ライブドア事件、特捜部の「想定」と「想定外」 ジェンキンスさんだけが、なぜしゃべる。

永田議員の追求の「不思議」

岸田 徹 【岸コラ】
2006年2月24日(金)

なんで、こんなに国の宝である若者をいじめなくてはならないのか。

ライブドア事件に端を発し武部幹事長の資金疑惑を追及した民主党の永田寿康衆議院議員は36歳だ。とうとう逮捕されてしまったライブドアの代表取締役だった熊谷史人氏は28歳。ホリエモンは33歳、ナンバー2とされた宮内氏は38歳。

もちろん責任を取るべき立場の立派な大人であることは間違いないが、武部さんの64歳、今回の事件を直接指揮している特捜部の大鶴部長が50歳か51歳。小泉さんも64歳という年齢と比べると、いい大人が子供をいじめている感じがしてしまう。

東京ディズニーランドが開園したのが1983年、この時ホリエモンは11歳。永田議員は14歳だ。熊谷さんはまだ6歳。昭和天皇が亡くなり、日本はバブル崩壊と長引く不況が始まったが、その時ホリエモンは17歳、永田議員はやっと20歳、熊谷さんは小学6年生だ。このとき武部さんは48歳で衆議院当選後3年。宇野内閣の失態から次の総理を選ぶ際に、「マスコミを通じてのみわかる総裁選びは困る。もっと開かれたやり方でやってほしい」(読売新聞)と注文をつけていた。

まるで、自分の子供のような年齢の永田議員から噛み付かれてどうして向きになるのか。一緒に銀行に行き口座には振り込まれていないことを確認してあげればいいではないか。そして、人を追及するときにはもっときちっとした確証がないとダメだと諭してあげられないものなのか。

地検特捜部の強引な捜査といい、自民党の容赦のない突っぱねといい、若い人たちが意気盛んに旧態社会に挑戦した勇気を頭から潰すやり方には疑問を感じる。これじゃ、日本の若者がみな元気がなくなってしまう。もっと若者の失敗には寛容で人を育てなければ、結局日本を引き継いでくれる人が従順でおとなしい外圧に弱い人たちばかりになってしまう。

極端な言い方をすれば、法律でも商習慣でも礼儀でも、みな時代の成功者が作り出したもので、この成功者の層が偏っていれば、いつかは大多数の敗者によりすべての秩序が崩されることになる。そんな時に法律を守れだのやり方が悪いだの言っても始まらない。

今の日本は一部の成功者に対する大多数の敗者が煮え切らない思いで我慢して人生を送っているのではないだろうか。「自民党をぶっ壊す」と言った小泉さんが多くの人の支持を強く熱く受けたのは、大多数の敗者からのものだった。一握りの既得権者や官僚たちに支えられている自民党がなくなり、自由に誰にでも競争の機会が与えられる社会を多くの人が期待したのだ。これが小泉人気であり、それを実際に行っていたと見られたホリエモンが時代の寵児となったのだ。

ホリエモンの成功は大多数の敗者が支持したから出来上がった。ホリエモンは無理やり株価を吊り上げたとの粉飾決算疑惑で再び逮捕され、多くの投資家に損害を与えたとされている。しかし、いくら嘘をついて好決算にしてもすべての株が上がる訳ではない。粉飾しても上がらない株はいくらでもあるはずだ。ライブドアの株価はホリエモンが嘘をついて上げたのではなく、投資家の期待で上がったのだ。粉飾をしていなくてもライブドアの株価は上がっていたに違いない。

それにしても、永田議員の追求劇は不思議極まりない。どうして、賄賂性の高いお金をホリエモンが振り込ませたなどという情報をつかまされたのか。

永田さんは、テレビ朝日の看板番組である「ビートたけしのTVタックル」に出演していることで有名だ。しかし、これ以外で有名になったものがいくつかある。

最も有名なのがちょんまげを結った松波健四郎議員が国会の壇上から水をかけたその相手だという事。永田さんのヤジが原因だとされている。さらに、田中真紀子元外相の公設秘書給与流用疑惑を追及したり、橋本派をめぐる1億円献金隠し事件を追及したりで有名だ。また、小泉さんのお姉さんである信子さんが民間企業名義のセルシオを日常の政治活動に利用しているのに「寄付」の処理ができていないのは政治資金規正法に違反すると追及したこともある。その流れからすれば、今回の追及は十分ありうる話ではある。

永田さんは慶応の志木高校から東大工学部に入り大蔵省に入った。入省後2年でカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)に国費留学しMBAを取得。帰国後運輸省に出向しているエリート官僚だった。

抜群の頭の良さなのだが、永田議員の追求姿勢には首を傾げたくなるようなものもある。

去年の7月(2005年)に、都議選で「公明党の支持団体が住民票を移したという疑念がある」と衆院倫理選挙特別委員会で発言し、事実無根と自民、公明両党から懲罰動議が出された(朝日新聞)。つまり選挙のために創価学会の会員が他の県から住民票を東京都に移し、公明党の議員に投票したとぶつけたのだ。しかし、その事実はなかった。

他にもこれと同様の騒ぎが複数回あったようで、その流れからすると、今回の勇み足と取れる疑惑追及は「彼ならやってしまうかも」と思わせるものがあるのだ。

彼ならそんなネタをつかまされれば追及するだろうとの「想像」が意外と簡単にできていたというわけだ。こんな彼に対する感覚は民主党の議員も持っていただろうし、自民党の議員も持っていたはずだ。さらに、国会答弁の作文をする官僚たちも当然持っていたはずだ。

そこで、謎解きである。贈収賄のお金を振込みで行なうというのは一般の常識でもありえない。まして議員なら常識外のそのまた外れだ。足の付かない現金のやり取りが相場だからだ。

それをメールで指示するとは二重の落ち度だ。そんな指示の記録と現金の授受の記録を残す振込みがあったとすれば、それは暴いてくださいと言っているようなもの。

もし、そんな質問を野党からされた武部幹事長が、一瞬ハッとして国民から「やっぱり」と思われた上で、「そんなメールがあるはずがない」と言い掛かりを非難し、武部さんが被害者となり、その疑惑が晴れたとなれば、どうなるだろう。

武部さんにはもともとホリエモンとの関係が息子がらみであるのではないかという疑惑があった。

今国会は、この問題と防衛施設庁の談合事件、BSE問題、姉歯事件などで政府と自民党が窮地に追い込まれ、小泉内閣にとっては最大の難関となるだろうというのが大方の予想だった。

難関は小泉内閣ばかりではなく、防衛庁、農水省、国交省にとってもただ事ではなかった。処罰者が出て当然の官僚にとっても窮状だったはず。

これを何とか切り抜けたいとする「努力」が各方面からなされたはずだ。

永田さんが握らされたという「フリージャーナリスト」からの情報は、事前に自民党にも流れたというが、これがおかしい。金目当てだと言われているが、放っておいても潰れそうな自民党幹事長の首を取るようなネタをわざわざ自民党の代議士のところに売りにいってどうするというのだろう。

この情報は、恐らく、このネタが「フリージャーナリスト」からのものだという信憑性を高めるために流されたものだ。

追求されると危ないと思った官僚が、国会を紛糾させる目的で永田さんにそのネタを握らせたと考えた方が事件の流れがスムーズに見れる。永田さんならその話に乗ってくるはずだとの「前歴」が十分にあったのだ。自民党の議員が仕組めば永田さんも危ないと思ったかもしれないが、その臭いがまったくしなかったのは、官僚が仕組んだからではないのか。

前原代表が自信たっぷりに「楽しみにしてください」と言ったのは、恐らく別の情報で確証があったからで、突破口を開いた永田さんの後を引き継げると思ったからではないか。多分、追求のネタが違っていたはずだ。

テレビ報道では、地検特捜部がいち早くそのようなメールの存在は把握していないとしたが、これは火消しではないかと思う。すでに十分国会は紛糾し、民主党は出鼻を大きくくじかれ、疑惑追及に迫力を欠く状態になった。これ以上、この問題を大きくしてはバックの官僚の存在があらわになってしまうので、火消しをしたのではないだろうか。

もちろん証拠はないのだが、事件があまりに唐突で、永田さんが悪かったで終わろうとしているのを不思議に思うのだ。

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参考資料:

自民「刺客」の矛先、民主に 郵政対案を一刀両断 衆院特別委でデビュー [2005年10月7日 読売新聞東京夕刊]

民主党の永田氏に懲罰動議 都議選巡る発言 [2005年7月9日 朝日新聞東京朝刊]

杉浦副長官の政治資金記載訂正 森派「モチ代」否定 [2005年01月29日 産経新聞東京朝刊]

山崎補佐官と小泉信子氏 民主、喚問を要求 [2004年10月20日 産経新聞東京朝刊]

青木、野中氏も民主党が告発 ヤミ献金事件 [2004年09月01日 産経新聞東京朝刊]

菅代表へ批判続々 党本部や九州などの事務所 「辞めろ」電話・ファクス [2004年5月10日 読売新聞西部夕刊]

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総選挙 国政の世代交代加速 25歳女性議員、原陽子氏 「若者の声伝えたい」 [2000年06月26日 産経新聞東京夕刊]

参考サイト:

ウィキペディア「永田寿康」

武部勤

ライブドア堀江社長、徹底抗戦「法廷で戦う」

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