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理想の職場

岸田 徹 【岸コラ】
2006年11月10日(金)

「さっそうと働き、部下を引っ張る中間管理職、共に仕事に取り組む笑顔の素敵な女性社員。女性の笑顔に接しただけで、一日が楽しい。かっこいい管理職と、すてきな女性社員は国の財産で、彼や彼女たちがこれからの日本を引っ張っていくのである。かっこいいサラリーマンとOLがいっぱいいる職場。失業なんて気にしなくていい社会。そんな社会をみんなで実現させよう。」

12年前の産経新聞に、このような投稿があった。投稿の主は33歳の大阪府に住む失業中の男性だ。この方は、自分はわがままで会社を辞めて職安に通っているのだが、職安では中・高年の男性と若い女性が求人ファイルを必死にあさっていて、その姿を見て、不景気を実感したのだという。そこで、自分はさておき、このような管理職であっただろう中高年と職場の華でたったろう若い女性たちが生き生きと働く職場を理想的に感じたらしい。

この投稿があった2年後、笑顔が素敵かどうかは見えないが、女性が生き生きと働いていた職場が消える運命にあった。深夜早朝のNTT104番号案内サービスだ。NTT側の説明によれば、深夜早朝の利用率は全体の6%と低い上に、その時間帯に働ける女性が少ないという理由で廃止すると言った。

しかし、時代はNTTの分割民営化の直前で、不採算部門を取り除きスムーズに民営化に移行したいという思いが見えていた。当時のオペレーターの学歴は高卒以上で、平均年齢は43歳。半数がNTTの正社員で、平均年収は約700万円。年功序列制で勤続年数が多ければ年収は上がる。ところが、番号案内部門の収支は収入が462億円に対し、費用が1,410億円。948億円の赤字だった。これを利用回数で割ると、オペレーターが一回電話に出ると200円が飛んでいく計算だった。

このためNTTではいずれ番号案内業務をすべて機械化するという方針を掲げ、案内業務のオペレーターはいずれ消えていく運命となった。オペレーターの労働時間は7時間30分。週休二日制で、福利厚生施設も充実し、家族の都合に合わせて勤務時間が選べる女性にとっては理想の職場だった。

合理化よりももっと強烈に理想の職場を失った女性がいる。雪印食品のパート主婦だ。牛肉偽装事件(2002年)で関東工場の解雇者は527人だったが、そのうちの一人の主婦は、勤続25年以上、時給千円で朝の9時から8時間働いた。収入は家計を支え続けた。会社は工場地域内に保育所を充実させ、パート主婦の労働力を確保した。パート主婦は正社員並みに働いたが、家事と育児を両立させた上で収入を得られるベッドタウンでは理想の職場だった。

それが、不祥事で真っ先にパート労働者が切られることになり、職場を失った。

女性にとっての理想の職場とは、家事や育児の家庭生活と職場での労働という両方を効率よく融合させてそれぞれの成果を出せる場所だった。これが、どうして女性にとっての理想の職場かというと、男性が家事や育児を職場と融合させてやらないからだ。

特に育児は主婦に任せっ切り。この手の問題の所轄官庁は厚生労働省だ。医政局経済課長が、1999年に男性官僚の幹部キャリアとしてははじめて3ヶ月の育児休暇を取って注目されたとこがあった。前年度の厚生白書の執筆に携わり、「男は仕事、女は家庭」という役割分担や「家庭より職場」という企業風土について白書では問題にしておきながら、自らは何もしないというのは具合が悪いというのが育児休暇を取った動機らしい。

共働きの奥さんからバトンタッチした育児は、哺乳瓶の煮沸から始まり暇はなく、言葉のない子供を相手にするストレスは大変だった。同時に手間を掛けて一人の人間が育てられいることを実感し人間観が広がったという。

3ヵ月後職場復帰して、活字メディアを読める喜びをコーヒーと共に味わっていたが、久々に出席した宴会では違和感を覚え、湯水のごとく時間を使う残業に疑問を感じたという。時間のコスト意識に欠けている職場に効率性を求め子供のために時間を作りたいと思うようになった。

仕事も家庭も大切にする職場は理想の職場かもしれないが、男性はおろか、女性でさえも育児休暇が取れなくて退職せざるをえないケースが現実にはざらだ。さらには、仕事を失いたくないから子供をつくれないケースもある。

仕事を失いたくない女性の気持は複雑で、一概にはその理由をつかむことはできないが、男社会で築いてこられた出世レースや仕事への達成感などの存在は否定できない。

ピラミッド型の人口構成が逆ピラミッドになってしまった瞬間、年功序列の給与形態は経済的に無理となった。そこで、必然的に顔を出したのが「成果対応型の給与」制度。成果を挙げたものが年齢や就業年数に関係なく高い給与を得ていく仕組みだ。

年功序列の社会では、いくら能力や実行力があっても、その会社で経験を積むまでは給料が上がらない。家庭を意識する女性には不利な仕組みだったが、これが崩壊してくれたお陰で、女性社員もやれば給料も地位も上がる職場が現れた。

10年前の男性大卒ビジネスマンにリクルートリサーチがアンケートした結果では(入社3〜13年目の近畿地区男性ビジネスマンを対象にし、2,135人から回答)、理想の職場像は、「成果対応型給与」「自由度の高い働き方」「スペシャリスト的な仕事」をあげていた。男も年齢に関係なく、自分の得意分野でやれば評価される給与体系を望んでいた。

成果主義を取り入れている会社では、社員同士が競争しストレスを高めることで活力を出そうとしたが、この10年でそれが思惑通りには必ずしもいっていない。全国調査はないが、うつ病の社員が増えている。

こうなると、コミュニケーションが取れ、全員で達成感が実感できるような職場が理想の職場だと関係者は語る。

これって、結局、1970年代に高度経済成長社会で公害社会を生んだ反省から競争社会を否定した革新自治の職場のようだ。理想の職場は自然に現れるものでも自然に消滅するものでもない。誰かの都合がよければ誰かの都合が悪い、そんな組織のせめぎ合いで生まれるもの。どちらに自分がいるかが分れば、理想の職場を生み出す近道が見える。

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参考資料:

[心の悲鳴](5)復職へのルールを(連載) [2006年2月8日読売新聞西部朝刊]

[生活保障ほっとらいん]子育て世代は働き盛り 周りの目意識、増えぬ男の育休 [2002年9月6日読売新聞東京夕刊]

[パート空模様](1)労働人口1000万人 待遇に泣く“戦力”(連載) [2002年3月19日読売新聞東京朝刊]

【104が変わる】(上)深夜廃止論の背景 響いた巨額赤字 年間で950億円 [1996年10月3日産経新聞東京朝刊]

近畿の大卒ビジネスマンの半数が転職望む リクルートリサーチ調査 [1996年7月26日読売新聞大阪朝刊]

【談話室】明るく素敵な女性社員は宝 [1994年2月2日産経新聞東京朝刊]

評価上々の営業ウーマン 「ソフトで粘り強い」 非製造業の6割が採用 [1991年6月3日読売新聞東京朝刊]

就職先に満足96% それなのに!?定年まで勤務41%/新社会人調査 [1990年4月3日読売新聞東京夕刊]

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