ライブドアの「悲劇」と「行く末」 英語を小学校から教えて誰が得をするのか。

ボブが教えてくれた「WBC」と「オリンピック」の違い

岸田 徹 【岸コラ】
2006年3月24日(金)

王ジャパンが世界一になった。ティファニー製の優勝カップと金メダルを獲得した選手たち。感動が日本中に走った。その感動の源は3つあった。

(1)審判の誤審に対する恨み。

(2)素晴らしいチームワークの緊迫したゲーム展開。

(3)野球、世界一。

力道山世代の日本人にとって、野球が世界一という事は、戦勝国アメリカに勝った事を意味し、戦後の屈辱を晴らしたようなところがある。だから、アメリカ人審判の誤審には腹が立ったし、一発巨砲選手ばかりのアメリカにチームワークで臨んだ日本人選手に最大の声援を送ったのではないだろうか。戦後あったアメリカ人コンプレックスが、日本の高度経済成長でいつの間にかうやむやになった。それが一挙に目を覚ました感じがする。

さらに、もうひとつの日本の戦後だった日韓関係でも、日韓戦のフェアー・プレーの連続で双方とも相手を称えられる素晴らしいゲームを展開した。そのまま決勝に進んでもおかしくない韓国と再び準決勝で戦った試合展開は、まさに「メイク・ドラマ」。まるで日韓新時代を見るようだった。

色々な要素がぎっしり詰まったWBCだったが、さて終わってみると、いったいどんな大会だったのか、ふと疑問がよぎる。いったい「世界一」というのは、どんな世界一だったのだろうか。

何をもって「世界一」と言うのか、これは、ビッグ・クエスチョンだ。なぜなら、スポーツの世界一とは、オリンピックで金メダルというのが相場だからだ。世界大会とオリンピックの両方がある最も有名な競技はサッカーだ。「ワールドカップ」と言えばサッカーの事。オリンピック以外にこれほど熾烈に争われる世界大会は他にはない。

サッカーのワールドカップが争われるようになったのは1930年。ウルグアイで開催されたのが第一回だ。なぜ、オリンピック以外に世界大会をやるようになったかというと、ヨーロッパで盛んだったサッカーが世界的に行なわれる競技になって、プロのサッカーチームがたくさんできた。しかし、当時のオリンピックはアマチュアしか出場できなかったので、プロ・アマを問わず本当の世界一を決めたいというニーズが出てきたためだ。

この流れからすると、今回のWBCは不自然だ。なぜなら、野球はオリンピック種目で、その出場選手たちはプロ・アマを問わない。前回のアテネ・オリンピックでは、長嶋監督が倒れたが、「長嶋ジャパン」として中畑コーチ(巨人)を中心に多くのプロ野球選手が出場し銅メダルを獲得した。

この時の金メダルは、今回決勝で日本が戦ったキューバ。銀はオーストラリアだった。アメリカはというとアテネには出られなかった。予選でメキシコに負けてしまったのだ。

オリンピックの野球は1984年のロサンゼルス大会から正式種目になった。その時の金は日本。銀はアメリカ、銅は台湾だった。第2回目のソウル・オリンピックではアメリカが金、日本が銀、プエルトリコが銅だった。3回目のバルセロナは、キューバが金、台湾が銀で、日本が銅。4回目のアトランタでも、キューバが金、日本、アメリカが銀、銅と続いた。5回目となった2000年のシドニー大会で、日本ははじめてプロの選手を出場させたが、結果は4位。アメリカ、キューバ、韓国が金銀銅を獲得した。

過去6回のオリンピックで、アメリカが金メダルを取ったのは2回しかない。しかも、前回のアテネ・オリンピックでは大会にも出られなかった。

その訳は、他国のチームが強くなったためだ。しかし、アメリカにも問題があった。オリンピックの開催時期はちょうど野球のペナント・レースの最盛期で、アメリカの選手は大リーグの選手がほとんど出ていないのだ。

じゃ、誰が出ているのかというと、マイナー・リーグの選手だ。我々は、「大リーグ」と無意識にアメリカの野球チームのことを呼んでいるが、なんで「大」なのかについては、あまりよく分らない。「大」は「メジャー」の訳で、メジャー・リーグと大リーグは同じ意味だ。メジャーの反対の言葉がマイナー。それでは、メジャー・リーグとマイナー・リーグはどう違うのか。

現在アメリカの大リーグ球団は30ある。松井秀喜が行ったヤンキースやイチローが行ったマリナーズはその大リーグのひとつだ。

大リーグは、180ほどのマイナー・リーグの球団と提携し、選手をトレードしている。地域野球が盛んなアメリカではマイナー・リーグは地域の野球としても愛されているが、選手にとってみれば、ほとんどが大リーグ行きの前の2軍的存在だ。しかも、大リーグ傘下のマイナー・リーグはクラスが4つあり、一番下のルーキーリーグから上り詰めていくシステムになっている。

オリンピックに出ているアメリカの選手は日本でいう2軍選手と言う事になる。アメリカ人の感覚からすれば、オリンピックの野球はもともとアメリカを代表する選手ではないとのもの。

アテネ大会でアメリカが予選落ちした2003年の11月から4ヵ月後の事、日米韓のプロ野球界首脳が東京に集まっていた。そこで、大リーグ機構(MLB)のロバート・デュペイ会長が、「大リーグ機構と大リーグ選手会が主催する大会に、日本と韓国もぜひ参加してほしい」(読売新聞)と持ち出した。

これが、今回のWBCが正式に提案された瞬間だ。これに対し、日本と韓国は色よい返事をしなった。理由は、世界大会なのに大リーグが主催するのは筋が違うというものだ。

日本でも世界大会の構想は着々と練られていた。日本では、その呼び名を「スーパーワールドカップ」としていた。各国のリーグ戦を制したチームが戦い合う構想。去年の11月千葉ロッテマリーンズが韓国のサムスンと戦い、勝ってアジア一となったのはその流れだった。これを世界に広げたいというのが日本プロ野球の主張だった。

しかし、それには譲れない理由がアメリカにあった。その理由は2つ。

第一は、アメリカの大リーグで1位になったチームを再び戦わせなくてはならない点だ。大リーグの1位を争う試合をアメリカでは「ワールド・シリーズ」と呼んでいる。日本のセ・リーグ、パ・リーグの覇者が競う「日本シリーズ」のようなもので、ナショナル・リーグとアメリカン・リーグの覇者が争う。アメリカのトップを決める試合になんで「ワールド」と名付けるのか疑問だろうが、実は、大リーグはカナダにもあり、アメリカ人の感覚からすれば、ニューヨークを拠点に野球は世界に伸びている最中なのだ。ワールド・シリーズ以外にその上をつくる発想はまったくない。

もうひとつの理由は、開催の時期だ。アメリカの人気プロスポーツは、野球、アメリカン・フットボール、バスケットボール、アイスホッケーの4つだ。この4つが1年を4分割して、それぞれ干渉しあわない時期に試合が行なわれている。野球はワールド・シリーズが終われば、アメリカ人の関心からはなくなり、テレビの放映も別なスポーツに移る「時間割」ができている。だから、ワールド・シリーズ以降にもうひとつ時間を割くことができないのだ。

すべてが、アメリカの都合なのだが、そういう理由でWBCが日本と韓国に提案され、アメリカの大リーグの招待試合ということで参加を要請された。

日本には、もうひとつ世界大会に参加している組織がある。全日本野球会議で、プロアマの各代表が構成する組織。国際野球連盟(IBAF)にも加盟している。その世界大会(W杯)が去年の9月アムステルダムであり、日本は5位だった。1位はキューバ、2位は韓国だった。

実は、オリンピックに物を言う組織がこの国際野球連盟(IBAF)なのだ。ロサンゼルス大会から始まった野球は、今度の北京大会で姿を消すことが決まった。ロンドン大会では野球とソフトボールが競技から外されたのだ。ロンドンで野球場を確保するのが難しいというのが物理的な理由だが、アメリカの大リーグが出ないために盛り上がらないという理由も大きい。

国際野球連盟(IBAF)は、IOCからも大リーグの選手をアメリカの代表として出場させるよう強く要請されたようだが、IBAFが大リーグ機構に無視されている形だ。なぜ、大リーグがIBAFの要請に応えないのかは、オリンピックがドーピングにうるさいので、大リーグの選手が出るとどんどん違反者が出てしまうという点も指摘されている。しかし、大きな理由はその点ではなく、大リーグこそが世界の野球の中心だという発想が邪魔している。

なんで、アメリカは大リーグ中心の発想しかできないのかは二つの理由がある。

ひとつは、アメリカ人の無知だ。アメリカに近い国々が一流選手でナショナル・チームをつくれば、そこには大リーグに所属する選手が大半を占める。今回のWBCの出場選手の半分は大リーグの選手だ。

しかし、同時に日本などかつてアメリカが野球を教えた国々で選手層の厚いチームをつくっているその事実をまったくアメリカ人は知らない。だから、大リーグ中心の発想しかできない。

もうひとつは、経済的な理由だ。多くのアメリカ人が日本や韓国が強い野球チームをもっているという事を知らない反面、野球界を運営する層では、すでに日本や韓国は興味の中心になっている。

アメリカの野球界は、一流選手を高額の年俸で雇い入れ、その選手の人気で興行収入が上がり、その儲けでさらに高い年俸を払っていい選手を雇い入れるという循環ができてしまい、選手の年俸の高さが経営の足を引っ張っている状態だ。さらに、その循環に乗れなかったチームは人気の選手を雇い入れることができずジリ貧状態で、リーグの所得格差が二極化している。

そんな中、日本や韓国からの選手は、よい選手を安い年俸で雇い入れられる重要な存在で、その選手たちが活躍すれば、日本や韓国からテレビの中継権料が取れるというダブルで嬉しい存在だ。アメリカ人選手がダメでも、アジアから優秀な選手をトレードし、しかも興行収入を得るという循環はすでに定着してしまった。アメリカの大リーグが稼ぐ手段として、各国チームの存在があるようなもので、大リーグ中心の発想そのものだ。

野球がオリンピックから消えて人気が低落するのではないかという危機感は日本にもあり、結局日本野球機構は大リーグ機構の提案に乗った。

WBCという命名は、かなりオリンピックを意識している。ワールド・ベースボール・クラシックの「クラシック」がミソで、日本ではクラシック音楽をイメージし、「古典」と訳したくなるが少し違う。クラシック音楽は間違った英語で、クラシカル・ミュージックが正しい。クラシカル(classical)は形容詞で「古典の」という意味だが、WBCのclassicは名詞だ。スポーツ界でclassicとは「由緒ある試合」を意味すると同時に「伝統的行事」の事を言う。つまり、3年に一回ある「伝統行事」にしたいという願いが込められている名前だ。

オリンピックから消える野球をWBCで続けて世界的行事にしたいという名前だ。これは、同時に野球を大リーグ主導に戻したいアメリカの強い意向と言える。審判がみなアメリカの審判だったという理由もここにある。

この記事の読者数:


参考資料:

Microsoftエンカルタ総合大百科2006:「野球」「プエルトリコ」「オリンピック」

野球WBC 日本の参加決定 最強ジャパン結成へ大リーガー含め人選 [2005年9月17日 読売新聞東京朝刊]

[ロンドン五輪落選](下)復活へプロ・アマ連携を(連載) [2005年7月12日 読売新聞東京朝刊]

[野球再生・大リーグビジネス](5)スーパーW杯構想(連載) [2004年8月11日 読売新聞東京朝刊]

アテネ五輪米大陸予選で米敗退 野球大国の「不名誉だ」 ラソーダ元監督語る [2003年11月9日 読売新聞東京朝刊]

参考サイト:

MAJOR,JP

日本野球機構

全日本野球会議

テコンドーはどうしてオリンピック種目に残ったのか

アジアシリーズ

PUKIWIKI WBC2006

【岸コラ】もくじ 【岸田コラム】 home

Copyright (C) Toru Kishida 2005 All Rights Reserved.