一地方選 全国市長選確定得票と当選者略歴 [2003. 04. 28読売新聞東京朝刊]

Mt・レースイスキー場とホテル 夕張市、26億円で取得=北海道 [2002. 09. 03 読売新聞東京夕刊]

関根恒雄・松下興産会長が退任 松下家出身者、代表取締役相談役の正治氏だけに [2002. 06. 29 読売新聞大阪朝刊]

中田夕張市長、今期で引退=北海道 [2002. 03. 29 読売新聞東京夕刊]

Mt・レースイスキー場、ホテル 夕張市が買い取り方針=北海道 [2002. 03. 28読売新聞東京朝刊]

夕張のスキー場とホテル、松下興産が来月末で撤退=北海道 [2002. 02. 28 読売新聞東京夕刊]

松下の“顔”売却へ 大阪の「ツイン21」 [ 2002年02月27日 産経新聞東京朝刊 ]

松下興産社長 松下通工専務の土井氏が内定 [ 2001年05月30日 産経新聞東京朝刊 経済面 ]

[ずばりインタビュー]松下興産 関根恒雄社長64=埼玉 [2001. 01. 21 読売新聞東京朝刊

浦和センチュリーシティ 来年10月ホテル開館、きょうから予約受け付け=埼玉 [1998. 11. 06 読売新聞東京朝刊]

和歌山マリーナシティのリゾートホテルが17日に開業/松下興産 [1998. 04. 14 読売新聞大阪朝刊]

【訃報】関根仁平氏 [ 1995年05月23日 産経新聞東京朝刊 社会面 ]

異色のメセナ「弦楽塾」辻久子を企業グループが支援 [ 1993年01月27日 産経新聞東京朝刊 ]

[ひと人抄]大阪大前学長・熊谷信昭さん 懐かしい留学時代の友 [1991. 11. 26読売新聞大阪夕刊]

松下興産がオーストラリアに大規模リゾート [1990. 12. 14 読売新聞東京朝刊]

国策でヤマの灯消えて夕張市の財政がピンチ 自助努力にも限界(解説) [1990. 03. 25 読売新聞東京朝刊]

富豪世界一はブルネイ国王 資産3兆5千億円/米誌フォーチュン調査 [1987. 09. 21 読売新聞東京朝刊]

参考サイト:

ロイヤルパインズグループ

松下興産との関係・年表

株式会社ユーディケー

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