ホリエモン逮捕は、やはり「反小泉の反撃」 紀子さまのコウノトリを羽ばたかせた唯一最大の要因。

東横インを挫折させた意外な仕組み

岸田 徹 【岸コラ】
2006年2月7日(火)

東横インは現在全国に122のビジネスホテルを展開する。ライバルのルートインが現在172店舗。両者は日本制覇にしのぎを削り急速に出店している最中だ。

東横インが急成長した理由は、次の3点があげられている。(1)女性の積極登用、(2)全国どこでも均一のサービス、(3)テレフォンセンターの活躍――だ。

ホテルの支配人はもとより、現場で優秀な女性は役員にも積極的に登用する西田社長の才覚は見事に業績に貢献した。男性社会の中で差別され道を閉ざされた優秀で努力する女性に対し、東横インはやればやるだけ道を開く職場の提供を行なった。現場ばかりではなく本社の企画や営業、設計部門でも同様なのは特筆できる。

観光ホテルはここのところ世界的な大手の外資が日本に参入し日本の伝統的なホテルは苦戦を強いられているが、ビジネスホテル業界は外資の参入がなく、ビジネスホテルチェーンは拡大路線一筋だ。ビジネスホテルは、今でこそ認められた業態だが、少し前まではどのようなホテルをビジネスホテルと呼ぶのかは怪しいところがあった。出張に利用するホテルということだろうが、その経営はご主人がフロント、奥さんが客室係、夜の10時以降は玄関扉が閉まるというのがほとんど。

名前は横文字の一流ホテルを連想させるものでも、行ってみると薄汚い光も入らないような部屋だったなんていう事は当り前の業界だ。例え、名が通っているホテルチェーンでも各地で経営が違うため運営方法も値段も違うという事もある。

東横インは、この業界常識を覆し、全国どこでも同一のサービスで同一の規格部屋の同一価格を徹底した。そのため、一度東横インを利用した顧客は、また違う地に出張しても期待通りの東横インに宿泊することができた。これが、顧客に支持され、ホテルの通常の稼働率が65%前後と言われるところを80%以上記録している。

その顧客の支持を取り付けるのに貢献したのがテレフォンセンターの存在だと言われている。東横インは必ずしもビジネス街の中心地に建設されているわけではない。東京都内にも18のホテルがあるが、そのうちビジネスの中心だと思われる場所は、日本橋人形町、池袋北口、新宿歌舞伎町、溜池山王駅官邸南、品川駅高輪口の6つだ。

そのほかは、発祥の地である蒲田にしても西葛西や青物横丁、羽田大鳥居などビジネス街とは別の様相をしている所にある。しかし、どこも最寄の駅から目と鼻の先だ。

地方から東京に出向くビジネスマンにとっては、品川で行なわれる会議で、品川駅近辺のホテルがいっぱいだった場合どうしたらいいかは迷うところだ。

そこで、東横インのテレフォンセンターでは、品川に一番近い空いている東横インを案内する。例えば青物横丁は品川駅から3つ目の駅だが、乗ってしまえば5分、駅から降りて目の前がホテルなので、品川での会議にはまったく問題がない。青物横丁もいっぱいなら、さらに9つ乗ったところの大鳥居のホテルを案内する。品川からは15分、駅を降りたらここもすぐ。それもいっぱいなら、近くの他社のホテルを紹介する熱心さで、とにかく東横インのテレフォンセンターに電話をすれば確実に部屋を取ってくれるという仕組みだ。

この3つが東横インの拡大路線の武器だった。その武器を使って日本一のビジネスホテルチェーンを展開するはずだったのを躓かせたのは、西田社長のワンマン体制だった。しかし、そのワンマン体制は、一般的に想像される恐怖的なものではない。ワンマン体制を完成させたあるシステムが二つある。これが、報道はされていないが東横インを挫折させた意外な仕組みだ。

そのシステムとは、潤沢な資金を生むシステムとホテルとして借りている土地建物をまるで自社のもののように使えるシステムの二つだ。

潤沢な資金は私募債によって生み出される。これが、実に魅力的なもの。東横インの稼働率の高さは定評がある。テレフォンセンターを中心に自社で集客するシステムがあるからだ。決して旅行代理店任せにはしない。

この稼働率の高さと新規のホテルを立ち上げる際に必要な資金調達とをドッキングさせたのが東横インの私募債だ。開店ホテルの稼働率が一定水準以上になった場合は、利回りを上げるのがミソ。これが、予想以上の利回りになるためひとつのホテルが開業すると平均1億円以上の債権が売れる。

例えば、「品川駅高輪口」の東横インの場合は、基準金利を2.5%として稼働率が60%未満の場合は基準金利の2.5%しか付かないが、これが60から70%の場合は3.5%、70から80%が4.0%と段階的に上がり、90%以上ならば5.5%が支払われる仕組みだ。

これを1年ごとに償還(満期支払い)するのだが、評判がいいのですぐに次の1年も継続して売れてしまう。そんな1年物の債権が開業以来ずっと続いているので実質的に元金は返さなくていい状態になっている。

東横インはほとんどが土地と建物を一括借り上げる方法でホテルを展開している。ホテルの建物はその土地の所有者(大家)に資金を出させ、東横インが設計し建設した後家賃を払う方法だ。その際、保証金として敷金などを大家に支払うが、これが私募債で調達できる勘定になる。

銀行から資金を借りることもできるが、銀行からの借入は何に使うのか資金の使途を問われるが、この私募債なら一度集まった資金は何に使おうと誰からも問われることはない。

こうしてお金が集まるところには銀行も積極的に融資をしたくなるもので、東横インの経営には急成長にもかかわらず資金難がまったく感じられない。建設後に改造工事を行う経済的な不合理も難なく行なわれる環境が整っていた。

そこで気が付くのがある疑問だ。それは、借りている建物なのに、自分勝手に改造できるのはなぜかという事だ。通常、この手のビジネスは、土地の所有者(大家)が銀行から資金を借りてホテルを建設し、東横インがその施設を借りて運営を行なう。東横インは家賃を大家に払うが、建物が汚れたり壊れたりした場合は大家がその資金を出して手直しするのが当り前だ。

建築確認の申請をするのも自分の建物なので大家が行い、改造するのも大家が追加の金を出して行なう。今回のように改造に数百万円かかるとすれば、大家はそんな無駄な出費をしたがらないから、現実的には起こるはずがないのだ。だから行政の側も例え目が届かなくても事故が起こるはずがない問題だった。

東横インも大家から建物を借りて営業しているので、本来はこんな改造工事はされないはずなのだが、当り前のように改造されてしまった。いったいどうしてなのか。ここには、東横インの生い立ちが関連している。

東横インの西田社長のもともとの本業は電気工事屋さんだった。そこでの技術と経験でホテルの配線工事をパッケージ化したことから、ホテルの部屋全体をパッケージ化することに成功し、どこの東横インでも同様の施設環境を提供できる体制が整った。極端に言えば、ホテルの部屋ごとパッケージにできる技術があるので、全国どこでもそのパッケージを持っていけば、ホテルは完成する。建設会社が造るのはそのパッケージをはめ込む枠だけという感じだ。

これが、新規の開業だけではなく既存の改修工事でも威力を発揮し、リニューアル工事は部屋のパッケージを交換するだけで行なえるノウハウを持っている。東横インは全国どこでも同じホテルの部屋を提供する事でサービスの均一化を計っているため、ホテルの改修工事は、本来大家が行うべきところなのを、東横インが資金を出して行なうシステムになっている。

そのため、大家は一度建ててしまえば後は何の面倒も見ないという事になり、それが東横インの暴走を助ける結果となってしまったのだ。本来だったら、建築基準法の責任は建物を建てた大家にあるはずなのだが、東横インにその責任を取らせるのは、この東横イン独特のシステムのためだろう。

他ではありえないことが東横インでは平然と行なわれた理由は私募債から得られる豊富な資金とメンテナンス・フリーという独自システムのためだ。これらのシステムと独特な経営手法ですべてが上手くいっているはずだった東横インは、今回の件で多くを失うことになる。評判が落ちれば顧客が敬遠し、稼働率が落ちれば私募債の利回りも落ち、お金が集まらなければ大家に代わって建物を改修する莫大な資金がなくなるからだ。好循環が悪循環になったとたん、こうした企業の命はあっという間に縮まってしまう。

さて、ホリエモンの逮捕劇もそうだったが、今回の件も誰が被害者だか分らないまま「法令違反だ」との声が先行している。ホリエモン事件は特捜部の捜査で幕が開いたが、今回の東横インの一件は朝日新聞のスクープ記事の形で始まった。両方とも独自の捜査や調査で始まっているわけだが、内部資料がないと調査しきれないものだ。

東横インの場合は、朝日新聞社が建築確認時の設計図と改造用の設計図の2種類を入手したことから取材が始まり、ついに横浜スタジアムに近い現場で改造工事が行なわれたのを直接目撃した。警察の捜査で言えばおとり捜査後の現行犯と言うわけだ。

その後、朝日新聞は横浜市にも取材をし「完了検査まで終えている以上、行政としては見抜きようがない」と担当者からの言葉を引き出している(2006年1月27日付朝日新聞朝刊社会面)。

大きな政府から小さな政府を国民が望んだ場合、政府に代わって国民の生活を防衛する役目が期待されるのがジャーナリズムだ。その意味では、今回朝日新聞が行政の見逃した点を独自取材により暴いたことは見事だ。

しかし、いったい誰が被害者だったのかという点では疑問が残る。身体に障害がある人が東横インに泊まろうと申し込んだところ断られたことから取材が始まったのなら分るが、そういう団体からはこの件が報道されてからホテル側に意見や要望が向けられた。この点を考えると、取材の原点は別なところにあったと想像できる。

恐らく、出るはずのない図面が出ていることから東横インの社内で不満を持つ人が朝日新聞に訴えたのだと推測できる。その人ももしかしたら女性かもしれない。

法律や条例は犯してはならないのは当り前だが、ものには順序というものがある。事務所でタバコを吸うことは健康増進法に触れる疑いがあるし、歩きタバコは多くの自治体で条例違反だ。これらを取締るのにも順序がある。急に警察が動いたりマスコミが動いたりはしない。

西田社長の肩を持つわけではないが、同じ騙しのテクニックでも姉歯問題とは明らかに違う。朝日新聞は、姉歯問題で建築物に読者の注目が集まっているところなので、この問題を取り上げたのだろうが、当の東横インにしてみれば「60キロの制限速度を67、8キロで走ってしまった」という社長の認識は外れたものではないと思う。第一回目の記者会見では部下に責任を転嫁したわけでもなく、やってしまったことをすべて認めた「立派なワンマン経営者」だ。

事業は順調で多くの利用者から支持を得て、利益は納税の形で社会に還元されていた。何より障害者が利用できない悪徳ホテルだと不満を持っていたわけではないのだ。条例違反はもう少し時間をかけて是正させるべきものだったような気がする。はたして社会的に意義のある報道だったのか疑問が残る。すっかりマスコミの餌食になってしまった感じだが、紀子さま懐妊で忘れられるのは早いかもしれない。

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参考資料:

東横イン 身障者用設備を無届け撤去 系列16店舗に疑い [2006年01月28日 産経新聞東京朝刊]

東横イン 障害者用駐車スペース さいたま、草加で設置せず [2006年1月27日読売新聞東京夕刊]

東横イン“違反開業” 検査直後に設備改造 7台分駐車場→ロビー/横浜・中区 [2006年1月27日読売新聞東京夕刊]

二重図面で偽装工事 東横イン、検査後に設備改造 無届け、違法状態 横浜[2006年1月27日朝日新聞東京朝刊]

早わざ、違法改造 鉄骨、一晩ですべて撤去 関係者「長期的には得」 東横イン[2006年1月27日朝日新聞東京朝刊]

[トップに聞く]「東横イン甲府舞鶴城公園」支配人 斉藤早苗さん=山梨 [2003年11月21日読売新聞東京朝刊]

参考サイト:

東横イン

東横イン開発

品川駅高輪口保証金社債第1回償還ならびに利息支払い

路上禁煙地区 Q&A

健康増進法

ホテルルートイン

京浜急行全路線図

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