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岸田 徹 【岸コラ】 |
担当大臣までつくって推進しようという安倍さんの看板政策に「再チャレンジ支援」というのがある。
この政策に東海村の村長さんは「安倍さんの言う再チャレンジや格差是正はリップサービスと思っている」と安倍政権発足時に定例記者会見で批判した。村上達也村長は、地方に期待できることは何もないというのだ。
聞こえのいい「再チャレンジ」という言葉は、安倍内閣誕生の一つのキーワードとなった。派閥の圧力には屈しないという小泉さんのやり方には、反発する勢力が依然根強い。その勢力をけん制するかのように「再チャレンジ支援議員連盟」というのが今年の5月に旗揚げされた。
この議連が安倍政権誕生に貢献したと言われている。この議連の会長は山本有二衆議院議員で、今回安倍新内閣で金融相に就任し、同時に再チャレンジ担当相となった。山本氏が総裁選で安倍支持派集結に向けた切り込み隊長の役目を果たしたと評価されたかっこうだ。議連は、当選6回以下の衆議院議員と2回以下の参議院議員に呼びかけて発足し、派閥横断の牽引力となった。発起人には森派、高村派、津島派、丹羽・古賀派、伊吹派、山崎派の議員が名を連ね、入閣のなかった谷垣派の議員は入っていなかった。
なぜ安倍総裁を推すのに「再チャレンジ支援」という名前を使ったかというと、今年の3月に小泉内閣は「格差社会を広げている」との批判をかわす必要に迫られ、リストラや病気で退職した人の再挑戦を支援するために「多様な機会のある社会推進会議」というのを設置した。その略称が「再チャレンジ推進会議」で、議長が当時の安倍官房長官だったからだ。
はじめからこの推進会議は安倍政権発足を意識したもので、小泉さんの負の部分を早くから是正しようとする姿を安倍さんに与えたようなもの。
この会議の初会合では、会議が取組む課題を列挙した。列挙したのは安倍さんだ。事業の失敗、受験の失敗、リストラ、結婚・出産で退社した女性や団塊の世代の人々の再雇用、故郷にUターンして目指す再起、正社員と派遣社員の格差是正――と挙げられた課題は、小泉改革で「犠牲」となった人たちの無念と明日はわが身との不安を象徴するものばかりだ。
「再チャレンジ支援」は規制緩和と小さな政府で新自由主義を推進し「格差社会」をつくった小泉さんへの批判をかわすための合言葉だったことは間違いない。
この「再チャレンジ支援」には、もともと疑問の声が根強い。東京新聞は総裁選が行なわれる前の8月に「『再チャレンジ』考」という特集を組んだ(2006年8月8日)。そこに記載される全国各地の「再チャレンジ」に対する評価は安倍さんの熱の入れように反し冷めている。以下はその抜粋。
7月に埼玉県で行なわれた安倍官房長官(当時)の「再チャレンジふれあいトーク」に出席した6人は、「行政の融資制度で新工場をスタートした」「リストラを受けたが、自分の技術を生かしてベンチャー企業を設立」「衰退した地場産業から最先端技術に転換した」「蔵を生かした街づくりで集客が20%アップした」「大学卒業後に起業して三年後に廃業。会社勤めで借金を返し、四十三歳でグループホームや老人ホームなど介護・福祉会社を起業した社長」等の再チャレンジの「勝ち組」。しかし、これは本人の努力の成果で、何も政府が音頭を取った結果ではない。
渋谷のハローワークでは、「ここに来ている人は、みんな再チャレンジしたいと思っている。再々チャレンジの人だっている。いま、自分らが実際にしていることを政治のキャッチフレーズで言われてもね」(45歳男性)の声。
引きこもりや不登校の若者の再スタートを支援するNPO法人の代表は、「再チャレンジしたくない人もいる。スローな社会がよいという考えだ。また上昇気流に乗れるよ、だから再チャレンジしようというのは下品で貧乏くさい。再チャレンジがニート狩りになってしまうと困る」とも。
「しのびよるネオ階級社会」の著者で、ジャーナリストの林信吾氏は「安倍さんのような生まれ育ちの人にノンエリートの苦しみが分かるのか。大切なのはまじめに働けば、公正な機会が保証されること。それは企業のあり方とも絡む。それが、どこまで分かっているのか」と首をかしげる。
最後にデスクメモがあって、「再チャレンジ策はいわば『蜘蛛(くも)の糸』。だが、地獄の間口を広げておいて、糸を垂らすのなら本末転倒だ。(牧)」(以上、東京新聞より抜粋)
「再チャレンジ支援」は、失敗した「負け組」が再びチャレンジできるような社会の仕組みをつくることだと安倍さんは言い、国民はそうできるのは理想だが、そんなこと安倍さんのひとことで実現できるはずがないと思っている。
まさに、再チャレンジをして「勝ち組」に転換した人たちは自分の英知と並外れた努力で勝ち取ったもので、社会の仕組みとはもともと無縁なものだ。「負け組」の人に再チャレンジ用の低利資金を政府が用意しても到底実現できないし、そんな融資は結局不良債権化して最後は国民の税金で始末するための増税で景気が悪化し、ますます再チャレンジしにくくなる世の中をつくるばかりだ。
ちょっと考えれば、政府が「再チャレンジ支援」をする出番はない。
実は、「再チャレンジ支援」とは安倍さんの主張するニュアンスとは違う意味で森内閣時代から使われていた言葉だった。そのルーツを探ると日本の構造改革の進行の遅さが分ってしまう。
「再チャレンジ支援」という言葉の生みの親は小泉さんだ。「努力が報われ、再挑戦できる社会」がそれだ。この「再挑戦」を半分英語に替えたのが「再チャレンジ」。小泉さんがこの言葉を使ったのは2002年の施設方針演説。まだ格差社会への批判はなかった。あまり話題にはならかなったが、この言葉は司法制度改革の必要性を訴えたときに使われたものだった。「明確なルールと自己責任原則に貫かれた事後チェック・救済型社会」を見据えた立場から述べられた。
その前の、首相就任時の所信表明演説でも「明確なルールと自己責任原則に貫かれた事後チェック・救済型社会への転換に不可欠な司法制度改革についても、重要課題として取り組みます」と明言している(2001年5月7日)
小泉さんの前の森首相も施政方針演説で「司法制度改革については、我が国が透明なルールと自己責任の原則に貫かれた事後監視・救済型社会への転換を図り、大いなる発展を遂げていくために不可欠であり、国民的議論の動向や司法制度改革審議会における調査審議の状況を踏まえつつ推進してまいります」(2001年1月31日読売新聞)と言っている。
判で押したような言葉の連続が森内閣と小泉内閣で長年言い続けられたというのは、森さんや小泉さんの強い意思だというわけではない。明らかに別サイドからの強い意思の現われだ。それは法務省サイドだ。
法務省が、司法制度改革の必要性を説くにあたって、これからの社会は、「事前規制型」社会から「事後監視・救済型」社会になるので、それに合わせた司法制度が必要だと訴えたのだった。
これの「事後監視・救済型」を森さんは法務省に言われるままに施政方針演説で述べ、小泉さんはそれを「事後チェック・救済型社会」と変更し、その社会を「努力が報われ、再挑戦できる社会」と呼び、その社会を実現するために安倍さんが「再チャレンジ支援」を提唱したのだった。
「再チャレンジ支援」とは、「事後チェック・救済型」社会を目指すための支援策だということだ。いったい、どんな社会なのか、また、その社会を強力にバックアップするという司法制度改革とはどんなものなのか。(つづく)
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参考資料:
Microsoftエンカルタ総合大百科2006:「司法制度改革」
「安倍政権には何も期待せず…」 村上・東海村長が痛烈批判=茨城 [2006年9月27日読売新聞東京朝刊]
[ノスタルジックにっぽん]第3部(4)格差是認させる装置(連載) [2006年9月7日読売新聞西部朝刊]
安倍支持議連 2日に旗揚げ 「再チャレンジ」前面 [2006年5月26日産経新聞東京朝刊]
人生の再挑戦、後押し 政府が推進会議、低利融資など検討へ [2006年3月31日読売新聞東京朝刊]
ライブドア・堀江被告公判、迅速化 公判前整理手続きへ/東京地裁 [2006年3月28日読売新聞東京朝刊]
最高裁在外選挙権判決 違憲審査、積極化の兆し 「政治に遠慮せず判断」 [2005年9月15日読売新聞東京朝刊]
裁判員法成立 制度5年以内にスタート 「裁判員」課題の山=特集 [2004年5月22日読売新聞東京朝刊]
裁判員法案、きょう成立 [2004年5月21日読売新聞東京朝刊]
4日の小泉首相施政方針演説の全文 [2002年2月4日読売新聞東京夕刊]
「司法制度改革審」最終意見書提出したが 重要論点、表現に幅(解説) [2001年6月13日読売新聞東京朝刊]
7日の小泉首相所信表明演説の全文 [2001年5月7日読売新聞東京夕刊]
31日の森首相施政方針演説の全文 [2001年1月31日読売新聞東京夕刊]
[社説]国民の目線で司法を論じよう [1999年1月18日読売新聞東京朝刊]
3日明らかになった司法制度改革の検討事項要旨 [1999年1月4日読売新聞東京朝刊]
参考サイト:
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