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岸田 徹 【岸コラ】 |
北海道の夕張市が「財政再建団体」の申請をすると市議会で決議した(6月20日)。総務大臣の承認が得られれば財政再建団体となる。赤字財政を国の指導で再建することになる。人件費の削減や税金の値上げで再建するのが今までのやり口だったが、ここ何年かは指定された自治体はなかったので、どうなるか。
夕張は明治の初めにアメリカ人により石炭の鉱脈が発見され、後に財閥などが採炭を開始した。炭鉱は24山にのぼり人口は12万人と増加した(1960年)。エネルギー政策が石炭から石油に転換されると閉山が相次ぎ、人口減少で過疎地の指定を受けるようになった(1971年)。平成に入ってから最後の炭鉱が閉山し(1990年)、現在では1万4千人ほどの人口で全国で4番目に少ない市だ。
クロネコヤマトを一躍有名にしたのが夕張メロンの産地直送サービスだった。炭鉱後の産業育成でメロン栽培を行なったが、日持ちが悪かったため流通に乗らなかったのだ。そこで、宅急便の産地直送となったわけだが、これが大ヒット。クロネコヤマトも夕張メロンもこれをきっかけに急成長した。
一方、観光事業にも力をいれ、テーマ・パークブームに乗った「石炭の歴史村」が開館し(1980年)、遊園地やスキー場が次々と整備されていった。道東自動車道が開通してリゾートタウンともてはやされたのだが、市の箱物行政が裏目に出て、一転赤字転落の破綻都市となった。
かつては国を支えた炭鉱都市が時代の流れで閉山を余儀なくされ、必死に観光都市に転換しようとした姿勢に一時は同情の声も寄せられたが、北海道知事の承認を得ないまま裏で金融機関から大量の借金をしていたことが明らかになり、前市長のワンマン体制が集中非難を浴びている。
市議会が財政再建団体の申請を決議した時点では、その負債の額は500億円規模だと言われていたが、この額が終始あやふやで、10日後の道の調査で630億円台になる見通しが明らかになり、累積の赤字額が公表されたのもその後の道の調査だった。その額は257億3千万円。だいたいどこでも経営が破綻する場合は、自らの赤字額を経営トップが把握できていない場合が多い。
夕張市は、この財政赤字額を銀行融資で賄っていたようだが、これには許可が必要だった。許可なしに行なっていたので、それを表面化させないために決算の整理期間に合わせて借換をしていた。その借入額は税収の30倍に相当する292億円に達していた(2006年3月期)。
夕張市の財政破綻は問題が大きいのだが、報道が実に地味だ。問題点は3つある。
第一は、国と地方の関係だ。地方自治体の借金は地方債と言われている。国の借金が国債であるのと同じような言い方だ。2003年度末で全国の地方債発行残高は139兆円ある(国債はその時点で703兆円、2006年3月末で827兆円)。国も地方自治体も税収以上の予算を組んではいけないというのが法律で決められている。ただし例外がある。国が建設事業を行なう場合は建設国債の発行が条件付で認められるのと同様、地方債も交通事業や下水道事業などの地方公共団体が主体に行なう事業や学校や消防署などの公共施設の土地を取得する場合は地方債が発行できる。
しかし、国債も地方債も赤字の埋め合わせのための借金はしてはいけないことになっている。しかし、これにも例外があり臨時的に特に必要がある場合にはできることになっている。赤字国債は、この臨時的な穴埋めで、毎年国会で承認されている。毎年承認されるのですでに「臨時的」ではなくなっているのだが。
それはさておき、市町村の地方債発行は都道府県知事の許可が必要だった。夕張市は北海道知事の許可を得ていなかったので「ヤミ起債」と呼ばれているのだが、これが小泉改革の地方分権一括法により許可制から協議制に緩和されたのだ(2006年度から)。その矢先に夕張市の問題が明るみになり、総務省は対策を協議している。そのひとつに、地方自治体が破綻に追い込まれた場合、借りたお金を返さなくていいとする「債務免除」条項を入れようとしている。
国も地方自治体も現在のところ銀行からはほぼフリーハンドでお金が借りられる。こんなに借金を抱えているのに不思議なのだが、お金は税金で必ず返すという「神話伝説」があるのとお上の許認可事業の弱みからか、お上から金を貸せといわれれば二つ返事で応じている。
地方自治体が借金で首が回らなくなっても、実際には地方交付税で少なくとも利息分ぐらいはちゃんと返済しているから、結局親方日の丸でどんな融資も出てしまうのが現状だ。それが、「債務免除」条項が入るとそうはいかない。貸した方も採算性を見越して貸したのだから、返せなくなったら貸した方も責任を取れと、ツーペイにさせられるのが債務免除だ。
こうなると銀行が容易に地方自治体にお金を貸さなくなるだろうというのが総務省の目論見なのだが、これには重大な落とし穴がある。地方自治体にお金を貸しているのはなにも銀行ばかりではない。3者あって、銀行、国、市場の3者が貸し手だ。3者の割合はほぼ3分の1ずつだ。その中から銀行の融資だけが債務免除になるという事は考えられない。当然国の融資も債務免除が適用されるのが当然。国はご承知の通り借金で火の車。地方に貸した金はイコール国債の金という事になって、その国債が返せない信用不安が持ち上がる。この問題は大きな問題だ。
第二点は、夕張市のように炭鉱の都市からの転換を迫られた都市は全国に散らばっている。夕張市周辺にも炭鉱の町が多かった。これらの地域は同様の問題を抱えているはず。さらに、炭鉱ばかりではない、農業でも漁業でもあるいは造船業でもかつて日本を支えた産業からの転換を余儀なくされている都市は他にもある。構造改革で、これらの地方自治体が同様の問題を抱えてはいないか。
第三に、夕張市が「ヤミ起債」できたのは会計制度の問題がある点だ。分らないところで自治体が独自に借金ができるのは問題だ。地方自治体の財政破綻に国が知らん顔をすることは到底できない。国の一部だからだ。地方自治との兼ね合いはあるだろうが、この点は無視できないところ。
地方自治体の借金はつまるところ国の借金と同様だ。つまり、地方債と国債とは最終的には同様の扱いを受けていなければおかしいということだ。日本の憲法では、国が債務を負担する場合には国会の決議を必要としている(第85条)。これは当り前のように思えるかもしれないが、このような条項が憲法にあるのは実は世界の中では珍しいと指摘する声がある。なぜ、わざわざ憲法でこのような規定があるかと言えば、憲法第9条とリンクしているからだ。
日本は戦争を放棄したが、その担保となっているのがこの財政に関する第85条なのだ。かつては軍部の独走で軍事費は国家予算の半分以上を占めるようになったが、それを埋めたのが国債だった。多くの国の国債が「国の借金」というより「政府の借金」となっているように、当時の国債は「軍政府の借金」だった。そのお金で日本は戦争をしたのだ。その反省から、日本では国債の発行を厳しく制限し、税収以上の国家予算を組まないようにしたのだ。それができるのは国会の承認を得た緊急時だけとした。
ところがそれが現在では「緊急時の連続」で常時緊急時の国債乱発になっている。我々はその成り行きにすでに疑問を感じていない。これは、戦争前の現実と現象面では同じなのだ。地方自治体が「ヤミ起債」できるなどという制度の抜け穴があること自体が、納税者に都合の悪いお金の集め方を温存しようとする体制がある証拠。これを機会に徹底的に制度の見直しを行い、我々も借金についてはその使い方に厳しい目で接するようにしないと、またいつの間にか戦争の道を歩んでしまう。
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参考資料:
Microsoftエンカルタ総合大百科2006:「夕張市」「地方債」
夕張市、累積赤字257億3000万円 観光事業で140億円超=北海道 [2006年8月2日読売新聞東京朝刊]
夕張市、地方債の発行不可能に 総務省、異例の“ダメ出し”=北海道 [2006年7月26日読売新聞東京朝刊]
北海道・夕張市の財政再建団体申請 今年度に前倒しへ [2006年7月25日読売新聞東京夕刊]
夕張市の再建計画 知事「8月までに」 市長「言い切れない」=北海道 [2006年7月15日読売新聞東京朝刊]
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夕張市の財政破綻 道、「対策会議」発足=北海道 [2006年6月30日読売新聞東京朝刊]
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自治体破綻、夕張ショック 負債総額なお不明 一時借入金乱用、巨額の赤字隠す [2006年6月26日読売新聞東京朝刊]
夕張市再建申請 空知地方の旧産炭地 「問題同じ」焦り色濃く=北海道 [2006年6月21日読売新聞東京朝刊]
夕張市、「再建団体」申請へ 20日に市議会で表明 自主再建を断念=北海道 [2006年6月17日読売新聞東京夕刊]
参考サイト:
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