「天皇の人権」と「国民の人権」 憲法改正は本当に行なわれるのか。

「グレーゾーン金利」を生んだ「グレーゾーンの官僚」

岸田 徹 【岸コラ】
2006年9月15日(金)

2006年9月14日日経新聞第14版3面総合問題になっている上限金利のグレーゾーンというのは、利息制限法と出資法では、上限金利の数字が違うことから生まれてしまったものだ。同じ利息を制限する法律で、どうして違うのか。一本化した方がいいに決まっている。法律はだいたい後からできた方に合わすのがスジだろうから、どちらか後にできた法律に一本化すればいいと思うのだが、これが同じ1954年(昭和29年)の法律。利息制限法が5月で出資法(正式な名前は、「出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律」)が6月だ。

出資法では、上限金利は20%だ(ただし、10万円未満の場合。10〜100万円未満は18%、100万円以上は15%が上限)。一方、出資法の上限金利は109.5%。この金利は一般的なお金の貸し借りについてで、業務として貸金業を行なう者は29.28%が上限金利だ。

例えば銀行かサラ金かとにかくお金を貸すことを商売としているところから100万円借りた場合、利息制限法では15%以下の金利で貸さないといけないのに対し、出資法では29.28%を超える金利は取ってはいけないことになっている。方や15%、方や30%近い金利だ。じゃ、20%で貸した場合はどうなるのかは当然問題になってしまう。

どうして、同時期にできた法律で、そんなに違うのか。その理由は当時の事情からきているのだが、残念ながら現在までもその事情は続いている。

低い方を規定している利息制限法は、業者を守る法律で、15%までは金利を取らせてくれという趣旨。どんなに世の中が金融業者に厳しい目で見ても、利息制限を15%下回ることはしないでくれと業者の主張を聞いた法律だ。

一方、出資法は、利用者保護の法律で、15%はあるべき金利の上限だが、そうは言ってもそれを守らずに高利で貸し付け貧しい庶民をどん底の生活に追いやっている悪徳業者は跡を絶たない。なので、もしも29.28%を超えて利息を取ったら厳罰に処するぞとしたのが出資法だ。

だから、利息制限法は上限金利以上の金利は無効だと謳っているだけで罰則規定がないが、出資法には罰則規定があり、5年以下の懲役または1千万円以下の罰金が科せられる。

さらに、出資法でどんどん悪徳業者を取り締まり、上限金利を下げることで、利息制限法の上限金利まで下げていこうとしたのが立法当初の趣旨だった。紆余曲折はあったものの、立法当初の意思は実行され続け、29.28%になるまでの間には、73%が40.004%になり29.28%になったという歴史がある。

しかし、いずれにしろ利息制限法の15%との間には開きがあることは事実で、その間の金利はどのように扱うかは実務的に常に問題とされてきた。法律の条文からすれば、低い方の利息制限法には100万円以上は15%までとされていても、借りる方が承知でそれ以上の金利分を支払った場合は「返還を請求することができない」という規定がある。

だから、条文上の解釈から考えると、利息制限法の15%を超える金利は借りた方が承諾したら許されるが、それでも出資法の29.28%を超えることはできないというのが解釈だった。

ところが、この解釈は裁判所によって否定されるようになる。最初に否定されたのは東京オリンピックが行なわれた1964年、立法後10年だ。利息制限法では「超過部分は無効」とされているので、借りている人が利息として払ったとしても、それは元本の支払いとみなすという最高裁の判決だ。つまり、返済金は利息の支払分と借りた元本の返済分に分かれるので、15%以上の金利分は元本の返済分になるとの解釈だった。

さらに、それから4年後には、そうやって計算して元本が完済されたときは、それ以降支払った分は全額払い過ぎとして(不当利得)請求できるという最高裁の判決が出た。どちらも、根本的に流れている思想は、契約は自由だが、それは立場が同じもの同士で行なう場合に限り、一方の立場が優位ならば自由契約は成り立たないという考え方だ。当然、貸し付ける方の立場が有利なので、利息制限法以上の金利を払うと契約しても、その契約は有利な立場の者にさせられたと考えられる。だから、わざわざ法律で上限金利を定めたというのが立法の趣旨だ。

最高裁の判例が出るたびに、金利一本化の議論がなされるのだが、それ以降サラ金業者がものすごい勢いで成長し、利息制限法を上回る金利で借りる人がうなぎのぼりになっていく。さらに、クレジットカードが急速に広まり、カード機能のキャッシングが利息制限法をはるかに上回るのにもかかわらず利用者が増えた。

それまでは、利息制限法は銀行の法律、出資法は貸金業者と信販会社の法律のようにみなされてきた。ところが、世の中が消費の時代になると、銀行が消費者金融の分野に乗り出してきて、クレジットカード会社や信販会社を子会社化することになり、垣根が明確にならなくなってきた。ほんの30年前までは銀行が個人客に消費性の資金を1万円単位で貸し付けるなどという事は自動車ローンを除けばほとんどなかった。

二つの法律ができた当時とは世の中の仕組みが明らかに変わり、金融界は戦国時代となった。これは競争上いいことなのだが、困ったことも起こった。官庁の縄張りだ。銀行は大蔵省、割賦・信販は通産省という縄張りが明確だったところに、小口金融のサラ金が入ってくると同時に、銀行系のクレジットカードが分割払いを求めたりと大蔵省と通産省を横断する業態がどんどん出現した。

これで、金利の一本化は縄張り争いの道具に利用されてしまった。業界の要望事項が出されるたびに、金利の一本化や消費者情報の一元化が対価の条件として使われ、都合のいいときには両者で握手をするが、ほとんどの場合は「大蔵省と通産省が今後対応を協議する」として終わってしまうのだ。「協議する」という事は、日本では「やらない」という事。

ところが、業界への天下り批判に対して、大蔵省が解体されることになり、それまで業界寄りだった監督官庁としての大蔵省は、「消費者サイド」の金融庁に衣替えをした(1998年)。これでやっと金利が一本化になるかと期待され、今秋の国会では出資法の29.28%は廃止される方向だった。

しかし、どういう訳か、金融庁内部から、「2〜3社の借り入れは特例的に出資法金利を認めるべきだ」「事業者向けローンは元本500万円、期間3カ月以内ならOK。他からの通常借り入れがあってもよしにしよう」と後退発言が出てきた(ゲンダイネット)。そんなことをしたら中小の金融業者4万5千社が潰れるという自民党の金融族が圧力をかけたのだという。

これは、もっともそうな見解だが、恐らくまだまだ二転三転するだろう。理由は二つある。ひとつは、旧通産省との縄張り争いだ。これを機会に金融庁が勢力を拡大しようとする動きがあることだ。本来消費者サイドに立ったはずの金融庁だが、中身はかつての監督行政の大蔵省と何も変わっていない。そればかりか、金融の自由化をいいことに勢力図を監査法人や旧郵政省、都道府県が監督していた中小金融機関や今まであまり乗り気ではなかった優良貸金業者にもどんどん広げようというのがミエミエだ。さらに、この機に旧通産省が監督していた信販会社にもその手を伸ばそうとしているみたいだ。

これでは、消費者保護ではなく官庁の勢力拡大事業だ。金利一本化の目的が違うから道理があっていても省益がなければやらないというエゴが加わり、今後も事態が二転三転する。

もうひとつは裁判の動向だ。利息制限法以上の金利を取ることには、例え出資法で認められていても許さないという最高裁の判例がずっと続いていた。しかし、業界はなかなか利息制限法内での金利を適用しない。

そこに、常識を外れる最高裁の判決が出たのだ。今年の三月のことで、京都の貸金業者が、利息制限以上の金は返さないと主張する債務者にその返済を求めていた裁判だった。その金額は210万円。大阪高裁では貸金業者の言い分を認め債務者に210万円を支払うように言い渡していた。これを最高裁は利息制限法の上限金利を上回ることは許されないと、大阪高裁の判決を破棄し、控訴審の神戸地裁に差し戻す判決をしたのだ。

これだけなら、今までもある最高裁の判断なのだが、ちょっと違う点がある。実は、この裁判は神戸地裁から始まったのではなく、姫路簡易裁判所で提訴され始まったものだった。日本は三審制を採用しているので、姫路簡裁で提訴されれば、次が神戸地裁の控訴で、次が大阪高裁の上告審。これで三審だから終わるのが通例。

ところが最高裁は、例外的に4審目を認め、この審理を行なったのだ。これは記録の残る過去10年で初めてだと読売新聞は報じているが、そんなにさらりと一行で終わるものではない。最高裁はよほどの覚悟で金利の一本化を支持しているとする見かたしかできないものだ。

官僚はこういう司法の姿勢に極めて弱い。いくら国会で郵政を民営化しようと年金を一本化しようと、それこそ大蔵省を解体しようと、それまでの利権は必ず守る、いやそれ以上にして守るのに、司法の判断には忠実に従う。同じ官僚の言う事はしっかり聞くのだ。

今回の金利一本化の動きも、実は4月ごろから金融庁では活発に動き始めた。明らかにこの判決を意識している。

問題は、だからと言って金融庁が判決にそって消費者サイドの法令にストレートに向わないところだ。向うポーズはとりつつ、庁内の利益をしっかり確保する動きに終始する。だから、それにからめた動きで二転三転する。

金融庁をここまで暴れ者にした竹中さんは小泉さんがいなくなればもうやらないとあっさり議員を辞めると言うし、金融庁はいったいどちらの立場に立って仕事をしているのか。業界か消費者か官庁内か。これがグレーだからいつまでたってもグレーゾーン金利がなくならないのだ。

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参考資料:

Microsoftエンカルタ総合大百科2006:「利息制限法」

貸金業規制 特例高金利巡り、自民部会内で対立 金融庁案修正の公算 [2006年9月8日読売新聞東京朝刊]

消費者金融 グレーゾーン金利の特例化 金融庁のホントの狙い [2006年9月6日掲載ゲンダイネット]

貸金訴訟 債務者が「逆転勝訴」 最高裁が特別上告認める [2006年3月18日読売新聞東京朝刊]

消費者金融 ニーズにあったサービスを 自由競争導入も/調査会提言 [1987年7月15日読売新聞東京朝刊]

参考サイト:

金利規制及び貸金業制度の見直しについて(上柳委員提出 その1)

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