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岸田 徹 【岸コラ】 |
このまま、東京地検特捜部の捜査が進めば、ライブドアの上場維持は不可能で、「ホリエモン」は「ムイチモン」(週刊新潮)になることは確実だ。
いったいどんな悪い事をやったのか。特捜部が六本木ヒルズのライブドア本社とホリエモンの自宅に家宅捜査をした本当の理由はなんなのか。
「偽計取引」をしたというのが表面上のひとつの理由だ。偽計とは人をあざむく計画のこと。株取引の中で、騙したということだ。どんな騙しかというと、ライブドアが買収しようとした会社の株を、買収する前に第三者に金を渡し、事前に買収させた。その第三者というのが、全くの他人ではなく、他人の顔をした自分だった。
買収劇では、買収する先の株をライブドアは現金で買わずに自分のところの株を渡して買うと発表した。しかし、実際には事前に第三者の顔をした自分が買っていたという騙しのテクニックを使った。
これが偽計だというのだが、いずれにしろその会社はライブドア傘下の会社になったのだから、別にたいした問題じゃない。世の中にはもっと悪い事をする人が山ほどいる。そっちを捕まえるべきだと思うのだが、特捜部はそれが許せなかった。
どうして許せなかったのかの表面上の理由は次の通りだ。
世間に嘘をついて買収した会社の株は、本当は第三者の顔をした自分が持っていた。その株を買収劇中では、1株を100株にすると発表したのだ。1株を100株にしたって、1株の価値が100分の1になるだけだから、なにも悪い事はない。しかし、場合によっては株を分割すると値が上がるのだ。本来1株100万円の価値がある株を100株に分割すれば、分割後の1株は1万円の価値にしかならない。
ところが、株というのは、必ず株券が付きまとう。1株を100株に分けるには、株券も100枚用意しなくてはならない。用意する間、株券が株数より少なくなる。人気がある株は、需要と供給の関係で値が上がってしまうのだ。
そのときに、第三者の顔をした自分が持っている株を売り、40億円以上儲けたというのだ。東京地検特捜部はそれが許せないと言っているようだ。
週刊誌や一部テレビ放送では、「特捜部がライブドアに焦点を絞ったのは、昨年春のニッポン放送株買収劇の時。地検幹部は、『真面目に仕事をしている人がバカを見るような世の中はよくない』といって特命チームを作り、内偵を進めていた」(週刊新潮)らしい。
その理由が本当だとすれば、買収した会社の株を100分割しても、株価が全く上がらなかったら、特捜部は踏み込まなかったことになる。何の労働もしないで、嘘を付いて40億円以上儲けたから挙げられたのだ。
これは、確かに犯罪だ。しかし、いったいだれが被害者だというのだろうか。地検の特捜部が国家予算を大量に使って、英知を絞り、体力を使って締め上げるべきことだろうか。偽計というのなら、耐震強度偽装問題の方が被害者も多いし、被害の額も特定できる。国民の衣食住にかかわることだし、被害者には実害がある。責任の所在も複雑で、組織的な国家犯罪の臭いもする。司直のメスはこういうところに入れるべきだ。
本来、上記のような理由でライブドアの犯罪を訴えるべきは、国家ではない。株取引を正常に行いたいと願う投資家が行動を起こすべきものだ。ところが、日本の仕組みでは、民間投資家が裁判所に犯罪として訴えることはできない。刑事事件を裁判所に訴える権利は検察が独占しているからだ。(2003年7月23日【岸コラ】「東京地検特捜部」に詳しい)
地検の特捜部が動くというのは警察が動くのとは訳が違う。例えば、警察が殺人事件を捜査し、容疑者を逮捕したとする。検察が調べ直して、これは犯人に仕立て上げるのには無理があるとか、犯人かもしれないが同情すべきどうしようもない点があると仮に判断したら、その容疑者は開放される。
ところが、地検自体が動くということは、検察が直接捜査をして犯人を捕まえるという事なので、容疑者を特定した時点で、必ず裁判にかけるという事を意味している。捕まえた後で、見込み違いでしたという事は絶対にない。つまり、裁判で勝つストーリーを最初に作り、そのストーリーに従って捜査をし、供述調書を取り裁判にかけ有罪にもっていくのだ。
これを国家権力を使い、優秀なエリート検察官が検察の威信にかけて進めていくのだから、どんな人も対抗できるわけがない。こういう行動は、法律を犯した者を調べて罰するというようなレベルのものではない。だれかが、こいつは許さないと決めないと発動できない事態なのだ。
じゃ、誰が、ホリエモンを標的にしたのだろうか。恐らく、先の週刊誌の記事のように特捜部内で内偵を進めていたのは事実だろう。しかし、それだけでは、100人体制もの大型チームを動かす理由にはならない。本部長が単独で指令を出すにはあまりにも大きな捜査体制だ。検察のトップは検事総長だが、今の松尾邦弘氏が率先するような人柄かどうかは判断できる材料はない。独断専行はできないと見た方がいい。
特捜部内で話が持ち上がったとしても、検事総長がノーと言えば、踏み込みはなかったはずだ。ノーとは言わない、イエスの環境が整っていたと考える方が自然だ。検事総長が外部と直接接触を取ったかどうかは分らないが、イエスと言わせるか最初からイエスの圧力を特捜部にかけた環境があったのではないだろうか。その環境とは、3つ考えられる。
第一は、ホリエモンにさんざん痛い目に合わされた財界人の怒りだ。「違法性が高い」と言われたニッポン放送株取得の時間外取引から、買収された先での冷遇にいたるまで、ホリエモン人気の裏には、人から恨みを買った部分が相当ある。その恨みをもった者が、政治的な圧力をかけて特捜部を動かした可能性は大だ。
ライブドアとフジテレビジョンが和解した翌日、ホリエモンは「商法や証券取引法などの不備(の露呈)や運用、解釈も一定の成果が出た」(読売新聞)と「成果」を強調し、ライブドアの関係者は株の時間外取引について「法律の行間に禁止とでも書いてあるのか」(同)と反論していた。これら、旧態ビジネス世界に対する挑発的な論戦は、年を取った経営者たちには悔しさを倍増させるものだったに違いない。
こういう挑発行為は、経済界に対する侮辱だけではなく、旧態世界の中で、秩序維持の指針を示し続けてきた地検特捜部の鼻を折るものでもあった。
第二は、小泉総理の任期だ。9月の任期切れに照準を合わせ、次の総理を狙う人たちの動きが活発だ。一番人気の本命は安倍官房長官だ。安倍さんはタカ派で、小泉さんのアメリカ崇拝路線を踏襲している。その路線を受けて日本のアメリカ化を実行しているのが竹中平蔵総務相だ。竹中さんがかかげる小さな政府に金融の自由化と規制緩和路線がホリエモンの蓄財を生んだバックグラウンドだ。この路線は小泉人気がある以上、絶対に崩せないものだった。竹中さんがどんなに嫌われようと、日本のアメリカ化が進んだのは、小泉さんの人気があったからだ。
それが、小泉さんの任期切れとともに崩れようとしている。反小泉派はこの機に、反安倍、反竹中を繰り広げようとしているはずだ。その旗印には、ホリエモン逮捕がうってつけだ。
第三は、アングラマネー。つまり、暴力団とのかかわりだ。株取引の資金は裏金になりやすいところがある。この一件で何より不可解なのは、沖縄で発見された元ライブドア管理部門の役員だった野口英昭氏の「自殺」だ。
特捜部が六本木ヒルズのライブドア本社に家宅捜査に入ったのは1月16日の夜だ。東京地検は野口氏に対して事情聴取は行なっていないと言っているが、ライブドアへの家宅捜査と同時に野口氏の自宅と勤務先のエイチ・エス証券の机を捜索している。
18日に事情聴取をしようと特捜部が17日に連絡を取ろうとしたが取れず、18日に那覇市内のカプセルホテルで血だらけになっているところを発見された。この発見には不自然なところが多い。野口氏は18日午前11時20分ごろホテルに前金を払ってチェックインし、午後2時35分ごろ室内の非常ブザーが鳴ったため従業員が合鍵を使って部屋に入ったら、ベッドに仰向けに倒れていたという。手首や腹など複数個所に切り傷があり、そばには小型の包丁が落ちていた。病院に運ばれたが午後3時45分死亡が確認された。失血死だった(朝日新聞・読売新聞)。
遺書はなかったが、部屋に荒らされた様子がなかったことから、沖縄県警は自殺とみている、というのだ。野口氏はキーマンと見られているのだが、新聞の記事は極端に少ない。また、県警の自殺と判断する見方も実に短絡的だ。
裕福な野口氏が4千円以下のカプセルホテルに入ってすぐに手首や腹を切って自殺し、それを知らせるために非常ベルを鳴らすなんて事はありえない。
部屋が荒らされていないのは、プロがやったからで、呼び出されて部屋に入り襲われた可能性は否定できない。
買収劇の一端に暴力団関係者か政治資金を必要とする右翼団体が関与していて、その資金源を断つために特捜部が動いたのかもしれない。こういう活動は、どちらかというと検察より警察が先に動くのだが、検察の特捜部が動いたという事は、暴力団が政治家か財界人と関連していたのかもしれない。
特捜部が本当の理由を意識しているかどうかにかかわらず、ここが動くという事は、政治的な理由が必ずあるという事を知って動きを注視しないといけない。地検特捜部は遠山の金さんのような行動を取るが、決してそんなことはない。
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参考資料:
ライブドア家宅捜索 関連会社買収巡り虚偽公表[2006年1月17日日経新聞朝刊]
「ホリエモン」は2月に逮捕されて「ムイチモン」になる![1月26日号週刊新潮]
[決着・ニッポン放送](中)ルール不備 「堀江流」危機感呼ぶ(連載) [2005年4月20日読売新聞東京朝刊]
参考サイト:
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