ベートーベンは何人か。 テポドン発射で見えてしまった「誰が日本を守る」

アメリカは、ミサイルの北朝鮮問題を解決する気はない。

岸田 徹 【岸コラ】
2006年7月11日(火)

ブッシュ大統領が「悪の枢軸」だと北朝鮮、イラン、イラクの3国を非難したのは、2002年の1月29日の夜だった。連邦議会で行なわれた今後1年の施政方針演説だった(一般教書演説)。夜はテレビのゴールデンタイムに合わせた時間帯だ。このときの模様を読売新聞記者のワシントン電は次のように伝えている。

ブッシュ大統領は「米国は、世界で最も危険な国家体制が、最も破壊的な兵器で我々を脅威にさらすことを許しはしない」と宣言。北朝鮮を「ミサイルと大量破壊兵器で武装しながら市民を飢えさせている体制」と呼ぶなど、三か国への不信感を表明したうえで、「こうした国やテロリストが、世界の平和を脅かす悪の枢軸を形成している」と対決姿勢を鮮明にした。

この三ヵ月半前にアメリカは9.11のテロを経験している。ブッシュ大統領の発言は、国際テロリストに対するアメリカ世論の強い警戒心と反発心を背景に行なわれたことは間違いない。この演説から1年後にアメリカはイラクに侵攻する(2003年3月20日)。

この間、世界各国は、アメリカのイラク先制攻撃態勢に批判的で、自制するよう促した。実は、小泉首相でさえ「耐えがたきを耐えるのも重要だ」とブッシュ大統領を説得するのだった。小泉さんがブッシュにそう言ったのは9月のことだったが、この年(2002年)の9月は計られた9月だった。

9.11から1年後の追悼式典と国連総会での一般討論演説のため、小泉さんはアメリカを訪問した。12日には日米首脳会談が行なわれ、その席で小泉さんはブッシュに耐えがたきを耐えと言うつもりだと記者団に表明している。実は、その後の17日に小泉さんは北朝鮮を初めて訪問することになっていた。そこで、ブッシュ大統領は小泉さんに米朝対話の再開を早期に図るよう金正日総書記に促すよう託していた事が明らかになっている。

この時は、アメリカの方が北朝鮮に対してアメリカの対話姿勢に応じるよう提案している。イラク戦争前のことだ。そんな状況下、小泉さんはこの一瞬、自分が北朝鮮とは対話をしてくるので、ブッシュさんもイラクにそうかたくなな態度は取らず、お互い上手く話し合いをまとめましょうよと提案したのだった。

ところが、小泉訪朝は日朝平壌宣言を行なったものの横田めぐみさんの死亡をはじめ多くの人の死亡を宣告され、日本人の心をかき乱す結果で終わった。

ブッシュ大統領はイラクに対する先制攻撃を主張するようになり、小泉さんもいつの間にかアメリカとの同盟関係を主張するようになった。国際連携でイラクへの攻撃を阻止すべきだとの声が依然強いまま、アメリカ軍はイラクに侵攻した。日朝平壌宣言からちょうど半年後の事だった。ブッシュ大統領はその日の夜ホワイトハウスの執務室からテレビ演説を行なった。

「アメリカと同盟国の部隊は、イラクを武装解除し、その国民を解放し、世界を重大な危険から守るための軍事作戦の初期段階にある」

「サダム・フセインの戦争遂行能力に打撃を与える」

「軍事的重要性を持つ標的を選んで攻撃を始めた」

「一部の人が予想しているより、長く難しい戦いになるかもしれない」が「我々は必ず勝利する」(読売新聞)

この時の経緯を振り返ってみると、日米の立場は逆転しているかのようだ。つまり、アメリカのイラク侵攻のときは、日本が国際協調を訴え、アメリカが単独でもイラクへ先制攻撃をしようとしていた。一方、今回の北朝鮮のミサイル発射後は、日本がいち早く北朝鮮への制裁を発動し、アメリカは6ヵ国協議でこの問題を終息しようとしている。

北朝鮮がミサイルを発射した7月5日、すぐにアメリカのライス国務長官は記者会見し、ミサイル発射問題は「米朝間だけの問題ではない」とし、「6か国協議がこの問題を解決するための有用な外交的仕組みだ」(読売新聞)と述べている。

アメリカには、北朝鮮と直接交渉をして早めに問題を解決すべきだと主張する勢力もある。しかし、ホワイトハウスの中心はライス国務長官が主張する6ヵ国協議に問題を持ち込むべきだとするものだ。イラク攻撃時には世界の警察を自認してたアメリカが、どうして北朝鮮問題では国際協調を主張しているのか。

一般的に言えることは、小泉さんがブッシュ大統領に「耐えろ」と言っても、つい三ヵ月半前に3千人もの人が貿易センタービルを民間航空機で攻撃されて死んだという悲劇が目の前にあったという点だ。日本はミサイルを発射されて、多くの日本人を誘拐してまだ返していない国がとんでもないことをしてくれたと警戒心を強めた。同じような状況が当時のアメリカにはあって、今回は、アメリカでは拉致事件はないから、アメリカが事の中心になる必要はないと思っている。

しかし、恐らく、当時とは違う状況が独走状態のアメリカにブレーキをかけている。ひとつの興味深い見方は、国際ニュース解説の田中宇さんが主張する、アメリカの多極化政策だ。アメリカの大資本家がアメリカ一極主義では儲けられなくなっているので、アメリカ以外の各地で経済活動が活発になる多極化を好んでいるという見方だ。そうすることにより、アメリカの大資本家が投資した東南アジアやロシア、中国などへの資本が倍増するというシナリオにホワイトハウスが乗らされているというものだ。

この見方は、アメリカの政策を見るのに納得のいく根拠になる。恐らくそういう動きがあるに違いない。日本への市場開放要求も手詰まり感がぬぐいきれないアメリカ市場の代わりに日本市場を大資本が要求した爪あとがしっかり残っている。

しかし、そのために6ヵ国協議を利用するというのは、いったいどういう意味があるのか。よく考えると意味が分らないのだ。結局北朝鮮に利用されるだけではないかという気がしてくる。実は、戦後がまだ続いていて、6ヵ国協議では、拉致の問題や核の問題、ましてやミサイル発射後の問題などとても協議できる状態ではないのだ。その前に、やらなくてはならない重大なことがある。

北朝鮮は、祖国解放戦争により金日成(金正日の父)が造った国だとされている。祖国解放戦争とは北朝鮮の呼び名で我々は朝鮮戦争と呼んでいる。第二次世界大戦後起きた戦争だ(1950年6月)。この戦争は、3年ほど続くが、実は正式には終わっていない。戦争当事国の韓国と北朝鮮との間は現在も休戦協定や終戦に関する調印がなされていない。

朝鮮半島は1910年から日本が占領しその統治下にあった。それが第二次世界大戦で日本が負け、朝鮮半島は日本から開放されたが、その代わり入ってきたのは連合国軍だった。連合国の間で調整がつかず、北をソ連が南をアメリカが管轄下として、それぞれの国を興した。南の韓国は李承晩が大統領になった。例の竹島領有権をめぐる李承晩ラインを作った大統領だ。

北は共和国の樹立を金日成が首相に就任して宣言した。そこで、南北のそれぞれの国が祖国統一を訴えて38度線を境に争うことになった。この戦争は南に付いたアメリカと北に付いたソ連との戦争だと思われがちだが、必ずしも米ソの直接対立にはなっていない。

戦争当初は、北が南に進軍し、北朝鮮軍はソウルを陥落させた。この侵略戦争に、アメリカの影響力が強く働いた国連が非難決議をする。この時、ソ連は拒否権を発動しなかった。国連は当時中国の代表権がどこにあるかで紛糾し、ソ連が安保理をボイコット。そのすきに、アメリカが働きかけて非難決議を通してしまったという事情がある。

ここで、アメリカは韓国に対する援軍をアメリカ軍ではなく国連軍にし、今で言う国際社会を韓国の援軍に仕向けた。国連軍の総司令官は、東京GHQのマッカーサーだ。日本は吉田首相が経済難を理由に参戦を断ったが、後方基地としての役割を買って出た。アメリカの占領下にあった沖縄からはB-29が飛び立ち北爆を開始した。海からは第七艦隊が台湾海峡に向った。

国連軍はソウルを奪還し、韓国軍は38度線を一気に突破した。国連総会は国連軍による朝鮮統一を承認し、国連・韓国両軍は平壌を占領した。これで、朝鮮半島は国連軍により統一されるかと思いきや、中国の人民義勇軍が参戦してきたのだった。人民義勇軍は北朝鮮軍を援護し平壌を奪還。さらに人民義勇軍と北朝鮮軍はソウルを再度占領することに成功した。

これに対して国連総会は、中国非難決議を採択した。この勢いで、国連・韓国両軍はソウルを再度奪還すると、38度線でにらみ合いが続く状態になった。そこで、マッカーサーは中国とソ連に原爆攻撃をすると主張したのだが、日本に原爆を落としたトルーマン大統領に反対され、総司令官を解任された。

そこで、休戦提案をしたのがソ連だった。休戦交渉が板門店で行なわれたが、交渉はもつれ2年間にわたった。ついに国連軍、北朝鮮軍、中国人民義勇軍の三者で休戦協定が調印されたが、韓国軍はこれを拒否し、現在に至っている。

この戦争で、韓国軍、国連軍、北朝鮮軍、中国人民義勇軍合わせて150万人の戦死者を出し、200万人の負傷者を出した。民間人も200万人以上が死亡したか行方が分らなくなっている。実に悲惨な戦闘だった。

日本は、この戦争のお陰で朝鮮特需が起こり、戦後の経済復興を成し遂げた。

これが、そのまま6ヵ国協議のメンバーなのだ。つまり、6ヵ国協議が会議のとして機能し、ちゃんと話し合いの後に結論を導くためには、朝鮮戦争の終結が正式に宣言され、その戦後処理をどうするかを正式に表明してからでないと、本来はありえないというのが本当の姿だ。

こういう状況で、北朝鮮がアメリカに向けてメッセージの代わりにミサイルを発射すれば、アメリカは直接交渉を拒否し結論の出ない6ヵ国協議に解決の場を向けるだろうという事は、金正日は先刻承知のはずだったに違いない。万一アメリカが直接交渉に乗ってくればそれもヨシ。乗ってこなければ、北朝鮮の建国を生み出したソ連(今のロシア)に何とかしろと言えるし、途中で援軍を出して共にアメリカと戦った中国にも静かにする代わりに金をくれと言える。

ソ連は外交面ではロシアが引き継いだが、すでに過去の国家体制で、ソ連の負の部分をロシアは蒸し返されたくない。中国も新しい国の体制を意識し、すでに北朝鮮とは共に戦ったという意識はない。しかし、歴史的な解決がついていない現状では、朝鮮半島を火の海にした責任はアメリカ、中国、ロシアにあると今でも言える。さらに、そもそも分断の憂き目に会わなくてはいけない状況を作り出したのは日本の韓国併合政策にあると言える状況にある。

戦争終結のきちんとした表明がないままに、6ヵ国協議が機能するはずがない。それなのに何で6カ国協議に解決の場を持ってくるのか。アメリカは最初から解決する気のない事がよく分る。

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参考資料:

Microsoftエンカルタ総合大百科2006:「朝鮮戦争」「トルーマン大統領」

北朝鮮ミサイル発射 制裁「支持」92%/読売新聞社世論調査 [2006年7月8日読売新聞東京朝刊]

北朝鮮ミサイル発射 米、北朝鮮との2国間協議を拒否 [2006年7月6日読売新聞東京朝刊]

北朝鮮ミサイル発射 ブッシュ米大統領「北は孤立深めた」 [2006年7月6日読売新聞東京夕刊]

北朝鮮ミサイル発射 米、国際的締め付け強化へ [2006年7月5日読売新聞東京夕刊]

テポドン2号、発射なら北朝鮮に圧力 日米首脳「新世紀の同盟」を宣言 [2006年6月30日読売新聞東京朝刊]

対北朝鮮政策の手詰まり 「ホワイトハウスの失策」 米国務省元部長が講演 [2006年6月22日読売新聞東京朝刊]

対イラク攻撃 「イラク国民を解放」/ブッシュ米大統領演説 [2003年3月20日読売新聞東京夕刊]

日米首脳会談 日朝会談へ好材料 安全保障に米、強い関心 [2002年9月13日読売新聞東京夕刊]

対イラク、国際協調を 小泉首相、日米首脳会談で要請 米大統領、日朝会談支持 [2002年9月13日読売新聞東京夕刊]

対イラク攻撃 国際協調、米に要請 小泉首相、13日の首脳会談で [2002年9月10日読売新聞東京夕刊]

小泉首相訪朝時、ブッシュ米大統領メッセージを伝達 [2002年9月8日読売新聞東京朝刊]

対イラク軍事行動「国際連携、重視を」 日米首脳会談で小泉首相表明へ [2002年9月6日読売新聞東京朝刊]

ブッシュ米大統領、イラクなど名指し非難 一般教書演説で対テロ戦争へ決意 [2002年1月30日読売新聞東京夕刊]

参考サイト:

アメリカを空洞化させた国際資本

ネオコンと多極化の本質

北朝鮮ミサイル危機で見えたもの

北朝鮮ミサイル:7発発射、日本海に落下 テポドン2号も

北朝鮮ミサイル:ロシアが「情勢緊迫化させる行為」と批判

北朝鮮ミサイル:政界にも衝撃…自民党内は強硬論一色

北朝鮮ミサイル:米メディアは厳しい論調

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