「世界宗教者平和会議」は世界を救うか。 紀子さまの「愛育病院」と「神奈川県立足柄上病院」

間違っているロシアの日本漁船拿捕事件の捉え方

岸田 徹 【岸コラ】
2006年9月1日(金)

8月16日未明、日本の漁船「第31吉進丸(きっしんまる)」が北方領土海域で発砲され乗組員一人が死亡、船は船長他2人と撃たれた遺体を乗せたままロシア国境警備隊に拿捕された。一部情報では、発砲は数十発に及んだという。武装しない漁船に死者を出すまでなぜ発砲したのか。

日本政府は事件発生後すぐ外務省の原田欧州局長がロシアのガルージン駐日臨時代理大使を呼び、「日本漁船が我が国固有の領土である北方4島の我が国領海内で、ロシア側から銃撃を受けたことを意味し、到底容認できない」と抗議した。さらに、再発防止や乗組員の即時解放を要求した。

これに対しガルージン駐日臨時代理大使は「申し入れは速やかに本国に伝える。特に乗組員の安否は速やかに確認のうえ、連絡する」と述べたが、以降ロシアの反応は固かった。

「人命が失われたことは大変残念だ。漁船がロシア領海を侵犯し、警備艇はロシアの法に基づく権限の中で行動した。漁船は停船命令に直ちに応じず、逃げようとして危険な行動をした」(8月16日ガルージン・ロシア駐日臨時代理大使、麻生外相の呼び出しに対し)

「日本側が賠償を求めるのは全く不作法だ。警備隊ゴムボートに体当たりを試みて、隊員の生命を危険にさらした」(8月18日アレクサンドル・アレクセーエフ露外務次官(アジア太平洋担当)

「海洋法のすべてに違反した」(8月18日ロシア国境警備隊のビャチェスラフ・ドロヒン第1次官)

「停船命令を無視した密漁漁船への警告射撃は正当」(8月18日アレクセーエフ外務次官ら)

しかし、8月19日に死亡した船員の遺体を日本側に引渡すと、反応が変化する。

「人道上の問題についてロシア側が速やかに対応するよう準備が出来ている。日露関係全体を損なわない形で処理すべきだ」(8月22日ガルージン・ロシア駐日臨時代理大使)

「漁民を撃つのは許せない。漁民は海で生活の糧を得る人々であり、テロリストでも悪党でもない」(8月22日イーゴリ・コーワリ南クリル地区長)

「調査当局にしっかりと伝える」(8月24日武部自民党幹事長がゴルデーエフ農相に「一日も早く乗組員と船体を解放すべきだ。原因は我が方で聴取する」との要求に対して

「乗組員、船体の早期解放に向け、努力したい」(8月26日シムーヒン・ロシア国境警備隊副長官)

8月30日2人の乗組員が日本側に引渡された。船長はなおも拘束されているが、拘束場所は国後島の「ムネオハウス」で人道的な待遇を受けているという。

ロシア側の反応はどうして変化したのか。また、どうして小さな漁船を蜂の巣のようになるまで発砲しなければならなかったのか。これに対し日本政府は日本国民の生命と財産を守るために命を張って抗議をしたのか。どうにもすっきりしない事態が続いている。すっきりしない原因は二つ。ひとつはもちろん領土問題が関係する。もうひとつは闇の世界の存在だ。

第31吉進丸はカニかご漁船だ。8月16日0時に花咲港を出て、4時過ぎに拿捕された模様だ。ロシア側の報道では第31吉進丸から約1トンのカニが見つかったという。8月22日に歯舞市場に水揚げした花咲ガニは1艘平均450キロだったという。そのことからすれば、倍以上の水揚げを得ていたことになる。花咲ガニは通信販売で500グラムあたり2,700円あまりで売られている。これからすれば1トンは540万円相当だ。

通常漁船の漁は一艘では行なわない。行なってはいけないという規則はないが、漁場を判断する上で他の船が獲れているかどうかをそれとなく探りたくなるのと、危険な海域では自然と群れて行動する心理が働く。

この日の漁はあまり芳しくなかったようで、第31吉進丸の僚船(5、6艘といわれている)はカニを諦め「タコに行くぞ」と呼びかけたが、第31吉進丸はカニを続けると返答し1艘だけ離れた。この離れた場所での操業が「違法操業」だとの疑いがもたれている。

なんで「違法操業」なのか。いったい、どこの国の法律に違反した操業なのか。ロシアの法律に反するというのなら、国境を無許可で侵入してきた「違法」性がある。しかし、これは通常「違法操業」とは言わない。しかも、北方領土問題は未解決だという点はロシア政府も認識している点で、領土を侵犯したかどうかの議論が日露間で行なわれてしまったら収拾がつかなくなることぐらいロシア政府も承知している。

では、日本の法律に第31吉進丸が違反したというのだろうか。日本政府は北方四島は自国の領土だと主張している。その海域で操業してなぜ違法なのか。実は、これは領土問題ではない。日本の法律の「水産資源保護法」違反の疑いだ。この海域はもともと水産資源が豊富な海域だった。ところが乱獲が高じ、漁業規制が行なわれている。各都道府県には水産資源保護法に基づいて水産資源の保護培養、漁業取締、その他漁業調整に関して必要な事項を定めた規則がある。これに抵触した疑いがもたれている。

実は、この問題は領土問題をさらに複雑にしている。というのも、水産資源を保護したいのは日本ばかりではなくロシアも同様だからだ。第31吉進丸は約1トンの花咲カニを獲っていたというが、昨年ロシアから根室税関を通過した花咲ガニを含むタラバガニ科の輸入量は2,700トンだ。一日平均7.5トンの漁を日本向けにしていることになる。これが、ロシアの重要な外貨獲得手段になっている。しかし、これは明らかに乱獲で、ロシア政府が決めた漁獲量を大幅に超えているという。ロシア政府にとってみれば、これらのオーバーした漁獲量は密漁で、本来ロシア政府が取締らなければならないものだ。

密漁船は複雑な顔を持つ。昨日もロシアの国境警備局はオホーツク海で密漁船を拿捕した。この船の船籍はベリーズ(旧ホンジュラス)、乗組員はロシア人、船を賃借していたのが日本の漁業会社というもの。(共同電・産経新聞)

また別の報道によれば、8月23日やはりオホーツク海でロシア国境警備隊が密漁の疑いで5艘の漁船を拿捕した。船籍は同様にベリーズ、乗組員はロシア人で、船名は「ヤマセンマル61」や「フクセキマル」など日本船名と見られるもの3艘が含まれていたという(読売新聞)。

この海域での密漁にロシア政府は相当神経を尖らせているのが分る。それは、外国の密漁船というよりは、むしろ自国ロシアの密漁船に対する取り締まりだ。ロシアの国境警備隊は小樽市の第一管区海上保安本部と根室海上保安部に、北海道の羅臼町から出港した複数の日本漁船が、ロシア主張領海内に不法に入域しているとして、対策を講じるよう求める通知文を8月24日付で送っていた事が後になって分かった。また、7月にも違反船がいるという事を通知していている。これは、国境を侵犯した事に対する注意よりは、違法に操業しているので注意してほしいという内容だ。

本来なら、日露両政府は水産資源保護の観点から協力して双方の違法船を取締る立場にある。この点では両政府の利害が一致しているのだ。ところが、この協力には領土をまたいだ協力が必要で、互いの領土が画定していない現状では協力関係を築くことができない。

さらに、問題を複雑にしているのが水産マフィアの存在だ。ロシアの密漁船の中にはマフィアが関係する船が少なからずあるとされ、これが日本の暴力団と緊密な連携をとり漁場を仕切っているという。これにロシアの国境警備隊が買収されるシーンもあるという。

表の政府としてはロシア側は、密漁を厳しく取り締まり、水産資源を保護し漁場を守った上で、ロシアの漁業を保護し安定的に日本に水産物を輸出し外貨を獲得したいところだ。しかし、実際にはそれを取締る末端の国境警備隊の一部が買収され、恐らくそれを監督するロシア政府機関も買収されているところがあるのだろう。

ロシア政府が揺れ動く背景には水産マフィアと戦う政府の顔となにがしかの利権を守ろうとする勢力との戦いがあるに違いない。ロシアの国境警備隊が第31吉進丸を執拗に銃撃したのも、密漁船と徹底的に戦う表のロシア政府の真剣さだったのかもしれない。しかし、そんなことは弁明できる問題ではない。日本の暴力団を巻き込んだ水産マフィアの存在が、日露両政府の今回の事件での対応の不甲斐なさに現れているのではないか。

今回の拿捕事件は、越境問題ではない。水産資源に関する裏と表の利権問題だ。これを北方領土問題に摩り替えてしまう方が何の問題もなくなるという勢力が、政府の間でもマスコミの中にもあるという事だ。

この記事の読者数:


参考資料:

Microsoftエンカルタ総合大百科2006:「歯舞諸島」

「数十発撃たれた」帰港した乗組員が説明 [2006年09月01日 産経新聞東京朝刊]

日本に賃貸の漁船拿捕か [ 2006年09月01日 産経新聞東京朝刊 国際面 ]

漁船銃撃事件 船長以外2人の先行解放を示唆 日露外相が電話 [2006年8月29日読売新聞東京朝刊]

根室沖銃撃・拿捕事件から10日以上 背景に「カニ資源」 [2006年08月28日 産経新聞東京朝刊]

漁船銃撃・拿捕 「乗組員の早期解放に努力」/露国境警備局副長官 [2006年8月27日読売新聞東京朝刊]

銃撃後初の北方墓参団が帰港 「露側の対応良かった」=北海道 [2006年8月27日読売新聞東京朝刊]

漁船銃撃拿捕事件 早期解放に尽力、要請 根室市長ら官房長官と外相に=北海道 [2006年8月25日読売新聞東京朝刊]

漁船銃撃・拿捕 乗組員の早期解放を露農相に求める/自民・武部幹事長 [2006年8月25日読売新聞東京朝刊]

ロシア国境警備隊が漁船5隻拿捕 [2006年8月25日読売新聞東京朝刊]

「日本漁船が不法入域」 ロシア国境警備隊、1管などに通知=北海道 [2006年8月25日読売新聞東京夕刊]

漁船銃撃 乗組員の早期解放を 根室の漁協組合長ら、高橋知事に要請=北海道 [2006年8月24日読売新聞東京朝刊]

北方領漁船銃撃 漁業ルールを徹底 「安全操業」の確立急務(解説) [2006年8月24日読売新聞東京朝刊]

漁船銃撃1週間 解放見通し立たず 日露平行線「過剰警備」「密漁悪い」 [2006年8月24日読売新聞東京朝刊]

漁船銃撃 坂下船長「漁続ける」と事件前に無線 仲間の船から離脱=北海道 [2006年8月23日読売新聞東京朝刊]

漁船銃撃・拿捕事件 露駐日代理大使、官邸で対応協議 [2006年8月23日読売新聞東京朝刊]

漁船銃撃 「盛田君に申し訳ない」 拿捕船長の映像、甲板員も[2006年8月21日読売新聞東京夕刊]

漁船銃撃 「賠償要求は不作法」 ロシア外務次官が日本批判 [2006年8月19日読売新聞東京夕刊]

漁船員銃撃解明のカギ「GPS」 違法操業だった? 銃撃受けた地点は=北海道[2006年8月818日読売新聞東京朝刊]

漁船銃撃 政府が謝罪と解放要求 ロシア「日本側に責任」 遺体は引き渡しへ [2006年8月17日読売新聞東京朝刊]

北方領海内の露発砲 政府が厳重抗議 [2006年8月16日読売新聞東京夕刊]

密漁初公判 前自民党根室支部長に求刑、懲役6月=北海道 [2002年4月12日読売新聞東京朝刊]

ロシアが拿捕・釈放の漁船員ら8人、密漁容疑で逮捕 根室海上保安部=北海道 [2002年3月18日読売新聞東京朝刊]

北方四島周辺水域で密漁容疑 漁協理事で自民根室支部長ら7人逮捕=北海道 [2002年2月21日読売新聞東京夕刊]

参考サイト:

「国境の海」をめぐる物語

[根室名物]浜ゆで 花咲カニ・ひら昆布のおまけ付 500g/1尾

平成18年版『北海道海面・内水面漁業調整規則』

漁船銃撃拿捕:乗組員2人引き取りへ 中間ライン洋上で

遊漁と漁業調整のガイドライン

北方領土の位置と面積

【岸コラ】もくじ 【岸田コラム】 home

Copyright (C) Toru Kishida 2005 All Rights Reserved.