「夕張市の財政破綻」と「日本の行方」 間違っているロシアの日本漁船拿捕事件の捉え方

「世界宗教者平和会議」は世界を救うか。

岸田 徹 【岸コラ】
2006年8月29日(火)

WCRPの会場で、下京区の数珠製作販売店が、平和を祈念して英語やアラビア語、中国語など8か国語で「平和」と書いたブレスレット風の数珠2000個を、各国から参加した宗教指導者らに配った。(読売新聞)京都で行なわれていた世界宗教者平和会議(WCRP)が本日閉幕した。世界から約2千人の宗教指導者が参加した。「諸宗教共同体は、暴力的な目的のために宗教を悪用することに反対し、立ち向かう」とする宣言文を採択して閉幕すると毎日新聞は伝えている。

イラク戦争は、イスラム教とユダヤ教の戦い、あるいはイスラム教とキリスト教の戦いと言われた。また、9.11ではテロ戦争の背後にイスラム教とキリスト教の戦いがあると言われた。

WCRPは戦争を宗教戦争と結びつけるこれらの風潮に断固立ち向かうことを宣言したものだ。戦争は政治的、経済的に引き起こされるもので、それに民族意識や宗教観が利用され戦争理由として前面に押し出されてくることに警告を発すると共に抗議したものだ。

今回のWCRPは8回目を数えたが、9.11後は初めての会議になる点と、今最もアメリカが敵視しているイランのハタミ前大統領が出席する点、さらについ先日靖国神社を終戦記念日に参拝した小泉首相が開会式であいさつする点の三点で注目されたが、東京では話題になっていない。

話題にならない理由は、読売新聞が後押ししているので他の新聞が大きく取り上げないことと開催地が近い大阪版には特集や解説があるのに東京版ではぐっと扱いが小さいのが表面的な理由だ。では、なぜそういう扱いになるかと言えば、東京では宗教について根源的な関心が薄いのに反し、京都は仏教寺院も多く歴史的に宗教が生活の一部になっていることが影響しているのではないか。

しかし、このような会議の意義は年々重要さを増している。宗教は本来世界制覇が目的ではなく、人間の日常生活のなかでの苦悩に対する救いが原点だ。人間の気持の中では大きな存在であっても、それが世界を制する理由にはもともとならないものだ。世界の大国であろうと地図には点でしかない小国であろうと、日常生活の宗教は地味で外に対しては謙虚なものだ。

これが日常の信仰心の平常な姿なのだろうが、世界的な移民活動のなかで宗教は素朴な日常から一挙に世界的な争いの象徴に押し出されてしまった。世界が小さくなり、瞬時のうちに異教徒がまわりに存在する世界が広がってしまったところに宗教戦争の火種が落とされた感じだ。

しかし、考えてみればそれは宗教の問題ではなく、生活の利権に関する政治的、経済的な問題だったりする。それを宗教問題だと擦り替えた瞬間、戦争に政治的や経済的な理由が不要となり、宗教は民衆を戦争に引き込む便利な道具となる。

この構図に真っ向から立ち向かった今回のWCRPは立派だ。しかし、この会議、どういう会議なのか、どういう経緯で始まったのかがよく分らない。WCRPのホームページを見てもどういう組織で誰が運営しているのかが明確ではない。新聞の記事も会議の結果や経過を報道しても、会議組織そのものを報道することはない。

私の恩師だった宗教社会学者の安齋伸上智大学名誉教授(故人)はこの会議のことを時々語っていた。安斎先生は熱心なカトリック信者でありながら土着信仰の宗教指導者から創価学会の池田大作名誉会長にいたるまで実に多くの宗教指導者と親交があった。その先生が金光教泉尾教会の三宅歳雄師執筆の「人助けの信心一筋の道」を中外日報の書評に掲載している。

それによれば、歳雄師は「世界連邦の構築に、またWCRP(世界宗教者平和会議)の柱石として、宗教協力による世界平和の確立に貢献しておられる」とあるので、金光教がWCRPの誕生に貢献したのかとも思える。泉尾教会の機関誌『いずみ』では、歳雄師が宗教を「人が助かりさえすればよいのである……本当に人が助けられる道ならば、金光教でなくともよい」と語っているようで、WCRPの活動にしっくりくるところがある。また、金光教には平和活動センターがあり、異教徒の国イラクの復興に尽力している活動記録が同センターのホームページに記載されている。

一方、立正佼成会のホームページによれば、開祖の庭野日敬師が1969年2月の国際宗教者会議でWCRPの開催を提言し実行を決議したとある。日本で巨大組織を持つ立正佼成会である点と庭野師が早くから世界の宗教指導者と親交を深めていた点を考えると立正佼成会が主導的にWCRPを開催したことは十分考えられる。第1回目のWCRPは京都で開かれた。同ホームページによれば庭野師はどこで第1回目を開催するかは国際宗教者会議で候補地が多くあげられ議論されたが、平和憲法を持つ点とすべての宗教をひとつと見る寛容な文化風土のある日本の仏教の都として世界的に知られる京都が開催地として相応しいと述懐している。

WCRPの活動は国連の活動と歩調を合わせ、平和活動に貢献している有意義な活動だが、体系的にその活動が紹介されないのは残念だ。そこの問題点を二つ挙げたい。

ひとつは、日本の政治と宗教の問題だ。日本は政教分離を憲法で規定している(憲法20条)。世界的な政教分離の目的は次の三点だ。(1)国家が個人の信教の自由を保障する(2)宗教勢力が政治秩序を支配させない(3)政治権力が宗教活動に介入することを排除する――日本の政教分離の目的は(3)が主で、政治が宗教を利用して絶対的な地位を確立しないようにしている。先の日本の侵略戦争が天皇を神格化し国家を神の国として祭り上げてしまった反省がそこにある。

いわば宗教が政治に利用されないようにするために日本の政教分離策がある。そのため政府が宗教について語ることを控えることは当然だとしても、マスコミまで宗教について語らないというのはどう考えても当てはまらない。ところが、日本のマスコミは宗教についての取材が消極的だ。その理由は、マスコミの取材が記者クラブを主体としていることにあり、政府や役所が発表する事だけを疑いのない事実として記事にする慣習が抜け切らないでいることが挙げられる。政府や役所は政教分離策により宗教についてはコメントをしないので記事にならないのだ。

マスコミは躊躇せずに宗教についての独自取材を進め世論を喚起すべきだ。そうすればWCRPの活動も様々な角度から注目され協力者が増えて世界平和に貢献する道が広くなるに違いない。実際、今日の宗教団体は霊的なものの関心が低くなり、あたかもボランティア活動のような世界的平和活動のネットワークが注目されている。こういう活動についてマスコミは独自に取材を行なうべきだ。

もうひとつの問題点は、会議の構成メンバーについてだ。この点については同志社大学神学部教授の森孝一氏が読売新聞(大阪版)に寄稿しているが、対話を求める宗教宗派の指導者だけが一堂に会している点が問題解決の遅れを招いている。世界で言えば、イスラム教原理主義者やキリスト教原理主義者の指導者が出席していない。原理主義者と言われる人たちはゲリラ活動だけではなく、イラクやイラン政府内にもいるし、アメリカ政府内にもキリスト教原理主義者と言われる要人がいる。

一方、国内においては創価学会が参加していない。創価学会は立正佼成会と対立していると言われている日本最大の宗教団体である。創価学会、立正佼成会、霊友会はともに日蓮宗から生まれた新宗教だが、立正佼成会が他宗教や他宗派を積極的に認めているのに対し創価学会は排他的だ。特に日蓮正宗との対立は顕著だ。こうした他の宗教や宗派に対して協調しないところの参加がぜひともほしい。もちろんその努力はなされているのだろうが、なかなか結果が出てこない。

先にも述べたが、ひとつの宗教が世界的に普遍である必要はない。しかし、政治経済がグローバル化し民族の移動が世界的に行なわれている現状では、宗教をどう見るかという宗教観の世界的普遍性は追求する必要がある。早くその日が来ればいいと思う。

この記事の読者数:


参考資料:

Microsoftエンカルタ総合大百科2006:「立正佼成会」「霊友会」「創価学会」「日蓮宗」「金光教」「政教分離」

大仏参拝「すばらしい」 ハタミ前イラン大統領、東大寺へ=奈良 [2006年8月28日読売新聞大阪朝刊]

北東アジアの平和へ会合 世界宗教者会議、きょう日米中韓露の約50人/京都 [2006年8月28日読売新聞大阪朝刊]

世界宗教者会議 北朝鮮と対話継続、確認 日米中韓露が非公式会合 [2006年8月28日読売新聞大阪夕刊]

世界宗教者会議 数珠2000個配る 8か国語で「平和」=京都 [2006年8月27日読売新聞大阪朝刊]

宗教者会議 「異文化間の対話を」 ハタミ前イラン大統領が訴え/京都 [2006年8月27日読売新聞大阪朝刊]

小泉首相、夏の京都満喫 [2006年8月26日読売新聞東京朝刊]

世界宗教者会議、36年ぶり京都で開幕 紛争解決へ固い決意 [2006年8月26日読売新聞東京夕刊]

「宗教違っても最終目的同じ」 ユニセフ事務局長と読売新聞会見[2006年8月26日読売新聞大阪朝刊]

世界宗教者会議開幕 平和実現、思いは一つ 「本音の対話」期待の声/京都 [2006年8月26日読売新聞大阪夕刊]

世界宗教者平和会議・北朝鮮代表の入国を拒否 制裁措置の一環/政府 [2006年8月25日読売新聞東京朝刊]

北朝鮮の6人を入国拒否 世界宗教者会議の代表団/政府 [2006年8月25日読売新聞大阪朝刊]

世界宗教者平和会議、あすから京都で 食・祈り・戒律・習慣、様々…細心準備 [2006年8月25日読売新聞大阪夕刊]

「世界宗教者平和会議」第8回世界大会に寄せて 森孝一(寄稿) [2006年8月14日読売新聞大阪夕刊]

[夕景時評]一言で言えないこと 大阪本社編集委員・吉島一彦 [2006年6月19日読売新聞東京夕刊]

三宅龍雄氏(金光教泉尾教会長、世界宗教者平和会議名誉会長)死去 [2006年3月29日読売新聞東京朝刊]

三宅龍雄氏(金光教泉尾教会長、世界宗教者平和会議〈WCRP〉名誉会長)死去 [2006年3月29日読売新聞大阪朝刊]

【訃報】大谷光照氏が死去 90歳 本願寺派前門主昭和天皇のいとこ [2002年06月15日 産経新聞 東京朝刊]

[政治を読む]公明・創価学会 共産党を意識、草の根強化 [1999年8月29日読売新聞東京朝刊]

立正佼成会開祖の故庭野日敬氏、あす葬儀 公明党、創価学会が出席へ [1999年10月9日読売新聞東京朝刊]

立正佼成会の開祖 庭野日敬氏が死去 [1999年10月04日 産経新聞 大阪夕刊]

日本人の信仰心探る 東京で宗教シンポジウム [1994年7月4日読売新聞大阪夕刊]

参考サイト:

世界宗教者会議:「暴力へ宗教悪用反対」宣言し閉幕へ

【岸コラ】もくじ 【岸田コラム】 home

Copyright (C) Toru Kishida 2005 All Rights Reserved.