「再チャレンジ支援」って、いったい何だ。 「事前規制型」社会から「事後監視型」社会へ異動する官僚社会

金正日の核実験は、恨み節

岸田 徹 【岸コラ】
2006年10月10日(火)

中国では、政権に対する表と裏の評価が渦巻いている。

毛沢東の文化大革命以降、中国の政権はトウ小平、江沢民、胡錦濤と続いている。

トウ小平は改革開放の市場経済重視策を推進し、江沢民はそれを忠実に実行した。これで中国は高度経済成長の時代に入ったが、同時に貧富の格差と都市と農村の格差を生んだ。胡錦濤は、この格差是正のために力を入れている。

しかし、これは表向きの評価で、中国国民はみんながそういう思っているわけではない。国民の間では、

「毛沢東は貧乏人を率いた」(革命)

「トウ小平は小商人を率いた」(改革開放)

「江沢民は汚職犯を率いた」(不正)

と陰で批判し、胡錦濤政権に最後の望みを託しているが、最近では「胡錦濤は利権屋を率いた」(腐敗構造)とやゆされかねない情勢だ。

中国の軍事費は2千8百億元だが、政府の公用車維持費は、それを超える3千億元(約4兆5千億円)だ。なぜこんなに公用車の維持費ががかるのかというと、役人が公用車で旅行するのをはじめ、救急車でタクシー営業したり、パトカーで子供を学校に送り迎えしたりして私用に使っているためだ。

公用車の購入費も年々増加の一途で、2004年は500億元だったのが、今年は700億元を超えている。この背景には、政府機関が黒塗りの公用車を買い換える際、古い車を幹部に安く払い下げる風習がある。胡錦濤首席は、このような役人の腐敗体質を徹底的に排除しようとしていると言われ、アウディ100台を新車に切り換えようとある政府機関が申請したところ「先に解決すべき民衆の問題がある」と門前払いした。(産経新聞)

中国国民の汚職腐敗構造に対する我慢はすでに限界の域を超え、爆発寸前のところにある。

時限爆弾ともいえる民衆の不満に対し胡錦濤首席は今、汚職取締に躍起になっている。その象徴的な事件が上海汚職事件だ。上海市のトップで共産党政治局員の陳良宇氏が巨額の社会保険基金を不正流用したとして市の幹部が広範囲にわたって取調べを受けている。

上海は、中国最大の経済都市だが、国民の目はそのことよりも上海出身の党指導部に向いている。というのも、上海関係の党指導部が「上海閥」をつくり、党を牛耳っているからだ。いくら胡錦濤が格差是正を推し進めようとしても、上海閥が抵抗勢力となりなかなか実現しないと一般に思われている。

中国は共産党の国で、国家機関より党の機関の方が権力を持っている。その中でも政治局常務委員は党の中枢で、この委員の9人のうち5人が上海閥で占められている。ここが胡錦濤体制にとって大きな障害となっている。

この上海閥の頂点に立つのが前主席の江沢民だと言われている。中国では、江沢民の世代を、毛沢東、トウ小平の時代に続く「第三世代」と呼び、胡錦濤らの指導部を「第四世代」と呼んでいる。表向きには、第三世代から第四世代に全面的にバトンタッチされた歴史的な禅譲だと言われているが、実態は江沢民の影響力が残っている。こうなったのも、江沢民を実質的に後継に選んだトウ小平が、実はそのまた後の胡錦濤も指名していたという事が影響していると言われている。

胡錦濤政権が誕生したのは、小泉政権誕生より後の2003年だ。胡錦濤の前の江沢民は、親族が日本軍に殺害されたこともあって、「嫌日」派として知られていた。小泉さんが初めて首相として靖国参拝をした時の主席は江沢民で、中国政府は小泉さんに何度も参拝しないように要請した。

胡錦濤政権になってからも、小泉さんの靖国参拝は続いたが、そのたびに日中関係がこじれ、首脳同士が会談できない悲劇が続いたが、小泉さんは「自分は会う」と言っているのに、会わないというのは中国の方だとこき下ろしていた。小泉さんの「中国の方だ」という中国とは、恐らく胡錦濤政権の中で純然と勢力を張っていた江沢民の「上海閥」を指していたに違いない。

今回の安倍総理訪中は、安倍さんが勝手に訪問したわけではなく、形式上は中国の招待で行ったことになっている。招待で中国を訪問したのは小渕さん以来11年ぶりのことで、安倍さんは中国政府の歓待を受けた。

安倍さんは、中国が気にする靖国参拝についてはっきりとした態度を表明してはいない。するともしないとも言っていないのだ。常識的に考えて、小泉政権をそのまま引き継いだ同じ森派に属するタカ派の政治家だから、参拝しないと明言していなければ、参拝すると解釈すべきだろう。

中国の共産党機関紙である人民日報は、このような安倍政権を認めた上で、安倍首相は就任後、「靖国神社参拝について『政治や外交上の問題になることを望まない』立場をたびたび表明した」とし、「国家利益」よりも「心の問題」を優先する小泉前首相と違って、安倍首相は「周りの意見を積極的に受け入れる」智者だと評価している。

安倍さんは、小泉さんの秘蔵子だ。どう考えても中国の評価は態度の急変としか思えない。いったい靖国参拝問題はどこへ行ってしまったのか。

実は、安倍さんの中国訪問は、首相になる前から画策されていたことだった。今の外務省の官僚トップである事務次官の谷内(やち)さんは、安倍さんが官房副長官で拉致問題に強硬姿勢をとっていたころの内閣官房副長官補で、安倍さん中山さんと共に強硬派のタグを組んでいた仲間だ。

安倍さんは、硬直した日中関係を正常化する切り札として、最初の外国訪問を中国にするとはじめから決めていた。外務次官が信頼のおける谷内さんだったことで、首相就任前から谷内さんにこれを実現できるよう特命を下していた。すでに、10月13日には韓国の盧武鉉大統領が中国を訪問することになっていた。そこで、靖国参拝問題を取り上げられたのでは安倍さんの出鼻をくじかれる。安倍さんの中国訪問は、その前に行なわれないと意味がない。

谷内さんは、9月23日日中総合政策対話のために来日していた中国外務省の筆頭次官である戴(たい)秉国に安倍新首相の中国訪問を強力に打診した。しかし、戴氏は首相の靖国参拝にこだわり、交渉は進展しないまま帰国してしまった。それが、9月28日になって戴氏が極秘に来日し、谷内さんに「8日に首脳会談を北京でやりましょう」と晴れ晴れとした表情で提案してきたのだった。靖国問題は何一つ進展していないままだ。このことからも日中首脳会談は中国側の事情で開かれたものと言える。

中国側のその事情とは、胡錦濤氏の事情だ。8日とは中国共産党第16期中央委員会第6回総会(6中総会)が開かれる日で、汚職事件で免職された上海市トップの陳良宇・前党委書記が党政治局員の職をこの場で解任されることになっていた。まさに上海閥に対する胡錦濤首席の勝利宣言のようなもの。全国各地から党中央委員が集まり、その前で、胡錦濤首席は安倍さんと握手をし日中関係改善という成果を誇示することにしたのだ。

胡錦濤のこの姿勢は、小泉さんの靖国参拝を批判したのは「嫌日」派の江沢民ら上海閥が起こしたもので、これらを一掃した胡錦濤体制は日本と関係を改善すると表明したも同然だった。翌日の9日安倍さんは韓国を訪問し盧武鉉大統領と会談し、「相互理解と信頼に基づく未来志向のパートナーシップの確立」に向け協力していくことを確認した。安倍さんの中国、韓国の訪問は、日中、日韓の関係改善を内外に示すもので、このことは同時に北朝鮮包囲網ができる素地ができたことを意味していた。安倍さんは、北朝鮮に対する強硬派だからだ。安倍さんと仲良くするという事は胡錦濤も盧武鉉も金正日とは一線を画すという事を表明した事になる。

安倍さんが中国を最初の訪問国にしたいと谷内さんを使って画策していたことは、恐らく重要情報として諜報員らによって金正日にも伝えられていたはずだ。

話は15年以上前の1990年3月14日の昼前のことになるが、江沢民(中国共産党総書記)は、専用機で平壌入りし、北朝鮮のキム・イルソン(金日成)首席と首脳会談を行なった。テーマは一党独裁体制から脱却して民主化の道を進むソ連や東欧、モンゴル情勢をめぐる問題だった。その時、江沢民と金日成は抱き合ってあいさつし、社会主義両国間の緊密な関係を示していた。

この時、江沢民に同行した要人に曽慶紅・党中央弁公庁副主任がいた。また金日成の息子である金正日書記(当時・現首席)も同席していた。曽氏は江沢民の腹心で上海閥の一員だったが、二年前の党中央委員会総会(4中総会)で江沢民の党軍事委主席辞任を機に、胡錦濤と手を組み、上海閥が分裂したのだった。

金正日は今年の1月中国を訪問し、胡錦濤と北京で首脳会談を行なったが、その時は握手だけで抱き合ったあいさつはなかったという。胡錦濤にとっては、金親子は江沢民の仲間との思いが強いのだろう。

北朝鮮への強硬派安倍政権誕生と金王朝と友好関係を維持していた江沢民の上海閥を一掃しようとしている胡錦濤政権とが手を組んだそのときに、北朝鮮は核実験を強行したのだった。

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参考資料:

Microsoftエンカルタ総合大百科2006:「胡錦濤」「江沢民」

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トウ氏、党と解放軍内の“上海閥”に警告/中国 [1994年7月27日読売新聞東京朝刊]

朱氏ら3人常務委入り、香港紙が報道 [1992年9月26日産経新聞東京朝刊]

江中国総書記、金日成主席と会談 [1990年3月15日読売新聞東京朝刊]

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