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岸田 徹 【岸コラ】 |
ええっ!と思った。耐震偽装事件についての裁判ではじめての判決が出た。イーホームズの藤田社長に有罪だ。藤田社長は控訴しないという。これで有罪は確定だ。
しかし、その罪状はというと、「電磁的公正証書原本不実記録の罪」と「その強要罪」だ。どんな罪かというと、会社の資本金を見せ金で増資に見せたというのだ。これは、耐震偽装事件とは関係ない。
ところが、検察は「姉歯秀次被告が構造計算した37物件の構造を見逃した背景には、架空増資が一因の検査体制不備がある」と耐震偽装に関連していると主張した。判決では裁判長が「犯行と偽装見逃しの因果関係は明らかでない」と架空増資と耐震偽装とは別問題と指摘し、藤田社長の罪状は見せ金増資だけに限定した。それに見合った量刑として執行猶予3年がついた懲役1年6ヶ月(求刑では2年)を言い渡した。
裁判所の判断はごく当然だ。検察側は見せ金増資で検査機関としての資質をパスして認定されたので、それなりに関連があると言いたげだが、まったく無理がある。そんなことより、藤田氏をなぜ、もっと疑惑に直接的な罪状で起訴できなかったのか。もし、建築基準法などで起訴できなかったのなら、起訴すべきではなかったのではないか。
耐震偽装事件で検察が起訴し裁判が行なわれているのは、藤田氏の他は次の5名だ。イーホームズの検査でその構造計算書のデータ書換えを見抜けなかった姉歯秀次元一級建築士。その姉歯氏にデータ書換えを間接的に強要したとされる木村建設の篠塚明元東京支店長。それを構造的に行なっていたのではないかと疑われた木村建設の木村盛好元社長。これらの違法建築物を最初っから承知で計画的に売ろうとしたと疑われたヒューザーの小嶋進社長。それと、事件の捜査段階で明らかになった姉歯氏の名前で建築設計を行なっていた秋葉三喜雄氏だ。
その彼らの容疑の罪状は次のとおり(肩書きはいずれも犯罪容疑当時)。
姉歯一級建築士は、名義を貸した容疑の建築士法違反と建築士法違反ほう助、構造計算書のデータ書換えの建築基準法違反、国会での証言に食い違いがあったとして議院証言法違反。
木村建設の篠塚東京支店長は木村建設の粉飾決算に関与し不正書類を国に提出したとする建設業法違反。
木村社長は、強度不足を知って建設し代金を受取ったとする詐欺と決算内容を粉飾して国に報告したという建設業法違反。
ヒューザーの小嶋社長は強度不足を知っててマンションを販売したという詐欺。
秋葉三喜雄氏は、姉歯一級建築士の名前を借りて業務を行なったという建築士法違反。
日本は法治国家だから、法律違反以外に起訴できないことは十分承知しているが、国民が怒り、恐怖を感じた彼らへの憎むべき罪はこんなものではないはずだ。まして、この問題を正義の味方のように取り上げたイーホームズの藤田社長の罪が会社の資本金を見せ金で作ったなどと言われたら空いた口がふさがらない。
みんながぐるになって消費者を騙したのではないかという疑いが、これらの罪状では浮かび上がってこない。こうなると思い出されるのが一連の偽装事件を指南したとされていた総合経営研究所(総研)の内河所長らだ。
捜査本部は、総研が強度偽装を認識した上でコンサルタント料を取ったのではないかという疑いで捜査を進めていたが、事前に強度不足を把握していたことを裏付ける供述や物証が得られなかったとして詐欺罪共犯を断念していた。
こんな捜査のために我々の税金が大量に使われているのかと思うとがっかりしてしまう。
さらに、この問題には根本問題があったはずだ。建築確認という国民の生命と財産に関わる重要な業務を民間業者が競争原理の中で行なうという問題だ。規制緩和で民間にできることは民間に行なわせることはいいことだが、役所が建築確認に2カ月かかるところをイーホームズは21日でやると言い、その結果がずさんな検査では意味がない。しかも、このような体制はイーホームズだけに限らず、そこもここもとずさんな業務体制の会社がどんどん出てきてしまった。
今回の事件で国交省は不正に検査したこれらの業者を処分した。処分の内容は、イーホームズの指定取り消し、業界最大手の日本ERIの500平米以上の建築確認を3ヶ月間停止、日本住宅評価センター(横浜市)とビューローベリタスジャパン(同)に業務改善計画書の提出を求める監督命令だ。これに、この4社の検査員18人を11から1ヶ月の業務停止にした(イーホームズの2人については登録取り消し。ただし、イーホムズは今年の5月で廃業した)。
行政上の処分はこれで終わりだ。本来は、これらの業者を認可した国交省側の責任も追及されるべきだし、構造計算書を簡単に書き換えられるプログラムを作っていたことももっと責任を追及されるべきところだ。
その責任追及を通じて、原因をはっきりさせ建ってしまった建物の安全性を検証し再発防止に努めるのが当然だ。
しかし、以上の刑事責任の追及と行政処分からは事件の全体像を把握し責任追及をしようとする姿勢はまったく見えない。藤田社長の逮捕に至っては別件逮捕とも思え、考え方を変えれば、これ以上騒ぎを大きくするなと口封じのために逮捕したとも思える。
刑事責任は監督官庁には及ぼうともしていない。さらに、この問題は政治家が関わっていたと取りざたされた。その部分はうやむやで、再発防止に政治家が動いたのは官僚と一緒になって法律を改正し罰則を強化しただけだ。
耐震偽装事件はこれで解決できるのだろうか。イーホームズの審査担当者は全員が市役所などで建築確認業務に携わっていた公務員のOBだった。こういう民間の確認業務は管理体制と商売の仕組みに問題があれば機能しなくなるのだ。
今年に入ってからは、大手ゼネコンの鹿島が北海道の小樽市内で建設したマンションが耐震強度を大幅に下回るものだったことが判明した。このことは小樽市と鹿島が発表し、補強工事のため入居者全員が退去するよう求められた(4月)。他にもくすぶる物件がポロポロ出ている。法改正と行政処分だけではとても運用を管理できるものではない。当事者への一方的な責任押し付けで事件に終止符が打たれないように、言論機関はしっかりとこの事件の構造的な問題を見据えるべきだ。
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参考資料:
イーホームズ架空増資 藤田社長に有罪 耐震偽装事件で初判決 [2006年10月18日産経新聞大阪夕刊]
建築士に新資格 耐震偽装再発防止で国交省 [2006年10月12日産経新聞東京朝刊]
耐震偽装初公判 篠塚被告、起訴事実を全面否認/東京地裁 [2006年8月8日読売新聞東京朝刊]
[耐震偽装]一斉逮捕(中)スピード至上、崩れた信頼(連載) [2006年7月31日読売新聞東京朝刊]
全建築士に講習義務化 再試験は断念 「構造」「設備」で新資格/国土交通省 [2006年7月31日読売新聞東京夕刊]
[一筆経上]規制緩和「負の遺産」 経済部次長・渡辺茂 [2006年7月23日読売新聞東京朝刊]
[耐震偽装]安全再構築(5)名義貸し 業界に蔓延、行政は放置(連載) [2006年7月1日読売新聞東京朝刊]
耐震偽装 姉歯被告ら追起訴 捜査が終結 [2006年6月29日読売新聞東京朝刊]
耐震偽装 姉歯被告を追送検 国交省告発の4物件を改ざんで [2006年6月26日読売新聞東京夕刊]
耐震偽装 「構造的詐欺」崩れる 姉歯被告の個人犯罪を断定 [2006年6月23日読売新聞東京朝刊]
耐震偽装 姉歯被告「単独犯行」 偽証容疑で再逮捕 捜査終結へ/合同捜査本部 [2006年6月22日読売新聞東京夕刊]
耐震偽装 総研の詐欺容疑での立件断念 捜査終結の方向/警視庁など [2006年6月8日読売新聞東京朝刊]
耐震偽装事件 小嶋容疑者を起訴 木村、姉歯被告追起訴/東京地検 [2006年6月8日読売新聞東京朝刊]
総研に4億4500万円賠償提訴 耐震偽装判明の9ホテル経営者ら/東京地裁 [2006年5月26日読売新聞東京朝刊]
東京23区の特別区長会、国に支援策を要請 イーホームズ廃業で [2006年5月26日読売新聞東京朝刊]
法改正案 衆院可決へ [2006年05月25日産経新聞大阪夕刊]
耐震偽装見逃した民間検査員18人を処分 2人は登録取り消し/国交省 [2006年5月24日読売新聞東京夕刊]
耐震偽装 藤田容疑者が全面自供「業務拡大のため…」 [2006年05月02日産経新聞東京朝刊]
耐震偽装事件 8人、きょう逮捕 姉歯元建築士、木村社長ら [2006年4月26日読売新聞東京朝刊]
耐震偽装 イーホームズ、来月廃業 [2006年4月26日読売新聞東京朝刊]
耐震偽装きょう一斉逮捕 イーホームズ・藤田東吾社長 “正義の告発者”一転 [2006年04月26日産経新聞東京朝刊]
耐震偽装 再発防止策 決め手欠く消費者保護 「販売主保険加入」先送り [2006年04月26日産経新聞大阪夕刊]
耐震偽装 イーホームズ社長、週内立件 [2006年4月24日読売新聞東京朝刊]
耐震不足で一斉退去 小樽のマンション、199戸全入居者に鹿島が要請 [2006年4月19日読売新聞東京夕刊]
耐震偽装 罰則、最高懲役3年 罰金も300万円に強化 建基法改正を閣議決定 [2006年3月31日読売新聞東京夕刊]
イーホームズの審査担当10人、全員行政OB 耐震強度偽装問題 [2005年11月26日朝日新聞東京朝刊]
耐震強度偽装 建築確認検査機関「検査、適正だった」 ミス釈明、独自の解釈 [2005年11月19日読売新聞東京朝刊]
耐震強度偽造、着工後も見逃す イーホームズ、2度の検査機会 発行日 [2005年11月19日朝日新聞東京夕刊]
マンションなど21棟の耐震強度を偽装 千葉の設計事務所 建て替えの必要も [2005年11月18日読売新聞東京朝刊]
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