誰かは、闇か。 東横インを挫折させた意外な仕組み

ホリエモン逮捕は、やはり「反小泉の反撃」

岸田 徹 【岸コラ】
2006年1月25日(水)

悪い事をすると警察が来て捜査をするが、ホリエモンのところには検察の特捜部が来た。「警察」と「検察」はどう違うのか。この違いを知ることで、地検特捜部のライブドア捜査にゴーを出した人を類推することができる。

警察は、「個人の生命、身体及び財産の保護に任じ、犯罪の予防、鎮圧及び捜査、被疑者の逮捕、交通の取締その他公共の安全と秩序の維持に当る」(警察法第2条第1項)のが仕事で、絶対に「日本国憲法の保障する個人の権利及び自由の干渉にわたる等その権限を濫用することがあつてはならない」(同第2項)と厳しく規定されている。

このことから、警察は次の3つに当てはまる行動しか取らない。つまり、警察権の行使は(1)責任者に対してのみ、(2)私生活や民事上のことには不介入、(3)社会通念上許されない障害に対してのみ行なう。

よく裁判になると責任能力があるかどうかが問われたり、警察署が家庭内暴力に対しては遠慮がちになったり、ささいな事には取り合わなかったりするのはこのためだ。

これに対して検察は、「いかなる犯罪についても捜査をすることができる」(検察庁法第6条)のだ。そればかりか、警察は犯人を逮捕すると書類を送検して一応役目を終えるが、検察は「刑事について、公訴を行い、裁判所に法の正当な適用を請求し、かつ、裁判の執行を監督し、また、裁判所の権限に属するその他の事項についても職務上必要と認めるときは、裁判所に、通知を求め、または意見を述べ、また、公益の代表者として他の法令がその権限に属させた事務を行う」(検察庁法第4条)と、刑事手続きの全段階にかかわる。

さらに、検察庁は法務省内に置かれてはいるものの、検察庁の幹部である検事総長、次長検事、検事長については、法務大臣が首を切ることはできない。「検察官適格審査会」というところが認めないと首を切ることも辞めることもできない。

警察は、国家公安委員会の下におかれ、委員会は5名の構成員(警察法第4条)で、現在の委員長は防災担当大臣の沓掛哲男氏だ。国家公安委員会は内閣総理大臣の下に置かれているので、政治的な圧力に屈しやすい。

ところが、検察の「検察官適格審査会」というのは、法務大臣の下にはなく、独立している。審査会の委員は11名で、国会議員、裁判官、弁護士、日本学士院会員及び学識経験者の中から選ばれる(検察庁法第23条4項)ので、ある特定の勢力から圧力がかけられる可能性が少ない。現在の審査会長は東大名誉教授で日本学士院会員の塩野宏氏だ。

とは言うものの、人間が各界から11人集まって、バラバラな主張を展開するから圧力がかからないというものではない。11人集まれば、主導的な立場を取る人が必ず現れる。今の検察官適格審査会は、政治的には極めて特色のある人たちの集まりになっている。【岸コラ】が分析した11人は次ぎの表の通りだ。

検察官適格審査会委員

氏名
職業
所属
出身
大学
柳沢伯夫 衆議院議員 自民党・宏池会(旧堀内派) 大蔵省官僚 東大法卒
谷津義男 衆議院議員 自民党・伊吹派(旧亀井派) 群馬県議 法政大法卒
太田誠一 衆議院議員 自民党宏池会(旧堀内派) 経済理論専門家 慶大大学院卒
松本 龍 衆議院議員 民主党 日本社会党 中大法卒
田村公平 参議院議員 自民党・津島派(旧橋本派) NHK 早大政経卒
松井孝治 参議院議員 民主党 通産省官僚 東大教養卒
島田仁郎 最高裁判所判事 裁判官 裁判官 東大法卒・ロンドン大大学院卒
梶谷 剛 日本弁護士連合会会長 弁護士 弁護士 成蹊大政経卒
塩野 宏 日本学士院会員 学者 行政法権威 東大法卒
松尾浩也 東京大学名誉教授 学者 刑事訴訟法権威 東大法卒
北島敬介 弁護士 弁護士 元検事総長 東大法卒

一目瞭然で、団子になれる勢力は、自民党の議員だ。議員は全部で6人いるが、2人は民主党議員。その他の5人は学者や裁判官や弁護士で、法曹界を守る団子にはなるかもしれないが政治的意思を持った活動はまずしない。

話を戻して、自民党の議員4人だ。衆議院議員が3人に参議院議員が1人。柳沢さん、谷津さん、太田さん、田村さんだ。見事に全員が抵抗勢力の派閥に属している。柳沢さんと太田さんは、宏池会の谷垣派でない堀内派。堀内光雄元自民党総務会長は今回の総選挙で、郵政民営化に反対し、自民党の公認を外された人だ。派閥には、抵抗勢力の象徴古賀誠氏がいる。

谷津さんは、ホリエモンを刺客に送られた亀井さんの派閥の中でも亀井グループで本流。田村さんは、小泉さんに目の敵にされた橋本派だ。

この4人の中でも象徴的なのが柳沢さんだ。柳沢さんは、森内閣でデフレ時代に誰も引き受けたくないと言われた初代金融担当大臣をやり、小泉内閣になってもそのまま金融担当大臣を引き受けた。しかし、その時に民間から竹中平蔵氏が経済財政政策担当大臣になり、金融政策は塩川財務大臣、柳沢金融担当大臣、竹中経済財政政策担当大臣の3人で行われることになった。

不良債権処理は進まず、デフレが深刻で、小泉内閣では竹中さんに批判が集中した。初の改造内閣にあたっては、3人とも交代だとの議論がなされた。しかし、結果は塩川大臣、竹中大臣は留任したが、柳沢大臣は「更迭」された。(2002年9月30日)

柳沢さんの代わりになったのが、竹中さんで、竹中さんは金融財政政策担当大臣と金融担当大臣を兼務することになった。柳沢さんと竹中さんのそりが合わなかったのは、銀行に対する公的資金の注入で、柳沢さんが銀行の自主判断に任せ注入すべきでないと主張したが、いつまでたってもそれでは不良債権は処理できないと竹中さんは強制的に注入することを主張した。

柳沢さんの主張は、明らかに業界寄りの旧大蔵省の立場だ。「更迭」と騒がれたが、柳沢さん自身は意見が合わな過ぎるから辞めたいと総理に話したという。本当のところはどうだったのか不明だ。

この更迭劇以降、竹中さんは金融再生プログラムを打ち出し、周囲から総スカンを食らいながらも、小泉人気の加護の下どんどん力をつけていった。柳沢さんがいい思いをしていないことは十分想像できる。

検察官適格審査会のメンバー11人中4人もが強力な反小泉・反竹中の環境を持っている自民党議員だ。検察官の人事権を握る検察官適格審査会にあってこの4人は実に特異な存在だ。この人たちが積極的にホリエモン逮捕を主導したとは証拠資料がないので言えないが、少なくとも、検察トップが指令を出した時にストップをかけるはずがないことは誰の目にも明らかだ。

つづく

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参考資料:

Microsoftエンカルタ総合大百科2006:「検察庁」「検察官」「司法警察」

竹中チーム中間報告判明 金融界の反発必至、原案のポイント点検 [2002年10月23日 読売新聞東京朝刊]

[論点]資産デフレ対策、強化望む 原田和明(寄稿) [2002年10月2日 読売新聞東京朝刊 気流]

首相の内閣改造基本方針 [2002年09月28日 産経新聞東京朝刊]

30日にも内閣改造 崖っ縁の経済閣僚 [2002年09月25日 産経新聞東京朝刊]

相次ぐ経済閣僚交代論 自民、江藤・亀井派、山崎派でも [2002年09月13日 産経新聞東京朝刊]

内閣改造 経済3閣僚の更迭要求 堀内総務会長、大幅改造に期待感 [2002年09月12日 産経新聞東京朝刊]

堀内氏、竹中経財担当相の交代要求 [2002年07月19日 産経新聞東京朝刊]

[日債銀ショック](上)監督庁が退場宣告「新ルール」で厳しい決断(連載) [1998年12月15日 読売新聞東京朝刊]

金融担当相に柳沢伯夫国土庁長官 [1998年10月17日 読売新聞東京朝刊]

参考サイト:

自民党・派閥

平成時代の内閣閣僚名簿

ヨミダス文書館「人物詳細」(有料)

検察庁法

警察法

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