駐車違反取締強化は天下り先強化 どうして、そんなに下がる日本の株価

村上世彰逮捕は誰が仕組んだのか。

岸田 徹 【岸コラ】
2006年6月6日(火)

どうしたら、そんなにお金が儲かるのだろう――と村上ファンドの村上世彰氏のことを羨ましく思った人は多い。灘高から東大法学部を出て通産省に勤めたエリートだ。きっと頭がよくて色々考えて儲けているのだろうと思いきや、法律違反をしていた。なんだ、ルールを破っていいのなら、誰にだって儲けられる――と思った人も。

だから、やっぱりせっせと働いて、コツコツ貯めて人並みの生活を送るのが幸せなんだと諦めに近い納得をした人がいるかもしれない。これは、罠だ。

昨日、村上さんが逮捕され、ホリエモンと同じ東京拘置所に入れられた。逮捕の理由は、インサイダー取引をしたというのだ。インサイダー取引というのは、自分がかかわる内部情報を元に、一般投資家が知る前に株を買い込み、値が上がった時点で売って、値上がり分を不当に儲けるという違法行為だ。

株は上がるかもしれないが下がるかもしれない。リスクを承知で投資するから、上がると分っている株を事前に購入するのはフェアーじゃないというのが違法性の根拠だ。一般的にあげられる例は、上場会社の研究で発明品が開発され、それを発表する前に、開発者の社員と社長が自分の会社の株を買い込んでおく。発明を発表すると会社の株が上がり、事前に買った社員と社長は大儲けというものだ。

じゃ、村上さんはどうやって儲かる株の情報を事前に知ったのか。実は、村上さんの場合は、そこらへんがちょっと複雑。村上さんのインサイダー取引は、一般にあげられる例にはそぐわないもので、やってはいけないとされる取引が違う。どう違うかというとこうだ。

事は、去年の冬。ライブドアがニッポン放送株を買い、筆頭株主になったときのことだ。ホリエモンは、放送局が欲しいと、フジテレビの大株主だったニッポン放送株を買い進め、約35%の筆頭株主になった(2005年2月)。この35%の株のうちの5%部分はライブドアが半年ほど前から買い進めたものだが、30%部分は村上ファンドが保有していたものを時間外取引で買ったものだった。

証券取引法では、公開株の5%以上を買い進める場合はTOBに順ずる行為として、買い進める前に買う人は事前にその情報を公表しなくてはいけないことになっている。そして、その公表前にその事を知った人は、その株を買ってはいけないことになっている。これが村上さんに対して持たれたインサイダー疑惑で、村上さんもそれを認めた。

TOBというのは、阪急が阪神の株を買いたいと宣言して、提示した条件で阪神株を買い阪神を買収する――こういう企業買収の行為だ。(今回村上ファンドは阪神に色々注文をつけて買収を行なおうとしたが、それから逃れようと阪神は阪急に買収を依頼し、阪急は阪神株を売って下さいと一般株主に公表した)

5%以上買い進めたのはライブドアだ。それに対して、村上さんは買い進めたいというライブドアの意思を事前に知った上でニッポン放送の株を買い、ニッポン放送株が上がったところで売り抜き、33億円ほど儲けたとされている。

ところが、ここらへんは、今の新聞報道や村上さんの逮捕前の記者会見で述べられた情報を照らし合わせて考えてみると、ちょっと無理があるのだ。

村上ファンドがライブドアに株を売ったのが去年(2005年)の2月8日だ。125万株を売った。これで、ライブドアはニッポン放送の株式の約35%を取得して筆頭株主になった。では、この125万株はいつ村上ファンドは買ったのだろうか。ここがポイントになる。

「村上代表逮捕」報道をいち早く報道した日経新聞と地検特捜部が情報源としたとされる朝日新聞社刊の「ヒルズ黙示録」を書いた記者が最新号のAERAで発表した情報を総合すると、その株の取引の経緯はこうだ。

2004年
9月15日 村上氏が自社が保有するニッポン放送株を買わないかとライブドアの堀江氏や楽天の三木谷氏に打診。これ以降ホリエモンはニッポン放送株を買い進める。
11月8日 ライブドアの堀江氏と宮内氏が「ニッポン放送株が欲しい」と村上氏に要請。
11月9日 以降村上ファンドがニッポン放送株を買い進める。翌年(2005年)1月26日までに193万株を99億円で購入し続けた。
2005年
1月5日 村上ファンドはニッポン放送株の約18%を保有し筆頭株主になったと発表
1月6日 堀江氏が村上氏に「ニッポン放送の経営権を取りたいので協力して欲しい」と依頼
2月8日 村上ファンドがライブドアに125万株を売却

問題になるのは、2004年の11月8日にホリエモンが村上さんにニッポン放送の株が欲しいと言われた時点と、2005年1月6日にホリエモンがニッポン放送の経営権を取りたいので協力して欲しいと言った時点だ。

1月6日に経営権を取りたいとホリエモンが言ったのなら、経営権の取得にはそれなりの株式数を独占しなくてはならないので、当然5%以上取得したいとホリエモンが考えているという証になる。ところが、その時点では村上さんがライブドアに売った125万株のうちのほとんどを村上ファンドは取得していて、この依頼があってからニッポン放送の株を買い増ししたとは考えられない。

では、それ以前の2004年の11月8日に「ニッポン放送株が欲しい」とホリエモンが言ったというのはどうだろう。これ以降、村上ファンドはニッポン放送株を買い進めるわけだが、この11月8日のホリエモン発言ではたして5%以上の株を買うという明確な意思表示になっているのか、すでにその時点でホリエモンがニッポン放送株を取得してフジテレビを傘下におさめる計画が出来上がり、それを村上さんに細かく説明していたかどうか、さらに、その計画を利用して自分がニッポン放送の株を買って一儲けしようとしたかどうかは非常に疑問だ。

しかし、地検特捜部はその時点の行動を指摘し、村上さんも、それをそう言われればそうだと言わざるをえないとインサイダー取引を認めた。

マスコミはどこも正確には報道しないが、特捜部がそれでも村上さんにインサイダー取引をしたと言うのは、村上ファンドが所有していたニッポン放送株193万株のうち、ライブドアに売った125万株を除く残りの68万株を売り抜いたことを指摘しているようなのだ。これは、どうでもいい話ではないのだろうか。

なんで東京地検特捜部は、それほどまでして村上さんを罪人にしたいのか。東京地検の次席検事である伊藤鉄男氏は「一般投資家の犠牲において利得を図った卑劣な犯行」と今回の村上さんの行為を痛烈に批判している。

一般投資家の犠牲とはどんな犠牲かというと、この残りの68万株についてのことだ。ニッポン放送の株をライブドアが大量に買ったときに値が上がって、本来ニッポン放送株を持っている一般投資家はそれを売れば儲かるのに、その株を村上さんが先に一般投資家から買ってしまったために68万株分の一般投資家が儲からなかったという「犠牲」だ。はたして一般投資家はこの損に地団太を踏んだだろうか。

一般投資家は確かに村上ファンドに株を売ったかもしれないが、無理矢理取られたわけではない。一般投資家の指値(希望価格)で買っているのだから、売った方だって損をした気にはなっていない。株式の売買というのはそんなものだ。そんな一般投資家保護より、村上逮捕劇で日本に投資ファンドが集まらなくなり、株価がジリジリ下がる方がよほど厳しい。特捜部の逮捕劇はそれこそ一般投資家の犠牲の下で行なわれている。

そんな特捜部の本当の狙いはどこにあるのか。村上さんは、日本の官僚の中でもエリート官僚と言われた通産官僚出身だ。官僚を辞めて民間会社で働く人は他にもいるが、だいたいは、かつての人脈を利用して持ちつ持たれつでビジネスを展開している。

ところが、村上さんは人脈も利用したかもしれないが、発想は脱官僚国家観が先行し、特に通産官僚当時から天下り先体制には批判的だったという。つまり、日本の官僚国家体制に批判的で、これからの日本はグローバルな社会の中で自由に競争して誰でもが知恵と努力で利益を得られる体制を夢見ていた。そのために官僚を辞めたわけで、そんな人が官僚トップの事務次官の何千倍もの所得があったのでは官僚体制の内部崩壊が始まってしまうという危機感が高級官僚の中にあったのではないだろうか。

実際のところ、優秀な官僚が続々と将来性を悲観して官僚を辞めている。財務省の片山さつきさんもその典型だ。

今回の村上逮捕劇は、ホリエモン逮捕劇同様、「国民は額に汗して働け」という官僚からのメッセージだ。官僚国家体制は、国民が一律に秩序をもって勤勉に働き、文句を言わずに税金を払ってくれる体制でないと成り立たない。自分が払った税金の使い道にいちいちものを言ったり、官僚が作った日本のルール通りに動かずに、グローバルな価値観で大金を左右され、それがサクセスストーリーにつながってしまったのでは困るのだ。

莫大な労力と税金を使ってホリエモンと村上氏を逮捕した東京地検。いったい誰がそれを歓迎するのだろうか。かつて田中角栄を逮捕したときのような国民的な賞賛はすでにない。それほど、日本は価値観が多様化し、若い力は官僚が作り上げた国家観の中では幸せを感じて生きてはいけない。こんな益のないことをやり続けると、日本は閉塞感ばかりか脱力感と無力感に覆われた国になってしまう。官僚が仕組む罠にはもうこりごりだ。

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参考資料:

Microsoftエンカルタ総合大百科2006:「インサイダー取引」

村上ファンドの崩壊『ヒルズ黙示録』最終章 [2006年6月12日号AERA]

【視点】村上ファンド代表逮捕 市場・株主への背信警鐘 [2006年06月06日 産経新聞東京朝刊]

村上代表逮捕 インサイダー容疑で東京地検 利益30億円 ニッポン放送株 [2006年6月6日日経新聞東京朝刊]

インサイダー取引認める「情報得た後も買ってしまった」 [2006年6月5日日経新聞東京夕刊]

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