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岸田 徹 【岸コラ】 |
横田めぐみさんの母親、早紀江さんがブッシュ大統領に面会するという劇的な瞬間から、日本はゴールデン・ウィークに突入した。早紀江さんのブッシュ大統領会談が終わると(日本時間4月29日)、小泉首相はエチオピアとガーナ、スウェーデン訪問のために羽田を飛び立った。帰国は5月5日。
人権を重視するアメリカのブッシュ政権というイメージを日本国民に植え付け、マスコミの追求が緩くなるゴールデン・ウィーク期間中に、日本政府はアメリカとの軍事同盟を一歩も二歩も進めたのだった。合意に達したそのメンバーは、日本政府の麻生外務大臣と額賀防衛庁長官、アメリカ政府のライス国務長官とラムズフェルド国防長官だ。ワシントンで4人は満面の笑みで手を取り合った。その合意内容を国民に分りやすく説明しなくてはいけない小泉さんはアフリカだ。絵に描いたような煙幕だった。
5月2日(火)の新聞は、「在日米軍再編最終報告 普天間2014年に移設 海兵隊のグアム移転も」(読売)、「米軍再編、最終合意 日米同盟『新たな段階』 閣僚安保協議」(朝日)、「普天間移設2014年完了 在日米軍再編で最終合意」(日経)と一面トップで報じた。しかし、次の日からはゴールデン・ウィーク後半で土曜日も休めば5連休。もともと国内で議論を尽くしていない問題だけに、見出しだけが躍っている感じは否めない。
見出しでは「在日米軍の再編」と「日米同盟」、「普天間基地移設」の3つが躍っているのだが、国内での関心はもっぱら沖縄の普天間基地が返ってくるかどうかに集中していて、そのため海兵隊がグアムに移転する費用が3兆円かかり、そのほとんどを日本が捻出するという事に関心が集まっている。
普天間基地の問題は複雑だ。日米政府間では1996年に普天間飛行場を返還する合意がなされている。しかし、その移転先をどこにするかの結論が出ないので実現ができないままでいる。在日米軍基地は70%以上が沖縄に集中していて、日米安全保障は沖縄の犠牲の上に成り立っている。普天間飛行場を移設する先も結局沖縄県内で、沖縄の基地問題が日本国民の間で議論されないまま日米間の合意と沖縄での政治的駆け引きですべてが進行してしまっている。
普天間の代替基地として海上ヘリポートを建設しようという案が浮上したのは、チェイニー副大統領の会社がその建設に名乗りを上げたためだという事は、以前の【岸コラ】に書いた。このため日米の企業体が熾烈な受注合戦を演じ、こう着状態になってしまった。
それ以外にも常に県政が巻き込まれていた。普天間飛行場の代替基地を県外に求めた大田昌秀知事は1998年の知事選で3選を目指したが敗れた。勝ったのは現在の稲嶺恵一知事だが、稲嶺さんの主張は県北部の陸上部に代替基地を作り、その代わり国から経済振興策を引き出そうとした。
今回、日米政府間が合意した普天間基地移設案は普天間より北にある島中央のキャンプ・シュワブ(名護市)にV字型の滑走路を造るというもの。名護市では、橋本首相時代に代替へリポート建設案が浮上し、住民投票の結果「反対」となった。当時の沖縄県知事は代替施設を県外にと主張する大田氏。すべてが反対ムードに映っていたのだが、市長が橋本首相を訪れ、代替基地建設を受入れると表明し、そのまま市長を辞任した。
政治的には国も市も県も合意の上での移設だが、稲嶺知事はここへ来てキャンプ・シュワブの沿岸部への滑走路建設には反対だと表明しだした。陸上部にヘリポートを造るべきだと主張し、政府のアメリカとの合意案は知らせれていなかったと不満を述べている。(5月5日日経)
稲嶺知事は、すでに今度の11月の知事選には出馬をしない意向を表明している。「100メートル競走のところを400メートルも全力疾走してきた。難しい壁にもぶつかり、体を酷使してきた」というのが関係者に漏らした理由だ(読売)。
日本には、アメリカ軍兵士が4万人近くいる。この維持経費は日米地位協定により全額アメリカが負担することになっているが、実際には法的根拠のない「思いやり予算」が拠出されていて、2005年度予算で2,378億円を日本が負担している。基地の地代を含めると7千億円近くの負担で、アメリカ軍駐留経費の8割を日本が賄っている。これはダントツ世界一の負担で、同じようにアメリカ軍が駐留する国々が負担する総額の半分の額になる計算だ。(エンカルタ総合大百科)
海兵隊のグアム移転の費用も3兆円という莫大な金額だ。しかし、問題は財政的なものばかりではない。実は、大きな問題を積み残しているのだ。日本での安全保障問題に対する議論と理解だ。
日本で基地問題を論ずるときには、間違いなく沖縄の問題を議論することになっている。もちろん、沖縄の基地問題は沖縄県だけの問題ではなく国全体の問題だ。だから、国政レベルで議論することは必要だし、我々も市民レベルでもっと議論しなくてはいけない。ところが、そこで問題がすり替わってしまうのだ。カラクリはこうだ。
ところが、ここにはアメリカの意思と大きく違うところがある。日本が軍隊を持たないというのはどちらの国の意思だったかに思い違いがあるのだ。日本人の多くは、戦争を二度と起こさないようにアメリカが日本に軍隊を持たないように強制したと思い込んでいる。そのためにアメリカが日本に平和憲法を制定させたと信じている。
ところが、アメリカの意思は違う。終戦後はそのようなアメリカの意思もあったかもしれないが、すぐに朝鮮戦争が起きて、アメリカは日本に再軍備を要請し自由主義陣営のために戦うよう要望している。しかし、時の吉田首相がとても再軍備できる経済状態ではないと断った。断る代わりにアメリカ軍は日本に駐留していいというのが日米安保条約のそもそもの始まりだ。だから、日米安保条約は日本の都合で結んだ条約だ。
アメリカは基本的に日本に対して常に再軍備を要望しているのだ。それを日本には独自の平和憲法があると言って断り続けている。このことが日米双方でボタンを掛け違えている原因になっている。
日本の都合では、日米同盟というのは、日本が襲われたときにアメリカが助けてくれる同盟だと思っているから、沖縄の基地を返してくれと言っても、日本の安全がその分脅かされるだけの事なので許される要望だと潜在的に思い込んでいる。もちろんこの思い込みは我々市民レベルのもので、政府レベルではアメリカ側の事情が十分理解されている。
そのアメリカ側の事情とは、こうだ。日本が日米同盟だと言ってくれるのは、アメリカの世界防衛政策に歩調を合わせて、ともに自由主義陣営のために戦ってくれる仲間だと思っている。
そこで、今回の在日米軍再編だ。アメリカにしてみれば、普天間基地の移転は日本の沖縄基地問題解決のために行なうわけではない。ソ連の崩壊で冷戦時代に編成した在日米軍は、中国や北朝鮮の脅威やテロ対策のために再編しなくてはならないので行なうのだ。
例えば、グアムに海兵隊が移転するのは、日本では北朝鮮の弾道ミサイル「ノドン」の射程距離内になるが、グアムなら射程外であるという点と、これからのテロ脅威を考えると、東南アジアにテロの拠点が作られる可能性が高いので、沖縄からの出撃よりはグアムからの出撃の方がはるかに有利だという点があげられている。
アメリカにしてみれば、同盟国がともにテロの脅威から身を守るために、アメリカのエリート的海兵隊がグアムに移るのだから、その費用は応分のものを出して当然だと思っている。沖縄から出て行く手切れ金ではないのだ。
さらに、今回の再編合意では、日本の自衛隊の存在がぐっとクローズアップされている。例えば、神奈川県のキャンプ座間にアメリカ陸軍司令部を移し、そこに陸上自衛隊の中央即応集団指令部を迎え入れる。自衛隊のヘリコプターは、キャンプ座間のキャスナー・ヘリポートに出入りすることになる。
横田基地には航空自衛隊の航空総隊司令部を迎える。さらに、ミサイル防衛網の新たなアメリカ軍のXバンド・レーダー・システムの最適な展開地として航空自衛隊車力分屯基地が選定された。このレーダーから得られる情報は日米ともに共有することになる。
つまり、アメリカ軍は日本の自衛隊と一緒に軍事行動をとろうとしているのだ。小泉さんが言っている日米同盟とは明らかに軍事同盟のことだ。これが、我々の間で全く議論されていない。
なぜ議論しないのか。理由は、憲法違反だからだ。日本には憲法第9条があって、武力による威嚇や武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄することになっているし、その目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない――と全国民と全世界に宣言しているからだ。
アメリカと軍事同盟を結ぶという事は、アメリカの敵国を日本の敵国にするという事だ。今よりはるかに日本が軍事的に攻撃対象になる可能性が増すことになる。
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参考資料:
Microsoftエンカルタ総合大百科2006:「在日米軍」「大田昌秀」「名護市」「沖縄島」「第七艦隊」
在日米軍再編「共同宣言で意義を」 額賀長官、指針見直し視野 [2006年5月9日朝日新聞朝刊]
普天間移設問題 沖縄知事提案の暫定ヘリポート構想 知事選にらみ思惑交錯 [2006年5月7日読売新聞西部朝刊]
日米防衛協力「共同作戦計画」刷新へ 有事を想定抑止力向上 配備・運用を規定[2006年5月5日日本経済新聞朝刊]
【安全保障新時代】第10部 同盟の真価(下)米の世界戦略 [2006年5月4日産経新聞東京朝刊]
【安全保障新時代】第10部 同盟の真価(上)再編 意味と意義 [2006年5月2日産経新聞東京朝刊]
在日米軍再編 今月中旬、閣議決定 小泉首相、稲嶺沖縄知事と会談へ [2006年5月1日読売新聞東京夕刊]
ブッシュ米大統領、拉致問題協力を約束 横田さんと面会「心動かされた」 [2006年4月29日読売新聞東京朝刊]
11月の沖縄知事選 稲嶺知事が不出馬伝達 6月までに方針決定 [2006年4月28日読売新聞西部夕刊]
普天間移設 秘策V字亀裂回避 名護市受け入れ 日米合意なお課題 [2006年4月8日産経新聞東京朝刊]
米大統領一般教書演説 外交・軍事でも重み増す中印 「ならず者」には距離 [2006年2月2日読売新聞東京朝刊]
沖縄・ヘリ基地受け入れ 名護市長、苦渋の選択 市長、知事、賛成・反対派表情 [1997年12月25日読売新聞西部朝刊]
参考サイト:
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