アメリカは、ミサイルの北朝鮮問題を解決する気はない。 富田メモで「分った事」と「分らない事」

テポドン発射で見えてしまった「誰が日本を守る」

岸田 徹 【岸コラ】
2006年7月14日(金)

このイラストにはマイクロソフト社のエンカルタ総合大百科2006DVDの地図を下地に使用しています。北朝鮮が何発ミサイルを発射しても、そのこと自体は挑発にはならない。ミサイルを発射し続けるだけの経済的余裕がないからだ。北朝鮮の国家予算は不明な部分が多いが、多く見積もるもので2兆円、恐らく実態は2千億円以下だ。東京都の年間予算が約6兆円。私が住む大田区の年間予算が2千億円。とてもミサイルを花火のごとく上げている余裕はない。

そんなおもちゃのようなミサイルをポンポンと日本海に落としてくれたお陰で、実はとんでもない恐ろしいものを見てしまった感じだ。それは、とりもなおさず誰が日本の国を守るのかという現実だ。

人類の歴史は戦争の歴史を除いては語れない。それほど人類は好戦的だが、同時に戦争を回避する手立ても考えられ実行に移されてきた。日本においてもそうだ。ついこの間まで戦争の歴史を繰り返していた日本だが、ここ50年以上は戦争を回避している。

その方法は二つだ。ひとつは同盟関係を作り上げ、戦力のバランスの中で戦争を回避するというやり方だ。日米安保条約は日本とアメリカが軍事上はひとつの国家だと表明しているようなもの。アメリカとソ連が軍備を増強し、どちらか一方が戦争を仕掛ければ反撃され大戦争となり、結局仕掛けた方も仕掛けられた方も国が滅んでしまうので、お互いに戦争は回避する。その回避方法の下に同盟国が並んで同様に戦争を回避する。

6ヵ国協議のメンバーは米ソの軍事力強化の下で同盟関係を結び、そのバランスの中で戦争を回避してきた。日本とアメリカは日米安全保障条約、韓国とアメリカは米韓相互防衛条約を結び、自由主義陣営で同盟関係を維持している。一方、北朝鮮はソ連との間にソ朝相互援助条約、中国との間に中朝相互援助条約があり、ソ連と中国との間には中ソ友好同盟相互援助条約が存在し共産主義陣営の同盟関係を維持していた。

もうひとつの戦争回避の方法は国連だ。戦争はしないと宣言する国が国連に加盟し、その約束を破った国を宣言を守っている国が全員一致で非難することによって戦争をできないようにする方法だ。

国連憲章は加盟国の中で守らなければならないもので、国家体制の中に組み込まれるという意味では世界各国が共通に平和を守る礎になっている。

日本は、敗戦後この二つの方法で平和を維持してきた。繰り返して言えば、第一は日米安保条約による同盟関係で、日本を攻撃したらアメリカが反撃し攻撃国に打撃を与える。だから、日本は攻撃されないという仕組み。第二は国連加盟で、日本の平和憲法と国連憲章がリンクすることで平和国家であることを世界に示し絶対に戦争はしないと高らかに宣言し、加盟国はすべて戦争をしないと宣言しているのでそれを守り続けられるように平和活動を続ける姿勢だ。平和活動を展開することで世界から戦争を無くそうとしている。日本は経済的にも国連組織をバックアップしている中心的な国だ。

テポドン発射で、この二つが機能していないのが見えてしまった。

日米軍事同盟は、実に怪しい。これを見せてくれたきっかけは中朝関係だ。日本から見ていると鏡のようだ。中国と北朝鮮との間には中朝相互援助条約がある。どちらか一方の国が攻撃を受けた場合、自動的に一方の国が援軍を送るという条約だ。日米安保条約と同じような条約だ。

ミサイルが発射された後の中国の反応は実に鈍く、北朝鮮を説得する気が本当にあるのかと疑いたくなるものだ。それに反して北朝鮮は、中国が何を言っても聞かない強硬姿勢。この状況から判断して、北朝鮮がアメリカから攻撃された場合、恐らく中国は中朝相互援助条約があっても援軍は送らないだろうなと想像できる。

現在は、中国もロシアもアメリカを敵視してはいない。むしろ改革開放政策においては資本主義経済の重要なパートナーになっている。とても戦争なんかしてはいられない。つまり、中朝相互援助条約は中国が必要だと思ったら援軍を出す条約になってしまっている。

実際、中国の江沢民国家主席(当時)が1995年に韓国を公式訪問した際、記者から中朝相互援助条約について聞かれ、「条約を維持することが、朝鮮半島の安定と平和に有利だと思う」と答え、北朝鮮が攻撃されれば中国は出て行くと実質的に表明していた。ところが、2003年の唐家セン国務委員(当時)の記者インタビューでは「条約の軍事援助条項は、(冷戦という)時代的な背景があって、そうした表現が盛り込まれたもので、性格はあくまで友好善隣条約だ」と述べ北朝鮮が攻撃されても中国は参戦する意思のないことを示唆した。(いずれも読売新聞)

もし仮にそれぞれの国が条約を忠実に守ったとするならば、北朝鮮が日本を攻撃すると、アメリカは日米安保条約に従って日本を守るために北朝鮮に反撃しなくてはならない。そうすると、中朝相互援助条約により中国が北朝鮮に援軍を出さなくてはならない。こうなるとアメリカと中国が戦争をすることになる。それはアメリカも中国も望まない。

最悪の場合、北朝鮮が日本を攻撃したら、日本はそのまま見捨てられる可能性だってある。日米安保もアメリカが攻撃したい相手が日本を攻撃した場合にだけ有効な条約で、アメリカが喧嘩したくない相手にはまったく無効な条約だという点がよく見える。この点では中国もアメリカも同じだ。

もうひとつは国連の制裁決議だ。北朝鮮が、ミサイルを発射したのは7月5日未明だ。すぐに国連の安保理で緊急非公式協議が行われたが、日本はその場で非難決議をすべきだと主張した。そして、7月8日未明(現地時間7月7日午後)にはやはり安保理の非公式協議で日本は制裁決議案を正式に提出した。共同提出国はアメリカ、イギリス、フランス、デンマーク、スロバキア、ギリシャだ。日本にしては実に素早い行動だった。10日に裁決の方向だった。

ところが、裁決は一向に進まず、共同提出国の間からも気のない対応が漏れてくる。強い制裁決議を求めるのは、どうやら日本だけの情勢になってきた。一瞬、国連に対する失望感が襲ってくる。しかし、よく考えてみれば当り前かもしれない。アメリカやヨーロッパ、さらには中東諸国にとっては北朝鮮がどんなに吼えようと関係ないこと。日本だって北朝鮮国家により誘拐が行なわれていなければ、いくら近い国だとは言え、ミサイルがロシア沿岸に落ちている程度なら、きっと無関心だったに違いない。これは国連の限界だ。各国の利害は同情や人類愛だけでは調整がつかない。

こうなると、日本も独自の軍事力を持つべきだという声が高くなる。しかし、それは戦争回避の手段にはならない。なぜなら、人類は軍事力のバランスで戦争を回避しようとしたができずに戦争を繰り返した。軍事力を増強すればいつかそれを使わないといられなくなるのだ。その反省から国際連盟や国際連合を形成したが、それでも世界各地で戦争が絶えない。

では、どうしたらいいのか。これには残念ながら答えがない。特に我々は敗戦後ずっと国防につていはアメリカが解決する問題として議論を避けてきた。そして、世界の脅威になるほどの軍事費を使いながらも、戦闘行為はアメリカ主導でないとできないシステムを構築している。これを日本が主導的に戦闘を展開するシステムに変えることは莫大な予算と戦争訓練が必要だ。時計の針を戻すことはできない。

唯一の方法は、考えることだ。何が日本の国防になるのか。どうすれば日本は戦争を回避できるのか。じっくり考える必要がある。なにも他国が日本を攻めてくると決まったわけではない。時間の猶予は十分にある。一番恐ろしいことは、考えもしたことのないことを煽られて決めてしまうことだ。何も知らない国民がいつも戦争で死んでいった歴史を繰り返してはいけない。十分、議論を尽くした上で我々が決めることだ。一年や二年で結論が出るはずがない。ましてや国連で制裁決議が思うように採択されなくても、日本の防衛策をすぐに変更する理由にはならない。

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参考資料:

Microsoftエンカルタ総合大百科2006:「安全保障」「国際連合憲章」

敵基地攻撃、MDと並行検討必要 公明中心に慎重論も [2006年7月11日読売新聞東京朝刊]

中国訪朝団、平壌入り ミサイル発射凍結など説得 [2006年7月10日読売新聞東京夕刊]

北制裁決議案に7か国が共同提案 安保理13か国支持 中国反対、露沈黙 [2006年7月8日読売新聞東京夕刊]

北朝鮮ミサイル発射 安保理が緊急協議 日本、非難決議訴え [2006年7月6日読売新聞東京朝刊]

「中朝相互援助条約は有事の参戦意味せず」 唐家セン氏が発言 [2003年9月27日読売新聞東京朝刊]

中朝相互援助条約の「自動介入条項」見直す考えなし/江・中国主席会見 [1995年11月11日読売新聞東京朝刊]

参考サイト:

先立つものは金

朝鮮民主主義人民共和国の国家予算と軍事費に関する考察

中国とロシア『友好〜対決〜和解口そして、新・蜜月時代へ』

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