「大変だから来なくていい」社会保険事務所長の裏表 福井日銀総裁、辞任しない理由

会社法で、起業はしやすくなったのか。

岸田 徹 【岸コラ】
2006年6月23日(金)

今年の5月に新しい会社法ができた。大企業にとっては株式の種類が増えるなど福音もある。一方、起業家にとっては「1円からでも会社が作れる」という最低資本金規制の撤廃で、自由に会社が作れるようになったというが、本当だろうか。

それはずいぶん怪しい。だいたい1円で会社を設立して何の意味があるというのか。会社が潰れる一番の原因は運転資金が底をつくことだ。会社は利益が赤字でも潰れることはないが、お金がなくなったら、いくら黒字でも倒産してしまう。例えば、60万円で作ったものを100万円で売れば、40万円の黒字が出る。しかし、相手が100万円の支払いを半年後でないとしてくれないという事になれば、次の仕入れが半年間できないことになり、銀行がその間お金を貸してくれなければ、会社の運命はそこで終わりだ。

反対に60万円で作ったものが50万円でしか売れなかったら10万円の赤字だ。しかし、その50万円をすぐに払ってもらえば、その50万円で新たな仕入れをして再び商品を作ることができる。その間、会社は潰れることなく活動ができ、次の商売に繋げることができる。繋いでいる間に潤沢な資本金があれば、売れるような研究もそれに合わせた仕入れもできる。また、100万円で買ってくれる人が現れるまで待つこともできる。経営の選択の幅がぐっと広がるわけだ。

だから、資本金は多ければ多いほどいい。それを1円で会社は作れますよなどど宣伝すれば、潰れる会社を奨励しているようなもので、国家がやるべきことではない。辛いだろうが、自分で商売を始める前は、きちんとお金を貯めることが成功の第一条件だ。

多くの人が自由に会社を作れないのは、資本金のハードルが高いのが問題なのではなく、訳の分からない届出が多いのが問題なのではないか。

まず、届けると言ってもどこに届けていいのかが分らない。国なのか都道府県なのか市町村なのか。とりあえず浮かぶのが登記所だが、実は、会社設立の届出は、登記所以外に国税庁の税務署、都道府県、市区町村、社会保険事務所と実に多いのだ。その中でも、税務署は届出がさらに複数ある。法人の設立届け、税務申告の方法の届け、給与支払いの届け、源泉所得税に関する届けがあって、設立後に消費税の届けがある。これら、すべてを届け出ないと会社は設立できない。

株式会社の役割は利益をあげて、株主、経営者、従業員に利益をもたらすことだが、それに自治体や国家にも納税により利益をもたらすことが求められている。利益をあげるという意味では会社と税務署の利害は一致している。だから、どんどん会社を作ってもらって、利益をあげてもらうのが国にとってもありがたいことのはず。

ところが、実際には違う。会社設立後は、企業はなるべく多くの利益を自分のところに留めようとするし、税務署はなるべく多くの税金を取ろうとする。そこで、利益をなるべくあげない会社が増えて、税務署はそれでも税金を取れるようにどんどん制度を変えていく。これで、会社と税務署は利害が一致しない関係になって、パイを食い合う仲となる。

会社を設立する夢多き実業家には、実に情けない話なのだが、届出書の多さにさじを投げ、ほとんどの場合、会計士か税理士か司法書士に会社設立の届出関係を依頼してしまう。その費用は20万円から50万円だ。こういうお金は、実にもったいない。しかし、自分ひとりで一からやれば、これだけで1ヶ月はかかってしまうだろう。会社を設立する重要なときに、届出の方法を勉強するのは意味がない。

やっとの思いで、設立した会社ではじめての決算はそれなりに嬉しいものだ。決算書類を作成し利益が出たら納税だ。社会貢献を感じる意義あるときだ。ところが、これがまた問題。会計上の会社の利益と税務上の会社の利益は違うのだ。だから、会社の決算書を四苦八苦して作り上げた後、税務申告書を別に作って、税務署用の損益を確定しなくてはならない。これが、実に面倒だ。

なんで、こんなことがあるのかというと、会社の決算というのは原則自由だ。もし、会社の決算に税務署が介入すると国家による企業統治になってしまう。そんなことは許されない。ところが、一方では税金は公平に納められなくてはいけない。税金を納めようと一生懸命利益をあげている会社と、なるべく税金を払わないように経費をふんだんに使う会社があったのでは、不公平が生じるので、納税の観点から決算を引き直そうというのが税務申告だ。

上場していない会社では、会社の決算よりは税務申告の方が重要になってくる。これが、結構面倒なのだ。なぜかと言うと、特例が多い。

税金には、納税の意味合いと、政策的な道具の意味合いの二つがある。政策的な道具の税金とは、例えば、国の政策としてITを推進したいとなれば、会社がパソコンを購入した場合、3年間は一括して償却ができるとかいう特例を作り、パソコンが売れるようにする。どういう事かというと、例えばこうだ。100万円の売上げがある会社が80万円の経費がかかり、20万円の利益をあげたとする。すると、20万円の中から税金を払うことになる。

そこを、30万円のパソコンを買えば、経費が30万円増えてその会社は10万円の赤字になり、税金を払わなくてすむ訳だ。もちろん、パソコンは会社の経費で落としていいのだが、本来、パソコンは1年限りで役目を終える訳ではないので、3年かけて10万円ずつ経費を落としてくださいというのが税務署の見解だ。そのやり方でいくと、この会社は30万円のパソコンを買ってもその年は10万円しか経費で落とせない。すると90万円の経費で、100万円の売上げに対し10万円の利益が出てしまう。それを特例を作って30万円一挙に落としていいとなれば、税金も払わなくてすむので、パソコンを買おうかという気になり、国のIT行政に貢献するという訳だ。

そんな特例が次から次へ出てくる。多くが期間限定の特例なので、それがなくなるときが来る。パソコンだけなら覚えてもいられるが、他にもどんどん出てくる。それがまた、分からない言葉なのだ。「中小企業者等の小額減価償却資産の取得原価額の損金算入の特例制度について、当期に取得等をした小額減価償却資産の合計額が300万円を超える場合には、その超える部分にかかわる減価償却資産が対象から除外されました」――(平成18年4月1日以降の適用分)一度読んだだけでは税務署の人だって分らないのでは。

会社の税務は法人税ばかりではない。社員に支払う給料から所得税や住民税を天引きする源泉徴収の事務。前回も書いた健康保険料や年金保険料の徴収事務がこれに加わる。さらに、消費税も分りづらい。消費税は、2年前の売上げが1千万円を超えると課税の対象になる。それも、今年からは1千万円だが、その前は3千万円を超えると課税対象だった。どんどん変わるのだ。その支払いの方法も、自分が支払った消費税を差引いて支払うのと、そんなことは面倒でやっていられないとなれば、例えば売上げの消費税部分の半分を支払うとかの方法をあらかじめ選択して届け出なくてはならない(これも、売上げが5千万円以下の場合、その前は2億円以下、消費税が創設された当時は4億円以下だった)。

さらに、契約をすれば契約書の印紙税。これも消費税がらみで金額が変わる。印紙税法を全部把握しようと思えば、大変な努力が必要だ。

税金の納付場所は税務署だけではなく、都道府県の事務所へ住民税を支払わなくてはいけないし、償却資産があれば固定資産税の支払いもしなくてはならない。従業員の住民税についても年末調整後の源泉徴収表を市区町村に提出しないと、住民税が払われなくなってしまう。

社会保険の事務も前回書いたとおり大変だ。そんなこんなを全部やりながら会社の利益追求の方法を考え営業していくと、いつかパンクする。几帳面にできずに、営業に突っ走ると、利益が上がったころには、待ってましたとばかりに税務調査が入り、いい加減な税務申告だと指摘され、ごっそり税金を取られてしまう。

こうなると、起業家たちは税務の分る人を高給で雇い、会社は財務・経理中心に経営される態勢になって、いつの間にか儲けることより損をしない会社に変身してしまう。一時的に納税額が減るかもしれないが、結局税務の分かる人が会社の中枢をなすようになると、最終的には税務署のコントロール下に収まり、納税のための会社になってしまう。

統治社会のシステムは教える学校でも、こんな税務のシステムは一切教えない。だから、ほとんどの人が始めて出くわす社会のシステムなのだ。

これじゃ、やっていられなくなる。もっと簡単に、例えば利益の1割を払えばすべてOKというような単純明快な税務申告にし、源泉徴収事務は一切止め、まるごと給料を支払い、従業員はそこから税金や社会保険料を自分で納めに行く制度を真剣に考えるべきだ。税務のために会社があるのではない。複雑な税務申告は結局、役人天国に通じている。

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参考資料:

Microsoftエンカルタ総合大百科2006:「消費税」

会社法きょう施行 定款変更が相次ぐ 年明け以降179社 [2006年5月1日読売新聞東京朝刊]

参考サイト:

「会社法」の概要

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