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岸田 徹 【岸コラ】 |
憲法はどのように改正されるのか。これは、憲法第9章の第96条に従って改正される。短い条項なので、書いてみる。
第96条 この憲法の改正は、各議院の総議員の3分の2以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行はれる投票において、その過半数の賛成を必要とする。
2. 憲法改正について前項の承認を経たときは、天皇は、国民の名で、この憲法と一体を成すものとして、直ちにこれを公布する。
実に簡単だ。つまり、衆議院と参議院の3分の2以上の議員の賛成があれば、国民投票にかけることができ、国民投票の結果半数が賛成なら憲法は改正できる。いつもと違うのは、議員の賛成というのが出席議員の賛成ではなく、全議員のうちの3分の2の賛成が必要だということ。郵政法案のときのように棄権しても分母は減らないので、棄権は反対票の効果がない。
実際の数字に合わせてみよう。衆議院だ。
郵政解散で、選出された議員は自民党の圧勝だったことは記憶にまだ新しい。衆議院の議員定数は480だ。内訳はこうだ。
会派 議員数自民 292民主 113公明 31共産 9社民 7国民 6無所属 20欠員 2合計 480
定数の480名に対し改正に必要な3分の2の議員数は、320名だ。自民党と公明党を合わせると323名で、3名多い数だ。連立与党で改正案が出れば、衆議院は通過できる。
一方、参議院はどうかというと、
会派 議員数自民 111民主* 82公明 24共産 9社民* 6国民* 5無所属 5欠員 0合計 242
定数の242名の3分の2は162名。自民党と公明党が一緒になっても135名なので、27名足りない。27名というのはほぼ絶望的だ。というのは、参議院は、ご承知のように任期は6年だが、その6年は定数の半分づつが3年おきに代わるもの。来年の7月には、半数の121名の選挙があり、今の勢力が変わる。
現在の自民党と公明党を合わせた議員の数は全体の56%だ。ところが、今度の選挙で任期が切れる両党議員の数は65%と多いのだ(121名に対し自民65名、公明13名)。なぜ多いかと言えば、この人たちが選ばれたのは平成13年(2001年)で、小泉純一郎が総理に選ばれた年。小泉人気で当選した自民党議員の数が多い。
はたして、来年の選挙でも65%以上の議員を自民・公明で獲得できるかは疑問だ。さらに、3分の2以上の議員を参議院で占めるには、今度の選挙で、87%の議員を自民党と公明党で占めなければならない(121名のうち105名)。
これはとうてい無理な数字だ。ということは、憲法改正はここ数年は行なわれないと考えるのが常識的な線だ。
改正する体制をつくるには、今度の参議院選挙ではそれなりに頑張り、その次の参議院選挙が行なわれる平成22年(2010年)とその前に行なわれるであろう衆議院選挙で与党が郵政解散のときのような優位な戦いをしなくてはならない。これは不可能で、憲法改正は無理だと予測するのが常識的な見方だ。
しかし、政治はすべて常識では動かない。憲法改正問題で、もし自民党と民主党が組んだら改正論議は大きく前進する。今度の参議院選挙で自民党と民主党が合わせて54%の議員(121名中65名)を選出させれば参議院通過は現実的なものになる。現在でも来年の選挙を控えた議員の79%は自民と民主の議員だ。また平成22年に改選が行われる議員の80%も自民と民主だ。どんなに選挙の成績が振るわなくても、両党合わせて54%以下になることは考えられない。
まさか、自民と民主が組む。しかし、これは十分考えられることなのだ。その理由を3つあげる。
(1)公明党の離反
公明党の神崎代表は今期限りで勇退することになっている。後任には太田幹事長代行が決まっていて、代表選挙は形式的なものが10月14日の党大会で行なわれる予定だった。しかし、それが自民党の党首選直後に行なうよう前倒しになった。理由は、教育基本法などの重要法案が継続審議となったので、公明党の執行部も新内閣に合わせて体制を整えたいというもの。
しかし、ここには、今までの体制とは違いを見せる太田体制が早くも見える。神崎代表のやり方は自民党と歩調を合わせるいわば公明党外の「外交重視型」。これには最近批判が多い。太田氏は長いこと創価学会の公明党への支持体制作りをしてきた実績があり、外交より「内政重視」と見られている。もともと創価学会内にある弱者救済や平和維持の姿勢を今度の太田代表は明確に出すものと期待されている。
こうなると、小泉後継のタカ派である安倍内閣には相応しくない局面も出てくる。公明党は内部体制維持か政権担当維持かの選択をそのうち迫られるようになる。いつまでも自民党の強力なパートナーという見方は薄くなってきた。
(2)自民党との差がない民主党
去年(2005年)に一時誕生した民主党の前原代表が、就任あいさつに自民党の小泉首相を訪れたとき、小泉さんは「与党との違いを出そうとしない方がいい」と前原さんに語った。その後、小泉さんが前原さんに連立政権を打診したことが表面化した。前原代表は即座に断ったとされているが、小泉さんは、その前の衆議院の郵政解散で与党の3分の2を獲得したばかり。それなのに、どうして民主党との連立を提案したのかを考えると、公明党との限界の他、憲法を改正するには参議院の勢力が気になったからに違いない。
小泉さんをその気にさせたのは前原体制が憲法改正に前向きだったことも大きな理由だ。憲法改正を考えた場合、根本的に意見の合わない公明党よりは、民主党の方がはるかに相手としては頼りになる。憲法改正に前向きな代表を選ぶほど民主党の土壌には改憲論者が多い。
もし両党が改憲で手を組んだら、両党議員から2割の造反議員が出ても、単独で裁決が今でも可能だ。
(3)もともと憲法改正は行なわれるべきものとの考え
日本の憲法は戦後占領軍のマッカーサーが押し付けてきたものだとする考えは根強い。一方、たとえ与えられた憲法であっても平和憲法は世界で唯一、日本が誇るべきものだと考える人も多い。これは対照的な考えではなく、一方は形式的なもので、一方は内容に関するものだ。
憲法改正を議論したら恐らく議論を尽くせないほど日本の憲法は意義が深い。ところが、いくらいい憲法でも日本国民が総意で作り上げたものではないという事実に関しては共感を呼びやすい。最初に述べたとおり日本の憲法は改正が比較的簡単にできるようになっている。その理由は、最初から当時の政府が改正を念頭に置いていたからだとされている。どうせ占領下で議論しても、日本国民の総意を表すことはできないという諦めがそこにはあった。一度マッカーサー憲法を制定して、占領態勢を解かれてから日本版にバージョン・アップすればいいという考え方だ。
この考え方は、憲法の改正内容より重視されている感じがする。
以上の3つの理由で、民主党が憲法改正に関してだけ突然自民党と手を組んで改正案を国会に提出する可能性は十分ある。これからは、選挙の都度、民主党の憲法改正についての主張をしっかり見定めないと取り返しのつかない事態に陥る可能性がある。
*注:参議院の会派で、「民主」は「民主党・新緑風会」、「社民」は「社会民主党・護憲連合」、「国民」は「国民新党・新党日本・無所属の会」のこと。
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参考資料:
公明代表選、9月30日に前倒し 新体制早期構築狙う 臨時国会、補選にらみ [2006年6月23日読売新聞東京朝刊]
小泉首相の大連立構想に神崎・公明代表が不快感 [2005年12月13日読売新聞東京朝刊]
小泉首相が衆院選直後に「大連立」打診 民主・前原氏は即拒否 [2005年12月8日読売新聞東京夕刊]
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